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Xpoint-クロス・ポイント-  作者: 織間リオ
第二章【蘇る正義】
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8、恐れし言葉

 乱州は、エクロのサイコ・イーグルの回避を続けていた。しかし、それが時間稼ぎであったことに、乱州はようやく気づく。出現した時のように、いくつかのパーツが遥遠くより飛来し、エクロと次々に合体していく。背中には、巨大な暗緑色の双砲塔を装備し、その二つの砲塔の間には、実体剣が収められる。腰とわき腹にはビームの銃が計四本取り付けられる。脚部には相変わらずホバーパーツが装備されている。脚部には先ほどとは別の砲塔が取り付けられる。これは、ジャストがつけていたのと同様のものであろう。

「換装できるのか・・・・・・!」

しかし、そう呟いただけで、目をそちらにばかり向けている余裕はない。激しい射線を縫い、次々とサイコ・イーグルを斬りおとす。サイコ・イーグルはその全てが沈黙していた。正面には、エクロが砲塔の先をこちらに向けて身構えている。

「乱州!」

闘也が傍により、加勢に入る。自分と闘也での戦闘で、負けることなどそうそうない。エクロが耐えかねたのか、その砲口から、高威力のビームが発射される。しかし、甘い狙いが当たることなどなかった。軽々と攻撃をかわした乱州と闘也は、一気に接近していく。闘也はすでにソウルガンやソウルブーメランで牽制を開始している。

 むろん、エクロを殺すようなまねはしない。だが、この戦闘からは早々に身を引いてもらう。見たところ、実戦経験は少ない、もしくは初めてと見える。あまり多くの傷はつけなくてもよいと、乱州はすでに判断を下していた。闘也もそれを察しているのか、大仰な攻撃の意志を見せず、構えたソウルソードを、右回りに三回転させる。

 闘也と自分の考えは同じ。なら、やることは一つだ。

 乱州は、こちらに視線を向けた闘也に対して頷く。それを確認した闘也はすぐに視線をそらしたが、それで十分だ。戦いの中で、無用な会話は必要ない。しゃべりな乱州も、それはわきまえ、承知し、実行していた。

 ビームを発射した砲口と真逆の位置にある部分から、ミサイルが放たれる。乱州と闘也はその網をかいくぐる。僅かにふれることも、かすめることも、途中で爆発させる暇もなかっただろう。一秒と近づいている時間はなかった。闘也が過ぎ去ったミサイルの方を振り返り、盾を構える。そして、その盾から一閃の衝撃波が放たれ、いくつかのミサイルが爆発する。それにつられ、周りのミサイルも誘爆する。闘也はすぐに乱州に追いついた。乱州は、正面からエクロに切りかかる。エクロは、背面に装備していた実体剣を握ると、こちらに対抗して叩きつけてくる。少女とはいえ、かなりの腕力である。だが、いくら腕力があろうと、気丈であろうと、少女は少女だ。思考回路がどこまでも洗練されているわけでもなく、力が異常なまでにあるわけでもない。

 乱州に気を取られているエクロが気づかぬうちに、彼女の背後では爆発が起こる。闘也が、エクロの装備していた砲塔を切り裂いたのである。乱州はそれによって怯んだエクロに対し、腕剣を振り、胸部の砲塔を破壊する。そして、間髪入れずに、エクロの握っていた剣を殴り上げ、その手から払いのけた。

 エクロが距離を取り、残った武装たるビーム銃を構え、その銃口からビームを迸らせた。


 エクロは、誰に言われるでもなく苦戦していた。特に外傷があるわけでもないのに、相手の攻撃は鮮やかにヒットし、ついに武装は腰とわき腹に装備したビームガンパーツのみとなってしまった。二対一という数の不利を除いても、相手の連携は恐ろしく合っており、実戦経験がほぼまったくないエクロにとっては、衝撃的であった。

 だが、逆手にとれば、こちらにも分があるはずだ。

 相手は武装を破壊した。しかし、こちらに外傷を与えることなく進んでいることから、こちらにもまだ、勝算がないわけでもないのだ。

「当たれぇっ!!」

放たれたビームをかわした闘也が、こちらに銃弾を放ってくる。だが、それに気を取られている間に、すでに乱州が接近し、エクロの両手から、ビームガンパーツを殴り飛ばした。強引ではあるが、一番手っ取り早い方法である。

 だが、近づきすぎは隙を作るだけだ。

「そこっ!!」

エクロはすぐさま腰に装備しているビームガンパーツを右手にグリップする。ビームが銃口から迸ると同時に、乱州が量子化し、銃が弾き飛ばされる。エクロが見ると、闘也が銃弾を放ち、エクロの手から銃を弾いていたのである。並の射撃手では到底できないほど精密な射撃である。

 乱州が闘也の横に現れる。こちらにまったく外傷を与えてこないことに、ついにエクロの堪忍袋の尾が切れた。

「もうっ・・・・・・!! 手加減なんて、馬鹿にしないでっ!!」

その一言を叫びながら、ビームガンを構えると、一瞬にして二人の目つきが鋭くなった。まるで殺気に包まれたような感覚を覚える。闘也と乱州がこちらに向かって一直線に突き進んでくる・・・・・・と思っているうちに、すでに闘也と乱州はすぐそこまで迫っていた。闘也がソウルソードを構え、乱州が腕を剣に変える。敵の接近に気づき、回避に移ろうと身構える。しかし、身構える直前、一瞬にして右腕と左足が宙を舞った。肘や膝から下がなくなった状態で、彼らはすれ違ったのだ。宙を舞ったエクロの右腕の先の手には、いまだビームガンパーツが握られていた。

「うっ・・・・・・でも、まだっ!!」

新たにパーツを呼び出そうとモニターを呼び出したとき、ジャストの声が割り込んできた。

『エクロ、限界だ!すぐに撤退しろ!』

「でも、まだ敵が!!」

『俺達は敵を殲滅するために戦っているんじゃない!! そのことが分かっているなら、すぐに戻って来い!! 分かってないのなら、そこで無様に死んで、二度と帰ってくるんじゃない!!』

「・・・・・・ッ!?」

それきり、通信は切れた。

 死への恐怖。

 生への欲求。

 それらが入り混じり、彼女を一つの行動へと移した。

「エクロ・ライド、帰投します」

そして、警戒しながらも、エクロは戦闘宙域より離脱した。


 潤の復帰も虚しく、サイコストの殲滅作戦、オペレーション・サイコキルは失敗に終わった。潤が戦線離脱し、ジャスティスとの戦闘に気を取られたことと、由利や秋人、的射などが兵力戦に加わったことによるものだ。英雄の援護にサイコストの士気は上がり、クリエイターはその兵力を闇雲に失っていく結果となってしまった。

「撤退命令・・・・・・」

司令部より、戦況悪化のため、帰投せよとの電文が入ったのだ。判断は間違ってはいない。むしろ的確な判断である。

 潤はやりきれない思いを抱きつつ、黒い亀裂に、仲間のクリエイターと共に飛び込んだ。


 味方のみが残った太平洋上で、闘也は息をついた。戦うことを恐ろしいと感じたことはなかった。が、忌々しくは思ってきた。戦いで得るものはない。失っていくばかりだ。国土、威厳、社会的地位、そして、人の命。

 闘也の傍らにいた乱州に、通信が入る。乱州が懸念に顔を歪ませる。

「兄貴・・・・・・?」

 それは、乱州の兄、波気明文からの通信であった。

「兄貴、一体どうし・・・・・・」

『乱州!チャンネル6を開け! 闘也にも伝えとけ!』

「え? あ、うん」

馬鹿正直に頷く乱州がおかしかったが、その妙な会話が闘也の顔から笑みをかき消した。

「まさか・・・・・・」

闘也は呟く。まさか、そんなことはない。あるはずがないのだ。まだ、成すべきことが何一つ終わっていない。サイコストとクリエイターの遭遇から、そう月日も経っていないのだ。緊張状態にあるわけでもない。だが、もし今回の戦闘が、きっかけとするなら・・・・・・。

 嫌な結末だけが脳裏を占領する。頭からその空想を取り除けぬまま、闘也は乱州が指し示す通り、モニターを起動し、チャンネルを合わせた。一人の中年の、しかし威厳のありそうな男が、カメラのフラッシュを浴びながら話している。

『皆さんもご存知の通り、我々の世界に対し、別世界の者によって、異世界の扉が開く、いわゆる世界破壊が起こっています』

モニターの向こうの男の声はあくまで冷静で、紳士な響きがある。だが、闘也にはまるで数ヶ月前の繰り返し映像を見ているようにしか見えなかった。

『そして、その異世界に住んでいる、超能力者、サイコキネシストは、我々人類にとっての、大いなる脅威であることは、間違いありません』

あの時――第二次超能力戦争の開戦が発表された時と、同じ状況。全身に寒気が襲う。

『我々は、サイコキネシストを代表とする超能力者の排除のため、ここに、『異世界結合戦争』の開戦を表する!!』

闘也の体から力が抜けていく。それに気づいた乱州が、闘也を抱え、気遣いの言葉をかけてくる。

「おい、大丈夫か、闘也!?」

「・・・・・・ああ」

なるべく強く言ってはいたつもりだったが、その声はあまりにも弱弱しく、頼りないものだった。

 止められなかった。今度こそ、この戦争の連鎖を断ち切ろうとしたのに、結局向こう側の高位の者との対談すらできぬまま、開戦してしまった。

 なんでこんなに強引なやりかたなんだ。

「くそ・・・・・・」

闘也の口から、ぼそりと言葉が吐き出される。

「ちきしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」

そんな絶叫を空に向かって響かせたが、モニター内の男の口が閉ざされることはなかった。


 モニターの中で、クリエイターの代表者が淡々と話し続けている。青年は息を一つつくと、端整な顔に薄く笑みを浮かべる。傍らについた執事のクエンドが、心配そうに声をかけてくる。

「坊ちゃま、この気に乗じて、我らも名乗りを上げるべきではありませんか? このままクリエイターが正義面していては、我らの世界はありませんぞ」

「分かっているよ、クエンド」

青年はその笑みを崩さず、執事に対し僅かながらぶっきらぼうに返す。

「感情に流されて発表すれば、いずれこちらがやられる。発表はあくまで感情の一切を捨てて行わなければならない」

「むぅ・・・・・・」

いぶがしむ顔を見せるクエンドに対して、青年が笑みをかき消し、立ち上がる。僅かに猫背になったクエンドを、青年は見下ろしながら言う。

「ボクは父さんみたいなブレイカーにはならないさ」

再び浮かべた笑みは、死した父への非難の意も込められていた。

「ガルル様、間もなくお時間です」

部屋に入ってきた側近が告げる。「ああ」と一言返した青年は、少しばかり目を閉じた。しかし、すぐにその目を開き、歩みを進めた。

「いってらっしゃいませ」

クエンドが頭を下げる。

 青年、ガルル・ブレイは、足取りを緩めることなく、会場へと向かった。


 クリエイターの代表が話し続けるモニターに、ノイズが走り、別の映像が現れる。潤はその映像の人物には見覚えがなかった。まだ二十歳前後の、若い青年である。青年は、真っ直ぐにカメラを見つめ、言い放つ。

『私は、ガルル・ブレイです。かのエイプリルベースを立案し、実行に移した、忌々しきグール・ブレイの息子であります。ですが、今そのことを話題にする気は、毛頭ありません。私が伝えたいのは、戦争の愚かさです』

クリエイターの代表の方は表情を変えることはなかったが、こめかみを流れる一筋の汗は、チャンネル6を通して、全世界に知れ渡った。

『我々は、火種を放ってしまったのです。赤き小さな火は、いつか巨大な紅蓮の炎となり、近しい存在は、唐突に失われ、炎より生まれた紅色の龍は、全てを焼き尽くす。生々しい鮮血は、やがて嘆きと憎しみに変わり、新たな命を断ち切る。そして、それが更なる憎しみを呼ぶ。この負の連鎖、争いのループを、私は今度こそ断ち切るため、カスタムサイコスト、エスパー反乱兵士軍との軍事同盟の締結による『ネオ・ブレイク』の決起、及び、武力行使による戦争行為を、武力によって排除することを、私はここに宣言します!!!』

 今、歴史は動き出した。ブレイカー、カスタムサイコスト、エスパー反乱兵士軍。この三大陣営の同盟締結により、世界は混乱の渦の中に落とされることを、潤は予感していた。

 クリエイター、サイコスト、ネオ・ブレイク、そして、ジャスティス。

 戦いの火種がすでに周囲を巻き込み始めていることを、潤は知りようがなかった。


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