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Xpoint-クロス・ポイント-  作者: 織間リオ
第三章【破壊者再び】
15/17

14、破壊の予兆

 闘也は知覚していた。横槍として攻め入ったロントは、図らずともネオ・ブレイクとの戦闘を主となってしまっていることを。それによって、サイコスト側が優勢となっていることも。このままいけば、あの無用な基地を無力化することもそう遠くはない。問題は、潤やロント、そしてジャスティスたちがいつ撤退を始めるかだ。

「やめろ、潤! これ以上の犠牲は無意味だ! 兵を退け!」

「誰が!」

潤の剣が振り下ろされ、闘也はそれをかわす。潤が距離を取りながらビームを放つ。掲げたシールドにビームが当たって四散し、闘也はそれによってビームの雨を気にすることなく潤へと突っ込む。剣型に変形させた潤が闘也の振り下ろした剣を受け止める。どう見ても、防御のためのものだ。

「言ったはずだ! 守ると同時に、守られていると!!」

「僕は守っているさ!!」

「ならば何故、こんなところで、俺と戦う!?」

闘也は潤の剣を弾いて、間髪入れずに腹部へと蹴りを入れる。そして、ソウルブーメランを投げつける。潤が剣を盾代わりにして受け止める。潤は大きく弾かれた。何を思ったかは分からなかったが、潤は悔やむような表情を一瞬見せた後、ロントが展開している場所へと戻っていった。

「そうだ潤。それでいい・・・・・・」

 戦うならば、守るために戦うのだ。


 乱州の強烈な猛攻を、ジャスティスはしのぎを削って長け続けていた。速度的にはこちらと互角、戦闘経験では、向こうの方が一枚上手だ、戦闘中の勘や知識に関しても。

「撤退命令?」

ジャスティスのモニターには撤退を意味する暗号電文が届いていた。ジャスティスは尚も接近する乱州には、もう接近戦で、一か八か、かけるしかない。

 ジャスティスは、腰に抑えられているビームソードを抜き放つと、自らの右足の裏から貫いた。あくまでも、足だけで、脚部そのものには外傷がないようにしている。ビームソードで足が完全に焼ききる前に決着をつける。

「これでっ!!!」

ジャスティスは縦に半回転した。視界が上下逆にはなったが、接近してきた乱州はその視界に捉えていた。そして、その半回転した勢いも利用して、乱州の右足を膝から持っていった。分かりやすく言えば、サッカーのオーバーの要領だ。

「くそっ!!」

乱州のうめき声が聞こえた。ジャスティスの右足はすでに焼け切れていた。

 ジャスティスは、乱州を牽制しながら、戦場を後にした。


「引き際か」

ジャストの元にも、同様に撤退命令が届いていた。しかし、音速で動き回る秋人を、そう簡単に制して撤退することはできない。現に、向こうにビームを放っても、その全てをことごとくかわされているのだ。向こうは左腕を失い、体勢を保つのにも苦労しているはずなのに。

 攻撃されていないのに、追い込まれているような感覚に襲われた。

 だが、振り切って撤退することが、今の任務だ。

 とりあえずジャストは、秋人に背を向け、急加速して秋人から距離を取る。こちらの撤退に気づいたのか、秋人が音速のまま突撃してくる。

「逃げるな!!」

「くっ・・・・・・しつこい!」

ジャストは振り返って胸部のビーム砲を放つ。だが、そのビームは秋人をかすめることすらなく、消えていく。

 秋人がすぐ近くまで攻め込んできたとき、ジャストには一つの答えが浮かんだ。

「クロウフィールド!!」

ジャストは左右のクロウパーツからバリアフィールドを発生させて、突撃してきた秋人の翼を受け止める。バリアと翼の間でスパークが起こる。ジャストは秋人の翼を弾くと、先ほど以上に急加速して秋人へと突撃した。一瞬にして、体に巨大なGが襲い掛かったが、今そんなことを気にしてはられない。

 異常なまでの速さを利用して、ジャストは右肩を秋人へと叩きつけた。反動の衝撃が凄まじかったが、その効果は大きかった。秋人は、一気に体勢を崩し、後方へと吹っ飛ばされていく。ジャストはそのチャンスを見逃すことなく、撤退を開始した。これほどの距離だ。そう簡単には追いつけまい。そして、それは当たった。

 よほどの距離の差に諦観の念を抱いたのか、秋人はもう、ジャストを追ってはこなかった。


 紅蓮との戦闘中に、冷雅は深くにも真上を取られた。こちらは回避運動の直後であり、身動きは取れそうにない。できるとすれば、受け止めるだけである。しかし、太刀を構える前に、紅蓮の爪は、それぞれ冷雅の両肩へと貫かれており、すでに手遅れとなっていた。

 紅蓮の腕は、冷雅の腕に沿うように動いた。冷雅の腕は、肩から指先までを一気に引き裂かれた。太刀は真下にある基地に落ちていくだろうが、問題は目の前の敵だ。落とした太刀は遠いし、それ以前に腕が使えなくては握ることなど不可能だ。

(兄さん、僕が!)

「っ!! 河川、おま・・・・・・」

言い切る前に、冷雅の体は河川に入れ替わった。


 河川には、今自分が行くべきというタイミングをしっていた。河川の能力、外傷ダメージは、体の傷や損失が大きいほど、その威力を増幅させることができる。そして、今は両腕を失い、右足も粒子をかすめている。今以外に、よきチャンスはない。

 紅蓮が利き腕たる左腕を引き、爪を突きたてようとしている。河川は自身の気を胸の前に集中させ、それを一気に目の前の紅蓮へと発射した。ゼロ距離発射。攻撃は当たった。紅蓮が爪をこちらの心臓に突きたてた直後だった。特大の球体は、巨大な爆発を起こし、紅蓮、河川双方の体を吹き飛ばした。

 河川はこの爆発によって戦線離脱することで、身の安全を確保することも念頭に置いていた。

(河川! 無茶してんじゃねぇぞ! 俺の体なんだからな!!)

「はは・・・・・・命が・・・・・・あるんだから・・・・・・」

しかし、それ以上喋る気力は、河川には残されてはいなかった。

 河川の意識は、そこで一旦途切れた。だが、冷雅がすかさずかわり、無事、着地に成功した。

 冷雅は、宙に浮き続けている赤い光を恨んだ。だが、その恨みが力に変わることは、今はなかった。


 的射が振り下ろした水剣は、回避行動を取った大地の足をもぎ取った。

「大地! よくもぉっ!!」

激昂した光輝が、火炎球を発射してくる。しかし、それらは、展開しているバリア・フィールドによって、ことごとく弾かれた。的射は、至近距離まで接近し、ゼロ距離で銃弾を発射した。火炎球発射のためにとかれていた防御の能力のおかげで、光輝に奇跡的かつ、多大なダメージを与えることに成功した。

「ぐぁはっ!!」

「由利!」

「了解!!」

由利が電撃を放出する。二人の追撃は華麗に決まり、光輝、大地を撤退させることに成功した。

 まもなくここも、制圧できるだろう。そうなれば、彼らは制圧される前に逃げるしか道はなくなる。ここからなら、インドネシア基地が近いだろうが、果たして逃げ切れるかどうか。

 的射は、由利とともに、残りの敵兵排除へと赴いた。


 エクロは、ネオ・ブレイク軍のニア、ギル、ニル、そして、ロントのチーム・スレイヤーを相手に孤軍奮闘していた。各所のエネルギーも、減りつつあり、このままでは、そう長くは持たない。

 そのとき、エクロは一つの接近する少年を見つけた。神翼世界の英雄、矢倉潤。エクロは戦慄と共に高揚を覚えた。ジャスティスすらも打ち倒した英雄を自分が倒せば、自分はこの上ない名誉を手に入れられる。自分の存在を、他に認めてもらうことができる。

 だが、その夢溢れる空想も、潤の斬撃によって断ち切られた。

 潤の剣が、真っ直ぐにエクロに振り下ろされる。エクロはどうにか剣を抜き取ってそれを受け止める。ぎりぎりと二つの剣の間で火花が散る。この装備は、もとより遠距離砲撃戦を主体とした装備なのだ。近距離では装備に欠けて、こちらが不利なのだ。

「僕の仲間に、手を出すなぁぁっ!!」

 潤の叫びと同時に、押してくる剣に力がこもるのが感じられた。エクロは状況逆転のため、胸部のビーム砲を発射する。潤はそれを見るなり、後ろへと飛び退いて砲撃をかわした。

「! 撤退命令!? そんな、まだ!」

 ――そこで無様に死んで、二度と帰ってくるな!

 ジャストの声が蘇る。エクロは歯噛みしながら、腰だめにビーム砲を構え、それを発射する。潤は回避運動のために、さらに後方へと飛び退いた。エクロは、この機を見逃すことなく、撤退を開始した。

 エクロには、勝利も敗北もなかった。だが、やりきれない悔しさだけが、渦巻いていた。


 ニルの元に、大地から通信が入った。

『ニル、そちらも撤退を頼む。隙を見て、インドネシア基地へと移動する。

「了解。こちらは撤退を開始する」

 『撤退』の二文字を聞いたニアが、苛立ちを含んだ目で睨みつけてきた。ニアはいつも、獲物を逃した時に撤退命令が出ると、この顔をしていた。

「撤退するぞ、ニア、ギル」

「了解」

「・・・・・・ちっ」

ギルはその命令を了解したが、ニアはやはり苛立っているらしく、舌打ち一つして、撤退するニルたちに従っていた。


 ネオ・ブレイク軍の大量兵力消費により、インド基地は白旗を上げた。それを見計らってか、ロントも撤退を開始し、サイコストの一部は、制圧作業を開始した。

 しかし、ネオ・ブレイク軍の一部――ニア、ギル、ニル、冷雅、光輝、大地――が、ユーラシア大陸を回って密かに撤退を開始したことは、誰も気づくことができなかった。

 かくして、インド洋上ネオ・ブレイク軍基地、インドシープラント周辺での戦闘は、幕を閉じた。

 だが、この戦闘が行われている最中に、一人の男が、世界の新たな危機を感じていた。

 矢倉正男である。

 正男は、彼を中心とする部隊、「ドラゴン」の秘密地下基地内でデータのチェックを行っていたとき、驚愕に目を見開いた。

「これは・・・・・・」

正男は更に細かくデータをチェックする。その項目は、次々に、もうすぐ起こることを確信へと導いていった。

「まさか、そんなはずは・・・・・・」

 正男の脳裏に、息子、潤の姿が映った。正男は、今一度、その息子を恨んだ。

「どこまで破壊する気なのだ、潤・・・・・・!」

正男のデータには、まさに破壊を意味する文字列とデータが並んでいた。

「その血筋で、行うのか・・・・・・!」

すでに正男の目は怒りを含んでデータを凝視し、声もまた、怒りに震えていた。

 正男は、吐き出すように、届くことのない潤への怒りの言葉を締めた。

「二次破壊を・・・・・・!!」


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