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Xpoint-クロス・ポイント-  作者: 織間リオ
第三章【破壊者再び】
13/17

12、終わらせるため

 神翼世界、中央アジアを西南西に進んでいる輸送航空機内に、闘也たちはいた。

 今回のミッションは、神翼世界、インド洋上に建設途中の海上基地の破壊だった。所有軍は、ネオ・ブレイク。

 あと一時間ほどで、目的地付近に着くという話であった。

「闘也」

本を読んでいた。推理小説だ。まだ冒頭で、人一人がちょうど殺されたという事件の報道が、各地に飛んでいる部分であった。

 名前を呼んだのは、由利であった。闘也は、本を閉じ、由利の方を向いた。

「どうした?」

「この戦闘に、ロントも参加するという話よ」

「ロント!? あいつらに何の得が?」

「おそらく、狙いは私達を倒すことだと思う」

「だが、それは間接的にも、奴ら――ネオ・ブレイク――に手を貸すことになる。ロントとブレイクは、以前から敵対関係にあったはずだ」

 エイプリルベースすら行った二つの対立組織だ。ことここにいたって手を結ぶというのだろうか。それとも、まさかとは思うが、向こうは、間接的とはいえ、協力することになると、分かっているのだろうか。

「まぁいい。出撃準備を始めよう」

「了解」

由利が返答し、自室へと帰っていく。

 闘也もまた、出撃の準備を、一人始めた。


 その一時間後、インド領空に差し掛かったサイコスト軍は、すでに出撃の準備を整えていた。後は、降下の指示を待つだけとなった。

『降下命令、発信。出撃降下まで、三十秒』

闘也は深呼吸を一つした。輸送機望遠モニターには、すでに遠方のインド洋上のプラントを捕捉していた。

『出撃降下まで、十秒。九、八、七・・・・・・』

ふと、先ほどの推理小説のことが浮かんだ。これから自分達がすることは、一人や二人の犠牲者の問題ではないのだ。

 でも、人殺しが当たり前の世界にだけはしたくない。

 矛盾しているかもしれない。戦いたくない。戦いばかりの世界もいやだ。そんな世界は嫌だから、もう何も失いたくないから。そう言いながら、自分達はまた戦場へと送り込まれる。戦いを一日でも、一秒でも早く終わらせる。そのために、自分は剣を取る。

 戦いが戦いを生んでしまうことも、知っている。いままで自分は、それを体験してきたから。だが、戦わずして、何を守れというのか。

 守るには力が必要。だが、力は争いを呼ぶ。戦いを起こす。

 だからこそ、その力を排除する。そうでなければ、一つの力に、世界は縛られる。

『・・・・・・二、一、降下開始』

「魂波闘也。目標を討つ!!」

闘也は、赤道直下の暑き冬の大空へと飛び立った。


 ネオ・ブレイク軍、インドシープラント。その基地の防衛任務を任されていた者達がいた。

 元カスタマーエリートグループ『虹七色』所属、青水冷雅、白亜光輝、深緑大地。

 ネオ・ブレイク軍、ニア・クウナ、ギル・アント、ニル・ナトア。

 また、彼らとは別に、四百を越えるエスパー反乱兵士も防衛に当たっていた。

「冷雅」

後ろから声をかけられて、冷雅は振り返った。

「何? 敵来たの?」

「正解」

「なにっ!」

冷雅は飛び上がってそれに反応する。敵襲ならばぐずぐずしてはいられないのだ。

「よし、急ぐぞ。大地は?」

「準備万端だった・・・・・・と思う」

「お前は? 光輝」

「できてるから伝えに来たんだろ」

口を咎めた光輝であったが、冷雅はそれに何かしらの反応を返すことはなかった。愛用の太刀を鞘に収め、肩に掛ける。数多の戦場を潜り抜けてきた相棒ともいえる剣。手放したくはなかった。

 光輝が「先に行ってる」と冷雅を残し、冷雅の部屋を出て行くと、冷雅は、誰にともなく言った。

「さぁ、行こうぜ、河川」

(・・・・・・うん)

今は亡き弟、青水河川の意志が答える。

 冷雅は、火花散る戦場へと飛び立った。


 戦闘が始まった。闘也は、目前に現れたエスパー反乱兵を立て続けに斬りつけ、その場を過ぎ去る。放たれた銃弾をソウルシールドで受け止め、それをシールドブーメランに変えて投げつける。放物線を描いたシールドブーメランは、数人の反乱兵の腕を斬りおとす。

「数が多いな・・・・・・」

防衛任務に当たっている数は、相当なものだ。軽く三百は越えているはずだ。

 秋人が殴りつけた反乱兵を、乱州がすれ違いざまに腕剣を滑り込ませ、両断する。的射が狙い違わずに敵を狙い撃ち、由利が中距離で敵を攻撃している。

 ソウルハンマーで反乱兵の一人を殴り飛ばしたところに、通信が入る。

『こちら赤火紅蓮他三十名。戦闘を開始する』

「紅蓮!?」

紅蓮をはじめとする増援部隊が、ここまでやってきたのだ。基地を落とすために、ここまでの人数が集結するとなると、敵基地の防衛人数はとてつもなく多いと見える。

「闘也、来たぞ!」

乱州が叫ぶと共に、レーダーと、脳に反応が起こった。

 ロントが現れたのである。


 飛び出した冷雅は、背後に因縁深き気配を感じ取って後ろを振り向いた。案の定、上空には、数十人のピュアサイコストの中に、一人、赤い光を放ってこちらに近づきつつある人間がいた。

「赤火紅蓮!! 河川の仇、今日こそっ!!」

冷雅が飛び出そうとしたとき、眼前を数発の銃弾が過ぎ去る。

「何!?」

驚いて向いた先には、ロントが迫っていた。何人かが、こちらに向かって銃弾を放ちながら接近してくる。

「横槍か! 邪魔だぁっ!!」

冷雅は黒い球体をそちらへと数発飛ばすと、すぐに紅蓮の元へと飛び込んでいった。

 ――今日こそ。今日こそは。


 潤は、遠方で戦闘を行っている英雄、魂波闘也を見やった。いつしか、闘也に対して抱いていた嫌悪感は、僅かながら、恐怖へと変わっていた。自分がどうあってもたどり着くことができない相手。敵わない相手。そう感じたとき、闘也への恐怖心が生まれでたのである。

『今回の任務は、サイコストの殲滅行動にある。その他の勢力には牽制程度でやり過ごせ。味方なのではと油断させてから一気に我々が叩く』

「・・・・・・了解」

入ってきた通信に、潤は一拍置いて応える。

 つまり自分達は、サイコストの利益を、横取りするということになる。いささか卑怯で愚劣な行為な気がしてならないが、自分はその命令に従う他ない。それしか、道はないのだ。

「魂波・・・・・・闘也」

潤は今再び前を見据えた。今度こそ、討たねばならない。神翼世界の、人類の脅威。取り除かねば、やられるのは自分達なのだ。

「ここから出て行けぇぇぇぇっ!!!」

潤は、闘也へと剣を振り下ろした。


 インド洋上ネオ・ブレイク軍基地周辺での戦闘の情報が入ったビクトリアは、ただちにジャスティスたちを現地に派遣させた。

 ジャスティスは、すでにコアフライヤーより飛び出て、各パーツとのジョイントが終了していた。ジャストとエクロも後ろに続いていた。

「戦闘状況を把握。これより介入行動へと移行する」

『了解!』

『了解』

エクロとジャストが、ジャスティスの指示に呼応する。戦闘の停止ができれば、自分達は戦いから抜け出すことができる。戦うのは嫌いだ。だからこそ、その戦いを止める必要がある。自分達は矛盾しながらも戦うが、破壊者ではない。

 そのうち、こちらの接近に気づいたサイコストが、牽制のように銃弾を放ってくる。ジャスティスはそれをシールドで受け止め、反撃のビームを撃ちだす。放たれたビームは吸い込まれるようにサイコストの銃と右腕を吹き飛ばす。エクロがビーム砲を構えて、エスパーへと向ける。大出力のビームは、一気に五人ほどの命を散らした。

「あの速いヤツは、俺が食い止める」

ジャストはそういうと、秋人の元へと飛んでいった。確かに、あの速度に対応できるのはジャストと、その能力を与えるダッシュパーツのみだ。

 ジャストの姿を見送った直後、前方から高速で接近する何かに、ジャスティスは気づき、咄嗟にシールドを構える。だが、飛来した何かによって、シールドは打ち砕かれる。後退しながら見ると、それは遠くから存分に延ばされた腕だった・・・・・・。


 乱州は、突如現れたジャスティスたちを発見し、そちらに攻撃を開始した。確かな手応え。特殊な耐熱性の基盤を利用して作られた盾だ。遠距離からの弾丸、及び熱を利用してのビーム兵器への耐性が強いと見える。だがその反面、接近戦闘での際の斬撃、及び打撃に対する耐性は低く、防御には使えない。一瞬触れただけの感覚から、乱州はその性質を見極めた。

 蒼い翼をその背中に生やし、ビーム兵器を携えたジャスティスがこちらに接近してくる。乱州も同様に接近する。ジャスティスが手に持った拳銃と、両肩に搭載された砲台からビームを発射してくる。乱州はそれを見切って、華麗なまでにかわし、一気にジャスティスの眼前まで迫った。ジャスティスの胸部を殴りつける。胸部に搭載されているビーム兵器から僅かな電撃が見えた。軽微だがショートしたはずだ。

「兵器に頼りすぎたものは、皆弱者だ」

ジャスティスのうめき声が聞こえる。乱州は追撃とばかりに腕を伸ばし、腹部へと拳を叩きつける。ジャスティスが脚部に装備しているビーム砲を発射して攻撃してくる。

 瞬間、乱州は量子化して、その攻撃を回避した。再び実体化したときには、乱州はジャスティスの目の前まで接近していた。顔面に拳を叩きつけ、ひとまず距離を置く。

「エクロ! 君はクリエイターの方へ!」

「! はい!」

ジャスティスの指示に了解し、エクロが二人の戦場から離れていく。

 とにもかくにも、自分と秋人で、ある程度ジャスティスたちを抑えることはできそうだ。問題は、ロントとネオ・ブレイクだ。紅蓮も増援部隊の中の一人としてきているが、おそらくは冷雅に阻まれてまともには戦えないだろう。潤を抑えられるのも闘也だけだ。となると、まともに戦えるのは的射と由利のみ。その上、ネオ・ブレイクには、第二次超能力戦争の際、カスタマーのエリートグループ、『虹七色』に所属していた白亜光輝と深緑大地がいるという話だ。その二人に的射と由利が押さえられたら、こちらが打つ手はほとんどなくなり、兵力戦となる。向こうにも、例えば元ブレイク軍に所属していたものなんかもいる可能性がある。

「相手をしながら・・・・・・か」

乱州は一人、呟き、ジャスティスの放ったビームを回避して接近した。


 秋人は、恐るべき速さで突っ込んできたジャストをかわし、ある程度の距離を保ってとどまった。向こうが口を開いた。

「風見秋人。超能力戦争の英雄だと聞いている」

「うお、マジで!? 結構名が知れてんなぁ、俺」

デレっとした表情を狙ってか、ジャストがビームを銃から発射してくる。秋人は、光速のビームであるにも関わらず、その発射直前を見抜いてかわしたのである。再びジャストの目の前にきた秋人は、その表情を引き締めていった。

「お前さんは?」

「・・・・・・ジャスト・キライスだ」

「蒼いのがジャスティス、女の子が、エクロちゃんか」

「ジャスティス・ファイア、エクロ・ライドだ」

「覚えられるか保障はねーよ!!」

その一言と同時に、秋人は飛び出し、ジャストへの拳を突き出す。ジャストはそれを飛び退いてかわすと、反撃のビームを射掛けてくる。秋人は、白き大きな翼で自らの前面を覆う。ビームが展開した翼に当たり、瞬く間に消え失せる。

「カウンターウイングッ!!」

その声と同時に翼を一気に広げる。先ほど翼によって消えたビームは、拡散して今度はジャストへと襲い掛かる。

 カウンターシールドは、前面に広げた翼を盾にして攻撃を防御。そして、その能力、効果などを測定し、最適な攻撃方法によって、相手へと仕返す。ちなみに、この測定、攻撃方法選択は、秋人自身の意志ではなく、彼の能力たる、飛躍フライが行っているものである。

 ジャストがうめき声を上げながら拡散する粒子を回避する。胸部のビーム砲を放ってきたジャストのビームを受け止めると、高速で接近し、ビームブレイドを纏わせた鋭利な翼をジャストへと振り回す。ジャストが掲げたシールドと、左手のビーム銃が爆散し、たった一つではあるが、攻撃オプションを失った。


 的射は、接近してきた白亜光輝と深緑大地を見て、目を見張った。

 彼らは、カスタマーの『虹七色』で生き残った数少ない戦士である。

 カスタマーは、ピュアサイコストによって幾人もの『虹七色』を失い、その都度、新たなメンバーを構成していった。虹七色には、青水冷雅、彼の弟の青水河川、白亜光輝、深緑大地、銅石剛柔、銀城龍我王、王金羅神の計七人で構成されていた。途中、青水河川を、ピュアサイコスト、赤火紅蓮によって失ったため、かわりのように、紫葉陽花が搬入された。しかし、彼女もまた、紅蓮によって屠られた。最高司令官、黒田闇亜の側近の三人、そして、黒い三彗星と呼ばれていた黒田暗志――彼は闇亜の息子――、黒岸信自、黒谷殺闇を導入して最終決戦に臨んだ。

 結果、カスタマーは壊滅した。冷雅、光輝、大地と、黒い三彗星の計六人は、カスタマー本部からの脱出に成功し、見事に生還した。しかし、剛柔、龍我王、羅神は、それぞれ戦死。闇亜もまた、紅蓮によって屠られた。

「今は、カスタマーすらネオ・ブレイクなんだ・・・・・・」

分かっている。だが、なぜか自問自答してしまう。カスタムだろうが、ピュアだろうが、元々サイコストという点では共通、つまりは、同一の種族のはずなのだ。生まれてからサイコストであるもの、人工的に能力を授かったもの。

「私達は、止める!!」

 この戦いの連鎖を。今度こそ。

 的射は、スナイパーライフルを構え、深緑大地に向かって発射する。しかし、こちらの攻撃に気づいた白亜光輝が、深緑大地の前に躍り出て、その銃弾を、防御ガードの能力で弾く。その背後から、深緑大地がバズーカを発射してくる。由利が作ったバリア・フィールドによって、砲弾は的射に当たることなく爆散した。的射は立て続けに銃弾を放つ。が、それらはことごとく光輝に阻まれ、有効打撃は望めない。

「なら、こっちも!」

的射は、スナイパーライフルをバズーカに持ち替える。その砲口から、勢いよく砲弾が発射され、目標に真っ直ぐ向かっていく。

 だが、そこまでだった。

 光輝が、人差し指と中指を立て、それを飛翔していく砲弾に向ける。そして、その指先から、無数の、だが細かな火球を放ったのである。戦艦が張り巡らせた機関砲のように張り巡らされた火球が、向かい来るバズーカを破壊する。そして、その弾幕が切れると同時に、大地のバズーカが、今度は三連続で発射された。

「的射、下がって!」

由利が前に出て、電撃を放出する。杖の先から放たれた稲妻は、飛翔してくるバズーカに次々に乗り移り、全てを破壊した。

 このままでは埒が明かない。何か、決め手の攻撃を行わなければ、無駄に時間を消費するだけだ。

「由利、援護して! 突撃する!」

「了解!!」

的射の周囲に、バリア・フィールドが展開される。由利は、自分も同様にバリア・フィールドを展開しながら、的射の後を追っていた。

 一気に接近した的射は、スナイパーライフルの銃口から高水圧の水剣を形成する。

「行けぇぇぇぇぇっ!!!!」

的射は、その水剣を、大地と光輝へと振り下ろした。


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