11、戦いの予兆
ニアたち、ネオ・ブレイク軍は、攻め込んできた三人の青年達によって、苦戦を強いられていた。
各個の能力はそこそこだが、その兵数に関しては、他に引けをとらないネオ・ブレイクが、こうまで追い込まれている。手に入れることは難しくなかったが、重要かつ第一拠点のこのハワイを侵略されれば、こちらの戦力は著しく失われる。この戦闘だけでも、すでに五十人を超える犠牲者を出している。ハワイ基地の兵力は、非戦闘員を含めても百人足らず。基地の運営はすでに難しいものである。
数に対し、火力にものを言わせて戦いを挑む。少数精鋭という肩書きのゲリラ戦法。だが、これはゲリラなんて生易しいものではない。
神翼世界のハワイ諸島に基地を作ったのは、エスパー正規軍の侵略を考慮したものであった。しかし、こちらにはこちらでまた別の脅威があった。これでは、どこに基地を作っても同じことではないか。
「くそがぁぁぁぁっ!!」
ニアは狂い叫びながらハンドガンを乱射する。が、放たれた弾丸は、ジャスティスの眼前でジャストに阻まれ、有効打撃はなかった。
ジャストが飛び退くと同時に、ジャスティスの各砲座が一斉に火を噴く。
「ちっ!」
ジャスティスが放ったビームが、後方の多数の兵士を貫く。今のたった一発の攻撃だけで、すでに二十人以上は被害を被った。
「舐めたまねしやがってぇぇっ!!」
ニアはジャスティスに斬りかかる。ジャスティスは左手にグリップしている光剣で受け止める。二つの剣の間にスパークが生じる。そして、ジャスティスが転じた。右手に銃を構えたまま、こちらの顔面を殴りつけてきた。剣は離れ、体勢が崩れる。ジャスティスはこちらに体勢を立て直す余裕がなくすかのように、右肩の砲座からビームを発射する。体勢を完全に立て直す前に、ニアの右足はそのビームに飲み込まれる。反撃に転じようと左手の銃口をジャスティスに向ける。だが、その銃弾が放たれる前に、ジャスティスによって左腕を肘下から切断される。
「がぁっ・・・・・・!!」
ジャストが間髪入れずに蹴りをいれる。右足もろとも、右舷ブースターを持っていかれたため、姿勢制御がうまく利かない。それでも、どうにか海面ぎりぎりで体勢を立て直す。しかし、すでにニアには戦闘力は残されてはいなかった。海岸にたどり着くと、力の限りに右手を砂浜に撃ちつけ、絶叫した。
「くそぉぉぉぉっ!!!」
神翼世界、ネオ・ブレイク軍ハワイ基地上空で行われた戦闘は、ジャスティスたち、ビクトリアの勝利で終わった。最終的に基地の残された戦闘員は二十人未満。基地というよりは施設のような状態になっていた。
しかし、この戦闘の間に、ネオ・ブレイク軍は、神翼世界にて、新たにインドネシア、オーストラリア大陸を占領。超能世界においても、イギリス、西インド諸島を占領し、ネオ・ブレイクの力は両世界に知らしめられた。
ネオ・ブレイク軍のハワイ基地が、ビクトリアによって壊滅状態に陥ったという報せは、すぐにロントにも伝わった。それと同時に、ネオ・ブレイク軍の各拠点が一斉に建ち始めたことも伝えられていた。
「なんでこんなこと・・・・・・」
何故人は、こうも自らの欲を第一に行動を起こすのだろうか?それが人間の本能だといってしまえば、それはそうなのだろうが、それでも、こんなことばかりを続けていて、意味があると、確証を持っていえるのだろうか。一つの組織だけではない。全ての陣営、全ての兵士達に、潤は問うてみたかった。
「潤」
自分を呼ぶ声と同時に、背中を軽く押される。奈々だ。
「奈々・・・・・・何?」
「サイコストが、インド洋上に新たに基地を建設するネオ・ブレイクへの進軍を始めたらしいの」
「それって・・・・・・」
潤の懸念に、奈々は答える。
「サイコストが、攻勢に出た」
「そんな・・・・・・!」
戦争が、一気に拡がり始めたのだ。
この戦闘は、サイコストにとっては、戦争を終わらせるため、根源となりえる者を潰すという名目で行うのだろうが、名目は、それこそ名目でしかない。戦争を終わらせるためだと、戦って、戦って、また戦って。それでは、結局は戦火が拡がるだけなのだ。戦いは戦いを生む。戦いを終わらせるためにも、戦うしかないと、戦い続けるサイコストの考えが、よく理解できない。
もちろん、戦わずにいれば滅ぼされるだけだと分かっている。だからこそ、守るために剣を取り、銃を握る。だが、さばいた剣が、引いた引き金が、守られる命を奪っていくのだ。
戦いとは、なんと矛盾したものなのだろうか。
「・・・・・・潤?」
「え、ああ、ごめん。何?」
「だから、そのためのブリーフィング。皆集まって来てる」
「うん。分かった」
その一言を言い終えた潤は、奈々と共にブリーフィングルームへと向かった。