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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

灰の祝杯

作者: きらら
掲載日:2026/03/24

魔王が滅びて三ヶ月。


王都の喧騒から少し離れた、うらぶれた下宿の二階で、勇者カイルは事切れていた。


死因は毒。それも、裏通りの薬屋で誰でも買えるような、ネズミ退治用の安価な毒だ。

「……英雄の最期がこれか。あまりに情けないな」


憲兵オーウェンは、カイルの簡素な部屋を見渡した。壁には、彼を称えるための豪華な勲章が一つだけ、埃をかぶって転がっている。


カイルは、魔王を倒したあと、王宮から与えられた爵位も屋敷もすべて辞退していた。

捜査を進めるうちに、オーウェンは奇妙な事実に突き当たる。


勇者の死を知った街の人々の反応が、あまりに「安堵」に満ちているのだ。


パン屋の主人は、声を潜めてオーウェンに言った。

「憲兵さん、正直なところね、みんなホッとしてるんですよ。あんなバケモノみたいな力を持った人が、


隣の部屋に住んでるなんて、落ち着いて眠れやしない。魔王がいなくなった今、彼もまた、私たちにとっては『得体の知れない恐怖』でしかなかったんです」


カイルは、魔王討伐後も、困っている人がいればその怪力で荷物を運び、壊れた家を直していた。

しかし、その善意の「力」こそが、平穏を取り戻した人々には「暴力の予兆」として映り、疎まれる原因となっていた。


オーウェンが突き止めた「下手人」は、カイルに食事を運んでいた、天涯孤独の少女だった。

彼女は震える声で白状した。


「……みんなが言ったんです。あの人がいなくなれば、この街は本当の平和になるって。あの人がいる限り、いつかまた魔王が現れるんじゃないかって、みんなが怖がってるって。

……だから、あの日、スープに混ぜました。あの方は、私の手元をじっと見て……少しだけ笑って、全部飲んでくれたんです」


彼女に毒を渡したのは、特定の誰かではない。


近所の主婦たちの世間話。酒場での男たちの愚痴。そして、英雄の維持費に頭を悩ませていた下級役人の冷ややかな視線。


それらが何層にも重なり、少女の背中を「正義」の名の下に押し出したのだ。


「誰も殺したかったわけじゃない。ただ、自分たちの小さな幸せを守るために、邪魔な『異物』を少しだけ排除したかった。……それだけなんだろう?」


オーウェンは、少女を連行する手錠の冷たさを感じながら、沈みゆく夕日に照らされた王都を見上げた。


そこには、英雄の死を祝うかのような、穏やかで残酷な日常が広がっているだけだった。

『灰の祝祭』


燃え尽きたあとの「空虚」

魔王討伐という巨大な「燃焼(戦争)」が終わり、世界にはただ「灰(戦後)」が残りました。


英雄という輝かしい火が消え、あとに残ったのは熱を失った冷たい日常でした

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