第3話 狩り-2
狩りについて母ムカデから教えてもらってから二週間が経った。最初は鹿などの獣相手でも手間取っていたが今ではバッタ程度であれば楽に狩れるようになった。狩りをし続ける間も身体は成長し、今では母ムカデとほとんど同じ大きさになっていた。
(随分こちらの世界にも慣れてきた。けど…。)
俺には少し気になることがあった。母ムカデの様子がおかしいのだ。具体的に言うのであれば狩りの際にやけに同行しようとしてきたり、狩りの仕方や変態の仕方についてさらに詳しく教えてきたりという具合である。正直ありがたくはあるのだがさすがに鬱陶しくも思う。そもそも成体になった時点で大抵の生物は子供の育成を辞める。まぁこれは元の世界での常識なので一概には言えないが…。
(それにしたってしつこいよなぁ、もう大丈夫だろうに。一体これ以上何を教えようって言うんだろう。)
そんな調子なので今日は母ムカデにバレないように洞窟を出てきた。後で怒られるかもしれないが多分大丈夫だろう。この時に辞めれば良かったと今でも後悔する。
(ふぅ…、結構緊張したな。それにしても、やっちゃダメなことを隠れてするってワクワクするな。なんだか心まで子供に戻ったみたいだ。)
『さてと、久しぶりにひとりで動けるし実験に移ってみるか。』
そう、俺がひとりで行動をしたいのにはもうひとつ理由がある。それは他の生物との意思の疎通が取れるか否かを調べるためだ。インセクターには超音波を利用した意思疎通能力がある。これを使って他の生物とも会話ができるのか前々から気になっていたのだ。
(お、いたいた。)
鹿を見つけた。さっそく話しかける。
『もしもし、聞こえていますか?僕は…。』
が言い終わる前に逃げてしまった 。悲しい。
(まぁ当然か、普段自分たちを襲って来るやつが話しかけてきても普通応じないわな。それに獣だし。)
『おとぎ話のようには行かないか…。』
その後も鳥や虫に話しかけたが全て逃げてしまった。悲しい。
(やっぱり同族じゃないとダメか…。)
しばらく散策を続け蜂型のインセクターを発見した。
(よし、これでやっと会話ができる!)
今考えれば実に愚かな行動だった。結果は俺の予想を裏切るものだった。
『こんにちは、聞こえていますか?』
蜂がこちらを振り向く。
『1p_mg"zg"』
『!?今なんて…』
意味の分からない言葉が脳内に響いた。理解しようと俺の動きが止まる。間抜けだった。次の瞬間蜂が襲いかかって来た。
『Gbg/et,mmbe"8,fy』
『!!』
咄嗟に身を避ける。そして自身の愚かさに初めて気がついた。
(馬鹿か俺は!なんでコイツらが仲間だと思い込んでた!?)
この世界に来て約一月、甘かった、油断していた。コイツらは狩るか狩られるかそんな極限の状態で生きているのだと忘れていた。散々自分は狩り、喰らっておいて実感を持っていなかった。気づいた時には遅かった。蜂の猛攻が始まった。
蜂は唸るような羽音を鳴らしながら自身の毒針を突き立てようと迫ってくる。何とか避けても次の瞬間にはまた毒針が命に迫る。
(まずい…このままじゃジリ貧だ。何とかコイツに対して有利に立ち回れる姿にならないと…。)
蜂が上手く飛び回れない木の多い場所に移動し、変態を行った。練習のかいもあり母ムカデ程とは行かないがかなりの速度で変化をできるようになっていた。俺は身体の変化を確認し上空へと飛び上がった。
『来いよ!蜂やろう!』
追ってきた蜂と上空で相対する。蜂は俺の姿を見て驚いているように見えた。俺はトンボへと変化していた。すぐにドッグファイトが始まった。
トンボは蜂をも食べることがある。それ程にこと空中戦においてムシ界最強と言っても過言ではない。その最高時速は70kmに達する。さらに考慮すべきはこれらはあくまで前世の知識であり今世においてはさらなる力を発揮する可能性があるということである。
(速え!!あくまで感覚的なものだけど、これ時速200kmは出てんじゃないか!?)
俺は加速する身体を何とか制御し、蜂の猛攻に対し反撃を仕掛ける。
『確かこうだったか!?』
映画で見た戦闘機の動きを自らの身体で再現する。俺は高速で飛びながら身体をひるがえし蜂の背後を取ることに成功した。そして蜂の身体に脚を伸ばし、首元に牙を突き立て食いちぎった。
『B"/t,@@@@@!!』
蜂は言葉にならない叫び声を上げながら地面に落下した。確認の為降りた時にはもう息絶えていた。
『ふぅー危なかったけどなんとかなったな。しかし話しかけたら襲いかかって来るなんて正直舐めてたな。次はコイツらに変態してから話しかけるか、なんてね。じゃあ早速食べよう…か…な。―――え…。』
俺は勘違いをしていた。自分が強くなったつもりでいた。あれほど前世で肉体よりも心の強さが大切さだということを知ったのに、まるで成長していなかった。
辺りに唸るような羽音が鳴り響いている。森が揺れ大気が震えているような錯覚さえ覚える。空を影が覆い尽くす。ガチガチと牙を鳴らす不快な音が辺りを包んでいる。
(そうか…さっきのあの叫び声は仲間を…。)
幾百幾千、数えることすら馬鹿らしい程の無数の蜂が同胞の仇を打つべく俺の命に牙を針を突き立てていた。




