第2話 狩り
後書きに主人公視点で設定を書きました。
本文にて出たことをザックリまとめていますので良かったらご活用ください。
俺には両親の記憶がほとんど無い。俺の両親は俺が三歳の時に亡くなった。だからおぼろげな雰囲気だけは思い出せるがそれ以上は思い出せない。けれど、唯一両親が居たのだと確かに感じさせるものがある。蟲だ。
両親は、節足動物を研究していたらしい。だから両親の部屋には沢山の研究成果や図鑑があった。俺はそこが好きだった。そこに行けば両親と対話しているような気持ちになれた。そこに行けば両親と触れ合えた気がした。大切な場所だった。…それなのに、
『何であいつらを止められなかった?』
『ッ…!!』
うなされながら目を覚ます。
(まさかこっちでもこんな夢を見るとはな。)
向こうでは、当たり前だったこととはいえ、こっちでは忘れていたことだ。なのに…。
(なかなか、治ってはくれないか…。)
そんなことを考えていると母ムカデが音を聞いてやってきた。
『起きましたか、さぁ食事の時間ですよ。』
俺がこの世界に転生してからはや三日が過ぎた。その間俺は母ムカデが狩ってきた獲物を喰らい続け、今では全長三メートル程まで成長していた。色も生まれたばかりの白っぽい色から成体らしい黒い体と赤褐色の頭へと変化した。どうやらこの世界のムカデは成長がかなり早いらしい。
『食べ終えましたか?』
『はい、母さん。』
そう答えると母ムカデは満足そうに頷いた。そして…。
『では、今日はいよいよ我が子に狩りを教えようと思います!!』
(おぉ!遂に来たか!!)
思わず心の中で叫ぶ。と言うのもかなり気になっていたことだったのだ。
母ムカデが狩ってくる獲物はどれも母ムカデと同じ位巨大かつ、バッタ以外にもトンボやカマキリといった通常ムカデが狙わないであろうものも含まれていた。故にこの世界ではどのような生態系が築かれどのような狩りが行われているのか非常に興味があった。
『ぜひお願いします!!』
食い気味に俺が答える。母ムカデはそんな俺の様子に驚いたようだったがすぐに大きく頷くと。
『はい、行きましょう!!』
そう言うと洞窟の外へと向かっていった。
俺も母ムカデの後ろをついて行く。洞窟の外へと出ると辺りには草木が生い茂っていた。母ムカデはそんな森の中の開けた場所ををずんずん進んでいく。
(ここだけ草木が生えていない、何度も行き来しているのだろうな。)
森の中は思っていたよりも薄暗かったが、心做しか落ち着いた。恐らくはムカデとなった影響だろう。
進むに連れ鳥のさえずりが聞こえ、獣の気配も濃くなってきた。
(獣や鳥も普通に居るのか…、まぁ当然といえば当然だが。…いや待てよ。)
俺が疑問を感じた時だった。目の前に羽虫が羽ばたいていく。飛んでいくその先には樹液が垂れ沢山のムシが集まっている。
(やっぱり…。)
生態系ピラミッド、世界が多種多様な生物によって担われる以上必ずこれは存在する。故に小鳥がいた時点で分かってはいたがこの世界にも一般にムシと呼ばれる生物が居ることになる。だからこそ…。
(その場合俺たちはなんなんだ?てっきり俺たちの種はムシが巨大化したものと思っていたが、さっきみたいな小さいムシも普通に存在している。となると進化したという仮説は成り立たない。そうなると俺たちはムシとは別の…それこそ創作物に出てくる蟲のようなものと考えるのが良いか。)
『居ましたね。』
母ムカデが動きを止める。その先には最初に食べたものと同じ巨大なバッタが居た。どうやらこちらにはまだ気づいていないようだ。
(さて、いよいよか、コレをどうやって狩るのかしっかり観察させて貰おう。)
俺がそんなことを考えていると母ムカデもそこで観ていろと言わんばかりにこちらに目配せをしてきた。指示通りに俺はその場で待機する。次の瞬間だった。
母ムカデがバッタに襲いかかる。
バッタはそれに気付き飛び去ろうとする。
それを見ると母ムカデは瞬きの間に自らをカマキリに変化させバッタを捉えた。
そして次に自らをまたムカデの姿に変化させバッタの首に噛み付いた。
バッタは毒が回ったのだろうしばらく悶え動かなくなった。
(なんだ…今のは!?)
俺は目の前で起きたことに唖然とした。当然だ。ただでさえ通常の生物の範疇を超える巨体を持つムカデが一瞬にしてカマキリに変化し、さらにその体をムカデに戻して見せたのだ。理解が追いつかないのも無理はない。すぐに母ムカデに駆け寄る。
『凄かったですね母さん!今のはどうやったのですか!?』
それを聞き母ムカデが優しく答える。
『今のは変態と呼ばれるものです。』
(変態…、俺の知るものとはだいぶ異なっているな…。やはり似てはいるがムシとは別の生物であると考えた方が良さそうだな。…疑問が後を絶たないがひとまずは…。)
『母さん、それは今の私にも出来ますか?』
母ムカデに問う。
『少しずつ教えようと思っていましたが…早速やってみたいですか?』
『ぜひお願いします。』
『分かりました。ではまず、』
母ムカデは大きく頷くとさっき仕留めたバッタを俺に食べるように促してきた。
『変態を行うにはまず別の生物を自らの一部にしなければなりません。』
促されるままバッタを喰らう。
『そして次に自らの一部とした生物を強く思い浮かべてください。この場合は今食べたものですね。』
『強く思い浮かべる…。』
頭の中でさっき喰らったバッタを思い浮かべる。
(精巧にイメージしろ、今まで散々図鑑や標本で見てきただろ。)
少しずつイメージがかたどられていく。
『強く思い浮かべられたら、それを自分の身体と重ねてみてください。』
(重ねる…、イメージの型に自分の身体を溶かし入れる感じか。)
『それができたら身体が思い浮かべた通りに変化していくはずです。』
(身体が熱い、自分の身体が作り変わって行くのを感じる。)
静かに目を開ける。
『母さん、コレが。』
『はい、変態です。良く出来ましたね!』
身体の動きを確認する。
(ムカデの身体とは感覚が違う。どうやら本当にバッタに変化できたらしいな。)
『今はかなり時間がかかりましたが、慣れてくればもっと早く、様々な生物に変態出来るようになれます。ですがあまり変態をしすぎると…、あっ!』
母ムカデが言葉を言い終える前にまたムカデの姿に変態する。
(プロセスさえ分かればあとは慣れだ。)
無事に変態が終わる。しかしその直後激しい空腹に襲われる。
『くぅ…。』
『話は最後まで聞いてください。変態は決して万能ではありません。使いすぎれば体力の使いすぎで疲弊すると言おうとしたのに…。』
『仕方ありませんね、本当は軽く獣でも狩ってもらおうと思っていましたが今日はひとまず帰りましょうか。』
『すみません、母さん。』
『良いですよ、変態をできただけでも十分です。』
そうして今日はひとまず洞窟に帰ることになったのだった。
『我が子よ。』
夜の食事を終え休もうとする俺に母ムカデが話しかけてきた。
『なんですか、母さん。』
(なんだろう、何か話すことなんかあっただろうか?)
『少し聞きたいのですが、今日は楽しかったですか?怖いとは思いませんでしたか?』
少し驚いた。まるで母ムカデが人間の親のような質問をしてきたからだ。
(分かってはいたが、相当優れた知性と感性を有しているよなコイツら。)
母ムカデが不安そうに見つめる。
(そうだな、ここは…。)
『はい、楽しかったです。』
正直に答える。
『洞窟の外は見たことが無いものばかりでとてもワクワクして、狩りの仕方や変態についても母さんが教えてくれて、とても楽しかったです。』
『そうですか、それは良かったです。』
母ムカデがほっとしたように呟く。
『はい、本当に母さんの子に生まれて良かったです。』
『…そうですか。』
母ムカデが少し驚いたように間を空ける。
(?…なんだ今の間、何か俺変なこと言ったか?)
しばし沈黙が流れる。気まずそうにする俺を知ってか知らずか母ムカデは見回りをするからと俺に先に休むように促す。
(…まぁ良いか、今日は疲れたし母ムカデの言うとおり早く休もう。)
『分かりました。では母さんもお気を付けて。』
『はい、おやすみなさい。』
「おやすみなさい。」
そうして俺の一日はまた終わって行くのだった。
我が子の眠る洞窟を後にする。夜の湿った空気が肌を撫でる。風はなぎ、音はほとんどない。
(『母さんの子に生まれて良かったです』か。)
先の我が子の言葉を思い出す。
(そう思ってくれて良かった。あの子があんなふうに言ってくれるなんて、きっとそれだけ楽しかったのでしょうね。)
愛おしさに思わず笑みがこぼれそうになる。
(いけない…。)
緩みそうになる心に喝を入れる。
(気を引き締めなさい私、あの子は私が守り導かなければいけないの。そう、だってあの子はきっと…。)
『普通では無いから。』
凪いでいた風が吹き始める。草木が揺られさざめきをつげる。それが嵐の前触れであることを彼らはまだ知らない。
蟲〈インセクター〉について
・姿が一般にムシと呼ばれるものに酷似している。
・身体が巨大。(成体で十数メートル。)
・念話と呼ばれる意思疎通能力を有する。
(恐らくは超音波を利用しているものだと予想。)
・成長が早い。(生後二週間ほどで成体になる。)
・一般にムシと呼ばれるものとは別の生物であると予想される。(現時点でどのように発生したのか不明。)
・大きな特異性として変態と呼ばれる能力を有する。
(一般に節足動物の行う変態とは根本的に異なっており、他の生物の遺伝子を取り込み、解析、自分の遺伝子で模倣していると考えられる。変化速度は自身のイメージ力と練度に依存されると予想。行うには大量のエネルギーを消費する。変態と言うよりは変身〈メタモルフォーゼ〉という認識が正しいと言える。)
作成者:主人公




