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空国 求婚の嵐と『勇者』の倒し方

 最終日を目前にして、私達アルケディウスの使節団の周囲は、急に慌ただしさを増している。

 帰国の準備で忙しいのは勿論なのだけれど。


「報告が遅れましたが、実はおかしいです。

 私、魔王襲撃の後、男性に三回も呼び止められました。しかも、良ければ交際して頂けないか? と」

「私もです。物好きですよね」

「どうして、私まで申し込みの対象になるのでしょうか? 成人した騎士様達が何人も声をかけて来るんです」

「プリエラもですか?」


 私の若い女子随員達が揃って首を傾げている。


 セリーナ(14歳くらい)は解らなくもない。でもノアール(11歳)はちょっと犯罪だ。

 最年少のプリエラは私より年下。推定年齢八歳。

 そんな子どもに大の大人が求愛してくること自体、いろいろとおかしい。政略結婚とかならギリギリ無くも無いけれど。


 話を聞いてみれば、


「少女達ばかりではありません。

 騎士団の者達にも女性が幾人も声をかけてきました」


 と、リオン留守の騎士団を預かるヴァルさんも報告してくる。


「騎士団の者にも、ですか?」

「ピオやウルクス、ゼファードらにも。

 街で商売女に声をかけられるならともかく、王宮内で侍女や召使などとはいえ、身分のある者達が、ですからね。

 尋常ならざる事態と言えそうです」

「ヴァルさんは?」

「私も、はい……何人かの侍女や女騎士などに」

「そうですか」

「ヒンメルヴェルエクトが、マリカ様の帰国を前に、何としてでも関係性を持続させようとしている。ということでしょうか?」

「あり得ます。

 シュトルムスルフトと違って油断していましたが、お互いに声をかけあい、単独でアルケディウスの宿泊場所から出ないように気を付けて下さい。私の側や男女一緒にいれば、相手も声をかけづらいでしょうから」

「解りました」

「主に対象となっているのは上級随員のようですが、他の人達にも連絡して簡単に誘いに乗らないように、周知、徹底して下さい」

「解りました」

「恋愛は禁止したくはありませんが、今回はちょっとあからさますぎますから」


 流石に身分&夫があると解っているミュールズさんやミリアソリス、ミーティラ様には声をかけてこないようだけれど、この物量。

 単独の貴族による思惑ではないような気がする。


 色々考えて、私は立ち上がった。


「カマラ、ミーティラ様。

 訓練場に行きますので、ついてきて頂けますか?」

「お疲れなのに身体を休めなくていいのですか?」

「リオンが、訓練場で男性達の挑戦を受けている筈ですから。

 色々と気になるので見に行きたいのです」


 この国に来た時、アリアン公子は私に対し、求婚を行わないと約束した。

 求婚しない事、が私の好感度を上げると解っているから、それを覆すようなことはなさらないと思う。

 けれど、他の騎士や貴族達が、最後のチャンス。

 ダメもと、と迫ってきているのかもしれない。


 私との結婚を望むなら、せめてリオンを超える実力を。

 と、お父様が条件を付けたことは、もう各国に知れ渡っているというし。


 私に関する求婚はいつものことだけれど、この土壇場になっての騒ぎは気になる。

 ちょっと状態を確かめておきたい。


 会場に着くと、凄い数の人がいた。

 周囲を埋め尽くさんばかりの人。

 観客込みで。


「凄い人ですね。まさかこれ全て、求婚者ですか?」

「まさか。代理決闘のように、自分の手の者の中から強い人に頼んでいることもあると思いますけれど」


 私自身にモーションをかけるのではなく、リオンを先に倒そうとするあたり、完璧に私個人への恋情ではなく、政略絡みだろうと推察される。


 見れば、既に何人かはリオンに蹴散らされているようで、悔し気に会場を見つめている人が多い。

 一方で、期待や諦めを瞳に浮かべている人は、これから蹴散らされる人なのだろう。

 どっちにしろ、運命は同じだけれど。


「マリカ様!」

「マルガレーテ様! いらしていたのですか?」


 マリカ様、とマルガレーテ様が私を呼んだことで、周囲の視線が一気に私に集まる。


 ざざっ、とモーセが海を割る様に人が左右に分かれて空間も開いた。


「この度はヒンメルヴェルエクトを魔王よりお救い下さいまして、ありがとうございます」


 そう公子妃に膝をつかれてはなおさら。

 周囲の人まで跪かれては困るので、慌てて手を振る。


「顔をお上げ下さい。マルガレーテ様。私は何もしていません。

『精霊神』様にお身体をお貸ししただけですから」

「『精霊神様に身体を貸す』その行為そのものが、只人には叶わぬ奇跡であり、救世の行いでございます。

『聖なる乙女』に心からの感謝と敬愛を……」


 私の言葉を気にも留めず深々と頭を下げたマルガレーテ様は、それでもゆっくりと立ち上がって下さった。


 そして、


「公子が、姫君を娶らない、と最初におっしゃって下さって安心しました。

 姫君への求婚をもし、大公閣下、公子が良しとしていたら、私など第二妃やそれ以下に追いやられていたでしょうから」


 静かに微笑む。


 いや、微笑みながら言う事じゃないでしょ。


「そんなこと許されませんよ。何百年も連れ添ってこられたのでしょう?」

「私は本来なら、公子妃になれるような者ではありませんので」

「え?」


 背中にゾクッ、と冷たいものが走った。


「マリカ様の騎士はお強いですわね。

 今の所、連戦連勝。ヒンメルヴェルエクトの騎士団長ですら叶いませんでしたわ」


 その先に説明が続かず、マルガレーテ様が視線を反らしたので、私も合わせて訓練場を見る。


 次から次へと相手が代わっては蹴散らされていく。

 どうやらもう既にめぼしい人は倒されて、消化試合状態らしい。


 私、というかお父様の分析なんだけれど、リオンは普通の戦士や騎士、魔性に対しては、めっぽう強いのだ。

 新年の大神殿での騒動で封印が解かれてからは特に。

 相手が真面目な戦いをしてくる限りは、現状ほぼ負けは無いだろうという。


「ただ、アルフィリーガに誰も勝てないってわけじゃない」

「どういう意味です? 不真面目な戦いをしてくれば勝てるんですか?」

「不真面目というにも語弊があるが、まあそうだ。ほら、これを見てみろ」


 と言って、見せてくれたのはフェイが提出したリオンの模擬戦の報告書……。


 あ、相手はアダマスさんだ。


 アダマスさん、というのは私の知り合い。リオンより年下の貴族。

 凄く頭のいい人。私も色々教えて貰った。


 模擬戦の時も工夫を凝らしていたらしい。

 木刀を使って戦い始め、普通に剣のように使うと見せかけて、持ち方、使い方を工夫したり、踏み台にしたりしていた。

 目隠しや動揺させる声色など、手段を駆使した上でのフィニッシュブローは、なんとヨーヨー。


 リオン、というかこの世界では未知の武器、道具を使って、リオンの一番の武器、足を奪いに行ったのだという。


「この少年は貴族というが、戦い方はかなり実戦的だ。多分、暗殺や誘拐を警戒する為に、そういう知識や技術を学び、身につけているのだろう。

 恵まれた能力や資質に甘えていると、そういう『敵を力で打ち倒すことを勝利としない』戦いと相手に、あっさり寝首をかかれて負けることがある」


 言ってみれば、リオンの戦い方は超データ量豊富なコンピューターみたいなもので、与えられた知識による想定内の範囲での戦いについては絶対の優位性を持つ。

 その想定の範囲もむっちゃ広いし、対応力もある。


 でも、それを超える人間の、何をするか解らない行動に関しては対応が遅れたり、コロッと負けたりすることがある。


 ヨーヨーそのものがこの世界に無いし、それを武器にするなんて向こうの世界でもロマン漫画の中の話だし、リオンを攻めるのは酷な話で。

 ここは、それだけの引き出しを持ち、駆使するだけの実力を持ったアダマスさんを褒めるべきだろう。


 つまるところ、それくらいでないとリオンには勝てないのだ。


 でも、リオンがあのあと悔しがってたのを知ってる。

 見かけによらず負けず嫌いだから。

 次は絶対に負けないと、対策を練っていそう。


 閑話休題(話がそれた)


 そういう訳で、闘技場で武器を持って相手を打ち負かそうとする決闘の場においてなら、リオンは相当に強いのだ。


 彼を実力で倒そうとするなら、お父様やフリュッスカイトのルイヴィルさんクラスで、何百年も戦い一筋で己を高めてきた人でないと。

 そういう人でも、多分勝ちを取るのは難しいと思うし。


「マリカ様」

「なんでしょうか?」

「アルケディウスは本当に『精霊の恵み』豊かな国ですわね」

「そうですか?」

「ええ。お優しい心と実行力。果ては『精霊神』に愛され、見込まれる『聖なる乙女』。

『伝説の戦士』と、彼に育てられた最優の戦士。『風の王の杖』に『新しい食』。

 加えて『精霊古語』を読み解き、新しい技術を生み出す才能まで。

 本当に羨ましくなってしまいますわ」

「あ、ありがとうございます」

「アルケディウスが今後も、その溢れる恵みに溺れ、押し流されることの無いよう祈っております」

「? それは、どういう……」

「できますれば、我が国。いえ、他の七国にも引き続き『聖なる乙女の恵み』を賜りたいものですわ」


 意味深な公子妃様の言葉は、それ以上紡がれることは無かったけれど、私の心に深く、棘のように抜けることなく突き刺さっていた。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさい。リオン。ご苦労様でした」


 戻ってきたリオンと私を見つめる、ヒンメルヴェルエクトの人々の羨望の眼差しと共に。


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