魔王城 クリス視点 宿題の答え
マリカ姉はいった。
『クリスの理由を聞きたい。
どんな自分になりたいのか。そのために、何が必要なのか』
ギフトがめざめて、うかれていたぼくに。
まっすぐな目で、そういった。
それで、かんがえた。
ぼくは、どんな自分になりたいんだろう……。
一人になりたくて、ぼくは、ごはんのあと、お城のはしっこ。かいだんのところに座っていた。
一人になるには、ここはいいところだって。
まえにアレク兄がいってたから。
ほかのみんなは、どうかわからない。
いまの生活がしあわせで、もうわすれているのかもしれない。
でも、ぼくは――今もおぼえている。
まおうじょうにくるまえの日々を。
毎日、おこられて、たたかれて。
いわれるまえにはたらかないと、
『気が利かない!』『役立たず!』
って、怒られた。
だから、いっしょうけんめいに早くうごいた。
おこられないように、いつもまわりを見ていた。
なまえなんて、なかった。
よばれたことも、なかった。
だから、まおうじょうにつれてこられて、あらってもらって、そして――
『クリス。お前はクリスだぞ』
名前をもらったあのとき、
「うわあああああん!!」
めをとじて、泣いた。
今までは、どんなにこわくても、つらくても泣けなかった。
泣いたら、もっとおこられるから。
『泣くなよ、クリス。もう大丈夫だ』
『もう、一人じゃありませんからね』
そういって、やさしくだきしめられたあのぬくもりを、今もぼくはおぼえている。
まおうじょうでは、やらなきゃおこられるしごとはない。
たたかれることも、どなられることもない。
畑のめんどうや、しゅうかくや、しないといけないことはあるけれど。
がんばれば、ほめてもらえる。
『ありがとう』っていってもらえる。
おいしいごはんも、でてくる。
毎日が、しあわせで、しあわせで、しあわせで。
だから、自分も何かできるように、なりたいと思う。
みんなの役にたちたいって、ほんとうに、ほんとうにおもうのだ。
ギフト。
一人一つの、とくべつな力。
それを持つ兄姉が、うらやましかった。
はやく自分も、ほしかった。
自分もそれを手に入れたら、みんなの役に立てるのに。
ずっとそう思っていた。
でも、やっとそれを手に入れて。
しかも、自分のじまんの速足で。
うれしかった。
うれしかったけど――
『どんな自分になりたいのか』
そういわれて、こたえられない自分に、きづいた。
アーサー兄は『シールドを使えるようになる』って、ちゃんときめてた。
自分の力で、ちゃんとみんなの役に立ってる。
なのに、ぼくは――。
ゆうびんやさん。
みんなに、にもつをはこぶ人。
それがさいしょの、もくひょうだった。
でも、みんなのやくにたてているのかなあ?
足が速いだけじゃ、たたかえないし……。
ずっと、ずっと、ぐるぐると、そんなことを考えていたら。
「クリス様」
「ティーナ……姉さん……」
前に、ティーナ姉さんが立っていたのに、気付かなかった。
「考え事ですか? こんなところで座り込んでいると、風邪をひきますよ」
「……ごめんなさい」
リグをだいているティーナ姉さんに、ぼくはあやまって立ち上がろうとした。
そんなぼくを、ティーナ姉さんは引きとめて、
「お待ちください。クリス様」
そして、すこしだけ、うれしそうに言った。
「そういえば、お礼をいうのを忘れていました。
リグが生まれるとき、マリカ様を呼んできて下さって、ありがとうございます」
そういって、あたまを下げてくれたのだ。
「えっ?」
「あの時、クリス様が家に来て下さって、マリカ様を呼びに行って下さらなければ、リグは生まれてこれなかったかもしれません。
クリス様は、リグと私の命の恩人ですわ」
「ぼくが……リグと、ティーナ姉さん……の?」
「ええ、恩人です。感謝していますわ」
そういうと、ティーナ姉さんは、ぼくのよこに座って、リグをそっとだっこさせてくれた。
青い目をくりくりさせたリグは、ごきげんで、手のひらを空に向けている。
ぼくは、おそるおそる、その手のひらを、つん、と指でつついた。
「あっ!」
リグが、ぼくのゆびを、ぎゅっとつかんだ。
こんなに小さいのに、力はびっくりするくらい強くて。
あったかくて。
このちっちゃなリグが生まれてくるのに、
ぼくは、やくにたったんだ。
そう思ったら、すごくすごく、うれしかった。
ぼくは、役立たずなんかじゃなかった。
だれかの役に、たてたんだ。
ぼくの目元から、ぽろんと、なみだがこぼれた。
「クリス様?」
「だいじょうぶ。だいじょうぶだから」
ティーナ姉さんが、しんぱいそうにぼくを見ていたけれど、
ぼくは、止まらないなみだを止めるのに、せいいっぱいだった。
「マリカ姉!」
夜のご飯のあと、ぼくはマリカ姉を呼んだ。
リオン兄、フェイ兄、アル兄、アーサー兄、アレク兄。
ようは、みんないっしょのときだ。
「なあに? クリス」
マリカ姉は、ぺたんとひざをおりて、ぼくと目を合わせてくれた。
だから、ぼくは、いっしょうけんめいに、かんがえた答えをいう。
「ぼく、ぶきは……まだいらない」
少しだけ、みんなの目がひらく。
でも、マリカ姉は、ぼくを見たままだ。
だから、みんなにいう。
「ぼくは、みんなのゆうびんやさんになる。
みんなに、にもつや、だいじなものをはこんであげる、ゆうびんやさんに!
この速い足で、みんなの役にたつんだ!」
「うん。なら、いいよ」
マリカ姉は、そう言って、うなづいた。
「クリス、これあげる」
そして、小さな小さな短剣をくれた。
とっても、とってもかるい。
もってないみたいに、かるい。
「それはね。
リオン兄が魔王城の宝物蔵から選んでくれた、クリスのための短剣」
マリカ姉は、ゆっくりと言った。
「ゆうびんやさんも、かんたんじゃないよ。
荷物を運ぶあいだは一人だし、助けてくれる人は、だれもいない。
だから、自分の身は自分で守らなきゃいけない。わかる?」
「うん」
「だから、今までどおり、アーサーと一緒にリオン兄に戦い方とか、ナイフの使い方を教えてもらって。
そして、必ず、自分の命を守る。
命と荷物だったら、命を守る。これは絶対に約束して」
「うん」
「クリスは、きっと、みんなの大切なものを守って運ぶ、郵便屋さんになれるよ。
がんばって!」
「うん!!!」
ぼくは、アーサー兄のようにはならない。
アーサー兄より、もっと役に立つんだ。
ぼくの、ぼくだけのギフトで。
見てろ!
ごはんもいっぱいたべて、いっぱいれんしゅうして、
大きくなって――アーサー兄なんか、すぐに追いこしてやる!




