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皇国 大祭一日目 木の王と祭りへの飛翔

 アーベルシュトラム、木と緑を司る杖。

 そう名乗った碧の貴婦人は柔らかい微笑を浮かべると、今度はフェイ。

 正確にはフェイの持つ杖にお辞儀をする。


『シュルーストラム、貴方とも本当に久しぶりです。

 と、言っても貴方は私のことを覚えてはいらっしゃらないのでしょうけれど』

『すまぬ。本当に記憶が無い』

「わっ!」


 ザーフトラク様がいきなりフェイの杖に浮かんだ映像に声を上げた。

 他の方達も声こそ出さないけれど、目を見開いてみている。

 そうだね。フェイの杖について『高位の力を持つ』ことは解っていても、王の杖、とかそういうのを話す機会は無かったかもしれない。


『水の国のリーキルシュトラムの時もそうだったが、こうして会えば其方らが我らと同じ。

 精霊を統べる『王の杖』であることは理解できる。

 ただ『記憶にない』。

 精霊国の宝物蔵で目覚め、かの国の魔術師に握られるまで私は、自分がどこで生まれ、誰に使われていたか思い出せぬことに今、気付いた』

『そうでしょうね。南三国の王の杖は『危険』であるが故に離された。その記憶は、貴方に負担をかけるものですから』

「危険?」

『……我が子孫達も、尊き魂を持つ者ばかりではなかった、ということだ』

「アーレリオス様?」


 白い精霊獣が微かに俯いている。

 真紅の瞳に、苦虫を嚙みつぶすような悔恨の色が宿っていると解る。

 表情など解らない獣の姿だというのに。


『今は、その話は後でいいだろう。マリカ、リオン、時間が無くなるぞ』

『……そうだね。アーベル。お前は今まで通り王家と共に有ればいい。

 必要な時には力を貸して貰うかもしれないけれど』

『承知しております。術師の杖、としてのお役にはあまり立てず、お恥ずかしい限りですが、誠心誠意努めさせて頂きます』


 そう言うと王勺の石、アーベルシュトラムは王勺を握り、今もどこか唖然としている皇王陛下と皇王妃様に頭を下げる。

 年齢不詳だけれど皇王陛下よりは確実に若い女性の『精霊』

 春の木陰のような新緑の髪と瞳。

 普通の人の決して持たぬ色合いとその美しさに射抜かれたようにお二方は息を呑んで動かない。動けない。


『木国を統べる尊き王よ。

 我が名はアーベルシュトラム。『星』の手足にしてアルケディウスを護るモノ。どうぞこれからもよろしくお願いいたします』

「こ、こちらこそ。

 魔術の素養も知識もない、非才の王なれば。

 貴女を握るに相応しくはないやもしれませぬが、どうかお許しの程を」


 どこか緊張気味な皇王陛下に、彼女、でいいかな? アーベルシュトラムは首を横に振る。


『いいえ。貴方からは気高く優しい、木と緑の『精霊神』から受け継いだ愛すべき質を確かに感じます。

 近年稀にみる才であったと思いますよ。

 貴方の継承まで、私がもう少し力を残していれば、貴方と契約してもう少し役に立てたのですが。

『精霊神』も復活され、仲違いした『精霊の貴人(エルトリンデ)』とも和解がなった。

 今後はアルケディウスの大地を守り潤す『星』と『精霊神』様の手足として、貴方とこの国の力になりましょう』

「具体的に、私は何をすれば……」

『こーら。気持ちは解るけれど、その話は本当に後。

 祭りが終わっちゃう。僕達が出かけた後にゆっくりと話をするといいよ』

「これは、失礼。つい夢中になってしまいました」


『精霊神』様に怒られて頭を下げる皇王陛下は、こほん、と取り繕うように咳払いすると、私とリオンを見やる。


「では、二人とも準備を。確かにもう時間はあまりない」

「夕食は、食べていかないか?」

「せっかく作って頂いたんですけど、祭りで色々食べてくるようにと命じられているので申し訳ありません」

「久々に四人でゆっくりと食事をしながら今後の話でもしよう」

「昔を思い出しますな」


 その間に私達は『大祭の精霊』の衣装に着替えた。

 皇王陛下が用意したものなので、質素なデザインだけど布質とかはかなりいい。

 着ていて気持ちいいくらい。


「では、お願いします」

『了解』

『いくぞ』


 いつもの通り、リオンがラス様と、私とアーレリオス様が同化する。

 骨が伸び、胸が膨らみ、隙間を埋める様に細胞が増殖していくのを感じる。

 本当に、これ、どういう仕組みでなっているんだろう。

 変身魔法とかは、いつの時代でもロマンだけどさ。


 痛くは無いけれど感じる違和感を、そんな思考で紛らわせているうちに、私の変化は終わった。


「……話には聞いていましたが、本当に凄いわね。『精霊神』様のお力は」

「正しく。転生の話を疑っているわけではありませんでしたが、こうして見ると信じざるを得ませんな。記憶にある尊きお姿そのままだ」


 皇王妃様とタートザッヘ様が驚きに目を見開いたのが解った。

 微かに目を擦ってもいる。

 お二人にも、もしかしたら私の姿が幼い日の憧れ。先代か、もしかしたら先々代の『精霊の貴人(エルトリンデ)』に見えているのかもしれない。


 一方で、ほんの少し目を瞬かせながらも、


「そんなに急いで大人になる必要は無いぞ」


 ぽんぽん、と頭をなでて下さったのはザーフトラク様だ。

 いつもと変わらぬ様子が、ちょっと嬉しくもある。


 そうこうしている間にリオンの変化も終わった。

 こっちもいつもながらにカッコよくって、側にいるだけでドキドキする。


「よく似合ってますよ。流石『アルフィリーガ』」

「うるさい。茶化すな」


 落ちた帽子を拾い上げ、リオンに渡すフェイもなんだか嬉しそう。


「良いか。二人とも。

 お前達は目立つ存在だということを自覚せよ。

 普通の服、目立たぬなりをしていても周囲の目を引く。視線を集める。

 必ずだ。

『大祭の精霊』として出る以上、それをいちいち気にする必要は無いが、行動には十分に気を付ける様に」

「解りました」

「マリカ様。その指輪は目立ちます。万が一ですが、その指輪がマリカ様のしているモノと同じと知る者がいれば、正体に気付かれるやもしれません」

「あ、そうですね」

「マリカ、これを。その指輪は『星』と『精霊』の祝福を受けた特別なものだと聞いています。身から離すのはあまり良くないのでしょう?」

「ありがとうございます」


 タートザッヘ様の指摘で指輪を外した私に、皇王妃様が銀のチェーンを貸して下さったので、指輪を通す。


「あ、シュウのペンダントは外しておいた方がいいかな」

「香りで気付かれるかもしれないしな」


 木製の香りのペンダントを外し、銀のチェーンを首にかけると服の下に押し込んだ。

 後は財布を持って、お父様に返してもらった去年貰った星飾りを着ければ準備は完了。

 リオンは今年は別の紐で髪を縛ってる。

 私の髪紐は見る人が見れば解っちゃうからね。


「では、行ってくるがいい。十分に気をつけて楽しんでくるのだぞ」

「お土産話を楽しみにしているわ」


 時計は風の刻を差し始めたところ。

 まだ、祭りを楽しむには十分時間がある。


「はい、行ってまいります」


 フェイと一緒に私達は跳んだ。

 賑やかで華やかなアルケディウスの大祭に向けて。

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