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皇国 生まれて最初のおともだち

 生まれたばかりのプラーミァの王子様と、双子ちゃん、そしてアドラクィーレ様の子どもに誕生&誕生日プレゼントを贈りたいな、と思って色々考えている。

 基本的には玩具系。服飾系などはそれぞれ保護者が用意しているだろうし。


 そういう訳で考えた私は


「シュライフェ商会 プリーツィエ。お召しにより参上しました」

「忙しい中呼び立ててごめんなさい。大至急お願いしたい事があるのです」


 既に私の専属デザイナーになっているシュライフェ商会のプリーツィエを呼び出した。


「冬服の訪問着と、新年の儀式の衣装は既に仮縫いに入っています。秋の大祭用の衣装は後数日で完成しますのでお時間を頂ければ幸いです」

「儀式ごとに衣装を仕立てるのは無駄だと思うので、来年以降は直しで対応したいと思うのですけれど」

「でも、マリカ様は御成長なさいますから、あまり丈や袖が合わないと踊りにくくなるのではないでしょうか?」


 秋の大祭と、冬の秋国訪問用の旅装と、新年の大神殿での舞の衣装。

 なんだかんだで私は今、けっこうな枚数の服をシュライフェ商会に発注している。


 他に流用できない服はきっぱり無駄だと思うのだけれど、シュライフェ商会は口が上手いし、お母様もお父様もお貴族様だから節約精神とかもったいないとか、あんまり伝わらないんだよね。

 必要なものだと言われれば、そうなのかもしれないけれど。

 向こうの世界の感覚が抜けない私は、つい「着回しできないかな」と考えてしまう。


「まあ、その辺は後で。今回はちょっと特殊な発注なのです」

「なんでしょうか?」

「人形を作って欲しいのです。正確には人、ではなくぬいぐるみなのですけど」

「ヌイグルミでございますか?」


 やっぱりこの世界には無い言葉だろうな、と思って私は説明する。


「動物の形を布で作って、中に綿を詰めたものです。

 ふかふかとした手触りがとても心地よく、また子ども達の遊び相手としてとても役立ちます」

「はあ……」


 やっぱりピンと来ていない様子。

 人形とか、絵姿とかも殆どない世界だから、まあ仕方ないか。


「具体的には、この二匹の形を布で作って欲しいのです」


 私が指示したのは、部屋の中で飛び跳ねている二匹の獣。

 短耳うさぎそのものの精霊獣ピュールとローシャだ。


「これが噂に聞く精霊獣であらせられますか?」

「そうです。この二匹はプラーミァとアルケディウスの『精霊神』の化身」

「尊いお姿を写すのは不敬ではございませんか?」

「御本人達の許可は得ているから大丈夫です。市販とかされるのは困りますけど、これは王宮の王子、皇女、皇子への贈り物ですから」

「本人への許可、と『精霊神』様をあっさり言えるところが流石聖なる乙女、というところでしょうか?」


 プリーツィエがなんだか尊敬の目で見てる。

 ああ『精霊神』と話をすること自体が特別なんだっけ?

 私には当たり前になっちゃってるから、なんだかちょっと色々麻痺してたかも。


「そうですか? まあ、それはともかくとしてできますか?」

「……多分、可能かと思います。アーヴァントルクの毛皮などを使い、中に綿花などをきっちりと詰めれば……」

「大きさとしてはできれば原寸大。難しければ少し小さめにしても構いません」

「綿をかなり使うので少し高価になりますがよろしいですか?」

「王家への出産のお祝いなので、多少は構いません。その代わり丁寧に丈夫に作って下さいね」

「かしこまりました。……その、不敬とは存じますができれば、マリカ様。

 精霊獣の御身に触れ、感触や大きさ、体形を確かめる御許可は頂けませんでしょうか?」

「ピュール? ローシャ?」


 私が二匹に声をかけると、精霊獣達はぴょこぴょこ寄って来て、プリーツィエの側に腰を落とした。

 自動操縦のようではあるけれど、ちゃんと話は聞いていて下さったみたい。


「どうやらいいようです。どうぞお尻から優しくだっこして落さない様に」

「で、では……失礼いたします。わあ~、柔らかく、温かいですね」

「獣や動物に触れたり、飼う習慣はありませんか?」

「シュライフェ商会は服飾の店ですので商品を傷める可能性を考慮して、禁止されております。一般家庭でも動物を飼う事はあまり多くないと思います。

 貴族や豪商の中には番犬や猫を飼っている者もいると聞きますが……その……」

「ああ、そうですね。不老不死だと死を見送らなければならないのは寂しいですものね」


 言い淀んだプリーツィエの気持ちは解る。

 ずっと生き続ける人達にとって、寿命の短い生き物を側に置くことは、いつか必ず別れを迎えるということでもあるのだ。

 なら、ぬいぐるみはその分癒しにならないかな?


「……ありがとうございます。とても、幸せな経験でございました」


 ピュール、ローシャと順番に注意深くだっこしたプリーツィエは、静かにローシャを床に下ろすと頭を下げた。

 その頬には、まだほんのりとした感動が残っているようだった。


「ピュールとローシャ、どちらも二つずつ。

 お祝いの品なので丁寧に早く。

 特急料金を含めてある程度は言い値でお支払いしますから」

「はい。私が責任を持って作り、早急にお届けいたします」


 プリーツィエはそう言うと、胸を叩いて請け負ってくれた。


 その日の夜。


『ぬいぐるみか~。やっぱり子どもを相手にしていると発想が違うね』


 寝所でローシャ、じゃなくってラス様が笑った。


「そうですか? 子ども相手の贈り物や出産祝いなら定番でしょう?」


 私は子どもの頃、外国に転勤した伯父が送ってくれた羊のぬいぐるみをずっと大事にしてた。

 一人暮らしを始める時にも連れて来たくらいだ。


 自分の側にずっといてくれる人形やぬいぐるみは子どもにとって最初の友達になってくれる。

 抱きしめ、だっこし、支えられ、連れ歩き、話しかけ……。

 そこに返事はなくても、確かに心を預けられる相手になるのだ。


「そういえば、この世界は形代って殆どないんですよね。写真とか、肖像画とかの文化もないし神の像とかも全然……。そういうのがあった方が信仰とか集まりやすくなるんじゃないですか?」

『そこは、まあ僕らの都合だよ。勝手に変な想像の姿を作られるよりは無い方がましってね』

「じゃあ、絵を描いて売りに出したり、王国の始まりの劇を作って上演したりはダメです?」

『絵の販売はダメ。

 劇くらいならまあ、俳優によって姿も変わるし禁止まではしないけどダメだしはするよ。僕はともかく僕の『乙女』や国の者達を貶めるような真似は許さないから』


 しまった。

 萌え計画はかなり見直しが必要だ。


 そう言えば、王立劇団(仮)の締め切りももうすぐ。

 無事進んでるかな?

 台本だけでも事前チェックしておいた方がいいかも?


 可愛いものを作る、楽しい劇を作る。

 それだけのつもりでも、この世界では信仰や歴史、国の始まりに触れることになる。

 うっかり踏み込み過ぎないように気を付けなければ。


 ちなみにプリーツィエは本当に、全力で仕事に当たってくれたらしく、中三日で第一弾の完成品をもってきてくれた。


「うわー、思っていたよりもずっとかわいい!!」


 特に純白毛並みのピュールが息を呑むくらい可愛くて綺麗だ。

 額にはちゃんと紅い石が埋め込んであるのが凝っている。

 丸い身体、短い耳、少し眠そうにも見える優しい顔。

 抱き上げる前から、もう頬が緩んでしまう。


「最高級の銀兔の毛を使い、綿もかなりみっちり詰めましたし、額は上質の赤水晶を研磨して使用しました。アルケディウスの精霊獣様の方も丁寧に手掛けたつもりです」

「とても良い出来です。ここまでのものができるとは思いませんでした」


 ローシャの方もいい出来だ。

 向こうの世界のぬいぐるみと遜色ない。

 ミシンよりも丁寧な針目。

 だっこすると手に伝わる、柔らかい感触が心地いい。

 腕の中にすっぽり収まる感じもいい。赤ちゃんには今は大きいけど、いずれ追い抜いていくものだし。


 あ、でも、これ結構癒される。

 大人の私でも、抱きしめていると少し安心する感じ。


「このような品を手掛けたのはシュライフェ商会初の事ですが、針子や商会長からの評判も上々でした。

 精霊獣様のお姿は写せなくても、猫や犬で作ったら需要があるのではと検討が始まっています。ぬいぐるみ製作の許可と販売権を賜る事は可能でしょうか?」

「お母様達と相談します。くれぐれも精霊獣のぬいぐるみは王族の発注以外では作らないで下さいね」

「かしこまりました。残りもう一組も早急に作って参ります。

 姫君の発注はいつも受ける度に新しい発想や工夫などが伝わり、新しいものを作ろうという気持ちが沸きあがってくるのです。

 お任せ下さい!」


 プリーツィエ渾身のぬいぐるみは、他のお祝いの品と共に早急に国境を越えた。

 当面たった一人の子どもとして、寂しい思いをすることになるだろう王子にこの子が、ステキな友達になってくれるといいのだけれど。


 今は遠い友達の面影と共に、私はそう願った。

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