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皇国 騎士試験本選2 少年騎士と少女騎士

 会場中があっけに取られているようだった。

 今年の騎士試験合格者。予選突破し、新しく準貴族となった人を新人と呼んでいるけれど、今年はカマラとユン君、そしてミーティラ様を除けば、新人は一人だけだった。


「堅実で確実な戦い方をする剣士だ。コツコツと努力を積み重ねて技を身に着けてきた人物だと思う」


 というのは、予選で審判をしていたリオンの話。

 新人と言ったけど、何年も騎士試験を受けては落ち、今年、割と当たり運に恵まれて本選出場を果たしたという。

 外見年齢は二十代前半の子ども上がり。


 概ね永遠の若さを求めて。

 後、不老不死を得ないとほぼ人間と認められない世界だから、早く不老不死が欲しくて、成人年齢に達して可能なら直ぐに不老不死になる人が殆どだという。

 その中では戦士系は身体ができてないと不利なので、子ども上がりでもヴァルさんとか、ある程度年齢を重ねた人が多い印象だ。


 後で聞いたら、本当にヴァルさんと同期に近い戦士で、ライオット皇子の腹心で、王都の騎士団の実質トップに位置するヴィクスさんに育てられた子どもの一人なんだって。

 ヴァルさんの後塵を拝し、今年やっと合格したという彼は、勿論弱くは無い。

 弱くは無いけれど、クラージュさんの前では手も足も出なかった。


 開始の合図と同時に一気に間合いを詰められて、剣を払われたらしい。


「マリカ、今のを見ていたか?」


 お父様が横に座る私に問いかけて来る。

 あのドヤ顔っぽい目は、説明したいと見た。


「すみません。目を離していました。どんな風な技だったんですか?」


 実際、目を離していたし、何があったのか解らないから、解説はして欲しい。


「開始の合図と同時に、彼は間合いを一気に詰めて懐寸前まで飛び込んだ。

 そこで剣を合わせて巻き落とし、弾いて空いた手を打った。あのスピードと的確な剣捌きは健在だな」


 私は剣道なんて授業とか、マンガくらいの知識しかないけれど、巻き上げ小手というところだろうか?

 凄いなあ。実戦+剣道の正しく合理的な剣の運びに、リオンに教え、あしらうスピードがあれば最強じゃない?


「後は敵を圧する意志力は特筆に値する。

 一瞬でも押されて怯めば相手の思うまま。あの剣士も弱くはないが、魔性退治に名高い戦士を相手にするにはまだまだ実戦が足りないな」


 お父様の厳しいご指摘。

 でも、クラージュさんって、お父様が『魔性退治に名高い』って言う位、昔は名が知れてたのかな?


「子どもに見えるが、あの少年は魔性退治が得意なのか?」

「エルディランドは農地が多く、精霊の力が強いせいか、アルケディウスより魔性の出現率が高いみたいです」

「そうなのか。少年騎士と似た感じの戦い方をするから、あれもお前が育てたのかと思った」


 話に割り込み、納得する第二皇子。結構鋭い。

 実は育てたというより、育てられた方だけどね。


 二人の剣士が退場すると、第三戦、今度はカマラが出て来た。

 うわー、バラけたと思ったけれど、同じブロックに身内で固まったなあ。

 四戦目、ミーティラ様だったりしないよね。


 去年は応援するのはリオンしかいなかったから、ブロックとか他の試合とか殆ど気にしなかったけれど、今年はたくさんいるから見るのも大変だ。


 カマラの初戦の相手も鎧騎士だった。

 全身鎧を身に纏って、長剣を構える様は、フリュッスカイトのルイヴィル様を一回り位小さくした感じだろうか?

 顔は兜に隠れて良く見えないけど、動きには若々しさと体力を感じる。身長一九〇センチ近いルイヴィル様に比べたら低いけど、それでも一七〇はありそうだ。

 小柄なカマラとは頭一つ分以上違う。


「スヴァネティのレッチワースとエクトールのカマラ」


 スヴァネティというのはアルケディウスの大貴族領の一つだった筈。そこの多分騎士なのかな?

 名前を宣言されて、二人は剣を鞘から抜き構える。


「始め!」

「やあああ!」


 合図と同時、二人は一気に踏み込み、剣を打ち合わせる。


 鎧騎士というと動きが鈍重なイメージがある。

 実際そういう戦士も多かったが、レッチワース卿の纏う鎧は重量の割には動きやすさを優先に作られているみたいで、まるで鎧を身に着けていないかのようにしなやかに長剣を振るう。


 対するカマラは、リオンやユン君、師匠たちとほぼ同じで、鎧も何も身に着けていない。

 完全な平服、いや、エクトール様から贈られた蒼いチェルケスカを着ている。

 昔、向こうで見たアニメの姫姉様って感じ。

 良く似合っている。


「ん?」


 鋼の音が一際大きく響いた瞬間、お父様が怪訝そうな顔をして私を見た。


「マリカ? カマラに何かしたのか?」

「何かって何です? 私の騎士に彼女を助けてくれる剣を授けましたけど、それが何か?」

「お前がカマラに精霊石の剣を授けたのは、報告を受けて聞いている。

 だが、アレは聞いてないぞ?」

「アレ?」


 お父様が指さす先を見つめ、ああ、と私は納得した。

 カマラの剣が薄く赤みを帯びて炎を纏っている。


「『精霊の書物』で魔法剣という技術を知りました。

 精霊石のついた剣を媒介に、魔術の素養がある者が呪文を唱えると、剣に精霊を宿らせたり、術を使ったりすることができるのだそうです」


 嘘だけど。

 向こうの世界のゲームやファンタジーに出て来る魔法剣。

 それをこの世界でアレンジして使ったのは、魔王城最初の冬だった。


 クラージュさんが、この世界でも昔は使っていた者もいるという技術を、カマラには教えておいたのだ。

 我流の強さはハマれば強いけれど、いざという時脆い。

 リオンのような圧倒的な素早さと力や、クラージュさんのような剣の確かな技術はカマラにはまだない。


 だから、これだけは他の人に負けない、という技を用意させたのだ。

 剣と契約させた夜の日から、予選を含めて四日間、カマラは仕事と休息以外の時間を全て剣士魔術の習得に費やした。

 そして三つの魔術を、なんとか実戦で使えるレベルにまでもっていくことができたと聞いている。


 そのうちの一つ、炎の魔法剣は、打ち合う事に敵の刀にダメージを与える。

 ゲーム風に言うなら攻撃力を上昇させるとともに、刀身に熱を与え、耐久度を減少させる、という感じだろうか?

 魔術的な加護のある剣は無理だけど、そういうのは少ないと思うし。


 カマラの剣は火の術が得意ではないので、時間が在る時にゆっくりと詠唱しないといけないけれど、数分間、炎を持続させることができる。


 と、説明したらお父様が顔を顰めた。


「またとんでもないモノを……。ここ五百年、あんな真似をする戦士は俺の知る限り一人もいないぞ」

「魔術師と同じ理論で、不老不死者には難しいみたいですね。カマラは若いし、剣もまだ力があるので、能力寿命と呼ばれるモノが来るまで数年くらいは使えるかもしれません」


 これも嘘。

 カマラと精霊石の剣は直接接続されて、契約しているので、能力寿命は無いか、かなり遠ざかると思われる。足りなくなったら私が力を足してあげればいいし。


 観客たちもカマラの紅い炎を宿した刀身に気付いたらしい。

 なんだかざわつき始めた。


 そして多分、何よりも誰よりも動揺しているのは、戦っているレッチワース卿だ。

 圧倒的な力量差があるから、一気に決める、ともしかしたら思っていたのかもしれない。

 けれど彼の的確な剣筋を、上、横、斜め、真っ直ぐな目で見つめ、受け止めるカマラの技術と度胸は勇者直伝。

 小娘と侮る事は敗北に直結する。


 加えて見たことも無い魔術剣と、刃に走るダメージは、彼に得体のしれない恐怖を与えていることだろう。


 数十合の太刀合わせの後、間合いを開ける隙を作ろうと、彼はカマラの剣に巻き上げをかける。

 成功と同時、後ろに下がるつもりであったろう。


 けれど、それは予想された行動であり、狙われ、作られた隙だった。


 カマラの剣は一瞬、手を離れた様に見えた。

 けれど、まるで吸い付く様に彼女の手から離れず戻って手に収まる。

 そして、そのまま後ろに飛んだレッチワース卿に剣は突きつけられたのだ。


 必死に身を反らす卿は、けれどバランスを崩し転倒、尻もちをつく。

 ガシャン! 鉄鎧が大きな音を立てた。


 衝撃を振り払う彼の目前には、白銀の刃が煌めいていた。

 尻もちをついた自分の前に立つ少女に握られた剣が。


 炎は消えているけれども、その刀身の輝きは自分の剣に比べるまでもなく。

 刃毀れなく、傷みなく。明らかな格上を感じさせる。


 一瞬の逡巡は何をどこまで計算してのものかは解らない。

 けれど、彼は一度深く瞬きをして両手を上げた。


 降参の合図に剣を落とし、審判の声が高らかに宣言する。


「勝者 エクトールのカマラ!」


 きっと保護者であるエクトール卿はどこかで見てるだろう。

 自らの養い子が、この満場の観客の前で。

 格上の戦士を倒し、アルケディウス騎士試験歴史上初めて、女性本戦勝利という偉業を為し得たことを。

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