魔王城 魔王城の秘密
それから私たちは、いろいろな話をしながら城の探索を続けた。
思えば、3人のことを名前以外ほとんど知らなかった。
「俺とフェイは双子ってことで。……まあ、血が繋がってるかどうかは知らねえけどな。気づいた時にはもう隣にいた」
「一緒にいなかった時間の方が短いですから。もはや呪いみたいな縁ですよ」
リオンは漆黒の髪と瞳を持つ少年。黒曜石みたいな光が時々鋭く光る。
筋肉で戦うというより、体の軽さと直感で動くタイプ。
一方のフェイは、銀の長髪を肩に流し、氷を思わせる青の瞳をしていた。
控えめで理知的、月と太陽。
外見も性格も、本当に何から何まで正反対で、どこからどう見ても兄弟とか、双子ではないと思うけれど、幼い時からずっと一緒だったというだけで息はピッタリだ。
「で、同じように酷い主にこき使われて死にかけてたオレを、二人が助けてくれたんだ」
アルが屈託なく笑い、頬をかく。新緑の瞳が光を弾いた。
「そのせいで二人は落ち着いてた暮らしを捨てる羽目になっちまったんだけど……」
どこかすまなそうな表情を浮かべるアルに
「だって、ほっとけないだろ?」
一瞬の迷いも悔いも無い目で、リオンはそう返した。
「あの酷い状況を見て、助けない選択肢はちょっとありませんでしたから。
幸い、おじいと出会えましたしね」
アルを助けて行き場なく困っていたところをその人物に助けられて、ここに連れて来られたのだという。
「今までの生活と比べるとここはホントにいいところだ。
屋根も有るし、食い物もなんとかなるし、なによりやっかいな大人がいないからな」
その瞬間、リオンの瞳が、ほんの一瞬だけ遠いどこかを見た。
けれど私は、その理由をまだ知らない。
零れ出た思いは多分本音だろう。
「私」にとってさえ不自由はあれど、余計な存在に干渉されないここは居心地がいいのだから。
「お、衣裳部屋みっけ! すっげえ、宝の山じゃん!」
アルの弾む声に、私たちは顔を見合わせて駆け寄った。
そこは豪奢な衣裳が山のように積まれた部屋だった。
「すごい……これ全部、誰かが着てたんだ」
ドレス、チュニック、マント、下着まで。
今の私たちには大きいけど、裁縫道具さえあれば仕立て直せそうだ。
「裁縫得意なんですか?」
フェイが首を傾げる。
「まあね。劇の衣装とか発表会の衣装、全部自分で作ってたんだよ」
昔の記憶が懐かしく蘇る。子ども達の喜ぶ顔を思い出し、少し胸が熱くなった。
「こっちは書庫ですよ!」
フェイが嬉しそうに声を上げた。
古びた背表紙が並ぶ棚。埃を払いながら一冊を手に取る。
「歴史書……これは魔術書? 面白い」
「フェイ兄、読めるの?」
「ええ、少しだけなら。リオンも覚えた方がいいですよ」
「うるさい」
いつも通りのやり取りに笑いがこぼれる。
この穏やかさが、ずっと続けばいいのに――そう思った。
けれど、心の隅でずっと気になっていたことが口から零れる。
「ねえ、『魔王』って何なんだろう?」
「魔王は魔王だろ? 世界を滅ぼした悪い奴」
アルが当然のように答える。
「でもさ、この城って、台所も寝室も衣裳部屋もあるんだよ?
食べて、寝て、着替えて、本を読む。それってもう『人』じゃない?」
フェイが小さく頷く。
「確かに。人型の魔性なんて、聞いたことありません」
「つまり、この城にいた『魔王』も、ちゃんと生きてたってことだよね」
「……そうかもしれません」
フェイも私の疑問に頷いてくれた。
魔王城には『魔王』と呼ばれる誰かが住んで、生活していた。
一人で暮らしていたのか。世話をする誰かがいたのか。
多分、完全に一人ではなく、誰かは一緒にいたのだと思う。
男女両方の衣服があるのがその証拠だ
その会話を聞きながら、リオンの瞳がふと陰を帯びた。
まるで、誰かを思い出すような――そんな目。
「でも、女物の服が一番たくさんあって、豪華だったよな。
魔王ってまさか女だった?」
アルはさっき見つけた衣裳部屋を思い出して手を叩く。
「僕達が知る術もありませんが、可能性はありそうですね。
書庫の本とかを調べれば少しは解るでしょうか?」
私達は、魔王と簡単に言っているけれどそもそも、魔王の伝説も殆ど知らない。
『魔王を倒した勇者が、神に願ってこの地上の人々に不老不死をもたらした』
それだけだ。
廊下を歩きながら、私は考える。
「どうして『おじい』はここに子どもを集めているのか?
どうしてこの『魔王城』は無人なのか?
どうして、他の人間が来ないのか?」
「…普通の大人は、魔王城には近寄りたくないでしょうね」
「どうして?」
「それは…」
フェイが何かを言いかけたその時だ。
「どうして『おじい』は子どもばかり集めてるんだろう?」
「この城が無人なのも、気になる。こんな綺麗なお城なのになんで誰も住んでないの?」
「普通の大人は、魔王城には近寄りたくないからでしょう。
そもそもこの島に入れませんし」
「?」
フェイが言いかけたとき
「おい、来いよ! 変な部屋がある!」
リオンの声に、私たちは駆けだした。
そこにあったのは、見上げるほど大きな扉。
今までの部屋は驚くほどに鍵も無く、なんだったら扉も無くて簡単に出入りできたけれど、その扉だけは、取っ手もなく異様な白を浮き立たせている。
円を基調とした星のような紋章が刻まれ、淡く青白い光が走っていた。
「鍵がかかってるの?」
「そもそも鍵穴とか見えねえよ」
「リオン。跳べますか?」
「いや、何かに弾かれる感じだ」
リオンが手を伸ばした。
その姿が、一瞬だけ既視感? 不思議な感覚を呼び起こした。
(「誰かが、呼んでる?」)
私は恐る恐る、扉に手を触れる。
「危ない感じはしないんだけど…って、マリカ!!」
アルの声が、その時の最後の記憶。
伸ばされたリオンの手を掴むこともできず。
私の手は、身体は、何の抵抗もできないまま理由も解らぬまま、というか考える間もなく。
扉の中に、吸い込まれていったのだった。




