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水国 大切な約束

 ソレイル公との波乱のお茶会の翌日。

 気が付けば、フリュッスカイト滞在も半分が過ぎようとしていた。


 調理実習後は、いつもの通り公子メルクーリオ様との知識交換会だ。

 今日も猫ちゃんが部屋の隅で丸まっているのは和む。

 時々、こちらに近付いてきて撫でさせてくれるのも嬉しい。


「姫君も動物がお好きのようだな。お疲れになった兎たちはいつもは部屋に?」

「知らない城で迷子になると困りますし」

「そうだな。コレッティオが興味を持って追いかけまわしそうだ」


 軽い会話で和んでから本題へ。


 炭酸カルシウムの活用法、ソーダ使用の注意点、海産物の活用法。

 オリーヴァの塩漬けの作り方、その他諸々。


 公子との会話はスリリング。

 得るものも多いけれど、気を抜けないハードさがある。


 そんな知識交換の最中――


「姫君、明日の安息日、御用事はお有りか?」


 ふと、私に公子が突然話を振って来た。

 残り滞在期間もあと僅か。日程確認は私もしておきたかったところだから、頷いて答える。


「はい。

 公爵様達との料理講習会のお約束があります」


 公子の三人の弟君のうち二人。サートゥルス様とジョーヴェ様。

 公爵達と交渉問答の結果、約束した大貴族を交えての研修会だ。


 公爵の料理人も調理実習に入れられるようになったから、いいかと思ったのだけれど、皆、楽しみにしているからと押し切られた。

 ジョーヴェ公爵の厨房に、大貴族と料理人が見に来るんだって。


 正餐の料理を全員に出すには厨房が狭いから、ピザとか唐揚げとか、簡単に作れて味見のしやすいものにする予定。

 既にメニューの提出も済んでいる。


「それだけだな?」

「はい」

「では、その講習会の開始は夕刻にすると弟達には言っておく。

 日中は私に付き合って頂きたい」

「えっと、付き合って、というのは?」


 少し身構えてしまう。

 ソレイル公のプロポーズ騒動があったばかりだからね。


 怯えた私の様子を察したのだろう。


「ああ、心配しなくていい。私は貴女を口説くつもりは無い。妻もいるしな」


 公子は肩を竦めて笑うけれど、あんまり安心はできない。

 エルディランド以外、どこの国の王子、皇子、貴族、みんな既婚者でも平気でプロポーズしてきたし。


 でも――


「頼まれていたガラス工房に渡りを付けた。興味があったのではないかな?」


 そんな私の警戒を軽くいなして、公子は私の鼻先に餌をぶら下げる。

 ガラス工房!


「あ、はい。あります。行きたいです!」


 一も二も無く飛びついてしまった。

 我ながら単純。


「ソーダの業者の方は、やはり危険なので、不老不死では無い姫君をお連れするのは避けたい。

 代わりにヴェーネでも一、二を争うガラス職人を紹介しよう。

 それでよろしいか?」

「いいです。お願いします。ぜひ!」

「よし、解った。

 では、明日迎えを差し向ける故、早めに準備をして待っていて欲しい」

「解りました。

 あ、特別な注文をしたいので見本をもっていってもいいですか?」

「構わない。皇女の注文を受けるとなれば、職人も誉れだろう」


 この日の為に蒸留器をもってきてあるのだ。

 コイルガラスを輸入でも、この世界で作れるようになれば、エッセンシャルオイル作りが公式に広められる。

 蒼いガラス瓶もぜひ欲しい。


 餌に目が眩んだ自覚はあるけれど、今は素直に釣られておく。


「私に付き合え、とおっしゃいましたが、公子が自ら案内して下さるのですか?」

「そのつもりだ。勿論フェリーチェも連れて行くから、さっきの話ではないが心配しなくていい」

「それは、まあ」

「ソレイルが迷惑をかけたようだから、その詫びのようなものだ」


 私は公子の言葉にハッとする。

 昨日のお茶会での告白……。


「気付いておられたのですか?」

「昨日、ソレイル自ら報告に来たからな。まったく、子どもが余計な心配をする。

 先走りもいいところだ」


 ちゃんと話に行ったんだ。

 公子は優しい目をしているし、多分叱られるような事にはなっていないと思う。


 少しホッとしたと同時、ムカっとしてきた。


「余計な心配だっていうのなら、それを子どもにもちゃんと話して、伝えて下さい。

 子どもだってちゃんと考えているし、大切な人たちが心配なんです。

 ましてソレイル様は頭がいいから、色々と考えちゃうんだと思います」


 ソレイル公はきっと真剣に悩んでいたのだ。

 好きでもない私にプロポーズして、国に引き留めようとするくらいに、フリュッスカイトのことを思っている。


 私と結婚して公主にして国を守って貰おう。

 なんていうのは、確かに先走りが過ぎたと思うけれど、悩み過ぎて暴走しちゃったんだよね、きっと。


「奴の思いや心配は解っているし、ありがたいとも思ってはいるがな、こちらにはこちらの事情と言うものもあるのだ」

「だったら、それを……ちゃんと」

「ソレイルが心配する問題は、あった。

 母上の王族魔術師としての能力枯渇や、ヴェーネの地盤問題などが確かに」

「え? あった?」

「ああ。あった。過去形だ。

 今はもう解決する道筋が見えているが、それが確定したのは一週間前の事だから、大丈夫だ、心配するな、など軽率な事は言えなかった」

「一週間前に解決確定?」


 私の抗議に意味深な笑みを浮かべるメルクーリオ公子。

 この国の問題が一週間前に解決の見込みが付いた。

 一週間前って……。


「まさか、私、ですか?」

「そうだ。姫君がこの国においでになって『精霊神』復活の儀式への協力を約束して下さった。

 その時点で、フリュッスカイト公主家が抱え、ソレイルが悩んでいた問題の大凡は解決している」

「なんで? 公主様の能力枯渇とかヴェーネ沈没の危機とかの解決に私が?」

「それは、今は言う事はできないし、私には言う権利は無い。

 儀式終了後、母上と『ご本人』から聞いてほしい」

「ご本人?」

「ああ」


 ちょっと意味が解らない。

 解らないけれど、この言い訳の仕方は良く知っている。

 精霊関係の機密事項、だ。

 やっぱりフリュッスカイトには他の国とは違う『精霊神関係』の何かがあるのだろう。

『ご本人』というのは、きっと……。


「解りました。ではその時に。

 そして全て解決したら、ソレイル様や、兄弟公爵様達にもちゃんと説明して差し上げて下さい」

「約束しよう」


 私は深く頭を下げて話を閉じる。


 メルクーリオ公子は、話の解らない大人、じゃない。

 ――ではなく、話の解る大人だ。

 理由があって、言えないだけで、ちゃんとソレイル様の事も認めているし、頼りにしている。


 それが解ったから、後は兄弟、家族にお任せする事にしたのだ。


 そうして私達は、改めて意見交換と、今後についての話をし合う。


 明日がお休みで、ガラス工房見学と、料理講習会。

 木の日と水の日は、ゲシュマック商会とシュライフェ商会の代理店契約と、化粧品交渉の立ち合い。

 明日ガラス工房に行って、コイルガラス作成の目途が着いたら、花のオイル作りをコイルガラスとオイル瓶の製作輸出と引き換えにお教えする予定だ。


 地の日は最終日に向けた晩餐会の献立作成と指導。

 火の日に『精霊神』復活の儀式を行って、風の日に送別の晩餐会。

 空の日に帰国する、という日程で合意した。


 調理実習は毎日。

 さらに合間を縫って知識交換などは続ける予定なので、相変わらず日程はタイトだけれど。


 フリュッスカイト滞在は、あと一週間。


 今後のアルケディウスの為にも、フリュッスカイトの為にも。

 そしてソレイル様の為にも、できる限りの事はしていこうと思う。

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