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夜国 商売のやり方

 前にも思ったけど、このオルトザム商会って失礼だなって思う。

 今回の使節団の代表は確かに私だけれども、商業担当にちゃんとゲシュマック商会の代表代行。

 アルが来ている。

 その代表を飛び越して、私と交渉しようとするのだから。

 しかも、そのやり方がまた露骨で、いかにも慣れている感じがして余計に印象が悪い。


 誠実に見える依頼書、添えられたご機嫌取りのお金や賄賂の品々。

 上等な紙と丁寧な言葉で包んではいるけれど、中身を見ればやっていることは実に分かりやすい。

 このやり方、オルトザム商会がどういう商売をやってきたかが目に見えるようだ。


 アルとゲシュマック商会の皆に来てもらって話を聞いてみれば


「オレ達さ。オルトザム商会とは取引しないって決めたんだ」


 と言う返事。


 私は基本、ゲシュマック商会の決定方針には口出しするつもりは無いけれど、一応状況把握の為に


「どうしてだか聞いても良い? 本音で。

 隠し事無しで聞かせて欲しい」


 聞いてみる事にした。


「ガルフからの指示? ガルフとオルトザム商会の事情は知ってる?」


 そう問い返されて、アルは小さく頷く。


 オルトザム商会の第二夫人はガルフの元奥さんなのだそうだ。

 かつて借金のカタのような感じで離婚し、豪商であるオルトザム商会に嫁いだのだとか。

 その辺りの事情を思うと、名前を聞いただけで気まずいというか、色々と複雑だ。


 オルトザム商会は随分前から食品扱いに参入したくて、ゲシュマック商会にすり寄ったり、あちらこちらに手をまわしているらしいけれど、色よい返事は貰えていないらしい。

 無理もない。

 何せ、当のゲシュマック商会。

 商会長ガルフから割り切っている、とはいえ五百年過ぎてもなお残る恨みを買っているのだから。


「うん、話は聞いてる。

 でも、気にする必要はない。

 オレ達が見て納得がいく相手なら契約していい、って言われてるんだけどさ……」


 つまり納得がいかない相手だったってことだ。

 言葉を濁してはいるけれど、結論ははっきりしている。


「オレがマリカ……様からの発注の鍋を注文に行ったんだけど、そんなの扱っていない、って門前払いされてさ。

 子どもだから、舐められたっぽいな。

 ハンスが行った時には断られたのは断られたけど、少し態度が柔らかかったってさ」


 ゲシュマック商会はアルを当主代理として立ててはいるけれど、基本的に契約の段階までは公にはしていない。

 それは、商売相手の本質を見定める為。

 看板や肩書ではなく、相手が誰をどう扱うかで人となりを見るのだ。


 基本的に、人を外見で判断し下に見るような存在と商売はしたくない。

 ゲシュマック商会の現在中核を担うのは、路地裏から這い上がって来た子ども達だ。

 それぞれに商売のやり方、判断基準はあるだろうけれど。

 努力して、相応の実力を得て来た子ども達を、外見で判断して下に見るような対応を取る様な商会はゲシュマック商会としては基本的にポイ、だ。

 その線引きは、商会としての誇りでもあるのだと思う。


「うーん、情報収集力が足りないね。

 本気で調べればゲシュマック商会の渉外担当が誰かとか、今の時期、鍋なんてものを必要とするのが誰でとか解るでしょうに」

「だよな? 基本的に店で扱っている商品の質は悪くは無かったけれど、移動商人ってことで足元を見られた感もある。

 他にも部下や使用人の子どもに対する扱いが悪いとか、他にも色々あって、なんとなく嫌な予感がするんで契約を持ちかけるの止めたんだ。

 その後、何件か回って、子どもでも誠実に対応してくれた商会に話をして、あちらも興味をもって交渉に入ったとこ。

 あ、頼まれてた鍋は、最後の日の宴会までには間に合いそうだってさ。カトラリーも」

「ありがと。なるほど。それで急に焦って私に接近してきたんだね」


 プラーミァの時と同じような、比較的若い商会なのだそうだ。

 やっぱり、頭が柔らかい人が多いのかな。

 新しいものを扱うのに、古い価値観に縛られ過ぎていないのは大事だ。


 ゲシュマック商会が食品扱いの交渉相手を決めた事で、アーヴェントルクの商業ギルドにも連絡が行った。

 皇室御用達の商人なら商業ギルドにも強いパイプをもっているだろうからそこから知られた、感じかな?

 そう考えると、オルトザム商会が急に慌てて手を伸ばしてきたのも納得ではある。


「ちなみにアル本人やゲシュマック商会に謝罪は?」

「ない。上から目線で後悔するぞっては言われたけど」


 やっぱり、オルトザム商会はそういう商売の仕方でのし上がってきたのだと思う。

 トップ、上の機嫌を物や賄賂で釣って。

 お金の力で反論や人の思いを退けて。

 自分達が立つ場所から見下ろすことに慣れていて、頭を下げるべき相手を見誤っている。


 そういう商売の仕方は好きじゃないなあ。

 うん、好きじゃない。

 後悔するぞ、というのなら、たっぷりそちらに後悔して貰おう。


「ちなみに商店主さんの奥さん、って方に会った事は?」

「無いな。オレが知らないだけかもしれないけれど」


 アルとの会話が嬉しくて、ちょっと素がでたけれど、私は背筋を伸ばして皇女モードに戻る。

 ここからは感情よりも立場と判断が大事だ。


「事情は分かりました。

 契約については今まで通り、現場の判断に一任します。

 オルトザム商会からの問い合わせについては、こちらでも対応して断っておきますから、何か嫌がらせをさせられるなどあったら知らせて下さい」

「ありがとうございます」


 アルも商会代表に戻ってここからはお仕事の話、だ。

 さっきまでの空気がすっと引き締まる。


「あと、チューロスと牛肉、蜂蜜の産地も見学してきたので、後で紹介します。

 輸入の契約なども考慮して頂ければ嬉しいです」

「解りました」


 今後の事について軽く打ち合わせてから、私はオルトザム商会には断りの手紙を書いた。

 机に向かい、余計な感情は挟まず、あくまで事務的に、冷静に。

 あくまで、一般の食に関する契約の主導権はゲシュマック商会にあり、私には関与する権限は無い事を記して、お金や贈り物その他は全て送り返して。


 で、私的にはそれで全て事は終わったつもりだった。

 何せ、忙しかったから。

 翌日の発表会と、舞踏会の対応で。

 目の前の問題が次々押し寄せてきて、商会一つにいつまでも意識を割いている余裕はない。


「オルトザム商会は金物商だ。

 生活必需品を扱う関係で、下の者にはかなり強気の商売をしている。

 君達に袖にされるのは良い薬になるんじゃないかな」


 後で話をしたら皇子はそう言って笑っていらっしゃったけれど。

 その笑顔の裏には、どこか面白がるような色も見えたけれど、同時に本質を見抜いている冷静さも感じた。


 実際問題として、皇子や皇女、皇帝陛下への対応の方が、私には急務だったからね。

 特に皇子はやっぱり強敵で…。

 と、それは後の話。


 だから舞踏会が終わってホッと一息ついた私達の前にオルトザム商会からの使者が訪れた時には驚いた。

 あれで引き下がるような相手ではなかったか、と遅れて思い至る。


「皇女様にはお初にお目にかかります。

 オルトザム商会商会長が妻、アデラと申します」


 まさか、本人が私達の前に早々に出て来るとは思わなかったから。

 しかも名乗ったその声音は震えながらも覚悟に満ちていて。

 単なる使い走りではないことをはっきり感じさせたのだった。

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