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夜国 舞踏会開幕

 昨日の夜は下準備と、長旅の体力回復に努め、翌日は朝から、総出で舞踏会の準備に全力を尽くすことになった。

 私達が滞在、お借りする事になった離宮は元王族の住居だったこともあり、一通り以上の設備が整っている。

 幸い、井戸も竃もオーブンも台所にはあったので、前日から日持ちのするクッキーやパウンドケーキ、チョコレートなどを用意した。

 綺麗な箱に入れて、お茶などと共に直前に会場に運んでもらう様に手配する。


「保冷の術はかけておきますが、念の為、見張りは付けておいた方がいいかもしれませんね」


 とはフェイの言。


「万が一、食べ物を放置して置いて、目を離したスキに変なモノを入れられたりしたら大変でしょう」


 なるほどと皆が納得して、ヴァルさんとセリーナ、ノアールに準備も兼ねてついて貰う事にした。

 幸い、と言っていいのか何というか。

 翌朝。


「私は、アーヴェントルク皇子 ヴェートリッヒ様の配下が一人。

 レハールと申します。

 アルケディウスの皆様が勝手の知らぬ王宮や舞踏会にお困りであろうから、案内や手伝いを頼むと皇子より申しつけられまして」


 と、若い騎士さんが手伝いに来てくれたので、舞踏会の流れや使用人の控え場、アルケディウスの席などを教えて貰った。

 かなり、助かる。


 開始時刻の少し前に、私達は皇子にエスコートされて、中に入る。

 その後、皇帝陛下と皇妃様がご席に着かれ、最後に『聖なる乙女』アンヌティーレ様がご入場。

 舞台の上から、私達の来訪と、集まった人達の幸運を願って祝福を行い、舞踏会開会、となるらしい。


「舞踏会には、動物は入れない方がいいですよね?」

「それは……勿論。今まで、入れたいなどということを言い出した者は誰もいませんでしたが、何か理由が?」

「いえ、別に。なんでもありません」


 館の隅で寝そべる精霊獣。

 ピュールとローシャは留守番させた方が良さそうだ。

 神殿長の任命式の後、二匹は完全に可愛い獣に徹している。


『疲れたから、しばらく寝る。

 どうしてもの時は本気で呼んでくれればなんとかするけど、できれば呼ばないで』

『そうそう『精霊神』の知識や力を当てにされても成長が無い。

 今回の旅では無いものと思っておくがいい』


 お二人ともそうおっしゃった後は、有言実行。

 一言も言葉を発していない。

 アーヴェントルクの『精霊神』様、助けなくてもいいのかなあ、と思ったけれど、この国には『聖なる乙女』がいる。

 彼女を差し置いて私が儀式なんてできないもんね。


 舞踏会が始まったら、私はまず皇帝陛下の元に挨拶に行く。

 次に、アンヌティーレ様の所へ。

 その後は自分の席に戻ってもいい。とのことだった。


「ヴェートリッヒ様の所には行かなくて良いのですか?」

「隣同士ですし、行かれた方が話はスムーズに行くかもしれませんが、その点はご自由に」


 ちなみに皇子は第一皇子妃と第二皇子妃を伴って行くという。

 どちらも大貴族の娘。

 他にも愛人などはたくさんいるが、正式な『妃』はこの二人だけだという。


「お子さんはいらっしゃらないのですね?」

「はい。寵姫などにも身ごもった者は誰も。

 不老不死時代になってからは、本当に子どもはできにくくなったようです」


 七国で一番若い王族は混乱の三十年に生まれたグランダルフィ王子だというのは本当らしい。

 後継者も必要ないから、誰も問題視しないらしいけれど、不自然だなあって思う。


「お二人の皇子妃は、大変仲が悪く、皇子の御寵愛を争っておられます。色々と……お気を付け下さい」

「ご忠告、ありがとうございます……」


 このお二人は、もし、私が正式に皇子と結婚なんてことになれば身分が多分下がる。

 他国の皇女を娶っておいて、第三妃なんてことにはしないだろう。

 なるつもりもないけど。


 十分に気を付けよう。


 一通りの情報を貰った後、私は身支度に入った。

 公式の舞踏会では民族衣装では無く、普通のドレスを着る。

 いかにもファンタジー系と言った感じのふんわりドレスだ。

 聖なる乙女らしく、と言われたけれど、儀式や舞の時のような聖衣は着れないから、旅の為に誂えて貰った新しい服。


 フリルやリボンたっぷりのファンタジードレスだ。

 私は髪の色が濃いので淡い色合いだと、服が負けてしまうと言われて、色合いはちょっと濃いめ。

 白のレースやフリルのたくさんついた袖なしのトップスに、ふんわりとしたヴェールのようなチュールを重ねたスカートはエメラルドグリーン。

 艶やかなサテンのリボンを大きく腰ベルトに結んでもらう。

 アクセサリーはつけず、シンプルにバレッタ風の髪留めだけ。

 その代わりに服の下に、シュウに作って貰った香りのペンダントをそっと身に付ける。


 身支度や準備が終わったのを見計らっていたように、外の見張りをしていてくれたゼファードから連絡が入る。

 皇子が迎えに来た。

 と。


「解りました。直ぐに参ります」


 ゆっくりと館から出ると――

 おーーっ。


「これはこれは。見違えたよ。

 流石『聖なる乙女』。綺麗に化けたね」


 待っていて下さったのはヴェートリッヒ皇子。

 皇子自身もうん、けっこう化けて見違えた。

 黒を基調としたチュニックにマント。

 女性と違って男性の共通衣装は比較的シンプルなんだけれど、華やかな金髪が夜を照らす満月のようで凄く映えている。


「っと、護衛騎士君。

 悪いけれど、会場までのエスコートは任せて貰えるかな?

 それとも勝手の分からない城で、姫君を案内できる自信がある?」

「いえ……お願いいたします」


 スッと自分からリオンが後ろに退いた以上、私が無茶は言えない。

 実際、皇子の言う事は正しいのだ。

 ここは素直に先導をお任せするべきだろう。


「では行こうか。マリカ姫」

「宜しくお願いいたします。ヴェートリッヒ様」


 女慣れしていると公言する通り、ヴェートリッヒ様のエスコートは板についている。

 私が彼の手をとってからはまるで、水が流れるよう。

 館から馬車へ、そして城の本殿、舞踏会場へ、誰にも邪魔されることなく、足を踏み入れることができたのだった。


「ヴェートリッヒ皇子。

 アルケディウス皇女 マリカ様 ご入場」


 そんな高らかな声とファンファーレが響くとともに、黒檀の彫刻が施された美しい扉が押し開けられた。

 拍手などは無い。


 煌びやかな水晶やガラスの輝く精霊術のシャンデリア。

 両脇には楽師のスペースがあって柔らかい音楽が奏でられている。

 純白の壁に金で施されているレリーフは豪奢ではあるけれど、派手さや絢爛さは控えめで、質実剛健なこの城に良く合っていると感じた。

 この世界に来ていくつものお城の豪華流麗な内装を見ていたけれど、こういう建築彫刻にかけては向こうの世界にも引けを取らないなあ、と素直に感じる。


 私が、皇子と先に進むとともに、ざわざわと会場の空気が騒めいているのが解る。

 好奇や驚嘆、羨望の眼差しが不躾なまでに突き刺さってくるのが正直、痛いくらいだ。


「姫君。君達の場はこちらだ。

 荷物などは運んであるので準備はできていると思う」

「ありがとうございます」

「僕の場所はあそこ、アンヌティーレの居場所はあっちだ」


 皇子が誘導して下さった私達の場所は壁沿いの小テーブルなどが置かれてある一角。

 前方の皇帝陛下、皇妃様の席にほど近い。

 隣が皇子のエリア、アンヌティーレ様のエリアはほぼ対角線上に離れているので二重の意味でホッとする。


「最初のダンスは婚約者殿に譲るけれど、最後には僕とダンスを。

 僕の顔を立ててくれるよね」

「はい。宜しくお願いいたします」


 私は丁寧にお辞儀で了承を返した。

 大聖都でもプラーミァでも、求婚をしてくれた各国の王子を立てる意味でラストダンスは踊るように命じられた。

 それと同じと思えば仕方ない。


「じゃあ、頑張って。挨拶とかは僕のを見て真似するといい。

 役に立つかは解らないけど。っと、失礼。何せ僕は忙しいもんでね。

 ……父上と、アンヌティーレには気を付けて」

「皇子……」


 私の手に小さく口づけて去って行ったヴェートリッヒ皇子の忠告の言葉は小さくて、舞踏会の喧騒にあっさりかき消されてしまったけれど、私の耳には残った。

 自分の場所に戻り、待っていたであろう二人の皇子妃を宥めるように笑いかける皇子。

 ここからでは良く見えないし、聞こえないけれど、最初に出会った時の、あの表情と空気を纏っているように見える。


「本当に、あの方はよく解りませんね」

「でも、我々が動きやすいようにさりげなく手助けして下さっていると感じます。

 ただの愚かな皇子ではないと思うのですが……」


 随員達におもてなしの準備をして貰いながら待っていると、ファンファーレのような高らかな音楽が鳴り響いた。

 会場中のざわめきは一斉に消え去って、この国最高位の存在の入場を膝をついて出迎える。

 立っているのは私と皇子だけだ。


 皇子も胸に手を当て、目礼はしているので、私もそれに合わせて頭は下げる。

 不思議な静寂の中、皇帝陛下と皇妃様。

 そしてお二人に両手を取られ、エスコートされるように金髪の女性が入場してきた。

 アンヌティーレ皇女だ。

 純白のドレスに金糸で刺繍が施された流麗豪華な聖衣を纏っている。

 髪にはサークレットとヴェール。

 大神殿での舞踏会と違い、このまま奉納舞の儀式をしてもおかしくないくらいの『聖なる乙女』モードだなと思った。


 一段高い舞台の上に設えられた王座の前にお二人が立ち、その真ん中にアンヌティーレ皇女が立った。

 皇子は段の下で、臣下や客人と同じ扱いなのに、やっぱりアンヌティーレ皇女は特別なのだな。

 と感じ、見ていると――


「皆の者!」


 拡声器も何もないのに、重みのある皇帝陛下の声が大広間に響き渡った。

 膝をついていた全員が立ち上がり、壇上を見つめる。

 会場中の視線を一身に受けて、皇帝陛下は語り始めた。


「本日、アーヴェントルクは新たなる家族の来訪という良き日を迎えた」


 第一声から、私はもやっと来た。

 家族。

 アーヴェントルクは私を家族というのか。

 まあ、アドラクィーレ様が嫁いでいるからアルケディウス皇王家とアーヴェントルク皇家は家族と言っても間違いではないけれど。

 賓客ではなく、家族なのだから便宜を計れと暗に言っているようで嫌な感じ。


「アルケディウス皇女 マリカ姫はその類まれなる知識をもって、アーヴェントルクに大いなる発展を齎す事だろう。

 我々は姫君を家族として遇することをここに宣言する!

 皆も、楽しみにしているがいい。新しい『食』と変わりゆくアーヴェントルクを!」

「アーヴェントルクに栄光を! 我が魂の『妹』に祝福を!」


 皇帝陛下の演説の後を受けて、前に進み出たアンヌティーレ様が胸元に手を当て、祈りを捧げると会場全体にチラチラ、と光の粉が舞う。

 アンヌティーレ様も光の精霊を呼べるのか。

 でも『妹』……。

 なんかいろいろヤな予感。


 会場中が歓声と拍手に包まれると同時に、軽やかな音楽が鳴り出す。


 アーヴェントルクの舞踏会が始まったのだ。

 どうにも言葉に出せない、不安と共に。

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