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皇国 新しい『職場』

 色々あって、『魔王の転生()』がアルケディウスの『神殿長』になることになった、と聞いた『精霊神』様の反応は見事なまでに正反対だった。


 ほんの一瞬の静寂のあと、二柱の反応は綺麗に割れた。


『一体、どうしてそう言う事になった?

 あれだけの騒動があれば『神殿』や『神』と普通は距離を取ろうと考えるものではないのか?』


 と、露骨に不機嫌そうな声音で怒ったのはアーレリオス様。

 一方のラスサデーニア様は


『あー、良かった。ホッとした。

 君になら、僕の身体を安心して預けられる。これでちょっとは安心できるかな』


 と、肩の力が抜けたように安堵の息を漏らしながらおっしゃっる。


「やっぱり、あの精霊石はお二方の身体、なんですか?」


 の問いには二人(二匹)同時にピタッと動きを止めて。

 揃ってこちらを見るその仕草に、思わず苦笑が浮かぶ。

 このお二人、本質は同じ、というか本当に仲が良いなあと思う。


『身体……というか、心臓? 中枢かな? 僕達が外の世界で力を発揮する為の入り口。

 門でもある。

 壊されると多分、自我を保てなくなるし、意識が残っていても、外界へ関われなくなって本当に何もできなくなるから、君が『神殿長』になって管理してくれると本当に助かるよ』

『人の力で、そう簡単に壊せる物でもないし、試したことはないので正直な所は解らんが。

 ちなみに私は賛成ではないぞ。幼子があまり目立ちすぎるのはどうかと思う。

 力を見せつけすぎるのもやっかみや騒動の元だ』

「それは……その通りなんですけれど……」


 個人的には聖女ポジで崇められたり、皇女として敬われたりするのはあんまり好きじゃない。

 なんせ私は小市民。

 向こうの世界では一般ピープルだったし、こっちでは孤児だったのだ。

 でも


「この世界を変えていくにはそれが一番手っ取り早いかなあって」


 子ども達が幸せになって、世界の人々が生きる気力を取り戻せる世界を作る。

 世界の環境整備をするのなら、やっぱりある程度の力は必要なのだ。

 ということは実感している。

 向こうの世界……北村真理香として生きていた現実で。

 いくら良い提案をしても、それを実現させる地位や力がないと何もできない。

 責任や仕事も付随すると解ってはいるけれど、理想の保育ややりたい環境を作る為には、やはり地位と力は必要なのだ。


「……私、夢があったんですよ。

 皆が、子どもだけじゃなくって保育士も笑い合えて、助け合える職場。

 子ども達が伸び伸びと幸せに過ごせる保育園を作るって」


 いつか主任や園長になれる日が来たら。

 自分はきっと、保育士達にとっていい上司になりたいと、ずっと思っていた。

 保育士を信頼して、良い保育環境を作って適切にサポートし、守る上司に。

 夢が叶う前に、私の保育士人生は途切れてしまったけれど。

 この世界で夢を叶えられたら嬉しい。


『マリカ……』

「幸いこの世界でガルフと出会って、商売を始める事で地位とお金を。

 ライオット皇子とティラトリーツェ様と出会う事で力を、手に入れる事ができました。

 私の力で得たものではないのだから、必要分以外は世界に還元するのが筋、というものだと思うんです」

『お前の必要分、は?』

『君自身がやりたいこと、とかはないのかい?』

「うーん。子ども達の笑顔を見る、以外には特には……。

 こっちの世界ではゲームもテレビもマンガもコンサートもありませんしね」


 服は過分に良い服を作って貰っている。

 趣味の料理も、アロマテラピーも仕事がらみではあるけれど楽しんでいる。

 良い人間環境も貰えて、今の私は十二分に幸せだ。

 ある意味、向こうの世界にいた時よりも充実している。

 もう少し時間が出来て魔王城に頻繁に帰れればとか、孤児院で保育士したいな、と思う事もあるけど、それはまあ仕方ない。


『まったく……人の事は言えんが』

『『星』も罪作りだね』

「? なんですか?」


 二匹の獣はもそもそと頭を突き合わせると、大きく息を吐いた。

 人間だったら、溜息?

 どうしたのかな、と首を傾げる。


『こちらの話だ。

 まあ、決まってしまったものは仕方ない。神殿に行くときは我々を連れて行けよ』

『必要な時には、威嚇を手伝ってあげるよ。

 まあ、残ったアルケディウスの神官はそこまでタチは悪くないと思うけど』

「ありがとうございます。宜しくお願いします」


 なんだかんだで心配性で優しい『精霊神』様達にお礼を言って、私は寝床に入った。

 ただでさえアーヴェントルク出発直前で忙しかった仕事に、神殿掌握が加わったのだ。

 明日、朝一で準備をして……。

 出発までにしっかり頑張って区切りをつけないと。


 私は寝床に潜りこんで目を閉じた。

 忙しさと緊張とが入り混じったまま、意識がゆっくりと沈んでいく。

 私を守ってくれる暖かいぬくもりを感じながら。



 翌日、私はアルケディウスの神殿に向かった。

 朝の澄んだ空気の中、白い石造りの神殿は静かに、しかし威厳をもって佇んでいる。

 儀式の時のように馬車を降りて正面の門まで進んでいくと、門の前にズラッと人が並んで跪いていた。

 整然と並ぶその光景に、一瞬だけ足が止まりそうになる。

 ビックリはしたけど、もう慣れてしまったあたり、私もこの世界に染まってる。


 みんなお揃いっぽい服を着ているから、多分お仕着せなんだと思う。

 最初に下働きっぽい人たちがいて、前に進んでいくにしたがって衣装が豪華になっていく。

 先にいる人達が司祭、神官階級なのかな。

 そして、門の前にいるのが神官長だ。

 私はスカートを少し持ち上げて挨拶の礼を取る。

 身分の高い者から低い者へ。

 少なくともこの神殿では私が上なのだ、と最初に印象付ける。


「この度はどうぞ宜しくお願いいたします」

「我々の意を汲んで頂き、ありがとうございます。

『聖なる乙女』を神殿にお招きできることを、『神』も『精霊神』もさぞお喜びでしょう」


 挨拶を終えると私は、両脇で私を守るようにいて下さった精霊獣を抱き上げると振り返った。

 その温もりが腕に伝わる。

 神殿の皆にもゆっくり頭を下げて。


「神殿の皆様に、ご挨拶申し上げます。

 この度、神殿をお預かりする事になりましたライオットの子 マリカです」


 神官長よりも心もち丁寧に。

 私の下で働いてくれる人達を敵に回すわけにはいかない。


「まだまだ未熟者ですし、ここに住むわけではないので皆様にご迷惑をおかけすることも多いでしょう。

 どうか、力を貸して下さい。

 皆様の上に、どうか『星』と『精霊』の祝福がありますように……」


 『奇跡』の演出もコツは覚えた。

 光の精霊さん達。力を貸して。

 ちょっと集まって、皆に祝福を……。


 私が目を閉じたと同時


「え?」


 その瞬間、私が抱いていた二匹の精霊獣の内、一匹がふわり、と空中に溶けるように消えた。

 灰色の獣。

 ラスサデーニア様の方だ。

 と、同時に跪いていた人達、みんなが歓声を上げる。

 私は目を瞑っていたし、真後ろだったから見えなかったのだけれど、背後に緑色の光の人影が浮かんだんだって。

 

「顔は良く見えませんでしたが、暖かく、美しく……あれが『精霊神様』なのですね!

『精霊神』様のお手から光が舞い上がり、周囲を照らし……。

 舞踏会で姫様のお身体に宿っていた時とはまた違って、とても美しく、神々しかったです」


 そう後で興奮したように話してくれたのはカマラだった。

 ラス様、ちょっとやりすぎ。

 遊んだんじゃないかな?と、つい思ってしまう。


 でも最初の『威嚇』は効いたらしく、私が顔を上げた時、神殿の人達は明らかにさっきまでとは違う眼差しで私を見つめ、深く頭を下げてくれたのだった。


 畏敬と、そして明確な服従の色を宿して。


 ただ一人、無表情の神官長を除いて……。

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