魔王城 幸せのメイプルストーリー
毎日のように吹雪いていた雪が、少しずつ弱まってきた――そう感じたのは、いつごろからだったろうか。
朝晩はまだ身震いするほど冷えるけれど、日中ならコートだけで外に出ても『なんとか耐えられるかな』と思える日が、少しずつ増えて来ている。
胸元まであった雪は、いつしか腰くらいになり、今では膝あたりまで下がっていた。
「ふふふ。そろそろ、行けるかな?」
自然と口元がゆるむのを、私はどうしても抑えられなかった。
冬の間……いや、秋の頃から、ずっとずっとこの日を待っていたのだ。
「リオン兄! フェイ兄! アル兄! お願い、力を貸して!!」
朝ごはんを食べ終わるなり、私は三人の腕を引っ張って外へ連れ出した。
子ども達はエルフィリーネに頼んで見ていて貰う。
今回のミッションは――
魔王城、いや、この世界の命運を変えるかもしれない超・重大任務なのだ。
「で、なにをすればいいんだ?」
三人がしっかり防寒具を身につけているのを確認してから、私は、この日のために用意しておいた大きなバケツを一つずつ手渡した。
冬の間、コツコツと作り溜めた木製バケツ。
全部で二十個ほど。蓋つきで、小さなホースのような管が取り付けてある。
「それをね、あっちの森まで運んで行って欲しいの」
意味が分からない、という顔をしながらも、三人は素直に荷物を運んでくれる。
最初は四人で手分けして運んでいたのだけれど、二回目の往復で、リオンがふと何かを思いついた。
「オルドクス!!」
木で作ったソリを用意し、オルドクスに引っ張ってもらうことにしたのだ。
犬ぞりならぬ、精霊獣ぞりである。
力持ちのオルドクスは、楽しそうに鼻を鳴らしながら、あっという間に全部のバケツを森まで運んでくれた。
「うわー、凄い凄い、ありがとう。オルドクス!」
「わううっ!」
尻尾をぶんぶん振って喜ぶ姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。
オルドクスへお礼を言った後、私は三人の前でバケツを抱え、作業の見本を見せることにした。
「あのね。私がこれから木に穴を開けて行くから。
穴を開けた木に、バケツについてる細い管を差し込んで、紐でしっかり木に結ぶの。こんな感じに」
秋のうちに下調べしておいたカエラの木の群生地。
その中でも、特に大きくて元気そうな木を一本選び、私は指先を幹にかざした。
ギフトを使い、木の幹にホースと同じくらいの太さの穴を開ける。
そこにバケツのホースを埋め込むように差し込み、幹にしっかりと固定した。
「こんな感じでお願い」
「解った」
穴を開けるところまでは私の仕事。
その後の固定作業は、力のある三人に任せる。
魔王城の森は、何百年も人の手が入っていない。
だからこそ木々は太く、しっかりと根を張り、力に満ちている。
今回は、その中でも特に『力がありそうだな』と感じた木ばかりを選んだ。
「この木にも、精霊っているのかな?」
幹にそっと触れながら、私はふとそんな事を思う。
万物に精霊が宿る世界。
そうと知っていても――薪にするために木を切らないといけないし、肉を得るために動物も狩らなければならない。
生きるということは、どうしたって自然を『傷つける』ことと隣り合わせだ。
覚悟しているつもりでも、やっぱり心は少しだけ痛む。
精霊達は理解している、とリオンは言っていたけれど。
「ごめんなさい。恵みを分けて下さい」
私は木々に向かって、そっと頭を下げた。
自己満足だと解っていても、言わずにはいられなかった。
それなりに時間はかかったけれど、無事、バケツの設置はすべて完了。
「後は少し時間がかかるから、明日の昼過ぎ、また来てみようか?
オルドクス。また手伝ってね」
「ワウ!」
尻尾をぶん、と一振り。心強い即答だった。
翌日。
私は大きな鍋をいくつかソリに積み、またオルドクスに引いてもらって、みんなと一緒に森へ向かった。
「おい! 凄い! 溢れてるぞ!!」
バケツの様子を見たリオンが、素で驚いたような声を上げた。
これはさすがに予想外だった。
――木が、思った以上に元気なんだね。
二リットルは入るよう見込んで作ったバケツは、一日足らずでどれもいっぱい。
中には、樹液が縁から溢れ出てしまっているものまである。
虫よけ兼ゴミ除けの蓋をそっと開けると、中にはさらさらとした透明な液体がなみなみと入っていた。
「うわ~。実物のメイプルウォーターだ」
寒すぎて凍ってしまわないか心配だったけれど、日中の日差しのおかげか、どうにか液体のまま残ってくれたようだ。
「メイプル……なんです?」
「メイプルウォーター。この樹液にはね、糖分――甘い味の元がたっぷり入っているの」
「ん? ホントだ。うすら甘い……」
零れた樹液を指先ですくい、舐めたリオンがそう呟く。
まだ煮詰める前だから、この時点での糖分は二~三パーセントと聞いている。
『甘い』というより、『なんとなく甘さがある気がする』くらいのものだ。
でも――甘いと感じられるなら、それだけで大きな希望がある。
しかも、思っていた以上の量が採れた。
魔王城で一番大きな、五十リットルは入る寸胴鍋が、ほぼ満杯になっている。
「これを持って帰って煮詰めるの。早速やってみよう!」
私はスキップしたい気分をなんとか抑えながら、城へと戻っていった。
城の台所に鍋を運び込み、竈の上に据える。
正直に言うと、ここが一番大変だった。
一人では、とても持ち上げられない重さだ。
なにせ中身だけで五十キロ近くある。
フェイとリオンに手伝ってもらって、なんとか竈に乗せ、火をつける。
後は、焦げつかないように様子を見ながら、ひたすら煮詰めていくだけだ。
ぷつぷつと沸騰し始めた後は、火が消えないように、かつ強くなりすぎないように、二~三十分おきに台所へ様子を見に行った。
最初のうちは、ほとんど匂いもしなかった。
けれど、数時間も経つと――
ふわり、と甘い香りが漂い始める。
よしよし。
これは、絶対成功する予感。
「ん~、良い香り~」
お菓子作りの時に嗅いだ事のある、懐かしい砂糖の匂い。
でも、普通の砂糖とは少し違う。
向こうの世界でも、メイプルシロップはパンケーキにかけるとか、ちょっと特別な時くらいしか使ったことがなかった。
当時はあまり気にしていなかったけれど――こうして改めて匂いを感じると、はっきり分かる。
独特の甘さ。
木を軽く燻したような香ばしさ。
それでいて、焦げた嫌な匂いではなく、森の中で深呼吸した時みたいな爽やかさがある。
……ん?
「わあっ! みんな、何してるの?」
本当に、いつの間に集まってきたのか。
気付けば台所には子ども達が全員集合していた。
アルだけでなく、リオンやフェイまで、興味深そうに鍋を覗き込んでいる。
「ごめんなさい。でもね、でもね。すごく、すごくいい匂いがしたから……」
エリセが申し訳なさそうに頭を下げる。
その横で、
「ハチミツ……とかの匂いじゃないよな。
それよりももっと、なんだか……うっとりするような匂いだ」
アーサーは、鼻をくんくん動かしながら、遠慮なく深呼吸している。
「なに、なに?」
「いいにおい、いいにおい!」
他の子ども達も、目を輝かせて鍋と私を見比べていた。
……そっか。そうだよね。
元の世界に比べたら、この世界の食生活はほとんど『絶滅危惧』レベル。
砂糖の匂いなんて、嗅いだことがある子の方が少ないはずだ。
「へえ、これがさっきの樹液ですか?
水のように透明だったのに、色が濃くなってきたようですね」
「これで、やっと半分。
もう少し煮詰めないといけないから、完成は明日の朝……かな?」
「随分、手間と時間がかかるんだな」
「でも、美味しさは絶対保証するから、明日を楽しみにしていて!」
匂いだけでこの反応。
――本番で、あれを食べたら、いったいどんな顔になるだろう?
想像しただけで頬が緩む。
よーし、あと少し。頑張るぞ!!
そして、翌朝。
パンとスープのいつもの朝食を終えた後、
「じゃあね、みんな、並んで。台所に行くよ!!」
私は子ども達に声をかけた。
昨日の甘い匂いを思い出したのだろう。
先を争うようにして、全員が扉の前に一列に並ぶ。
「あ。エルフィリーネ。お願いがあるの」
私は彼女を呼び止めて、小声で耳打ちした。
ひそひそ、ひそひそ……。
「? よく解りませんが、解りました」
きょとんとしながらも、エルフィリーネはこくりと頷いてくれる。
全員が食堂に集まったところで――いよいよ、お披露目だ。
「はーい、見てみて! これが、特製! メイプルシュガーでーす!!」
「おーーーー!」
型に入れて固めた、淡い黄色の塊。
昨日、液体だったものが、見事に固形になっているのを見て、子ども達は一斉に声を上げた。
驚くのは、ここからだ。
なにせこれはこの世界――もしかしたら、本当に『世界初』かもしれない砂糖なのだから。
「手を出して」
差し出された小さな手のひらに、砕いたメイプルシュガーの欠片を一つずつ乗せていく。
小指の先ほどの、ほんの小さな欠片。
全員に行きわたったところで、私は笑って合図を送る。
「さあ、どうぞ」
おそるおそる口に運んだ子ども達は――
「えっ!」
「うそっ!」
「わあっ!」
「なんだこれ!!」
「甘い!!」
叫び声と一緒に、顔を輝かせた。
やった! 大成功!
思わず両手をぎゅっと握りしめる。
私は一足先に味見していたけれど、やっぱり――この笑顔が見たかったのだ。
「マリカ、これはなんだ?」
目を丸くしているのは子ども達だけじゃない。
リオンもフェイも、珍しく心底驚いた顔をしていた。
「さっきも言った通り『メイプルシュガー』……ん~、リオン。
昨日、樹液を取った木、なんて言うの?」
そうだ。こっちでは『メイプル』なんて通じないんだった。
「カエラの木か?」
「じゃあ、『カエラ糖』かな?
カエラの木から取った樹液の水分を、煮詰めて煮詰めて、もっと煮詰めて。
中にあった糖分――甘さの元だけを取り出したものなの」
「木の樹液が甘いなんて想像もしませんでしたが、それを煮詰めるとこんなものが取れるなんて……もっと考えもしませんでしたよ」
フェイが小さな欠片を指先でつまみ、興味深そうに眺めながら呟く。
甘みはとても強い。
甘味に慣れていない子たちからすれば、『目が醒めるような甘さ』だろう。
でも、不思議なことに、口溶けはさらっとしていて、しつこさはあまり感じない。
上白糖のような、ただ『甘いだけ』の味じゃなく、どこか奥行きがある。
――きっと、天然のミネラルがいっぱい詰まっているからだ。
ふふふ。万国共通。
甘いは正義。
やっぱり、甘いものが嫌いな子どもなんて、そうそういませんね~。
「うわ、口の中できえちまった。マリカ姉! おねがい、もう一こ!」
「こ!」
「ぼくももっと欲しいな!」
「あと一口でいいから!」
あっという間に手が伸びてくる。
「え? いいの? じつは、もっといいものが、あるんだけど~~」
わざと勿体ぶってみせると――
大騒ぎしていた子ども達が、その一言で全員、ぴたりと口を閉じた。
期待に満ちた視線を一身に浴びながら、私は取り分けておいた小鍋を取り出す。
横には、エルフィリーネに頼んで用意してもらった雪の入った大皿。
そして、人数分の木の小枝。
これは、もう一つの大本命。
「い~い? よーく見てて」
私は、雪の上に、小鍋の中身――よく煮詰めた飴状のメイプルシロップを細く垂らした。
横に一本線を描くように。
そして小枝で、両端からくるくると巻き取っていく。
固まり始めたシロップを、木の枝に絡め取っていくのだ。
「小さい子からね。はい、どうぞ」
最初に渡されたのは、リュウとジャック。
みんなの視線を受けながら、二人はじーっと枝先の飴を見つめている。
「こうやって、ペロって舐めてみて」
飴を舐める仕草をして見せると、二人もおそるおそる真似をする。
固まったシロップに舌が触れた瞬間――
キラーン!!!
本当にそんな擬音が聞こえてきそうなほど、二人の目が輝いた。
ペロペロペロペロ、ペロペロペロペロ。
もう、何も見えていない。
世界には今、飴と自分しかいません、という顔をしている。
「おい、ジャック、リュウ! どんな味なんだよ?」
「みんなも食べる?」
私は小枝を配りながら、雪の上に次々とシロップを垂らしていく。
小さい子を押しのけるようなことは、なんとか我慢してくれたらしい。
ようやく自分の番が回ってきたアーサーは、一滴もこぼすまいと真剣な顔でシロップを絡め取り――口に入れた。
「うわああああっ! なんだこれえええ!!
甘い、すっごくあまいぞーーー!!」
と、同時。
全力で天に向かって吼えた。
アーサー、どっかの料理マンガじゃないんだから。
まあ、でも、最高のリアクションありがとう。
感動してくれたの、こっちも嬉しい。
これは、スノーメイプルタフィー。
メイプルシロップの本場で、冬にだけ作られる大人気のお菓子だ。
コクのあるメイプルシュガーの甘みが口の中にじんわりと広がって、そこに雪のシャリシャリした食感が加わる。
……もう、最高に美味しい。
子どもの頃、絵本で見て憧れて、一人暮らしを始めてからメイプルシロップを買ってきて、煮詰めて、自分で作ってみた事がある。
いつかカナダに行って、本物のメイプルタフィーを作るのが夢だった。
――まさか、夢が異世界で叶うとは思わなかったけど。
できたての一番搾りを使ったおかげか、甘いのに、どこか爽やかさもある。
昔、自作した時よりも、数段上の味だ。
「マリカ?」
「なあに?」
「このメイプルシュガー……カエラ糖、というのは、大量生産はできないものですか?」
フェイがタフィーをじっと睨みつけながら、真剣な声でそう尋ねてくる。
「ん~、大量生産は難しい……かな?
フェイも見てたでしょ? すっごく手間と時間がかかるの」
昨日採れた四十~五十リットル分のメイプルウォーターを、二十時間近く煮詰めて出来たメイプルシロップは、たった一リットルほど。
そのシロップの半分を、さらに数時間かけて煮詰め、水分を飛ばして固めたのが、今みんなが食べているシュガーだ。
五百ミリリットルのシロップからできたシュガーの塊は、重さで言えばその半分以下。
両手に収まるくらいの量しかない。
今日、みんなに振る舞うのに大盤振る舞いしたせいで、残りはもうわずか。
シロップに至っては、ほぼ使い切ってしまっている。
「昨日一日分の樹液で、この程度の量が取れるんですよね。
煮詰めるのは……水分を飛ばすため。つまり……」
フェイはぶつぶつと呟きながら、何かを計算しているようだ。
頼もしいけれど、ちょっと怖くもある。
「いや、でもこれは本当に美味いぞ。
こんな美味いものが木から取れるなんて思わなかった。これが、マリカの切り札か……」
リオンも、本当に嬉しそうにタフィーを舐めている。
ぶっきらぼうな言葉の裏に、『心の底から気に入った』って感情がはっきり見えて、ちょっとくすぐったい。
「冬から春に変わる、ほんの少しの期間しか採れないんだって。
直接食べてもこうして美味しいけど、お菓子や料理に使ってもステキなんだよ。
ジャムやコンポートももっと甘くなるし。
特にパンケーキにシロップかけると最高でね……」
ごくり。
みんなの喉が鳴る音が、やけにはっきり聞こえた。
……あ、これ、完全に食欲に火をつけちゃったやつだ。
「樹液が採れる間、できるだけ頑張って作ってみるから、みんなも協力してね」
「「「「「「「「「おう!!!!!!」」」」」」」」」」
?
今、なんだか斜め上の勢いで、すごい熱意のこもった返事が返ってきた気がするんですけど???
その日の夕食後。
片づけをしようとしていたところで――
「マリカ、ちょっといいですか? これを見て欲しいんですが」
フェイに呼び止められ、テーブルに座らされた。
目の前に、どん、どんどん、と木の板が積み重ねられていく。
いつになく真剣な様子のフェイと、木の板とを交互に見比べながら、そのうちの一枚を手に取る。
そこに描かれていたのは、森に生えているカエラの木の分布図。
もう一枚は、魔術を併用したシロップの濃縮計画。
他の板には、木を痛めない範囲で採取できる樹液の最大値、そこから導き出したシュガーとシロップの生産量の予測、さらには採取や加工における子ども達の役割分担まで、びっしりと書き込まれていた。
――へえ、カエラの木って、随分たくさんあったんだ……ではなく!
「これ、何? フェイ?」
「カエラ糖の生産計画です。特定の期間しかカエラ糖は採取できないと言いましたよね。
その間、僕はあれを可能な限り生産すべきだと思いました」
はい? 生産計画?
意味がよく解らず首を傾げる私を前に、フェイの熱のこもったプレゼンテーションが続く。
「カエラ糖は、世界を変えうる食材です。
マリカが切り札と言ったのも納得しました。
あの素晴らしい甘さは、もし外に出せば、食と縁遠くなっていた人々にも衝撃を与えるでしょう。
そうでなくとも、これからの僕達の食卓を豊かにしてくれるのは間違いありません。
採取できる期間が限られているならなおのこと、みんなで力を合わせて、可能な限り生産・保存しておきませんか?」
私が最初に準備したバケツの数、木の本数、今と同じくらいの人数で採取した場合の効率――
フェイの計算によれば、採取期間を約四十日と見込んでも、シロップは四十リットルほど。
全て固形化してシュガーにした場合、二十キロ程度にしかならないという。
砂糖が全くなかった状況からすれば、二十キロはかなりの量に思える。
でも、十四人で「適度に」使うと考えると、一年使うには少し心もとない。
しかし、バケツなどを増やし、みんなで手分けして採取すれば、悪くても倍。
頑張れば三倍くらいまでは増やせるのではないか――そんな試算が書かれていた。
「何より、僕は、あのカエラ糖がもっと、食べたいんです!」
最後にフェイは、子どもみたいな本音をぽろっと零した。
普段冷静な彼の、実に素直な願望。
そっかー、フェイ、甘党だったんだ。
「もちろん、木の精霊とも適量を確認、交渉済みです。
『あまり使い道の少ない液体なので、やりすぎなければ、そして季節が終わった後、ちゃんと穴を塞いでくれるなら採取して構わない』と、言ってくれました」
精霊と交渉。そこまでやる?
私が呆然としていると――
「あのさ、マリカ姉。手伝えることがあるなら、いっぱい手伝って頑張るからさ……」
「うん、私もいっしょうけんめい、おてつだいする」
「ぼくも……だから……」
子ども達が、次々と集まってきた。
リオンやアル、リュウやジャックまで、一人残らず真剣な顔で、まっすぐに私を見つめている。
こんな熱い眼差しを向けられるの、初めてかもしれない。
「カエラのおさとう、もっとつくって下さい!!!」
う~ん。砂糖の力、恐るべし。
私達の世界でも、メイプルシュガーを巡って先住民同士で戦争まで起きた――なんて話を、どこかで聞いた事があるけれど。
でも……。
ここまでみんなが気に入ってくれたのなら、見つけたかいも、作ったかいもあったというものだ。
もっともっと、みんなを喜ばせたい。
美味しいものを食べさせてあげたいし、私だって食べたい。
そのためには、やっぱり『お砂糖』は重要だ。
「ん、じゃあ、みんなで頑張ってみようか!」
「わーい!!」
子ども達の弾けるような歓声。
リオンもフェイも、どこか嬉しそうに口元を緩めている。
その声を聞きながら、私は頭の中で――
異世界でも作れそうなレシピを、次々に思い浮かべていた。
そうして最終的に、私達は二か月弱の採取期間で、約百五十リットルものシロップの生産に成功した。
樹液そのものではなく、濃縮させたシロップがこの量なのだから、本当に凄い。
逆算すれば、一本の木からシーズン中に百リットルくらい樹液が採れた計算になる。
ほとんど人が入ってこなかった森だからこそ、木もそれだけ力を蓄えていたのだろう。
シロップとして残したり、味見に使った分を差し引いても、五十キロ以上のメイプルシュガー――もとい、カエラ糖を手に入れることができた。
みんな、大喜びだった。
リオンやフェイも、子ども達も、樹液の回収や煮詰め作業を頑張ってくれた。
まだ小さくて直接の作業が難しい子達も、自分の事を自分でやって、私の手を少しでも省こうとしてくれて。
本当に、本当に、みんな頑張ってくれました。
すっかり薄くなった最後の樹液をカエラの木からバケツごと取り外し、その穴を小枝でしっかりと埋めた、その日。
「わあ……」
足元には、タンポポによく似た黄色い花が咲いている。
魔王城の森にも、静かに、けれど確かに――春の訪れがやってきていた。




