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皇国 大祭二日目 求める心

 今回の皇王妃様のお茶会の主題は、戦勝の祝いと、儀式を行った私の労い。

 そして儀式の報告会、ということになっている。


 穏やかな笑顔の裏で、様々な思惑が静かに行き交う場。

 それがこのお茶会の本質なのだと、入室した瞬間から肌で感じていた。


「アドラクィーレ様。戦勝おめでとうございます」

「アーヴェントルク相手に久々の快勝。溜飲が下がりましたわ」

「今回の戦は皇子が本気を出されましたからね。

 経済における優位関係や、柵が無ければ実力差など殆どありません」


 口々に貴婦人たちに褒められて気を良くしたのだろう。

 今回の主役の一人、指揮官の妻アドラクィーレ様の声も明るい。


 その表情には、誇りと達成感、そしてわずかな高揚が滲んでいた。


「今年から、『聖なる乙女』の舞の役割を譲ったので、私も戦の事後処理などに専念できるようになりました。

 明日の晩餐会はかなり良いものになっている自負があります。

 楽しみになさい」


「期待しておりますわ」


 軽やかな笑いと共に交わされる言葉。

 けれどその奥には、互いの力量や立場を測る静かな駆け引きがある。


 そんな会話の後。


「それにつけてもアルケディウスの真実の『聖なる乙女』にあれほどの力があったとは……。

 皆様、お聞きになりまして?

 マリカはプラーミァ、エルディランド両国の旅で各国の『精霊神』に見え、復活を助力し、アルケディウスの『精霊神』も復活させたそうですわ」


 自然に、けれど確実に。

 場の流れを私へと導くように話が振られる。


 嫌味とかではなく、口調は割と優しい。

 けれど「真実の」に力が入っていたあたり、多分にアーヴェントルクの偽りの『乙女』――姉姫アンヌティーレ様への敵対心の方が勝るのだろう。


「マリカ。皆も興味がある話です。

 三国での『精霊神』復活の流れを話して差し上げなさい」


「はい。長い話になりますのでどうぞ、お茶やお菓子も楽しみながら……」


 お母様に促され、私は一歩前へと出る。

 視線が一斉に集まるのを感じながら、ゆっくりと口を開いた。


 プラーミァで初めて『聖なる乙女』としての儀式を行った事。

 エルディランドで王子が怪我をして、助けるために『精霊神』に祈りを捧げた事。

 そしてアルケディウスの復活の儀式と――ダイジェストで。


 テレビもラジオも無く、情報の伝達力が極めて低いこの世界において、他国の情報など貴婦人方々にはなかなか入ってこない。

 ましてや、力を失い死んだと思われていた『精霊神』の復活など、神話や伝説の再現のようなもの。


 冬の間ずっと自領に閉じこもり、社交シーズン以外は外に出る事さえ滅多にない貴婦人たちは、やはり退屈なさっていたらしく。


 私の話に、ほぼ全員。

 使用人も含めて、みんな耳を欹てて聞き入っている。


 その場の空気が、静かに、けれど確実に私へと収束していくのが解った。


「……そのような感じで、アルケディウスの『精霊神』様は復活されました。

 今後は、国を守護し、恵みをお授け下さるとお約束下さるそうです」


「姫君は『精霊神』様に拝謁されたのでしょう? どのようなお姿をなさっておいででした?」


 私が一通りの話を終えたあと、そんな質問が降ってきた。


 比較的若く見えるその女性は、目をキラキラと輝かせている。

 純粋な好奇心と憧れが、そのまま形になったような表情だ。


 ……そう言えば、男性達の会議では『精霊神』の外見に関してはまったく話題に上がらなかったっけ。

 こういうところ、女性だなって思う。


「プラーミァは逞しい男性神、ベフェルティルング国王陛下に生き写しでございました。

 各王家は『精霊神』様の子孫で在らせられる為、基本的に似ておられるようです」


「アルケディウスもトレランス皇子に似ておられるのでしょうか?」


「面影は在る気がしますが、アルケディウスの『精霊神』は少年で在らせられるのでよく解りません」


 似てない事も無い、って感じかな。

 むしろ私は皇王陛下に同じ空気を感じる。

 頭はいいけど、お茶目な雰囲気とか。


「まあ、少年!」

「精霊ですもの、とても美麗な容姿をなさっておいでなのでしょう?」

「あ、はい。それはもう。

 銀灰色の髪、闇色の瞳。とても麗しい美少年で……」


 美少年、と聞いて女性達の間に不思議な声が上がる。


 ときめきや憧れを纏わせた、少し高い黄色い声。

 それが幾重にも重なって、場の空気がふわりと華やぐ。


 これは、アレかな。所謂萌え?


「『精霊神』様に拝することができたなんて、姫君が羨ましいですわ」

「私達には拝謁する事はやはり叶わないのでしょうか?」


 凄く残念そうな声や吐息が、会場のあちこちから零れている。

 肩を落とす人、ため息をつく人、目を伏せる人。


 なんとなく、解らないでもない。


 貴婦人達、本当に超退屈しているんだ。


「腕のいい絵師がいるので絵を描かせてみますね」

「ぜひ、お願いいたしますわ」


 ぱっと表情を明るくする様子に、思わず少しだけ頬が緩む。


 この世界には、考えてみれば娯楽が少なすぎると思う。


 永遠の時間があったんだから、もっと絵とか彫刻とか芸術とかの分野が成長してもいいと思うのに、そういうのが殆ど育ってない。

 いいとこ被服、アクセサリー、刺繍、染色系。

 後は建築系は凄いモノもあるんだけれど、オリジナルの世界を描く画家! とか彫刻家! って感じの人があんまりいないように思う。


 あ、でも、エルディランドでは物語の挿絵を描いていた人もいるし、私が会ってないだけかな?


 この世界は神殿にも神様の彫刻、とかない。

 絵姿とかもびっくりするくらいない。


 一番人気の勇者アルフィリーガだって、金髪緑の瞳、と伝わっているだけで肖像画とか創作絵画とか殆ど無いのだ。


 だから、思いをぶつけられる憧れ。

 偶像がなく、人々は萌えを知らない。


 なんで五百年も生きていられたんだろう。


 部屋を飾る装飾品とかみんな好きだし、服や飾り、刺繍やパッチワークの文化はある。

 嫌いな訳じゃないし、きっと知って見れば好きになると思う。


 何かを好きになる心。

 思いは力になる。

 間違いなく。


『食』の復活で人々は生きる力を取り戻した。

 今後は世界の環境整備に向けて、そういう心のアプローチも必要かな。


 そんなこんなで、私の報告会の後は、各国のお土産話とか、新しい料理の話とかをして、皇王妃様のお茶会は比較的和やかに終了した。


 まあ、あくまで比較的。


「姫様、その艶やかな唇は何をぬっておられますの?」

「華やかで、でも優しく甘い香りがとてもステキですわ」

「なんて艶やかで美しい肌。一つの染みも無い上布のよう。やはり若さでしょうか?」


 そういう化粧品目当てのお声かけは山ほどあったし、


「姫君。そろそろ我が領地の料理人を受け入れて頂く事は難しいでしょうか?」

「他国に行かれる前に、我が領地にも新しい『食』の恵みが無いか探して頂く事はできないでしょうか?

 我が領地は海は無いですが、大きな湖があるのです」


 などの相談もひっきりなしだったけどね。


 でも、他国で貴族や王族にもまれたり、大神殿との腹芸やらかした事に比べれば、国内の派閥争いや嫌味なんて可愛いモノに感じてしまうのは、私が妙に場数を踏み過ぎてしまったからかもしれない。


 質問や問い合わせには、余計な事を言うな、即答するなと、側でお母様が目を光らせていたので、私は口チャック。


 社交シーズンに時間があれば面会に応じて話を聞く、ということになった。


 再来週からはアーヴェントルクへの視察が始まる。

 国内の調査、再発見にも興味はあるけれど……時間あるかな?


 とにかく、皇王妃様のお茶会は、皆が私を立てて下さり、様々な思惑こそ(多分)あれ、表立っては変な攻撃もそんなにはされず。


 私にとっても新たな気付きがあり、色々な事を再確認する有意義な会になった。


 ただ。


 お茶会の成功に気を良くして油断した私は、その後、直ぐに。

 本当に直後、予想外の方向から予想外の攻撃を受ける事になるのだった。

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