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皇国 大祭一日目 精霊神との『契約』

 完全に蕩けた意識の向こうで、人の気配を感じた。

 かちゃり、と扉が開く音、そして誰かが入ってくる足音。


「あらあら、遊びにいらっしゃいと言っておいたのにいつまでも来ないと思えば、疲れて寝入っていた様ね」

「無理もございません。昨日から、いえその前から姫様は大忙しでいらっしゃったのですから」

「そうね。私服のままで眠ってしまうのは行儀が悪いけれど、今日はとても頑張ったもの。このまま寝かせておいてあげましょうか?」

「はい」


 声の主は多分、お母様とミュールズさんだ。

 身体や、服に触れる手の感触。

 持ち上げられ、動かされた身体。


 多分、寝こけてしまった私をミュールズさんがベッドに寝かし直して下さったのだと思う。


「マリカが起きだして来たら、世話をお願い。

 それまでは声をかけずにそっとしておいてあげて」

「かしこまりました」


 柔らかいぬくもりと思いに包まれたのを感じて、間もなく、部屋から人の気配が消えた。


 と、同時、私はそれを俯瞰している自分に気が付く。


 あれ?

 私、寝てるんじゃなかったのかな?


『うーん、説明が難しいんだけどさ。

 要するに精神だけ、僕の領域に来ていると思って。

 肉体から精神が切り離されて、精神だけ僕の領域に来て繋がった現実を見ている感じ?』


 幽体離脱みたいな感じかな?

 向こうの世界では、小説、テレビ、マンガ問わず定番の…。


『そうそう、そんな感じ。

 流石、理解が早いよね』


 褒められた。でも、幽体離脱か~って。

 え?

 なんでそんな事に? そして、今褒めたの誰?


 ぼんやりしていた意識を集中。

 瞬きして自分の今の状態を認識する。


 私は、ほんの少し前までいた白緑の不思議空間に浮かんでいた。

 側に一緒にぷかぷかと浮かんでいるのは、人型を取ったアルケディウスの『精霊神』ラスサデーニア様と、プラーミァの精霊獣ピュール。


 彼等と一緒に浮かぶ空間には、さっきは無かった四角い色合いの違う穴が開いている。


 穴、というのは正確じゃない。

 液晶ディスプレイと言おうか、空間に開けられた窓と言おうか。


 そこから見える光景は私の寝室。

 さっきのお母様とミュールズさんの会話は、そこから聞こえて来たようだ。


「な、なんです? これ?

 っていうか、何をなさっておられるんです?」

『精霊獣を通じて、外の様子を見てるんだよ。ほら、君の枕もとで僕の精霊獣が寝てるだろ?』


 状況が解らず呆ける私に、ラス様は親し気に窓の向こうへ指をさす。


『僕の精霊獣がいる近辺の情報を、僕は見る事が出来る。

 主には視覚を通じて見ているものを見ているんだけど、空気中に精霊力を散らせば空間全体の把握も可能だ』


 今、精霊獣は目を閉じている。

 私達に見えないけれど、身体を構成している精霊力を拡散させて、部屋全体を俯瞰して見ているということなのかな。


 ドローンとかの空撮みたい。


「これって、ご自分の精霊獣がいるところならどこでもできるんです?」

『まあね。でも普段はやらないよ。

 力を結構使うから。普段はこんな感じ?』


 カチッと音がして映像が切れた。

 聞こえてくるのは私の寝息だけ。


『この状態の時は、所謂自動操縦って感じかな?

 精霊獣に与えてある獣の個性で勝手に可愛らしく動いている。

 無垢で無害な獣の方が周囲にも警戒されないだろう?』

「はあ~。そこまで考えて精霊獣を作っておられたんですね。

 じゃあ、アーレリオス様にもあんな感じに私達の行動が見えている、と」

『いつも見ている訳ではない。勘違いするな』


 野太い声が空間を揺らす。

 ぷかぷかと無重力空間に逆らわず浮かんでいる精霊獣は、尻尾を揺らし、耳を振り、不機嫌な様子を隠してはいない。


『お前がいつも無茶ばかりするから目が離せず、余計な力を使うのだ。

 少しは皇女らしく大人しくしていればいいものを…』

『まあ、その辺は仕方ないよ。

 生まれながらの性質を変えろと言われても、無理なものは無理だしね』

「すみません」


 私の性格は本当にもう、どうしようもなく変えられないし、動かせない。

 見ている方が心配だと皆が言って下さるけど、変えようという意志は無くは無いのだけれど、ちょっと無理っぽい。


「で、ラス様。

 一体何用ですか?

 さっき感動的な別れをしたところなのに速攻のお呼び出しとは」


 私は今の自分の状況を思い出して確認する。

 今までの話と状況からするに、ラス様が私を幽体離脱させてここに連れて来たのだろう。


 何か御用事がお有りなのかな。


『あ、それそれ。

 ちょっと君に、というか君達に頼みたい事があってね』

「頼み? 君達ってことは私とリオン、ですか?」

『そ。アルフィリーガには念を送っておいたからもうすぐ来ると思うけれど…。

 と、来た来た』


 びゅわん、と音を立ててまた空間に窓が開く。


 転移の能力で私の部屋に現れたリオン。

 男が皇女の部屋に忍び込んだなんてバレたら大変な事になるけど、まあ今までも何度もあったことだし、私はリオンを信頼しているから気にしない。


 と、視点が変わって精霊獣がリオンをベッドから見上げている視点になる。


「一体、何の御用事ですか? 『精霊神』って、うわあっ!」

「あ、リオン」


 ぴょーんと精霊獣がリオンに飛びついたと同時、リオンがこっちに来た。


 私のように精神だけ引っ張られたのだろうか。

 身体は、ベッドサイドで倒れているみたい。


 今、この状況でお母様とか入ってきたら怖いなあ~。

 と、そんなことを考えている場合では無い。


『やあ、エルトリンデ、アルフィリーガ。

 さっきは世話になったね』


「ラスサデーニア様。本当に何の御用ですか?」


 疑問符を浮かべるリオンに、うん、と頷いてラス様は笑う。

 ピュール…アーレリオス様は無言だ。


『僕を開放してくれた、お礼兼、お願いかな?

 君達、大祭を見に行きたくはないかい?』


「「え?」」


 突然の切りだしに私達は首を傾げる。


『僕ら『精霊神』は子ども達、人間の喜ぶ顔、気力が大好物だ。

 精神的な面でも、物理的な意味でもね。

 彼らが喜び、元気でいればいる程力が増す。そう思ってくれていい』


 さっきも似たようなことをおっしゃっていた。

 えーっと気力だっけ。精霊の力を回復させる人間の力。


『今日は、大祭なんだろう?

 お祭りなんて人の気力の集まる最たるものだ。

 それにずっと封じられていて、子ども達の様子も見る事ができなかった。

 ぜひとも、この目で見てみたいんだよ』


 解放された『精霊神』様は、その力で国の大体の事を把握できる。

 でも、それとは別に自分の目と身体で、人間の楽しむ様子を見たい。


 解らなくもない。


「でも、肉体を作って地上に降りるのはできないんですよね?」

『うん。だから君達の力を借りたい。

 僕に身体を貸してくれないか?

 そのお礼に、君達を大祭に行けるようにしてあげるよ』

「身体を…貸す?」

『…あの方がやった、マリカへの憑依。あれの穏やかなものだと思えばいい』

「アーレリオス様」


 意味がよく理解でき無い私達にアーレリオス様が補足して下さる。


『お前達の身体に、私達が乗り移る。精神を乗っ取るようなことはしない。

 見えない姿で肩の上に乗っているような感じで、一緒に外の世界を見る。

 終わったら戻ってきて、離れる』

「でも、私達、外には簡単に出られないんです。

 私も、リオンも皇女に騎士貴族、で顔が売れちゃっているから…」


 以前、変装してお忍びでプラーミァの街を見たい、と言った時にフェイに指摘された。

 子どもが少なく、自由に出歩いたりできないこの時代。


 変装していようが身綺麗な子供が街を歩いているだけで、目立ってしまう。と。


『そこは、一応考えてある。君らが大人になればいい』

「「え?」」


 また二人一緒に目を見開いてしまった。

 大人…に?


『君達が僕らを受け入れてくれるなら、一時的に君達の身体に介入して、変化変生させることは可能だ。

『精霊神』の力を受け入れるわけだからね、未成熟の子どもの身体だとちょっと心もとない。

 成長させて安定させた方がいいのもある』

『似たような経験はあるのだろう? 肉体組成を一時的に増加、強化して、力を増幅させる…』

「あ…」


 つまり、私の能力――変化による成長を『精霊神』様達の力を借りてやるということか。


「でも、アレは一度やると数日起き上がれなくなって…」

『それは、君達が自分の能力内でやるから。

 今回は僕達からのお願いだしね、僕が支払うよ。

 ちょっと怠いかな、くらいはあるかもしれないけど、動けなくなるほど消耗はしない』


 それなら、と。

 とっさに思った。


 大人になってリオンと一緒に、大祭見物を楽しめる。

 夢のような話だ。


『どうだい? 嫌なら無理強いはしないけれど…』

「どうする? リオン?」

「マリカは、どうしたい?」


 リオンは、私に判断を委ねてくれた。

 いつものように、私の意思を最初に尊重してくれる。


 なら…。


「行きたい…。リオンと一緒にお祭りを見に行きたい!」

「マリカが、そう望むなら、俺も構わない。

 …正直、もう一度、あの大人の身体になりたい、という気持ちもない訳じゃないからな」

「ありがとう」

『決まり。だね』


 ラス様が嬉しそうに笑って、くるり、と踊るように回った。

 まるで子どもが楽しそうにくるくる回るみたいに、軽やかな動きだ。


『リオンには僕が、マリカにアーレリオスが憑く。

 身体の中に入るということは、どうしても情報が流れて来るからね。

 僕に心の中や記憶情報、読まれるの嫌だろう?』

「…お気遣い、ありがとうございます」


 身体の中に入られて、記憶を読まれたりするというのであれば、確かにラス様よりも、もう既に色々知られているアーレリオス様の方が気持ち的には楽だったりする。


「あ、大人になるなら服、とかは?」

「大きめの服を着て、マントを羽織って、後は祭りで古着を買うとか、かな。取りに戻ってる時間は無い」

「能力で、少し首肩回り、大きくしておくね

『それじゃあ、やるから身体に戻って』


 ラス様が軽く手を振ると、あっという間に私達は寝室に戻っていた。

 ふわり、と浮いていた感覚が消え、急に重さを伴った現実が身体に戻ってくる。


 


 と、同時。




 ドクン!!




 何の予告も無しに変化が始まった。


 ちょ、ちょっと着替える時間位下さい。

 ラス様!!


「あ…ううっ…」


 でも、そんな声なんか気にも留めないって感じで身体は変化していく。


 ラス様のお力のおかげか、痛みはそんなにない。

 ただ、違和感は凄い。


 急に伸びていく手足。

 骨が引き延ばされるような奇妙な感覚。

 ふくらみを帯びていく胸元や腰。


 服がきつくて…苦しい。


 そんなことを思っている間に、私の身体は大人――と言っても多分、十五~六歳くらいに思える姿になっていた。


 前にもなった精霊の貴人モードと、ほぼ同じだ。


 ベッドの横で息を荒げるリオンの身体も大きくなってる。


 リオンは、多分、私よりもう少し上。

 二十歳前くらいかな。


 がっしりと逞しい男性になっていた。


 カッコいい。

 凄くカッコいいけど…。


 とっても苦しそうに見える。


「大丈夫? リオン?」

「あ…あ…大丈夫、だ。

 ただ、靴がきつくて、足の血が止まりそうだ」

「あ、そうか」


 服は多少、小さくてきつくても着れない事はない。

 でも靴は足にピッタリだから、どうしようもない。


 十三歳の中学生と十八歳の大人では無理があり過ぎる。

 とりあえず、私は、靴に能力を使って、靴底を無理無理に広げた。


 皮のロングブーツがショートブーツになってしまうけど、リオンの息はふうっと安堵したものになる。

 長いサラストの髪が揺れ、荒く呼吸する姿はちょっとドキッとした。


「あ、リオン、これ」


 長い髪を男性がそのままにしているのは目立つ。

 私は自分の髪紐をリオンに手渡した。


 一つ縛りに軽く結ぶリオン。

 長髪の男子はそういないから目立つのは変わりないけれど、少しはましな筈だ。


「助かった。服も…こんなことになるとは思ってなかったから、きつきつだな」

「とにかく、これを羽織って」


 私はクローゼットの旅行用皮マントの一番大きいものをリオンに指し出して、私も羽織る。


 私の服もリオンの服も、靴もサイズを計ってちゃんと作ったオーダーメイドだから、無理無理サイズを変えて、つんつるてんもいいところ。


 でも、とりあえず形にはなった。


「とにかく、街に行って服を買おう。

 それからだ」

「うん、あ、ちょっと待って」


 さっきの様子からしてもう入っては来ないと思うけれど、念のために寝ているように布団を膨らませてから、財布を服の隠しに入れて、リオンの手を取る。


「行こう!」

「ああ」


 私達は飛翔した。

 大祭の夜に向けて。

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