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皇国 アルケディウスの『精霊神』

 これで、三回目。


 プラーミァやエルディランドでの儀式を見ていた人たちによると、精霊石が熱を持ったように煌めき、光を放ち、突然爆発したような輝きが部屋を支配した。

 そして、目がくらみ、気が付けば私が消えていた、という。


 私自身もそれに近い感覚だった。


 今回に関しては、そんな爆発的な力は感じなかった気がする。

 ただもう、待ちかねていた、というように力が吸い取られ、その勢いのまま引っ張られた。


 皇王陛下やアレクにはどう見えたのだろうな、とちょっと思いながら、私はいつもの不思議空間に浮かんでいた。


 白緑の淡い光を宿す空間にぼんやり浮かんでいると


「マリカ!」

「リオン!」


 少し遅れてリオンが現れた。

 空間にふわっと転移したかの如く。


「良かった。今回は離れていたから一緒に来てないのかと思った」

『私が連れて来てやったのだ』

「ありがとうございます。アーレリオス様」

「マリカ! あれを見ろ!!」


 やがて、ぼんやりとした薄緑の霧の中からぬるりと現れた人影が、ゆっくりと容を取る。


 あれ?


 鎖に繋がれ、金属の仮面を被らされた男性神。

 でも今までの『精霊神』は明らかな大人だったのだけれど、今回のそれはどこか違って見えた。


 細身でしなやかな身体。

 ちょっと小さい……というか、あれは……子ども?


「アーレリオス様。

『精霊神』って子どももいるんです?」

『見た目がそうであるというだけで、実際に『子ども』という訳ではない。

 まあ、どうしても最初に成立した時の個性に引っ張られがちになるがな。

 あれは、我々『精霊神』の中で言うならば一番、よく言えば柔軟、悪く言えば若く子どもっぽい思考をしているかもしれん』


『助けて……。早く……助け……て』

「助けを求めてる。早く、助けてあげなくっちゃ」


 実際は子どもでなくても、子どもの外見をしているのなら私の気合は三割増し。

 元々、今回はその為に来たのだし。


 リオンも頷いて私を見る。


「やることは、いつもと同じだ。

 俺があの仮面の上に連れていく。後は一気に壊せ」

「それでいいんですよね? アーレリオス様」

『ああ、それで奴の軛は解かれる筈だ』


 今回は変な触手はうねって来ない。

 事情を聞く必要は無いのか、それとも切羽詰まっているのか。

 とにかく、リオンの言う通りやることは同じ。


「リオン、お願い」

「ああ、行くぞ!」


 手を繋いでリオンの飛翔に身を任せる。

 ぶわり、と身体が宙に浮いて、次の瞬間、固い金属の足場が足の裏を受け止めていた。


 全身の動きを封じられて、身動きのできない子ども。

 こんなのをいつまでも見ていたくはない。


「待ってて! 今、助けるから」


 全身全霊、全力集中。

 全ての力を注ぎこんで、仮面を砕く!


 パキン!


 と軽い音がして足元が砕けた。

 思ったより手ごたえが軽くて早い、なんて思う間もなく、私達は空中に投げ出された。

 とはいえ、三回目だからね。


「リオン!」

「マリカ!」


 リオンは私の手を繋いで、上手にアーレリオス様のいる俯瞰位置に戻ってくれた。


 崩壊、というか開放の渦が治まると同時……。


『ありがとう! 待っていたよ。マリカ! 僕の『乙女』!』

「はい?」


 突然、私はハグされた。

 って、誰に?


「ちょ、ちょっと待て! マリカから離れろ!

 誰だ、お前!」


 私を細い腕から引きはがし、リオンが間に立ちふさがる。

 そう、間。


 いつの間にか、そこには私と、リオンと、もう一人、人間サイズの存在が立っていたのだ。

 くりくりとした黒い瞳で私を覗き込む少年が。


『ふふ、ちょっとした冗談だよ。『精霊の獣(アルフィリーガ)』』

『相変わらずだな。貴様は』

『そういう君も、変わらない『お父さん』だね。アーレリオス』


 少年を見つめ、ため息のような息を吐き出した『精霊獣』に、懐かしげで、にこやかな笑みを浮かべると、『彼』は私達に向けてお辞儀をする。


『助けてくれてありがとう。

精霊の貴人(エルトリンデ)』『精霊の獣(アルフィリーガ)

 僕の名は木。自然と命を預かる者、ラスサデーニア。気軽にラス君とでも呼ぶと良いよ』

「気軽に……って」


 どこからどう見ても子ども。

 外見年齢は私達と同じか少し下くらい。

 肩口までのストレートの髪は短い灰銀色。瞳は黒水晶のようで、煌めきと透明感がある。


 地味な色合いなのに、容姿が整っていて、どこかホッとするような温かみと可愛らしさ。

 ちょっと知的、でもどこか生意気系というか……近寄りがたい美形揃いの精霊達とは違う雰囲気だ。


 この子も『精霊神』?


『僕はね、堅苦しいのとか嫌いだ。

 子ども達とも、守る、とかよりも一緒に歩んで育っていきたい。力を合わせて歩いていきたいと思ってる』

『そう言う所を威厳が足らぬとアレらに怒られるのであろう?』

『別にいいじゃん。

 僕はそうあれと求められたモノだし。

 変わらないし、変えられないんだよ。生まれついての、そういうのは』


 どこか寂しそうに笑うと、『精霊神』ラスサデーニア様……長いのでとりあえずラス様で。

 は、肩を竦めるような仕草を見せた。


『でも、まあ、いつまでもふざけて話し込んでいる訳にもいかないから、真面目に『精霊神』するとしようか。

精霊の貴人(エルトリンデ)

 復活を心から感謝し、寿ごう』


 ふんわりと、踊るようにお辞儀をするラス様。

 可愛らしい外見だけれど、よく見なくても纏う力というか迫力は怖いくらい。

 間違いない、『精霊神』だ。


『君が戻り、人々に気力を取り戻させてくれた事で、僕はかなりの力を取り戻すことができていた。

 世界の現状とか、君達の事情も割と解っている方だと思う。

 あの方の降臨も、城の中だったからね。見えていたよ』

「お目覚めに、なっておられたんですか?」


 私の問いに、うん、と頷くラス様。


『『星』の聖地もここは近いしね。

 ただ、あの方のかけた軛は強くて。

 皆から比べたら弱力の僕は、目覚めていても力が戻っても、軛は砕けず、一人で大したことはできなかったんだ。実りの力を上げるのが精一杯』


 と。ラス様の自嘲にアーレリオス様が吐き出すように異議を叩きつける。


『弱力など、どの口でぬかす。

 子ども達を守る要。

 空気と、生命を預かる緑の精霊が……』

『だって、僕は僕だけでは大した意味を持たないからね。

 皆があって環境を作って初めて僕が力を発揮することができる』


 アルケディウスは木国。

 つまりこの方は植物を司る精霊ということか。


 木や植物は命を守る者だけれども、それだけでは存在できない。

 力を発揮できない。

 大地が必要、水が必要、適度な気温や空気もいる。


『だからもう、本当に一刻も早く君に来て欲しかった。

 なのに君はよりにも寄って、一番離れたアーレリオスの国に行っちゃうし、その次はエーベロイスのところで。

 いつになったら来てくれるのかと本当にやきもきしてたんだよ』

「あー、なんかすみません」


 私のせいではないけれど、これは謝らないといけない流れだ。

 多分、ラス様にとっては、新年に私が石の所に来て、力を捧げて、やった、助けが来た。

 と期待したのに、半年も放っておかれたようなものだと思う。


『まあ、こうして来て、助けてくれたんだから文句は言わないよ。

 で、『精霊の貴人(エルトリンデ)

 何が望みだい?

 僕にできる限りの事は何でもするよ。助けて貰ったお礼もあるし、君は僕の国の『皇女』だしね』


 そう言われても、とっさに望みとか願いとかは出てこない。

 エルディランドと違って、願いを叶える為に『精霊神』を復活させた訳じゃないし。


「えっと……とりあえず、私達の目標は『神』の支配から人々を取り戻し、この星に正しい命の循環を取り戻す事。

 子ども達が、幸せに生きられる世界を作る事、です。

 その為に、味方になって頂けて、必要な時にお力をお借りできれば……」

『それは、問題ない。

 僕達の使命でもある。

 この国にできる限り力を広げて、収穫や実りは守ろう。

 人の努力もいるけれど、民が生きる力を得る事に困りはしない筈だ。

 後は君や、僕の子孫達が上手く導いてくれれば、より速やかに事は運ぶだろう』

「ありがとうございます」

「人として容をとって、地上に降臨するってことは……?」

『おや? やっていいのかい?

 僕が『精霊神』として地上に降臨すれば、マリカは本当に僕の『聖なる乙女』になってもらうと思うけど』

「だ、ダメです!」


 悪戯っぽく笑うラス様に慌てて応えたのは、質問を発したリオンではなく、私だった。

 だって、この場合『精霊神』の『乙女』っていうのは正しく花嫁、ってことで、つまりは身体を結んで、子どもを作ることを求められるってことなのだ。


 無理。

 ラス様がどうこうとか以前に、絶対にムリ!


「マリカ?」


 焦る私に、くすり、と全部解っているようなラス様は小さな笑みを落した。


『まあ、そう言う事だから。

 地上に降りたい気持ちはやまやまだけれど、今、人型を取る為の力を君達から徴収する訳にもいかないし、お互いの為にも今はこのままの方が良いと思う。

 この調子で僕の大地(アルケディウス)が力を取り戻せれば、後2~3年で君達の力を借りなくても人型を結べるようになると思うし』

『それほど早く行くか?』

『手ごたえはあるよ。実際、この一年で大地に満ちた気力はそれまでの長い時代に比べれば比較にならない。

 封印が解けた事で大地に強く根を張って『あの方』に力を持っていかれるのも阻止できるし、精霊達の力に介入、増幅させることもできる』

『確かに、それはお前なればこそ、だな』

『僕は元々そういうのが得意だし、色々と融通が利きやすいんだ。実際にやるかどうかはさておき』


 アーレリオス様とラス様の会話は意味がよく解らない。

 でも、とりあえずラス様は他の精霊神様と同じように、大地を守りつつ、回復に努める。

 いずれ、人型をとって顕現することもあるだろう。

 というのは理解した。


『後は『精霊の獣(アルフィリーガ)

 君さえ良ければ僕も精霊獣を作るよ。

 アーレリオスの真似みたいでなんだけど。

 それを使えばいつでも会話はできるし、外の様子も見られるし、必要なら僕のところに来ることもできる』

「そんなこともできるんですか?」

『アルケディウスの僕の大地だから。アルケディウスにいる時ならね』

『プラーミァにいる時であれば、お前らが望めば神殿に行かずとも、私の所に道を開ける事はできる。

 エーベロイスの所に行くにはやはり、エルディランドにいるとき、エルディランドに置いてきた精霊獣がいるがな』


 色々凄いな。

『精霊獣』って。


『作るのと維持するのに力が必要なのが欠点かな?

 でも、今回は心配いらないから。

 いいかな?『精霊の獣(アルフィリーガ)』』

「どうぞ。お願いします」


 リオンが目を閉じると、ラス様が手を伸ばした。

 と、金色の触手が一本うねってリオンの手に巻き付いた。

 小さく呻くリオンと光る触手は、まるで注射でもされているかのようだ。


『精霊獣』は作る力をリオンから。

 維持する力を私から取っているらしい。

 各国に置いてきた『精霊獣』はご自分の国にいる間は維持に力はいらない。

 国から離れると、私やリオンの力が必要……。


「アーレリオス様。私から力、ちゃんと取ってます?」

『……『あの方』との戦いのような大騒動が無ければ、維持に要する力など微々たるものだ。

 其方の側に溢れる精霊の力を食めばいい。もしくは火などから精霊の力を取り込めばな。

 どうしてもの時は言うから心配するな』

『相変わらず、強情っぱりだね。けっこうギリギリだったくせに』

『煩い、黙れ!』


 ……なんだかんだで、私は『精霊神』様や精霊達に助けられているのだな、と思う。

 顔を背けるピュール……アーレリオス様を、私はそっと抱き上げた。


「ありがとうございます。無理はなさらないで下さいね。

 アーレリオス様」

『あー。いいな~。と、終わった。

 僕も可愛いもふもふにしよう。でもアーレリオスと同じは嫌だから色は変えて……

 いつも側にいられるように、目立たない感じに……』

『おい!』


 ……とりあえず話は纏まった。

 ここでの時間経過がどのくらいなのかは解らないけれど、あんまり時間がかかると上のみんなが心配するし、大祭も始められない。


「では、とりあえず、一度戻っても良いでしょうか?」

『うん。何かあったらいつでも呼んで。

 アルケディウスにいるうちは力になれると思う。……まあ、あっちとかに行かれるとそんなに役には立てないかもしれないけど』

「あっち?」

『こちらの話。

 じゃあ、子ども達に宜しく。

 思いっきり食べて、飲んで、騒いで、元気に生きて。

 それが僕らの力になるから、って伝えて欲しい』

「解りました」


 周囲にチリチリと光が舞う。

 きっと、送還の合図だ。


『じゃあね。アーレリオス。今後とも宜しく』

『……いい子にしていろよ。ラスサデーニア』


 明るく手を振ったラス様に、アーレリオス様が返す返答は本当に優しい。

 お父さんのよう、とラス様はアーレリオス様を評したけれど、『精霊神様達』って一体、どういう関係なのだろうか?


 そんな風に思いながら、私達は光に包まれたのだった。


 足元がとん、と固い床を踏む。

 目を閉じて大きく深呼吸。

 そして大きく手を差し伸ばした。


 踊りを大幅にふっ飛ばしてしまったのは解るけれど、とりあえず、儀式は閉めないと。


 淡い、でも強い光を放つようになった緑の精霊石に向けてお辞儀をして、終わりのポーズ。

 宙を掴むように手を掲げてから、感謝を抱きしめ、胸元でクロス。

 最後に膝を付く。


 私の動きを見てアレクが最後のフレーズを弾いてくれた。

 これで、儀式は終了。

 私は与えられた仕事を完遂できたと思う。


 それを待っていたかのように、


「い、一体何が起きたのだ? マリカ?」


 皇王陛下が駆け寄って来られる。

 アルケディウスの神殿長も。


「あれが噂に聞く『精霊神の召喚と復活』でございますか?」

「はい。アルケディウスの『精霊神様』は、お目覚めになられたようです。

 この輝く精霊石がその証。そして……」


 ぴょーん、と。

 精霊石からむくむくの獣が私の手の中に飛び込んで来る。

 耳の小さな灰色アンゴラうさぎ。


「アルケディウスの精霊神様からも、精霊獣を賜りました。

 今後、大地の実りを守護して下さるそうです」

「なんと!」


 一際大きく打ち鳴らされた鐘が、アルケディウスの大祭、その開始を告げる。

 精霊神の復活と、約束された祭りの成功を知らせるように。

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