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皇国 勇者の凱旋

 去年の秋も活気があったけれど、今年はさらに凄いなあと素直に思う。


 初夏、快晴の空の日。

 戦から戻ってきた軍は、もう熱狂的と言っていい歓声に出迎えられていた。

 ……らしい。


 らしい、というのは私はその様子を詳しくは見ることができなかったからだ。

 中央広場に設えられた天幕で、軍が来るのを待っていただけ。


 ただ、ここまで来る道すがら見た人々の様子を見れば、なんとなくは解る。


 弾ける笑顔。

 ワクワクという言葉がそのまま形になったような興奮。


 間もなくやってくるヒーローを、今や遅しと待っている。


 去年はこの凱旋を、大広場の一角で見ていた私が、こうして部隊の出迎えをすることになるとは思っていなかったけどね。


「マリカ。

『聖なる乙女』として部隊を出迎え、祝福を与えてやれ」


 皇王陛下のご命令、という名の多分、お気遣いで、私は戦を終えて来た軍を王宮代表として出迎える役目を仰せつかったのだ。


「ついでにケントニスには少し、人気、というか威光に欠ける。

 其方が『祝福』を与える事で箔でも付けてやってくれるとありがたい」


 とも頼まれている。


 要するに、出発の時と同じように『聖なる乙女』として軍の人達を労い、最後に演説をする皇子の側に精霊を呼べばいいんだよね。


 ――ついでに。


 リオンと顔を合わせて、おめでとう、って微笑みかけるくらいは許して貰える筈だ。


 


 待っていると、一際大きな歓声と拍手。


 ラッパのような楽器やリュートの奏でる音楽と共に、戦の部隊が広場に入ってきた。


 最前列はケントニス皇子の部隊。

 そして今回は二列目にリオンの部隊がいる。


 前回と同じようにウルクスが紅い大きな旗を掲げて。


 リオンの部隊の横にいるのは、今回の戦の正将軍であった筈だから、第二位の位置に付けられている訳だ。

 フェイの話からしても、今回の一番手柄、ということなのだろう。


 良かった。


 舞台上から見えるかな?


「マリカ様」


 おっといけない、いけない。

 仕事、仕事。


 ミュールズさんに背中を突かれた私は、大きく深呼吸して舞台の上に立つ。


 ――あ、リオン見っけ!


 最前列に騎士貴族達と一緒にいる。


 流石に手は振れないけど、私の視線を感じたのだろうか。

 姿勢を正し、膝を付く。


「今、戻った。聖なる乙女、その祝福に礼を言う」


 身分の高い者から下の者へ。

 私は『聖なる乙女』ではあるけれども、王位継承者であるケントニス皇子より下。

 そこはケジメて頭を下げる。


「お帰りなさいませ。

 戦勝を心からお祝い申し上げます」


 うむ、と鷹揚に頷くと、ケントニス皇子は鞘から剣を抜き、その刀身を高く掲げた。

 軍の兵士達は一斉に跪き、周囲の歓声も喧噪もピタリと、水を打ったように静まった。


「誉れ高きアルケディウスの民よ! 我々は勝利した!!」


 うおおおっ!!!


 うん、やっぱり去年より凄い。


 まるで地響きのような歓声が、勝利宣言に唱和するように広場に轟く。


「『聖なる乙女』が復活し、精霊の祝福と恵みを取り戻しつつあるアルケディウスにもはや敵は無い。

 それがこの勝利で証明されたのだ!!」


 そこで『聖なる乙女』の名前まで引っ張らなくていいんじゃないかと思うけれど、人々が精霊の力を信じて盛り上がるんなら……まあいいか。


「これより夏が始まり、秋が来る。

 我らが長い間忘れていた、実りと恵みの季節である。

 働き、笑い、そして生きる喜びを感じるがいい。

 そしてアルケディウスから世界に広がっていく変化を、輝かしき季節の始まりをその眼で見るのだ」


 跪き、手を祈りに組む。


 光の精霊さん達、ちょっと集まって。

 皇子様の後ろで踊ってあげて欲しいな。


 それからリオン、じゃなかった。

 部隊の皆の上を飛んで祝福してあげて。


「戦の終わりと輝かしき夏の始まりを、ここに宣言する!!」


 わああっ!!


 一際大きな歓声と、どよめきが広がった。


 皇子の周囲に突然、キラキラとした光の粉の様なものが現れたからだろう。


 昼間なので、そんなに目立つわけではないけれど、金粉のようにキラキラと輝く光は部隊の方へと飛んでいく。


 それに合わせて皇子が緩く剣を兵士達の方に向けて振ったので、まるで皇子が光を部隊に贈った様に見えたのではなかろうか。


 市民や兵士達が唖然としているのが解る。


 普段、精霊とか魔法とかをあんまり見る機会が無いからかな。多分。


 騎士貴族達も表面では平静を保っているけれど、瞳がまるで子どものように輝いていることからしても、嬉しいサプライズであったと思う。


 そして……部隊の上を舞う光の精霊達は、リオンの側に集まっている。


 凄く目立っている、ってほどじゃないけど、一番多いなと解るくらいには。


 私と目が合ったリオンは、少し困った様に肩を竦めたけれど、後は他の兵士達と同じように精霊達を優しい瞳で見つめていた。


 時間にすればそんなに長い時間では無い。


 一分もないくらいの短い時間ではあったけれども、光が消えた後、我に返った人たちは、いつまでも消えない拍手を興奮と共に送り続けた。


「よくやった。なかなか良い演出であったぞ」


「ありがとうございます」


 退場する私と皇子。

 そして兵舎の方に移動して、解散式を行うであろう兵士達。


 


 後に、この日の凱旋は、大祭を前に集まって来始めていた移動商人達によって、アルケディウスの奇跡として盛りに盛られて、世界中の噂となったという。


 


 振り返り、やりすぎたかな、とちょぴっと思う。

 いや、精霊を呼んだこととか『聖なる乙女』の復活とか騒がれることは、まあいいのだ。

 開き直ってるし。


 ただ、退場していく兵士達。

 その中でリオンの部隊の行進に、明らかに他よりも大きな拍手と一緒にかかった黄色い声は、私の心をもやっとさせた。


 リオンの人気が上がるのは嬉しい。


 んで、光の精霊がリオンの所に行ったのは、多分、私の気持ちを感じたせいだ。


 リオンを一番祝福したかったから。

 皇子のように光に包まれるリオンを見たかったから。


 でも、うー、やっぱり複雑。

 リオンがモテるのは嫌だ。


 


 ちなみにこの話をしたらアルは


「お互いに自業自得だよな」


 って笑ってたけどさ。

 ? 何故にお互い?

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