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皇国 勝利の知らせと大祭の準備

 夏の戦の出立から約十日。

 フェイが戻ってきた。


「戦が終わりましたよ。アルケディウスの勝利です」


 王宮への正式な報告よりも先に、真っ先に私達のところへ知らせに来てくれたらしい。

 そう告げる彼の表情は、晴れやかで、どこか誇らしげに輝いている。


「凄いね、本当にやっちゃたんだ」

「随分早いですね。

 まだ開戦から一週間と経ってはいないのでは?」


 経済を回す為の遊びの戦。

 最低でも一週間はだらだらと戦を維持するのが通例となっている筈だ。


 思った以上に早い決着に、お母様は目を見開いている。


 でも私は、そうするつもりであったことをリオンから聞いていたから、そういう意味での驚きはない。

 言葉通りやってのけた事に対する驚きや敬意は勿論あるけれど。


「今回は、遊びではなく本気で倒しにかかるという方針でしたので。

 初戦で二割の部隊をリオンが壊滅に追いやり、その後は終始アルケディウスのペースで戦は進み。

 最終的には精霊石を守るアーヴェントルクの騎士将軍 グレイオス殿をリオンが一騎打ちで倒し、精霊石を奪いとった。

 誰にも文句の付けられない完全勝利ですよ」

「二割の部隊をリオンが……って簡単に言うけど……それって凄くない?」

「凄いことです。勿論」


 あんぐり。

 思わず口を開けた私を、フェイはあっさりと、しかしどこか誇らしげに、にこやかな表情で肯定する。


「詳しくは後ほど、リオン本人や皇子から聞いて下さい。

 アーヴェントルクはリオンの実力を評価していたようですが、それでも甘く見ていた、ということですね。

 まあ、負けを認めたくないアーヴェントルクの一部がごねる場面もありましたが、流石に一国を率いる指揮官にして第一皇子 ヴェートリッヒ様は懐深く、彼等を一蹴。

 敗北を認めて下さいました。

 精霊石の守護騎士を一騎打ちで倒されては文句のつけようがない、と」


 前の戦の時は裏技で精霊石を奪取したらしいリオンだけれど、今回は文句を言わせぬ勝利の為に、ちゃんと騎士を倒したらしい。


 凄いな。


「ただ、三日で破れたとなるとアーヴェントルクの外聞もありますので、戦地を立つのは三日後。

 王都帰還は予定通り、十日後になります。僕はこれから王宮にそれを伝えに行きます」


「解りました。教えに来てくれてありがとう。フェイ。

 あの人にもよろしく伝えてね」

「私からも、リオンにおめでとう、って」


 必ず。


 そう頷くと、フェイの姿はかき消すように、ふっと空気の中に溶けるように消えた。


「大したものですね。流石は『精霊の獣』ということでしょうか」

「『精霊の獣』だからじゃなくって、リオンだからですよ。お母様」

「ふふ、そうね。ごめんなさい」


 まだ、なんとなく実感は湧かない。

 けれど、とにかくリオンは約束通りやりとげたのだ。


 嬉しいし、誇らしい。


「さて、戦が終わったのなら、いよいよ大祭です。

 忙しくなりますよ」


「はい」


 お母様がおっしゃる通り、急に周囲は慌ただしくなった。


 正式に戦勝が告知されてからは特に。

 秋の戦の時よりもさらに、国中が勝利の熱に浮かされているようだった。


 聞けば、アーヴェントルクに勝利したのは数年ぶりとのこと。


 フリュッスカイトとの勝率はトンか、こちらが少し上。

 けれどアーヴェントルクには随分と負け越していたらしい。


 何年も負け続けていると調整が入ることもあるらしいけれど、今回はそういうのではない。

 完全なる圧勝。


 皆、大喜びで祭りの準備をしている。


「プラーミァよりも活気があるような気がしますね」


 ゲシュマック商会にお使いに出したノアールも、そんな感想を口にするくらいだ。


「あ、プラーミァも戦の後、大祭でしょ?

 大祭って各国同じ日程?」

「アルケディウスより夏も秋も少し遅いですよ。

 開始時期も少しずれますし、会戦期間でもずれますから、同じ戦をした国同士以外は滅多に同じ日程にはなりません」


 なるほど。


 そして、負けた国より勝った国の方に、より商人や人が集まる。

 今年はアルケディウスの勝利だし、新しい味のこともあるし、多分、凄い賑やかになるだろう。

 祭りのステージで今年はアレクをデビューさせる予定でもある。


 私が見に行く、なんてことはできないのは解っているけれど。


「大祭の時に、ちょっと時間を作るからノアールもお祭りを見て来たら?」

「お気遣いありがとうございます。

 ですがお気になさらず。向こうでも大祭を見物して遊ぶなどありませんでしたから」


 だからこそ、楽しんできて欲しいんだけどな。


 まあ、その辺は後で考えよう。

 アレクの引率とか、名目や手段はいくらでもある。


 ゲシュマック商会は今年も新しい展開で店を出す。

 麦酒はまだ量産はできないので協力店に任せ、エルディランドからの輸入品をメインにする予定だ。


 おむすびに、グルケ(胡瓜)の塩麹漬け。

 甘い卵焼きに、鳥のから揚げ。


 そして日本酒……じゃなかった、エルディランド酒。


 少額銀貨2枚は変わらず。


 ビールとはまったく違う味わいだから、受け入れられるかどうかは解らないけれど。


 まあ、醤油を使った鳥のカラアゲや、アルケディウスではまだ滅多に見ないリアのおむすびは自信ありだし、面白がっては貰えるだろう。


 お酒を付けなければお弁当箱仕立てにする、という案もあったんだけれど、それは次への課題に。

 秋の戦は収穫の後なので、また色々と考えたい。


 そんなこんなでゲシュマック商会と打ち合わせたり、自分の舞の練習も続けたりしていると、毎日、就寝が遅くなってしまう。


『夜更かしは身体に毒だぞ』


「! アーレリオス様」


 夜中、自室。


 大祭で行う式典の確認をしていた私の肩に、ぴょこん、と精霊獣が飛び乗った。


 額の石が明るい。

 虹色の瞳。


 アーレリオス様に繋がっている証拠だと思い出す。

 なんだか、久しぶりだ。


「暫くお声かけが無いから心配してました」


『ちょっと疲れて休んでいただけだ。

 気に病む必要は無い。むしろお前が休め。

 仕事のし過ぎは良い事ではないぞ』


「でも、リオンも頑張ったんですし、胸を張って出迎えたいなって。

 それにアルケディウスの『精霊神』様も待っておられるでしょうし」


 我ながらのワーカホリックは自覚しているけれど、仕方ない。

 仕事が多いと大変だけれど、少なければ少ないで不安というか、手持無沙汰に感じてしまう。

 異世界に来ても抜けない職業病だと、自覚はしている。


『なればなおの事、調子を崩すわけにはいかないだろう?

 体調不良の顔を見せたいのか?

 奴を助けるにもフラフラではままなるまい。

 人が用意した式典の手順など不用の事。

 お前が力を捧げれば、奴はそれだけで目を覚ます』


「私、そんなに参ってます?」

『私にはそう見える』

「解りました」


 机の灯りを消して、私は布団に入る。


 自覚は無いけれど、精霊神様がそういうなら無理は禁物だ。


 何せ前科がある。

 色々と。


「奴ってことは、アルケディウスの『精霊神』も男性なんですか?」


『基本、『星』の従属神は皆、男性的だと思っておけ。

『神』もどちらかに分類するなら男性体だ』


「『星』は女性?」

『……まあ、そうだな。今となっては大した意味は無かろうが』


 そう言いながら、私の布団の中にもぞもぞと頭を入れて来るピュール。


 男性と同衾?


 ちょっと動揺したけれど、ふわふわのぬくもりは正直気持ちいい。


 最高の癒しで、身体の隅に追いやっていた眠気がもくもく湧いて出る。

 思わず大きなあくびが零れた。


『休むことも大事な仕事だぞ。

 其方は一人では無く、多くの者に支えられているのだ。

 それを忘れるな』


「ありがとうございます。アーレリオス様」


 私の返事が届いたのか、届いていないのかは解らない。

 もうスーッと引くように、額の石から光は消えていたから。


 私も眠気に任せ、素直に目を閉じた。

 あと少しでリオン達が帰って来る。


 その時に、せめて疲れの見えない笑顔で迎えてあげたいから……。

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