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魔王城 初夏のお休み

 魔王城に戻って来て二日目の朝は、久しぶりに気分のいい目覚めだった。

 身体も軽くて、頭もスッキリしている。


「よっし! 治った!!」


 私はベットから飛び起きると、勢いよく伸びをしてから素早く着替え、台所に向かった。

 窓から差し込む朝の光はまだ柔らかく、太陽の昇り具合からして、まだ地の刻(6時くらいかな?)といったところだろう。


 幸い、まだみんな起きて来ていない。


 私は静かな台所に入り、竈の火を入れる。

 ぱちぱちと薪が弾ける音と共に、薄暗かった台所にほのかな暖かさが広がっていった。


 今日の朝ごはんは、昨日炊いたご飯の残りがあるからエナのリゾットにしよう。

 後はココナッツミルクを使ってパンケーキを焼いて……。

 そんなふうに献立を考えていると、


「おはようございます。マリカ様。

 お加減はもうよろしいのですか?」


 今日の朝食担当だったのだろうか。

 エプロンを付けたティーナが台所に入ってきた。


「うん、もう大丈夫。

 バッチリ治った。むしろ前より調子いい感じ」

「それは良かったです。でも、今日の朝食は私が作りますよ」

「たまにはゆっくり休んでいて。

 いつも無理させちゃってるから……あ、それとも一緒に作る?

 新しい調味料や食材もいっぱい手に入ったから……色々とレパートリーも増えたの」

「それならば、ぜひ教えて下さいませ」


 私が声をかけると、ティーナは嬉しそうに頷いてくれる。


 それなら、話したい事もいっぱいあるし。

 私はティーナと一緒に、なかよしクッキングとしゃれこむことにしたのだった。



「オレはアルケディウスに戻って来るから」


 朝食時、そう告げたのはアルだった。


 アルは王宮勤務じゃないから、一週間休暇の実は対象外だったんだよね。

 それでも気を遣ってガルフは二日間休みをくれたけど。


「ガルフ達もマリカの休みが終わる前に一度来て、色々と打ち合わせがしたいって言ってたんだけどいいか?」

「大丈夫。

 城下町の家は一軒、女性陣が使ってるけど、もう一軒は空いてるから」

「了解、そう伝えとく。多分、次の夜の日だな」

「それまでに、プラーミァとエルディランドの交渉とかについて纏めておくね」

「せっかくの休みに悪いけど頼む。

 特にリアが良い手ごたえなんだ。麦より手軽に食べられて、腹にたまるってな」

「だろうね」


 それが米、リアの良い所だ。


 小麦は小麦で良い所が沢山あるけれど、リアの良さは広めていきたい。


「ホントに、美味しいもん。毎日でも食べたい」

「炊くの大変なんだよ。でも、その分美味しくはあるけどね~」


 今、魔王城でご飯を炊けるのはアルとエリセと私。

 今日ティーナに教えて、後、外のノアールが出来る。

 そう言えば、ノアールは魔王城に入れることは入れる。

 ノアールにもいい機会だから、これから何をしたいか聞いてみたいなあ。


「こら」


 ぽかっ、と考えに耽る私の頭に軽いげんこつが落ちた。


「あたっ。何、リオン」

「この休み中はあんまり仕事の事考えるな。

 まずは身体を休めることを優先に考えとけ」

「もう治ったよ」


 旅行前よりも軽くなった感じがする肩を、私はぐりんと回して見せる。

 けれどリオンの上がった眉は下がらない。


「油断は禁物だ。

 それに戻れば社交シーズン、夏の戦、大祭、次のアーヴェントルクへの出発で大忙しなんだからな」

「リオン様の言う通りですわ。

 できることはお手伝いいたしますから、どうか無理なさらず」

「書類関係の素案は僕がやっておきます。

 マリカは最終チェックだけしてください」


 リオン、ティーナ、フェイのコンボで畳みかけられると私は反論できない。


「マリカ姉、遊んで!」

「遊ぼう!」

「森に来て! いいもの見せてあげる♪」


 リュウやジャックも期待に満ちた眼差しで私を見ている。


 皆に負担をかけるのは申し訳なくはあるんだけど、本当にこんなにゆっくり休める日なんて滅多にないからね。


「うん、じゃあ、よろしく頼むね」


 私は、遠慮なく皆に甘えてこの休みを満喫する事にしたのだった。


 食後、出勤するアルやエリセ達を見送ってから、私達は魔王城を出て城下町に遊びに行くことにした。

 天気の良い日は極力外に出るようにしている。魔王城用の麦畑や野菜類の世話や収穫もあるからね。


 アルケディウスでも麦や野菜の栽培が始まったので、今、魔王城で栽培している量は最盛期より少し減った。

 管理や世話をする手が減ったこともあるし、精霊術で草取りなどがあまりいらなくなったので、子ども達が無理なくできる範囲で。


「おはよう。

 こっちは変わりない?」


 私は城下町の家を訪ねた。

 差し入れのお鍋をもって(もらって)。


「おはようございます。

 こちらは特に異常も無く。とても快適に過ごしています」


 出迎えてくれたのはノアール。

 この中で一番小さいし、身分の低い扱いになるからかな?


「良かった。これ、朝作ったリゾット。

 残り物で悪いんだけど、夜にでも食べて」

「あ、ありがとうございます」


 リオンが持ってくれた鍋を渡すと、ノアールは微かに頬を赤らめながら受け取ってくれた。


「お気遣い、いつもありがとうございます」

「こちらにも材料を頂いているので、ノアールが作ってくれますから気にしなくても大丈夫ですよ」

「まあ、ついでだから。十人分作るのも、二十人分作るのも大して変わりないの」


 声を聞きつけて、カマラとソレルティア様も出て来る。


「毎日食事という楽しみがあるなんて、本当にアルケディウス以外では考えられない贅沢ですわ。

 食事のおかげでしょうか? 最近、とみに頭が冴えていくような気がしますの」


 言葉に反して、ソレルティア様は少し目元に隈のようなものができかかっている。


「ちゃんと寝ていますか?

 夜更かしは身体に毒ですよ」

「魔王城の蔵書をお借りしていますので、つい夢中になってしまって。

 本当にフェイが羨ましくなってしまいますわ。こんなに素晴らしい本に囲まれて育つなんて。

 私も不老不死を返上して魔王城に入りたいくらい」

「その辺は早まらないでいいと思います。

 不老不死を取ることはできても、戻すことはできないので」


 カマラからも不老不死を取っても城に入りたいという声はあったのだけれど、とりあえず保留して貰っている。

 一度不老不死を外すと私達では元に戻せないし、その状態で外に戻ったらどうなるか解らないから。

 こればっかりは人体実験はちょっとできないしね~。


「今日も、子ども達は森で遊んでいます。

 もし良かったら、一緒にあそんでやって下さい」

「喜んで」

「遊ぶのが仕事だなんて、申しわけないのですが……」

「ノアールはもう少し、遠慮しないで遊んでくれてもいいんですよ?

 今まで色々と大変だったんですから」


 遠慮がちなノアールの手を取って、私はぐいっと引っ張る。


 この世界では十一歳ともなれば、子どもだなんて甘えていられないけれど。

 私の感覚ではまだ小学生。十分に遊んで学ぶのが大事な時期だ。


「そうして並んでると、なんだか姉妹みたいだな」


 私達二人の様子を見ていたリオンが、くすり、と小さく笑う。


 確かに、同じサラストの黒髪だから、ちょっと見似ているかも。

 そういう理由で、ノアールは私達のところに寄越されたわけでもあるしね。


「わ、私のようなものが姫様と姉妹だなんて……とてもとても……」


 ノアールは恥ずかしそうに顔を落とす。

 でも私的には、本当の意味で同じ年頃の女の子は貴重なので、使用人よりは友達になって欲しい。

 と思っている。


 姉妹の様になれれば、もっと嬉しい。


「ねえ、リオン。

 私とノアールが姉妹だとしたら、どっちがお姉さんだと思う?」

「それは……マリカじゃないか?

 身長はそんなに変わらないけど、図太さとか逞しさが段違いだからな」

「むー」


 言ってる事は解るけれど、言い方!

 リオンはちょっとデリカシーが無い。

 向こうで騎士している時はお姫様扱いしてくれるのに。

 こっちではそれが嬉しくもあるのだけれど。


 でも、そっか……


「ノアールも、私がお姉さんで良い?」

「え? あの、そんなもうしわけが……」

「いいの、いいの!

 よーし、これから、この島では私の事をマリカ姉と呼んで! レッツゴー!!」


「ですから……その」

「ジョイやヨハン達がいいもの見せてくれる、って呼んでたの。一緒に行こう!」


 ノアールはリオンを懐柔する為に送り込まれた女の子だけれど。

 あの時のちょっとはすっぱな感じが素だとすれば、今の様子は相当に無理をしていると見た。


 アルケディウスでは侍女、従者として仕方ないかもしれないけど、ここは魔王城、私の島なのだ。

 子どもに遠慮はさせない。させたくない。


 全力で遊び倒す時間も絶対に必要。

 私は強引にノアールの手を引っ張って連れ出したのだった。

 後ろで、私達を見守るように微笑むカマラとソレルティア様の優しさを背に受けて。


 森で、子ども達が見せてくれた「いいもの」は、樹の上に作られたツリーハウスだった。


「すごいね。これ」


 私は心から感嘆の声を上げる。


 魔王城の森で一番高くて大きな木に、それは作られていた。

 どんぐりによく似た実が生るので、樫の木系かなって思う。


 天才技師シュウが設計して、子ども達皆で作ったらしい。

 木の上に板などを持ち上げたり、固定するなどはニムルやエリセ達の術士の力も借りたというけれど、それでも十分に凄い。


「頑張ったね。本当に凄いと思うよ」

「面白いもの作ったな」

「驚きました。子ども達だけの二ヶ月で作ったとは」


 リオン、フェイ、アーサー、アレクも目を輝かせている。


 魔王城は男の子が多いし、こういう秘密基地はきっとストライクだよね。

 町育ちのノアールは完全に初めてなのか、言葉も出せないでいる様子。


 私はといえば、向こうの世界で森林公園などでこういうのを見たことがある。

 でも大人になってからは入れなかったから、胸がときめく。


 ロマンというか、趣味の世界だ。

 褒められてみんな、えっへん、ドヤ顔。

 でもその価値は十分にあると思うので、私は手放しで褒める。


 階段は難しかったようで、縄梯子。

 でも登った先には頑丈に張られた床と、落っこちないように張り巡らされた柵があって、安定感があった。


 木の上にコンテナを乗せたような感じだ。

 本当に子ども達だけでよく作ったなあ。


 屋根を三角に作るのは難しかったようで、雨避けの屋根はまっ平ら。

 でも、そのおかげで、さらに屋根の上にも登る事ができる。


「うわー、空が高い、というか近い!」


 屋根の上は本当に木のてっぺんで、森のてっぺん。

 僅かな木の枝以外、遮るものの無い空が頭上に広がっていた。


「気持ちがいいね~」

「はい……こんな風景を見られる日が来るとは思いませんでした」


 どこか噛みしめるような口調で呟きながら、ノアールは空を見上げていた。


 蒼い、青い空。

 雲一つなく、透き通る湖水の様に美しい。


 そう言えば、こんな風にゆっくりと空を見上げたのはどのくらいぶりだろう。


「お昼、ここにもってきて皆で食べようか?」

「さんせー!」

「あ、でも流石に10人以上乗ったら落ちる?」

「大丈夫ですよ。術で補強しておきますから」

「じゃあ、外ご飯の定番、おむすび作ろう。ノアール、手伝って」

「解りました。……その、マリカ姉様」


 みんなで木の上で、皆で食べるお昼は本当に美味しかった。

 ティーナは縄梯子が怖いというし、リグにも危ないから今度らせん階段とか作ろうという話も出ているらしい。


 その後は、みんなでかけっこや鬼ごっこ、木の実取りなんかしたりして。


 私は初夏のお休み。

 子ども達と思いっきり遊び倒して、幸せな一日を思う存分満喫したのだった。

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