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魔王城 『勇者』の誓い

 二カ月ぶりに魔王城の城に戻ってきて、驚いたことはいくつかある。

 その一つが、ニムルの成長だった。


 私が魔王城に戻って直ぐ。


「マリカ様。

 どうか、貴女と魔王城に忠誠を誓う事をお許し下さい」


 正式な礼をもって跪き、ニムルは私を見つめた。

 二ケ月前、ここに連れて来られた時の様な迷うような様子は、もう見えない。

 背筋を伸ばし、真っ直ぐに顔を上げたその姿は、以前よりずっと大人びて見える。


 自信に満ちた顔つきは、彼が道と答えを見出した事を示している。


「どうやら、試験を無事潜り抜けたようですね」

「ええ。精霊石と契約し、精霊術士の資格を得たそうです」

「あのね、もう風の転移術、使えるんだって。クリス達のお弁当とかもっていってくれてるの」


 フェイもエリセも、どことなく嬉しそうだ。


「そうなんだ。

 あれ? それならもう島の外に出られるんじゃ?」

「残念ながら『精霊術士になってから』行ったことがある場所、なので今の時点ではまだ帰れませんね」

「それに、マリカ様や魔術師の許可も無いまま、外に出る事はできません」


 真面目。

 だから、私達が帰るまで子ども達の面倒を見ながら、待っていてくれたのか。


「子ども達の世話も進んでしてくれて…、私もとても助かりました。

 やはり男手があると違いますね」


 ティーナの褒め言葉に、顔を伏せるニムルは顔を真っ赤に染めている。

 耳まで赤くなっていて、なんだか可愛い。

 やっぱり男の子だなあ。


「本当に頑張ってくれてありがとう。

 後はフェイと相談して、アルケディウスに戻ってくれて構いません。

 当面はゲシュマック商会の魔術師としてエリセと共に店を助けてくれると嬉しいです」


「解りました」


 ゲシュマック商会には精霊術士がどうしても必要だ。

 前はフェイがやっていた仕事が、今はエリセ一人にのしかかっている。

 ソレルティア様も協力はして下さっているけれど、とにかく数が必要。


 その為に、向こうから人を連れて来るという無理を押してもニムルに修行をして貰ったのだから。


 ある程度使えるようになったのなら、実務を受け持って欲しいと思う。

 当面はお店付きの精霊術士として。


 勿論、やりたいことや目指したい道があるのなら、そっちに進んで貰ってもいいのだけれど。

 ニムルの帰還について話を進めていると、


「えー! ズルい!」


 不満げな声が弾けるように響いた。


「クリス?」


 エルディランドとプラーミァから貰って来たお土産の分配をしていた子ども達。

 けれどクリスはそのお土産を放り出して、私達を見ている。


「ニムル兄ちゃんはさ、この島は外よりいいところだ、って言ってたんだよ!

 それなのに何であっさり帰るの!?」

「ニムルはね、魔術師になる為の勉強に来たんだもの。ここで住む為じゃないんだよ」

「おれは、ニムル兄ちゃんがこの島にいてくれるなら、おれも外に行けるかとおもったのに!」


 そっか。


 私は大切な事。

 クリスの気持ちを見落としていたことに気付く。


「クリスは外に出たかったんだ」

「うん。アーサーやアレクばっかり外に行くの、ズルいと思う。

 おれも、早く外に出たい。外に出て、リオン兄やフェイ兄やマリカ姉のお手伝いするんだ!」


 年長三人組が魔王城の外に出て、仕事をするようになった。


 アーサーとアレクに至っては二ケ月の旅行にも一緒に行った。

 アーサーにライバル意識を持っていたクリスは、きっとそれが悔しかったのだろう。


「シュウやヨハンも外に出たい?」


 私は残り二人の年中組にも声をかける。


「ん~、ぼくはそんなでもないかなあ。

 ここでいろいろ作ったり、考えたりするの楽しいし、魔王城は本がいっぱいあって、作ってみたいのもいっぱいあるんだ」


 と言うのはシュウ。

 天才技師はインドア派らしい。


 外の世界でいろいろ見るのも勉強や刺激になると思うけれど、今のところはまだ魔王城の中で十分だという。


「ぼくも、外に興味がないわけじゃないけど、外に行くと動物たちとあんまり遊べなくなるでしょ?

 ならここで畑とか、美味しい物作ってる方がいいかなあ?」


 ヨハンはビーストテイマーだ。

 相変わらず魔王城に巣をかけるようになったクロトリの世話だけでは無く、今は五組に増えたヤギの親子の面倒もしっかりと見てくれている。


 年中組は七~八歳くらい。

 自分の身の回りの事はちゃんとできているし、やれる。

 秘密も守れると思うから、出たいのなら考えてもいいかと思うけど、早急に対応が必要なのはクリスだけか。


 流石に、ギル、ジョイの五歳年少組とジャック&リュウの双子、四歳未満児組はまだ外には出せない。

 出たいと言われても、もう少し我慢だ。


「ティーナ。

 クリスがいなくなっても大丈夫?

 外に連れていくとアーサーと同じリオンの従者扱いになるから、やっぱり旅に連れてったりして当てにできなくなると思うんだけど…」

「大変は大変ですが、前にも申しました通り、皆さまのお気持ちが一番ですわ。

 無理に押し込めても、良い結果にはなりませんし…」


 うーん。

 どうしよう。


「俺は、預かってもいいぞ」

「ホント!」

「リオン」


 私達の話を聞いていたリオンは、意外な程あっさり快諾してくれる。


「もうすぐ、夏の戦だ。

 その時に二人に力を貸して貰えると助かると言えば助かるかな」

「戦?」「おれたち、リオン兄の役に立てる?」

「二人を戦に出すの?」


 私があからさまに顔を顰めたのが解ったのだろう。

 リオンが、少し困った様に頬をかきながらも、ああ、と頷く。


「夏の戦は、アーヴェントルクが相手だろう?

 ケントニス皇子がやたらと張り切ってたが、今回の戦は勝たないと実際問題でかなりヤバい事になるからな」

「何がヤバいの?」


 遊びの戦、勝っても負けても使い道のない領地が増えるだけ。

 そう思っていたのに、そんな真剣に困る何が起きるだろうか、と考えていたのだけれど、リオンの目は真剣だ。


「次の訪問国はアーヴェントルクだろう? 勝っておかないと向こうに行った時、マリカが見下されると思うんだ」

「あ…」


 言われてみれば、そうだ。


 もう夏の四月に入っているけれど、夏は社交シーズンで忙しいから、行くのは隣国アーヴェントルクとフリュッスカイトと決まっている。


 滞在期間は二週間。

 皇帝陛下のごり押しで、先にアーヴェントルクに向かう事になっていた。


「大聖都の『聖なる乙女』がアーヴェントルク皇女からマリカに変わることもあります。

 ワザと負けて機嫌をとるのも手ですが、やはりここは強さを見せつけておいた方がいいと思いますよ」


 アーヴェントルクの皇帝陛下は『強い相手は認める』と言っていた。

 逆に言えば、弱い相手の話なんぞ聞かない、ってことで…。


「でも、戦は命のやり取りをするところだよ。

 不老不死の人達はいいけど、アーサーやクリスが怪我したり、捕まったりしたら…」


 私の為だ、と言われても、やっぱり私は子どもが剣をとるのも戦場に立つのもイヤだ。


 そういうものだと、少しずつ割り切らずにはいられないけれど、それでもイヤなものはイヤ。

 その気持ちは、きっと変わらない。


「そこは俺が責任を持つ。

 前線に立たせるようなことはしない。最短、最速で片付けて戻って来る。

 こんな、バカらしい戦、もうやりたくないって思わせるんだ」


 その為には使うものは何でも使うし、やるべきことは全部やる、とリオンは言う。


「次の戦、俺は全力で行くつもりだ。

 勿論、今の『俺の全力』で」


「え? でも、それって…」


 揺ぎ無い決意を瞳に宿すリオンの言葉に、私は息を呑む。


 今のリオンの『全力』。

 かつて、精霊の力を全封じしていた時とは違う。

『精霊の獣』の全力。


 以前半封じていた時でさえ、カレドナイトの短剣の力と自身の力で、本来鍵無しでは開かない精霊石の封印を力技で消し飛ばしたというリオンが。


 本気を出して戦ったら……それは……。


「俺の正体、皇王陛下にはお伝えした」

「ホント?」

「元々、気付かれてはいたらしいんだが、この間の神の『降臨』で隠しきれなくなった。

 で、問い詰められて、ライオと相談の上、話した。

 俺と、マリカの正体」

「え? 私も?」

「皇王陛下は、マリカの正体については皇王妃様とタートザッヘ様にのみ伝え秘すると決められました。

 ただ、リオンについてはケントニス皇子、トレランス皇子にも伝えて、的確に使う様に命じられる、とのことです」


 勿論、皇族以外には本当の意味での『正体』は絶対の秘密とされる。

 でもその戦いぶりを見れば、大聖都で偽勇者を破ったことと合わせて噂になるだろう。

 偽勇者とは別格の、戦士の存在は。


「いいの? リオンはそれで。

 アルケディウスに使われるの」


「ああ、そうしてくれと俺が頼んだ。

 この先、マリカは狙われる。大聖都だけじゃなく、世界中から。

 それを蹴散らして、隣に立ち続ける為に、俺は全力を尽くす、と決めたんだ」


 私が眠っている間に起きた『戦い』は、本当に厳しいものであったのだろう。


 リオンやフェイだけじゃない。

 お父様や、皇王陛下も覚悟を決める程の。


 色々と、思いはある。

 リオンが嫌っている『勇者』の呪いを背負って行かなくてはならなくなることとか。

 子ども達が戦場に出る事も、個人レベルで言えば絶対に嫌だ。


 でも……これからもそれと同じか、それ以上の悪夢が起こりうる、と判断したのなら。

 その為に必要な事だと、リオンが、みんなが判断したのだというのなら。


 後はもう、私に口出しする権利は無い。

 信じて、任せるのみだ。


「無理は……しないでね」


「ああ。誰も傷つけず、誰も奪われず、必ず勝つさ。

 俺達の『聖なる乙女』に、勝利を」


 リオンが手にしてくれた口づけは、優しく、暖かで。


 でも、ほんの少しだけ冷たく、哀しかった……。

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