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皇国 ライオット皇子視点 明かされた真実(偽) 後編

 一つ、ティラトリーツェと誓い合ったことがある。

 マリカを皇女、俺の娘として引き取ると決めた時、絶対にその立ち位置を守って見せると。


 マリカは俺の娘。

 アルケディウス皇女であることは決して揺らがせない。


 例え、魔王城の主『精霊の貴人(エルトリンデ)』の転生であることを知らせなくてはならない時が来たとしても。


 俺の娘が、たまたま『精霊の貴人(エルトリンデ)』の転生として生まれただけなのだ、と押し通す。

 ――そう、二人で決めた。


「今、何と言った? ライオット」

「俺の娘、マリカは神に『魔王』の冠を被せられて殺された精霊国女王

精霊の貴人(エルトリンデ)』の生まれ変わり、と申しました。

 加えて言うなら、アルフィリーガは貧民の出ではなく、精霊国の王子。

 二人は『神』の策略に寄って命を落とし、その身を世界変革の為の素材にされました」


 流石に驚愕の表情を隠せない父上は、部屋に残るただ一人の腹心――

 文官長タートザッヘと言葉なく顔を見合わせる。


 無理も無い。


 俺はこの五百年、『魔王』の正体も『神』の陰謀も、歪められたアルフィリーガ伝説についても、一切口を閉ざし続けてきたのだから。


「五百年前のあの日、あの時。

『神』は『精霊の獣(アルフィリーガ)』と『精霊の貴人(エルトリンデ)』を騙し討ちし、彼等の力と肉体を使い、世に不老不死を齎した。

 二人は一度死んだ。

 だが『精霊国』の頂点に立つ二人は『星』の意志の元、生まれ変わることが可能であり、神に奪われた『星』の力を取り戻すために転生を繰り返してきたのだそうです」

「なんということだ……」


 頭を掻きむしりながら父上は息を吐いた。


 父上は幼い頃、先代の『精霊の貴人(エルトリンデ)』に会い、憧れを抱いたと昔話のように何度も語っていたことを思い出す。


 心優しく、精霊の恵みを授けてくれた御方であった、と。

 アルケディウスが『神』よりも『精霊』を奉するのは、それに理由があるのだと、幾度も。


 勇者伝説の真実。

 俺の苦悩。


 それを知りながらも、事情があると気付き、見守りながらも問わずにいてくれた優しい父王。


 この方を騙し続ける罪深さに、自嘲するしかない。

 だがそれは表には出さない。

 己が内にだけ押し込み、俺は続けた。


「俺とて、自分の娘が魔王の転生であったと最初から知っていた訳ではありません。

 マリカや子ども達を大貴族達から盗み出したものの、頼る者もなく――


 俺は一番安心な場所。

 魔王城……いえ精霊国の城に子ども達を連れて行きました。


 城の守護精霊と、島への道筋を自分で見つけ出したガルフに、子ども達を預けたのです。

 そこでの生活の過程で、マリカが『精霊の貴人(エルトリンデ)』の転生だと解っただけです。

 アルフィリーガは最初から記憶を持っていたようですが、今もマリカは『精霊の貴人(エルトリンデ)』だった頃の記憶は無いと言っています」


 ここは嘘ではない。


 俺には、先代精霊国の魔術師がかけた口封じの呪い(まじない)があった。

 精霊国の秘密を語れば心臓が止まる術。

 本人は別にそこまでしなくてもいい、と言ってくれたのだが、俺は自分の信念を示す為にもそうして欲しいと頼んだ。


 結果的に、その『呪い』が俺から精霊国の秘密を聞き出そうとする『神の手先』どもから守ってくれたのだから、皮肉なものだ。


「それで、何故解った?」

「城の守護精霊が、マリカを主と認めたと。

 また『精霊の書物』の『能力』は『精霊の貴人(エルトリンデ)』時代の記憶の断片かもしれないと言われております。

 マリカに与えたサークレットは、かつて俺が『精霊国』で『精霊の貴人(エルトリンデ)』と対した時に託されたもの。

 もしかしたら『あの方』は自分の死を予知し、いつか生まれ変わる日の為に俺に預けたのかも……そう思うようになったのは、つい最近のことですが」


 マリカの偽親や拾い主が現れた時、彼女が所持していた宝。


 それは『精霊の貴人(エルトリンデ)』の転生の時、必ず共に世に生まれる額冠――

 サークレットであろうということは、アルフィリーガから聞いたことだ。


 会議の時点で俺は『マリカのサークレット』は見た事がなかった。

 だが『精霊の貴人(エルトリンデ)』の冠は覚えている。


 その特徴が一致したということは――

 やはりマリカは、本当に彼女の生まれ変わりなのだろう。


「そういう……ことか」


「はい」


 現在、口封じの呪はアルフィリーガとの再会と、魔術師の復活によって解けておりますが、ティラトリーツェ以外に語ったのは初めてです。

『神』は俺に真実を語れば、アルケディウスを滅ぼすと脅しておりました」


 虚実を交えた『告白』を、おそらく父上は信じて下さっただろう。


 そう感じた俺は、振り返ると、くいっと顔を動かした。

 俺の意図を正確に読み取ったアルフィリーガは、真剣な表情で父上の前へ進み出て


「皇王陛下……」


 膝を付き、深く頭を垂れる。


「リオン・アルフィリーガ。ここに。

 恐らくは騎士試験の時から気付いていて下さったのに、知らぬふりを続けましたことをお許し下さい」


 騎士の礼ではない。

 磨き上げられた王子としての礼儀作法。


 五百年前、ただ一度。

 旅の途中、家族に紹介する為に王宮に連れて来た時と同じ仕草。


 父上なら、この姿を見れば――

 こいつが本物だと解るはずだ。


「いや、気にするな。其方の立場を考えれば当然だ」


 父上の眼差しには、既に理解が宿っていた。


「むしろ、勇者の転生、精霊国王子をアルケディウスが抱え、縛る事を申し訳なく思う」

「いいえ」


 頭を振るアルフィリーガ。


 かつて騎士試験を受け、貴族となると決めた時から、その瞳の色は全く変わっていない。

 真っ直ぐで、揺るぎなく、決して迷いを見せない光だ。


「今世、俺はアルケディウスに生を受け、貴族家で働かされていたところを、ライオに救われました。

 おかげで数百年ぶりに魔王城に戻るも叶い、『精霊の貴人』との再会も果たすことができたのです。

 ライオとこの国への恩を返す為。

 そしてあの方の転生体であるマリカを救い守り、『神』から正しき命の営みと『星』を取り戻す為に――

 命と存在の全てを捧げると誓っています」


「そうか……」


 父上は深く頷き、噛み締めるように言葉を飲み込んだ。


 そして視線を上げる。

 その眼差しは、皇王の魔術師へと向けられた。


「フェイ。其方も魔王城育ちだな」

「はい」

「其方が採用の時に申した『忠誠を誓った主』はアルフィリーガの事か」

「御意。リオンとマリカにございます」


 アルフィリーガの一歩後ろに跪くフェイ。


「其方や、ゲシュマック商会の子等も魔王城で、城に残る守護精霊の教育を受けたのだな」

「はい」

「成程。

 であれば通常ではありえぬ程の天才児達の乱出は納得ができる」


 実際のところ、彼等に教育を与えたのは異世界転生者であるマリカなのだが――

 流石にそれは言えない。

 言う必要もないだろう。


「この事実を知るのは?」

「ゲシュマック商会の首脳部を除けば、俺とヴィクス、ティラトリーツェとミーティラのみです。

 マリカの側近では魔王城の教育を受けたセリーナ。


 後の者は知りません。

 護衛士カマラには近いうちに知らせるつもりだ、とマリカは言っていましたが」


 うむ、と頷く父上。


 その表情は完全に皇王のそれになっていた。

 国と、この先の未来を計算する王の顔。


「確かに吹聴する事では無い。それくらいで良いだろう。

 ケントニス達にもそこまで言う必要は無いな。魔王城や精霊国については秘せよ。

 リオンがアルフィリーガの転生であることは言っても構わんだろうが……」

「勇者の転生が配下、と調子に乗りませんか?」

「そこまで愚かではなかろう。

 あれはあれで人並み以上に『勇者アルフィリーガ』に敬意をもっておったのだぞ」

「そうなのですか?」


 俺への当たりの強さからはとても想像ができなかったが、父皇王の眼差しは柔らかい。


「お前の手前、口には絶対に出さぬだろうがな。

 万が一、理不尽な命令がもしあれば、拒否、意見を許す」

「「ありがとうございます」」


 皇王陛下の決定に、俺とアルフィリーガは揃って頭を下げる。


 父皇王が認める命令への拒否権があるのなら、夏の戦でアルフィリーガが兄上の配下に下っても、そう理不尽な事にはならないだろう。


「アルフィリーガ、いやリオン」

「はい、皇王陛下」


 呼びかける父上の瞳には優しい光が宿っている。

 息子、孫娘を案じる保護者の眼差しだ。


「マリカを頼む。

 アレはアルケディウス、いや星の宝と言うべき存在。

 人の世や心を、一切寸借せぬ神に寄越せと言われて、はいそうですか、とくれてやるわけにはいかぬ」

「俺は、今世、その為に生まれたと思っております。

 必ずや。わが命に変えても」

「うむ、だが命を投げ捨てるではないぞ。


 其方らを失って一人残されたライオットの慟哭を私は覚えている。

 あんなもの……二度と見たくはない」


「……心します」


 父上の言葉に神妙に頭を下げるアルフィリーガ。

 俺は口角が上がるのを押さえきれなかった。

 これに関しては、もっと言ってやってくれ、という気持ちになる。


 人の気持ちには聡いくせに、自分に向けられる心配や思いには全く考慮を入れない。

 それがこいつらの悪い癖だ。


「ライオット。今回の件についての私の決定を伝える。聞け」

「はい、父上」


 声は鋭く、重い。

 俺は背筋を伸ばした。


 アルフィリーガとフェイも、静かに膝を付き顔を上げている。


「まず、マリカの転生については当面伏せる。

 皇王妃以外には皇子達にも語らぬ予定だ。

『神』もそこには触れなかった。

 神に見込まれた『聖なる乙女』の力はお前の娘であるから。

 二王国の血を継ぐ『英傑』の才と通し、余計な事は言わなくていい」

「解りました」

「大聖都からの『乙女』の派遣要請は受けるが、抱え込みについては国として断固拒否する。

 そういう事情があるのなら、マリカを大聖都に渡せば、おそらく二度と戻っては来ない」

「ありがとうございます」


 大聖都は、おそらくアルケディウスがマリカを手放さないであろうことを理解している。

 だから、秘宝を渡し『神』に直接繋いだのだ。


 大神殿で行事前にそれをしなかったのは――

 あの事態が大神殿で起きれば、『神の降臨』と大騒ぎになるからだろうか。


 おそらく、マリカを『神』が連れ去れると絶対の自信をもっての行動だったのだろう。


 実際、俺やアルフィリーガだけではマリカを守り切れなかった。


 父上やフェイがいたからこそ成し遂げられた奇跡だ。


「逆にリオンの正体。

 勇者アルフィリーガの転生はアルケディウス上層部には伝えようと思う。無論、他国には知らせぬが。

 今後、マリカには今まで以上に他国や大聖都からの魔の手が伸びるだろう。

 それを防ぐ為には婚約者である其方に、他者を黙らせる力と立場が無くてはならない。

 勇者の転生を鎖につなぎ、良いように使う様で申し訳なくはあるが……」

 父上が目を伏せる。


「いいえ」


 アルフィリーガは静かに首を振った。


「お気遣いありがとうございます。

 ですがその点に関しては、俺自身が納得している事です。

 俺は『聖なる乙女』を守り、親友ライオの力になる。

 それが適うのであれば、立場などどうでもいいのです」

「感謝する。

 我が息子と、孫を頼む」

「はい」

「アルフィリーガ……」


 親友、とはっきり口に出されるとやはり面映ゆい。


 今は親子ほども外見は離れてしまっているが、俺にとってはこいつは五百年前と同じ。

 孤独を理解し、寄り添ってくれたただ一人の同胞。

 そして、親友。


 あいつもそう思ってくれているなら、それ以上の喜びはない。

 とりあえず、十分に納得のいく形で話がまとまったことに、俺は胸を撫で下ろしていた。

 その時だった。


「気を抜くでないぞ。ライオット」


 父上の鋭い声が降ってきた。


「まだ、マリカの諸国漫遊の旅は始まったばかりだ。

 しかも友好国であったプラーミァ、エルディランドと違い、毎年戦をするアーヴェントルクにフリュッスカイト。

 ほぼ交流がない上に、神国である秋二国。

 厳しい旅になるのは目に見えている」


「はっ!」


 背筋が伸びる。


「加えて、だ」


 父上は続けた。


「マリカは二カ国の精霊の血を継ぐが故に『聖なる乙女』として稀なる才を顕した。とするのなら――

『三国の血を引く子どもを産ませたら、どんな英傑が生まれるか』

 と考える者は当然出て来るぞ」

「はい……申し訳ありません。失念しておりました」


 今まで国家同士の結婚など皆無の五百年であったが、各国の王位継承者は男ばかり。

 その中に二カ国の血を引く『聖なる乙女』が現れれば――


 各国にとっては、英傑製造器だ。

 我が国の血を引く英傑を産ませようと、強引な求婚が来ることなど容易に想像できる。


「不老不死前は『聖なる乙女』の取り合いで戦争が起きる事さえあったという。

 その為、暗黙の了解の様な形で国同士の政略結婚は避けられるようになったが。


 お前の母フィエラロートの嫁入りにも、生まれた其方の所属についても、語るも面倒な騒動があったのだぞ」


「はい。聞いております」


 父とプラーミァ王女であった母の結婚は恋愛結婚であったこともあり、当時はとんでもない騒動になったのだそうだ。


 当時、プラーミァに現王太后であるもう一人の『聖なる乙女』がいたこと。

 当人が第二妃という無礼を呑み込んでも嫁ぐと言い張ったこと。

 類まれなる武人であった母を、止められる者が誰もいなかったこと。


 どれか一つでも欠けていれば、俺は生まれていなかっただろう。


 そして俺を産んで間もなく亡くなった母が、最期の遺言としてアルケディウスに俺を、と言い残し、兄である前王がそれを尊重しなければ


『次期プラーミァ国王はお前だったかもしれんな』 


 そう義兄は冗談交じりで言っていた。

 


「リオン。アルケディウスの騎士貴族としての其方に命ずる」

「はい」

「マリカに向かう諸国の求婚、一切を蹴散らせ。

 プラーミァ方式で構わん」


「承知いたしました」


 アルフィリーガは迷いなく頷いた。


「フェイは今まで通り、二人の側について守り、助けよ」

「畏まりました」

「採用の時約束した通り、我が命より時として二人を優先する事を許す」

「ありがとうございます」


 これで、当面マリカに危機が及ぶことはないだろう。


 騒動が起きないとは言わない。

 だが、世界最強の男達が護衛についているのだから。


「マリカの意識が戻りましたら、数日魔王城に戻し療養させたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

「許可する。だが……そんなにあっさりと行き来できるのか?」

「魔王城に繋がる転移の門は、現在二つ。そのどちらもアルケディウスにございますので……」

「なんだと! いつの間にそのようなものを……」


 驚愕する皇王陛下と文官長に、俺は頭を下げた。

 自国に魔王城に繋がる扉があると知れば、王が目を向けるのは当然だ。


 俺だって勝手に作られた時には驚いたのだから。


「……ライオット」

「なんでございましょうか?」

「私を魔王城……精霊国に連れていけ、と言ったら困るか?」

「陛下!」


 今まで沈黙していた文官長が、思わず声を張り上げた。

 こんなことが父上にできるのは、幼い頃から側に控える腹心――

 文官長タートザッヘだけだろう。けれど


「そのようなご提案を勝手になさらないで下さい。

 行動予定や護衛計画などを組み直さねばなりません」


 俺は思わず瞬きをした。

 ……計画を組み直せばいいのか?


「皇子、かつてお見せ下さいました精霊術の秘術書。あれは魔王城の蔵書でございますな?」

「あ、ああそうだ……」


 そう言えば、と思い出す。以前、通信鏡の基礎理論を始めとする魔術道具の作り方の本を、第三皇子家の蔵書と偽って表に出したことがあっと。


「では近日中に予定を組み直しますので、魔王城の島へご案内頂けないでしょうか」

「お前も来る?」

「ぜひに。あのような興味深い書物があるのであれば一度この目で確かめてみたいものです」

「いや。蔵書のある魔王城は不老不死者は入れないぞ。本くらいなら持ってくるが」

「そうなのか? 私もぜひ精霊国の城に入ってみたかったのだが……。

 無理なら外からだけでも……」

「せめて城の主であるマリカの復調を待ってからになさって下さい」

「解った……」

「では改めて計画を立て直します」

「タートザッヘ、お前まで……」


 さっきまでの威厳高く思慮深い国王はどこへやら。

 肩を落とす父上と文官長は、まるで子どものようだった。

 俺はアルフィリーガやフェイと視線を合わせ、思わず笑ってしまった。


 安堵する。


 魔王の転生と知っても、態度を変えることなく接してくれる父上に。

 正体が知れたと知れば、マリカは驚くだろう。

 だが、その時は言ってやろう。大丈夫。


 俺達は、もう家族なのだから、と。

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