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大聖都 断れぬ招待

 私達がエルディランドの国境を越え、大聖都に入ったのは、首都を出て丸二日後の事だった。

 エルディランドも国境直前に宿があり、そこから大聖都に入ると一気にルペア・カディナまで行ってしまうらしい。


「とりあえず、別れの言葉は言いません。

 またお会いしましょう」


 国境まで見送りに来て下さったユン君に見送られ、私達は大聖都へと入ったのだ。


 ここからアルケディウス王都までは丸三日。

 アルケディウス国内に入るまでは一日半、というところだろうか。

 つまり、どうしても大聖都で一泊しなければならない訳で。


 手続きを終えて国境の検問の館を出たと同時、銀鎧の騎士団が私達の前に現れた。


 道を塞ぐ、ただならぬ気配。

 リオンとフェイが、私を庇うように前に立ちはだかってくれる。

 空気が一瞬で張り詰め、ついさっきまで旅の終わりを思っていた気持ちが、ぐっと現実に引き戻された。


 一団の中から一人が進み出ると、兜を脱ぎ、膝を付いた。


「貴方は……」


 騎士団を指揮する者の顔に覚えがある。

 偽勇者エリクスでは無く、彼は……


「新年の戦い以来でございましょうか? 『聖なる乙女』

 大聖都護衛騎士団長 レドウニツェにございます」


 やっぱり、新年の参賀の時に会った護衛騎士団の団長だ。

 あの時には兜も被っていたから、髪の毛は見えなかったけれども、金髪、緑の瞳。

 二十代から三十代前半。

 若く凛々しい、絵に描いたような『騎士団長』である。


「神官長の命により、皆様方の護衛とお迎えに参りました」


 彼の挨拶と同時に、後ろの騎士達もザザッと跪く。

 整い過ぎた動きが、却って有無を言わせぬ圧のように感じられた。


「護衛は、間に合っておりますし、帰路の宿も手配してあるので、お戻りを……と言っても、多分、無理なのですね」

「はい」


 なるべくわざとらしく頬に手を当て、困ったわのポーズ。

 でも、そんな私の様子を気に留める気配も無く、レドウニツェは楽しげに頷いた。


「プラーミァ、エルディランドでも『聖なる乙女』の活躍は既に大聖都にも轟いております。

 ぜひともお話を伺いたいと、神官長の仰せ。

 アルケディウスがどのような帰路を想定されているかは存じませんが、ぜひともルペア・カディナにお立ち寄り下さい」


 ちょっと、……イラッ。

 逆らえないって解って言ってるんだな。


「私、二国を巡る旅で疲れておりますの。

 宿でゆっくりと休みたいのですが……」

「ルペア・カディナの料理人達は、姫君のご指導を賜りたいと心待ちにしているようです。

 お疲れであるならそれはそれで構いませんが、貿易面でも色々とご活躍の様子。

 神官長にご報告の際に、美味の後押しがあれば、今後の食料品の輸出入に関しても良い結果を頂けるやもしれませんよ」

「報告の為の神官長との謁見は絶対なのですか?」

「はい。

 今夕、神官長が直々にお話を聞きたいと、時間を取っておいでです。

 正式な謁見とするか、食事をしながらの気の置けない雰囲気での報告にするかは姫君にお任せしますが……」


 イライラッ。

 既に勝利を確信している感じの態度が鼻につく!


 今後、プラーミァやエルディランドから運ばれてくる食材に下手に関税とかかけられるのも面倒だし、公式の場で『精霊神様復活の話』をしにくいのも確かだけど……。

 完全に相手のペースに嵌められている気がして、ムカつく。

 ムカつく……けど、仕方がない。

 どちらにしても、私達に最終的に拒否権は無いのだ。


「解りました。

 到着は夜になるでしょうから、簡単なものしか作りませんけど。

 あと、レシピ代はしっかり頂きますけれど」

「姫君にとっては簡単なものでも、我らにとっては至上の美味。

 では、先触れを出し、準備をさせておきましょう」


 という訳で、強制的にルペア・カディナでの一泊が決まった。

 まあ、想定の範囲内ではある。


「面倒なことになりましたが、馴染みのある場所で休める、と良く思う事にしましょう。

 皆さん、あと少し頑張って下さい」


 私は随員達に声をかけながら、走り出す馬車の中で、ほんの一刻前。

 エルディランドでの別れを思い出していた。


「……くれぐれも『神』の手の者達には気を付けて……」


 最後にユン君は、そう囁いていった。

 私は人の目があるので、ユン君と二人で話す事はできなかったけれど、リオンとフェイは時間を見計らっては彼の所に行き、情報共有をしたらしい。

 だから、クラージュさんは大よその事情を知っている。


「彼等は、貴方達を取り込もうと狙ってくる。二人が奪われれば我々の負けです。

 どうか、油断無きよう……」


 私が直接聞けたのはそこまでであったのだけれども、クラージュさんも星の転生者。

 私達が知らない、過去の事情を知っている。

 二人の話と、今の現状を合わせて何か、気付いた事があるようだ。


 貴女、ではなく貴方達。

 姫君、ではなく二人。


 つまり、この場合のもう一人は、間違いなくリオンを意味する。

 リオンにも奪われてはいけない理由があるのだ。

 勿論、それは戦力的な意味もあるけれど、それとはきっと別の何かが……。


 リオンとフェイと打ち合わせをしたいけれど、今はそれも無理だ。

 周囲に人目が多すぎる。

 料理をしろと言われている以上、通信鏡でアルケディウスと連絡を取るのが精いっぱいだろう。


 とりあえず、どう説明するか決めておかないといけないかな。

 馬車の中で私は、周囲の様子を見る余裕も無く、通信鏡でのお祖父様への相談内容を頭の中で纏めていた。


 馬車で大聖都の首都 ルペア・カディナに到着後、私は身支度を整える間もなく厨房へと駆り出される。

 ルペア・カディナへの到着は火の刻も半ばを過ぎていたというのに、空の刻には会見を、と言われれば、本当に急ぐしかない。


 ちなみに料理長グスターティオ様はアルケディウスに出立したのだそうで、残っているのは副料理長さん。

 顔は前の時にも合わせたから知っている。


「今回はエルディランド特産のリアを使わせて頂きます」

「リア……ですか?」


 大聖都の料理人さん達は怪訝そうな顔で、私が差し出した俵の中のリア――米に手を触れる。

 産地のエルディランドでさえあんまり食べないというから、やはりまだ一般的ではないのだろう。

 でも、小麦からパンとかを作る時間はないし、リアの輸入に口添えしてもらうには、リアの味を知ってもらった方がいい。

 ちなみに竈炊きのご飯、作るのにそれほど時間はかからないのだ。

 蒸らす時間、炊く前に水に浸す時間を調節すれば、一刻内で事足りる。

 大聖都には藁はないので薪炊きだけど。


 前菜はパータトとキャロのきんぴら仕立て。

 サラダはシャロとサラダチキンのキトロン果汁仕立て。

 スープは昆布出汁と醤油で味を調節した吸い物。

 ベーコンと、エルディランドで貰って来た春大根の葉っぱも使った、さっぱりだけどコクのある味わいだ。

 ご飯はおむすびに。

 箸やスプーンで未知の食材を食べるよりは、食べやすいと思う。

 メインは簡単にチキンソテー。

 っていうか、他のもの作ってらんない。

 でも、チスノークを使い、醤油、酒、片栗粉を使って味ととろみをつければ、今迄の塩味メインのローストチキンとは一味違うものになる筈だ。

 デザートは火を使っている時間がないので、エルディランドで作り置きしてきた米粉のクッキーとチョコレートを出す。

 私の旅の間の癒しの予定だったのに。

 ぐっすん。


 エルディランドでも料理を手伝ってくれて、基本料理は覚えたセリーナとノアール。

 あと、手伝いを買って出てくれたアルとハンスさんのおかげで、なんとか刻限内に料理を完成させることができた。


 盛り付けは料理人さん達にお任せして、私は午餐会場に向かう。

 ルペア・カディナに長居しない為に、報告と会見の場を午餐に合わせてもらったので、本当にギリギリだった。

 衣装を着替えている余裕も無い。

 髪だけ軽く灰や埃を払い、料理用のエプロンを外して出陣だ。


 リオンとカマラを護衛に。

 側仕え兼給仕担当がミーティラ様。

 フェイは貿易などの計画を問われた時の為の文官代表になる。


 私達は料理を終えると、大神殿へと案内された。

 連れていかれたのは一般市民などが参賀する表の場所では無く、裏手側。

 国王会議の行われる離宮では無く、大神殿のプライベートエリア……に分類されるのだと思う。

 だって普通、神殿で来賓を招いての食事会なんてしないもんね。


 で、中に入ってビックリした。


「え?」


 ルペア・カディナの重鎮と思われる存在が十人近く席に付く、小さめではあるけれど豪奢な食事会場に居並ぶ全員が、私を見つめている。

 目に見えて解る賞賛を眼に宿し、胸に敬意を表す手を当てて。


 それは本当に『全員』。

 最奥に座すルペア・カディナの長。

 神官長フェデリクス・アルディクスの名を持つ人物も、例外なく。

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