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地国 踊るワイルドカード

 話は最速で進んだ。


 本当に、驚くほどに反対とかの声は上がらないまま、翌日の朝の地の刻。

 エルディランドの神殿に、私は立っている。

 王妃様の舞の衣装を、無理やり詰めたエルディランドの衣装を身に着けて。


 まだ朝の光が柔らかく神殿の回廊に差し込んでいる。

 冷たい石の床からは、ひんやりとした気配が伝わってきて、裸足の足裏にその温度がじんわりと広がっていく。

 心臓が少しだけ速く打っているのを、自分でもはっきり感じていた。


 エルディランドの衣装はやっぱり和風、というか中華風だった。

 袴のようなスカートに着物のような前合わせのトップス。

 上着はシースルー風でふわふわとしている。

 天女の羽衣のようだ。

 もとは全然サイズの違う王妃様の服を無理やり裾や袖を切って丈と長さを合わせただけなので、着辛いけれど、とりあえず動きの邪魔にならなければいい。


 袖を少し持ち上げてみる。

 布は軽く、風を含むと柔らかく揺れる。

 舞うには悪くない。

 多少窮屈でも、これなら動ける。


『王子の回復とエルディランドに実りが齎されることを願って『聖なる乙女』が舞を捧げたい』

 とお願いしたら、


『良いでしょう。むしろこちらからお願いしたい。

 どうぞ、エルディランドに『聖なる乙女』の祝福を』


 大王陛下はほんの僅かの逡巡もなく頷いて下さった。

 その声は落ち着いていて、けれど奥にかすかな期待が滲んでいるようにも聞こえた。

 どうやら事前に王子とユン君(クラージュさん)、加えて第二王子の援護もあったようだ。


『エルディランドには一時『聖なる乙女』がいて舞を捧げていた時期がありました。

 その時と『聖なる乙女』を失った後の収穫量は見るも無残な差でして。

 王妃も王子の子ではあったものの、王族の血を引く者ではありませんでしたから、今でも回復はしていないのです』


 最後の『聖なる乙女』はきっとスーダイ様のお母様。

 王妃様は、精霊の力を持たないアルケディウスでいうところの大貴族の娘だから、伝達率は良くないのだろう。


 あれ?

 じゃあ、もしかしたらシュンシ―さんみたいな、精霊の力を持つ子どもだったら少しはマシなのかな?


 そんなことをぼんやりと考える。

 けれど今は、それを確かめている時間はない。


 と思いながらも話を詰め、衣装を直して貰って、神殿の許可を得て、突貫一日で私は、エルディランドで奉納舞を行う事になった。


 参列者は神殿の神殿長、楽師さん。

 大王陛下、スーダイ王子。王妃様。

 大王陛下の護衛のユン君と、スーダイ王子の護衛のウーシン様。

 あとリオン+精霊獣ピュールだ。


 ピュールは奥の間に着くまでは私が抱いて、後はリオンにもっていてもらう。


「これが、噂に聞くプラーミァの精霊獣でございますか?」


 エルディランドの神殿長はピュールを見て、にんまりとした笑みを浮かべていた。

 興味深そうに目を細め、まるで珍しい宝物でも眺めるような視線を向けている。


 どうやら神殿側の反対も殆ど無かったのは、神殿側のネットワークでプラーミァの『精霊神』復活の知らせが伝わっていたかららしい。

 でも、王家には伝わってなかったので、私のペットが精霊獣だと知って大王陛下とスーダイ王子はビックリしてた。


 知ってたなら教えてあげなよ。

 本当に。


 胸の奥で小さく文句を言いながらも、私はそっとピュールを撫でる。

 ふわふわの毛が指に触れて、少しだけ緊張が和らいだ。


 ゆっくりとリオンにエスコートされて、神殿の奥に向かう。


 構造はやっぱり七国ほぼ同じっぽい。

 重い扉の向こうへ、静かな足音が響く。

 神殿の奥へ進むほど、空気が変わっていくのがわかる。


 同じ手順で隠し扉の奥に入ると、白い部屋。


 薄い黄色の優しい雰囲気のタイルが敷き詰められた部屋の中央、同じように無色透明な水晶が浮かんでいた。

 淡い光を受けて、水晶は静かに輝いている。


 水晶の前に跪き、静かに挨拶の祈りを贈ると、小さく黄色の明かりが灯る。


 空気がふっと変わった。


 エルディランドの人達が騒めいたのが解った。

 息を呑むような、驚きと期待が混じったざわめき。

 王子だけは見えないので、意味が解らない様子だけれど。


 プラーミァの時にはそこまで考えられなかったけれど、多分、精霊にはそれぞれの得意分野があってそれに特化しているのだ。


 火の精霊、風の精霊、大地の精霊、水の精霊。

 精霊石もそれに合わせた形で形作られるから、精霊術士、魔術師は本人の性質もあるけれど杖に応じた力を発揮できるようになるのだと思う。


 各国の王族は『七精霊』からそれに対応した力を受け継いでいる。

 だから各国の王族の血を継ぐ者が、力を捧げる事で『精霊神』は力を回復し、さらに力を発揮させることができるようになる。というわけだ。


 なら、姫じゃなくって王子でも力を捧げる事はできるんじゃないか、と思うけどまあ、それは後で聞いてみるとして。


 私、『精霊の貴人(エルトリンデ)』はワイルドカード。とクラージュさんは言った。


 向こうの世界のパーティゲームを思い出す。

 同じ色か数字を繋げていくカードゲーム。


 ワイルドカード、とはその中で使われる、どんな色にでもなれるカードだ。


 私は、全色の力を持っている。

 どこの国の『精霊神』にも力が届くというのはそういう意味だろう。


 言い訳も後で考えよう。

 二カ国の血が混ざっているからとか、言い逃れの方法は考えつかなくも無いし。


 今はただ『精霊神』を復活させ、王子を回復させることだけを願って。


 胸の奥で祈る。

 どうか、届いてほしい。


 私が祈りを終え、立ち上がると楽師が音楽を奏で始める。


 舞の音楽は各国共通。

 ゆったりとした旋律が神殿の中に広がり、空気が震える。


 拙いけれど同じ振り付けで、真摯に『語りかける』


 私の力をもって行っていいです。

 必要なら封印を解くのもお手伝いします。


 その代り、スーダイ王子に祝福を。

 目をどうか、治してあげて下さい。


(うわっ! 吸い取られる……)


 私の祈りが聞こえたのだろうか。

 凄い勢いで、力と体力が吸い取られて行くのを感じる。


 胸の奥から何かが引き抜かれていく感覚。

 体の奥の奥から、力が流れ出していく。


 精霊石の炎も色をぐんぐんと大きく、力を増していく。

 黄色の光が神殿を満たしていく。


 プラーミァの時より、ペース早い。


 このままだと、ヤバみ?

 全部吸い取られたら、封印を解く力、なくなっちゃわないかな?


 そんな不安が頭をよぎる。

 と思ったと同時。


 部屋全体が爆発したような光に包まれた。

 赤と黄色が美しく混じりあった不思議な色。

 まるで炎と大地が一つに溶け合ったような光。


 視界が真っ白に染まる。

 そして……


「あっ」


 とぷん、とあの時と同じ感覚がして、私はまた精霊の空間に落っこちた。


 無重力、世にも不思議な空間へ、と。

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