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地国 魔性襲撃の表と影

 森を抜け、王都に、そして王宮へ戻ってきた私達は、とりあえず大王陛下へ今回の報告に上がらせて頂いた。

 長い一日の終わり。

 王宮の静かな謁見の間に足を踏み入れた時、ようやく胸の奥に溜まっていた緊張が少しだけほどける。

 怪我をしたスーダイ様は念の為、自分の宮に早めに戻ったので、事情説明をするのはユン君だ。


「森で魔性に襲われた……ですか」

「はい。明確に王子と姫君を狙っていたように思います」

「やはりそうですか……。困りましたね。

 また、アレが狙われるとは……」


 はい?

 私はリオンと顔を見合わせる。


 精霊を喰らう魔性が人間――私達を襲ってきたのは、私とリオンを狙っての事だと思っていた。

 けれど大王様とユン君の考えは違うらしい。


 狙いは、スーダイ様?


「姫君。

 今回はエルディランドの厄介ごとに巻き込んでしまい、申しわけありません。

 実はスーダイを襲う魔性の襲撃は、初めての事では無いのです」

「え? それは……どういうことなのでしょうか?」


 私の横で、リオンやフェイも目を見開いている。

 部屋の空気が、ほんの少しだけ重く沈んだ。


「姫君は失礼ながら、王宮に入られたのは最近とうかがっております。

 なので簡単にご説明させて頂く事をお許し下さい」

「なんでしょうか?」

「『王族』というのは『七精霊の子』と言われる通り、精霊の力を強く宿しております。

 古くは杖など媒体を使用しなくても精霊の力を借りて魔術を行えたと言われており、祭祀の役割なども担っておりました」

「はい。それはうっすらと皇王様から伺ったことがあります」

「それゆえ、でしょうか。

 人は襲わぬ筈の魔性が王族を狙う事は、古い昔から、特にエルディランドではよくあることであったのです」

「そうなのですか?」


 大王様がおっしゃるには、


 魔術師の起源は『七精霊の子』――つまり王族で、『魔王』と『神』が現れるまでは王が精霊の力を仲介し、大地に恵みを齎していた。


 世界が闇に覆われ、『魔王』と『魔性』が現れるようになった時。

 『王族』もまた、魔性に狙われる事が多くあった――ということらしい。 


「エルディランドは農業を主産業としていた。精霊の恵みが深いから、でしょうか。

 魔性の目撃事例も多かったのです。

 不老不死世界になってからは格段に少なくなりましたが、それでも稀に」

「知りませんでした」


 そう言えば、大聖都も畑があるせいか、神のお膝元であっても魔性の目撃、襲撃事例はあるという

 魔性を作るのは『神』で、精霊の力を魔性を通じて搾取していたらしい

 大神官は魔性を操れたっぽいけど、神官長は魔性に関与できないと言っていた。

 だから今は、野放しなのだろう。


「城の中は魔性が入り込めない、不思議な力が働いているようです。

 ですが外に出た時、王族が狙われた事例は多く報告されています」

「それは他の国もそうなのでしょうか?」

「おそらくは。

 ただ、エルディランドは他国より魔性が現れる事が多く、それ故に王族が襲われる事も多かったのかもしれません」


 数が多ければ、それだけエンカウント率も高くなる。

 プラーミァでの外出時、襲われずに済んだのは偏にエルディランドより魔性の総数が少なく、出会わなかったから?

 運が良かっただけなのかもしれない。


「スーダイは本来なら在りえぬ程に王家の血が濃い子です。

 直系王族二人を親にもっておりますから。

 本来なら私が姪を妻にするというのは望ましい事では無かったのですが、病床の兄より身体の弱い娘を王位と共に託されては断ることもできず。

 お恥ずかしい限りですが……」


 スーダイ様の自慢話を話半分で聞いていたけれど、実際に彼はエルディランドの精霊に愛されていて、大地の声を聴く才能があるのかもしれない。


「前にもお話しました通り、エルディランドは近年、魔性の出現率が上がっています。

 不老不死時代になってからはずっと、目撃例さえ稀有な程であったのですが、ここ百年弱。

 明らかに魔性の数は増えているのです。

 リア、ソーハの畑が増えた為、精霊の力が増し、それを餌にする魔性が増えたのではないかと推察されていますが。

 と同時、スーダイが魔性に襲われる事例も何度か発生しています。

 本人が覚えているかどうか解りませんが、不老不死以前に五回。

 ここ百年の間にも両手を超える程度には。いずれも戦の時でしたので大事には至っておりません」

「……では、まさかスーダイ王子のお仕事がグアン様に譲られたのは?」

「……そればかりが理由ではありません。

 ですが第一王子を失う訳には参りませんでした」


 大王様は柔らかく微笑む。


「二国の精霊の血を受け継ぐ者には英傑が出やすいという話や見解もあります。ライオット皇子や姫君を見るに、あながち間違ってはいないようですが……。贔屓目ですが、精霊の才においてスーダイは姫君たちに匹敵するのではないか、と」


 そっか。

 スーダイ様はちゃんと愛されて守られていたんだ。


 胸の奥が、少しだけ温かくなり、ホッとした。


「ただ、それが為にスーダイは覇気を失い、王子としての仕事さえも厭う様になり本末転倒

 なんとかせねばと思っていた所に姫君と出会い、役に立たんと奮起したのでやらせてみたのですが、まさか魔性を引き寄せるとは……。

 姫君を危ない目に合せてしまい、申しわけありませんでした」

「いいえ、そんな……」


 王様は謝ってくださる。

 けれどその話を聞いても、多分、今回狙われたのは私達の方だと思う。


 スーダイ様は、とばっちりを喰らった可能性が高い。

 そんなことは、とても言えないけれど……。


「姫君……」


 大王様が、迷うような瞳で私を見つめた。


「はい」

「一度だけ、お伺いいたします。

 あの時は戯言と一蹴しましたが、確かに、それが本当に叶えばどれほどいいか、と私も思わずにはいられませんでした。

 ……スーダイに寄り添って頂く訳には参りませんか?」 


 大王陛下のお気持ちも解る。

 スーダイ王子の人格や能力、精神も、今なら、私も決して嫌いではない。


 けれど――。


「申しわけありません。ご期待に副う事はできません」


 私は丁重に謝罪した。


「そうで……ございましょうな」


 寂しげに微笑む大王陛下。

 でもこればっかりは仕方ない。


「二国の精霊の加護を受ける聖なる乙女。

 しかも我々王族でさえ知らぬ深淵なる知識と、人々を力づける料理の技術を持つ皇女。

 一国で抱えて良いわけがありません。

 失礼しました。お忘れ下さい」


 変わらない私の返事を、大王陛下は受け入れて下さった。


「とりあえず、王宮は『七精霊』が作り出した聖なる宮。

 王宮にいる間は、魔性どもが近寄って来る事は無いでしょう。

 ご安心下さい」

「ありがとうございます」

「エルディランドでの滞在期間も半分を過ぎました。

 森の調査は引き続きエルディランドで行っていきますので、姫君には宮からあまりお出にならず、どうか時間の許す限り、お知恵とお力をこの国の未来の為にお貸し頂ければ幸いです」

「私でできることであれば、全力で……」


 その後はフィールドワークの結果を報告して、私は部屋を辞した。

 エルディランドも色々大変だ。

 スーダイ様も苦労してきたんだな、と思う。


 精霊の力が強いというのも、良い事ばかりじゃない。

 それは解っている。


 


「よし、明日の調理実習、今日見つけた野菜などで美味しいものを作ろう。

 小豆であんこもどき、できるかな?」


 せめて食事でスーダイ様を元気づけてあげたいな――と考えた矢先の事だった。


 スーダイ様が倒れたという連絡を受けたのは……。

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