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火国 覚醒の王子 前編

 深夜。


 空気を切り裂く風の音が、静寂の中、やけにはっきりと耳に届く。

 昼間の喧騒が嘘のように消え去った訓練場は、月光に照らされて白く沈黙していた。


 その中央で、地面を蹴り戦うのは、若くしなやかな獣が二匹。


 華やかだった昼の戦いと同じ場所で、こんな戦いが行われている事を知ったら、誰もが目を見開き、そして悔しがることだろう。

 昼とは違う、観客のいない真剣勝負。名誉も歓声もなく、ただ己の誇りだけを賭けた戦い。


 多くの者が眠る真夜中、私は固唾を飲んで見守っていた。

 アルケディウス皇女の婚約者、騎士貴族リオンと、プラーミァ国王子 グランダルフィの決闘を。





 リオンの元に、贈り物の美女と言う名の少女暗殺者が送り込まれた次の日。


 私は王子様、王子妃様との会見の後、国王陛下と王妃様にも謁見を申し込んだ。

 応接の間は重苦しい沈黙に包まれ、側近達もただならぬ空気を察している。


「国王陛下。昨晩、アルケディウスの使節団に暗殺者が送り込まれました」

「なんだと!」


 雷鳴のような声が響き、室内の空気が震える。


 そして美女、というか少女が送り込まれた過程、捕えた経過、その後の事情聴取から判明した首謀者と思しき人物まで、隠し立てせずに説明する。

 事実だけを、冷静に。けれど決して感情を殺さずに。


「ヘスペリオスの奴め! そこまで恥知らずであったか?

 正々堂々と挑んだ戦いに敗れたというのに負けを認めるどころか、暗殺だと? 恥知らずにも程がある!」


 激昂する国王陛下。

 無理も無い。


 不老不死世界になってほぼ絶滅状態だとしても、戦士国において――いや、どの世界であろうとも『暗殺』という手段が褒められることは無い筈だ。

 ましてや子どもを使うなど。


「犯人はどうした? キツイ罰を与えてくれる!」

「いいえ。それでは意味がありません。彼女はまだ子ども。

 しかも最初から利用され、捨てられた哀れな犠牲者なのです。

 お許し頂けるなら、アルケディウスで引き取りたいと存じます」

「……刃を向けて来た暗殺者を懐に入れられる、と?」


 王子と同じように王妃様が心配して下さるけれど、私の答えは同じだ。


「その方がお互いの為にも安全ですから」


 守るべきは、報復ではない。構造そのもの。


 そうして私は、送り込まれた少女オルデから聞きだした情報や、ウォル君についても報告し、許可を仰ぐ。

 ヘスペリオスを筆頭に、貴族や子弟の館には今も拾われた子ども達が辛い目に遭わされていること。

 それを救出したい事など、願いと共に。


「ヘスペリオスには罰を与えなくてもいいのか?」

「今のところ、証拠がないんです。少女は主の名前も知りませんでしたし。

 でも、許すつもりは無いですよ。きっちり、じっくり反撃はさせて貰う予定です」


 リオンには許可が下り次第、オルデを連れてヘスペリオスの家に行ってもらう予定だ。

 オルデを正式に引き取り、家に残されている女の子達も、ヘスペリオスの所から逃れたいのなら助け出してくれるように頼んで。


「リオンにオルデに篭絡された風を装って貰おうと思います。

 そして他の女の子達もいるなら欲しい、と。

 暗殺者として仕向けた女の子に皇女の婚約者が篭絡された、と思ったらヘスペリオスはどう動くと思いますか?」


 私の質問に、ふっと国王陛下は微笑する。

 怒りの炎の奥に、王としての冷静さが戻る。


「なるほど。表向きは理解し、従うフリをしつつ裏で、婚約者の浮気を皇女に告げ自分の得点にするか?」

「あるいはもう一度リオンに戦いを挑み、皇女に知らせると脅して戦士ライオットの弟子を倒したという名誉を、私の婚約者の立場と共に手に入れようとするかもしれません」


 無論、どちらにしても徹底的に潰すけど。


 オルデには私の側仕えとして働いて貰い、救出できた女の子達も王子妃様の側仕えに(一時的にでもいいから)して頂く。

 アルケディウスの伽奴隷として売った筈の子ども達が、王家に仕える者として珍重される様子を見れば、自分の愚かさに気付くだろうし。


「その後、ウォル君の魔術師即位の報告や国策としての子ども保護などを伝えれば、かなりのダメージが見込めると思います。

 子どもの保護、教育については新規事業と言う事でグランダルフィ王子と王子妃様にお任せすれば、王子達の実績にもなりますし、王子に将来的に味方も作れます」


「相変わらず、其方の頭の中は理解できぬな。

 ライオットめ。一体どのような教育をすればこんな娘が育つのか。次に会った時には締め上げねば……」

「あのー。陛下?」

「気にする事はありません。陛下は貴女を褒めているのです」

「ああ、好きにしてみろ」


 国王陛下の許可を得て、私達は早速、行動に出た。


 まずはリオンにヘスペリオスの館に行って、オルデと館の女の子を救出してくれるよう頼んだ。

 結果、リオンはオルデと三人の女の子を無事、連れ戻ってくれた。


「いや、笑いを堪えるのが大変でした。

 リオンの名演技を褒めてあげて下さい。

『アルケディウスの者達は色々と……その……貯まっているんだ。手伝いをしてくれる女は喉から手が出る程欲しい……』

 ですからね」


 ケラケラと笑いながらフェイは褒めるけど、リオンの顔は真っ赤だ。


「煩い! こっちは必死だったんだからな。

 それに嘘は言ってない。仕事ややることは山の様に貯まっているんだからな」

「でも、残っていた子達に『ここで、このまま終わりたくないのなら俺達の所に来い。今までとは違う、新しい世界を見せてやる!』

 って手を差し伸べる様子は本当にカッコ良かったですわ。冗談や演技で無く惚れてしまいそうな程に。

 まるでアルフィリーガのよう」

「止めろ。冗談じゃない」


 うっとりと浸るオルデに、リオンは苦虫を噛み潰したような顔つきになったけれど、ちょっとそのシーンは見てみたかったなと私も思う。


 まあ、とにかく呼びかけに応じた三人の女の子達はフィリアトゥリス様が後見して下さることになったので一安心。

 城が居心地悪い様なら、フロレスタ商会という受け皿もある。

 やる気次第で、きっと閨で弄ばれるだけの生活から足を洗える筈だ。


 まだ数人、ヘスペリオスの所に女の子が残っているようだが、彼女達もいつか助けられればいいのだけれど……。


 ウォル君に付いては思った以上に上手くいった、と王子が報告してくれた。


 犯罪を犯したスリの少年として館に連行し、賠償金を支払う代わりに元主に手放すように促しに行った主――実はこっちもヘスペリオスだった――は素直に同意したそうだ。


 こちらも別に嘘はついていない。

 ウォル君が魔術師の卵として訓練を受けていることを言わなかっただけで。


 杖の継承もほぼ思った通りに行われ、ウォル君は正式にプラーミァの魔術師見習いとなった。

 やっぱり、クヴァール氏も精霊に一度は見込まれただけあって悪い人ではなく、主の元にウォル君が戻されるくらいなら、と杖と魔術師位を譲って下さったのだ。


 隠遁生活をする覚悟はできているとおっしゃっていたというけれど、王子の説得を受け入れて当面はウォル君の指導を。

 その後は、子どもの教育施設の講師をして下さるという。


 頼もしい味方がまた増えたことが、素直に嬉しかった。


 僅か一日での超速攻勝負で子ども達への対応が終わった翌日。


 火の日の朝、リオンの元に再度の挑戦状が届いた。

 差出人はヘスペリオス。


「……帰国を前に、もう一度手合わせを願いたい。

 敗北したら、二度とマリカに求婚しない。

 とあるが……受けて、蹴散らして構わないな?」

「うん、多分、今頃ほくそ笑んでると思う。

 今度は勝てる。自分の所から浮気用の女の子を買って行ったことをバラすぞ、って脅せば相手は言う事を聞くってね」


 木札をちらつかせるリオンに、私は頷いた。


「オルデ、私の随員として側にいて貰えますか?

 絶対に主に手出しは出させませんから」

「既に召し上げて頂いた身でございます。ご遠慮は無用に……。それに少し楽しみでもありますわ。

 あの方の顔が驚愕と絶望に歪むのを見るのは……」

「そうですね。キッチリと後悔して貰おう」


 数日で側仕えとしての仕事を覚え、真面目に働いてくれているオルデ。

 でもその笑みに、彼女が内側に抱えていた主への恨みの深さを知る。


 ヘスペリオスも、もっとちゃんと子どもに対してくれていれば、恥をかかずにすんだのに。


 時刻を見計らって、私は指定された訓練場へと向かった。

 私にも、ヘスペリオスから招待状が届いたから。


『姫君に捧げる私の愛を見て頂きたい』


 だって。


 出立の準備を皆に任せ、側仕えはカマラと、スカーフで顔を隠したオルデのみ。


 刻限、訓練場に行ってみれば、そこは本当に凄い人だかりだった。

 私達は吹聴してないから、ヘスペリオスが勝利を確信して人を集めたのだろう。


 そして訓練場の中央で仁王立つヘスペリオス。

 うーん、本当にエリクスと同パターン。思考が子ども並だ。


 けれど――


「リオン殿。申し訳ありませんが、この場は譲って頂けませんか?」

「え?」

「……王子?」


 訓練場の中央に歩み出ようとしたリオンを、スッと長い腕が止める。

 代わりに歩を進めたのは、プラーミァの王子 グランダルフィ様だったのだ。

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