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火国 迷惑な求婚者

 最近、部屋に帰るのが嫌になる。

 うんざりする。

 別に部屋に戻るのが嫌な訳じゃない。

 お母様が昔使っていた部屋は趣味が似ているのか、居心地が良くてホッとできる。

 けれど……。


「また来たんですか?」


 上質のオーク材で作られたワインレッドの丸テーブルの上には、今日も山のような荷物が積まれている。箱や包みの角がぶつかり合って、微かに紙や布の擦れる音がするたび、私のこめかみもピクッと引きつる。


「面会が拒否されているので、贈り物で気を引こうというのでしょう。

 どうなさいますか?」


 ミュールズさんもあきれ顔だ。

 どうするかなんか決まってる。


「全部お返しします。

 手伝って下さい」

「かしこまりました。セリーナ、ミリアソリス返信の代筆を。カマラは準備が出来た荷物を順に伝令に頼んできて下さい」

「はい」「承知いたしました」「お任せ下さい」


 最近、この手配で毎日半刻は潰れるのだ。

 疲れてるのに、私の安息時間を返せ! もう……。


 この贈り物攻撃が始まったのは滞在日程の中日。

 私の慰労の宴という名目の、結果中間報告会の日からだった。

 具体的に言うと、私の滞在中に見つかり、使い方が判明した果物、植物のお披露目をしたのだ。


 肉の臭みを取るナツメグ、スープやシチューに深みを与える丁子、目の覚めるような辛さを生み出すトウガラシ。

 そしてコーヒーとバニラ。

 私自身が植物と香辛料にそこまで詳しくないので見落としは多々あると思うけれども、プラーミァにはそれでも南国ならではの香辛料がたくさんあった。

 知らなければ雑草でしかないので、実物を料理に使いながら使い方を説明。

 レシピと引き換えに領地での確保をお願いしたのだ。


 胃袋に訴える方法は大成功。

 晩餐会に参加した大貴族のみなさん達は、全員、自領の調査を約束してくれた。


 ちなみに今回の料理は、生ハムメロンと、パータトのカナッペ。

 丁子で臭みを取り風味を増したコンソメスープ。

 マヨネーズとトマトソースを混ぜたカクテルソースで味付けした茹で鳥のサラダ。

 ペペロンチーノのパスタ。

 豚の角煮は煮卵と一緒に。

 デザートはバニラアイス添えのパンケーキにチョコレート。

 お酒はアルケディウスのラガー。食後のドリンクはコーヒー。


 向こうの世界ではフルコースと呼ぶにはちょっと力不足だけれど、『新しい味』を味わってもらうには十分の筈だ。

 作るのもそんなに難しくないし。


 宴席は大成功。

 問題はその後だった。


 前回と違い、ファーストダンスをリオンと踊った後、ひっきりなしに私はダンスに誘われる羽目になったのだ。

 私としては、私の為にプラーミァの民族衣装を着てくださったフィリアトゥリス様や王妃様を鑑賞したり、王太后様とお話したりしたかったのに、ゆっくりお話する間もなく――。


「私はカルクーム領主 ファンディルムの子 ヘスペリオス。

 聡明なる姫君。どうか一曲お相手を」


 エスコート役のリオンとまだ手を繋いでいるうちに、ひったくるように誘われた。

 子、と言われても立派な大人で、しかもどう見ても三十代。

 戦士国の人だけあって身長差も相当だ。頭一つ違う。


「私……あまりダンスは得意ではなく」

「今、麗しいダンスを拝見したばかりです。

 心配しないで。子どもの失敗を大きな目で見守るのも大人の役目です」


 心配しないでじゃなああい!!

 という心の叫びは通じず、リオンも他国の舞踏会だから


「北の国の宝石を幼子が独り占めする者では無いな。

 下がれ」


 他所の大貴族に睨まれては止める事が許されなかった。

 頼りの王様は行ってこい、と苦い顔。

 私はヘスペリオス様とダンスをする羽目になった。


 身長差が同じようにあったけれど、柔らかく私を気遣うように踊ってくれたグランダルフィ王子と違い、ヘスペリオス様のエスコートは荒っぽかった。

 自分についてこい、と言う感じだ。

 引っ張られて、振り回されて、一曲でへとへと。

 足がもつれて転びそうになるたび、背中の汗が冷たくなる。


 そんな私を物理的に見下ろした彼は、小さく鼻を鳴らし、


「あまり、ダンスには慣れておられないようですね。

 良ければ今度お教えしましょう」


 笑ったのだ。

 精神的にも見下ろされたのだろう。


 今度は役に立ったプラーミァの諸侯の名簿から検索すれば、カルクームはプラーミァ国で一~二を争う大領地。

 しかも前王の信頼が篤かった分、今の王様を若い、と下に見る所謂『反国王派』。

 私と一緒に現国王家も見下したのだろう。きっと。


 それから先はもう誰が誰だか覚えていない。

 どこどこの領地の誰かの息子、というのがもう、本当に合間もなくやってきて私にダンスを申し込んだり、話しかけたりして来る。

 若い『息子』が来るのはまだいい方で、四十代くらいの『領主』が来た時もあった。

 有象無象は王様や王子様達が弾いて下さるのだけれど、私に誘いをかけられる=上位領地、ということなのだ。


 そして、大抵が気に障る言葉を、棘のある悪意を吐いていく。


「愛らしい姫君。アルケディウスの民族衣装は踊りにくくありませんか?

 正装で美しく舞う姫君を見たかったですね」

 ……踊る為に来たんじゃないからいいんです!


「手が荒れておられますね。姫君とは思えない」

 ……水仕事や調理するから仕方ないし、余計なお世話!

 これでもクリームでの保湿やマッサージとか、側仕えの皆は気を遣ってくれてるんだから!!


「顔色がお悪いですね。幼いのに毎日仕事を科せられてお疲れでしょう。

 まったく、国王陛下も配慮が足りない」

 ……こんな舞踏会が無ければ、その分ゆっくり休めたのに。

 配慮が足りないのはそっちだ!!!


 とはとても言えなかったけれど、ニコニコ笑顔の下に隠した私のイライラはもはやマックスゲージに近い。

 よく我慢したな。私。

 子どもが本当に何もできない存在だと舐められているのがよく解る。


 この国では最初に『新しい食』に注目し、提唱したのが国王陛下だから、今、この国にある全部のレシピと技術は王家が所有しているし、材料も国王権限で集めている。

 だから、国王陛下の許可がないと新しい『食』を口にすることは、大貴族たりともできないのだ。

 個人的にアルケディウスに留学生を送るにも国王陛下の許可がいる。


 一度、美味を味わえばなかなか元には戻れない。

 頭を下げて国王陛下にレシピを願えないプライドの高い大貴族は、だから私に目を付けたのだろう。


 料理レシピのオリジナルを知る者。

 他国の王位継承権の無い第三皇子の非嫡出皇女。

 大貴族なら、降嫁も不可能じゃない、ってね。


 グランダルフィ王子が求婚していることは知られているから、私に声をかけて来るのは大抵が、国王陛下を下に見る反国王派の貴族達。

 国王陛下の悪口を吹き込みながら、自分達の方が国を良く動かせる、と宣うのだ。


「若い王は伝統を守る忠臣の言う事を聞いて堅実に政務をなさればよろしいのに」


 若いって、もう五百年国を立派に治めてるのに!

 ホントにその辺の不老不死思考解んないよ。


 可愛いとか、お美しいとか、大人になったらさぞや美女に、とか。

 歯の浮くようなセリフもいっぱい投げかけられたけど、上辺だけしか見ていないと解るから、まったく心に響かない。

 視線が値踏みするように上下をなぞるたび、背筋がぞわりとする。


 今回は大貴族達が私に挨拶する為に開かれた宴だから、本当に休む間も無かった。

 あんまり長く、目に余るような態度をとる時はさりげなくフィリアトゥリス様が助けて下さったり、リオンが退けてくれたりしたけれど。


 舞踏会の終わり、王子とラストダンスを踊った時には逆にホッとした。

 やっと、まともに呼吸ができる気がしたのだ。


「申しわけありません。姫君。

 王家がふがいないあまりにご迷惑を」


 止められる貴族は止めてくれたけれど、止められない貴族がいたことを王子は謝って下さった。

 王子の手は終始穏やかで、乱暴に引かれることもなく、私の歩幅に合わせてくれる。その対比が余計に、先ほどまでの時間を際立たせる。


「お気になさらないで下さいませ、王子。

 王家の皆さまは私にとっては家族のようなもの。本当に良くして頂いておりますから」

「それは……ありがたくも複雑ですね」


 困ったような顔の王子には申し訳ないけれど、本当に恋愛対象としてはアウトオブ眼中。

 私にとっては優しいお兄様、だ。

 でも、嫌いではないんだよ。本当に。


 そんなこんなで疲れ切った『慰労の宴』は終わったけれど、その後、疲れる行為がまだまだ待っていた。


「げ? 何これ?」


 朝一で届いたのは山のようなプレゼント&ラブレター攻撃。

 みっちりと『愛の言葉』が埋められた羊皮紙と、豪華な贈り物がその日を境に毎日届くようになった。

 封蝋を割る前から、甘ったるい文面が透けて見える気がする。


 デートしましょう、のお誘い付きで。


 ショール、ドレス、アクセサリー。

 どれも高そうではあるけれど、私の趣味や好みや、下手したらサイズも考えない一方的な品ばかりだ。

 どうせならこの国の物語の描かれた本とか、珍しい植物ならまだ……じゃなくって。


 五百年生きて来たくせに女心がまったく解ってない。

 十一歳の女の子に三十を超えた男達がプロポーズなんて、下手すりゃ犯罪だぞ。


「全部送り返します。私は忙しいんです」


 仕事があるのでお誘いはお受けできません。

 とお返事をして返したのだけれど、翌日には足りなかったのか、お気に召さなかったのか? と倍になって戻って来た。


 返しても、返しても。


『一度だけでもお話を』

『どうしてお断りになるのですか?』


 こっちの都合や思いへの気遣い皆無。

 封を切るたびに、溜め息が一つ増える。


 もううんざり。


 受け取り拒否したいけれど、断ると使者さんが怒られるのだそうだ。

 だから、受け取ってお断りの手紙を付けて返している。

 私の貴重な休息時間を返せ。


 まったくエリクス並、というかエリクスよりタチが悪い。

 エリクスは趣味を考えないプレゼント攻勢なんかしなかったもん。


「そんでもって、きっとこれで終わりじゃないんだよね」


 ミーティラ様が言ってた。


「プラーミァの男は良くも悪くも情熱的で、諦めが悪いです。

 断られても簡単には諦めないと思いますよ」


 プラーミァでの滞在期間は、残り一週間前後。

 明日からはフィールドワークに出る予定なのに。


 どんな攻撃が来るか、考えるだけでも頭が痛くなっていた。

 静かに過ごせる時間が、どんどん削られていく気がする。


 ……本当に、慰労って何だっけ。

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