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火国 プラーミァの王城

 プラーミァ王国の王宮。

 アイトリア宮殿は、外は比較的大人しめに見えたけれど、中はかなり華やかであった。


 マハラジャのお城、と私が最初に持ったイメージそのままに、正門から入って直ぐの、玄関ホールは彩度の高い精緻で色鮮やかな装飾と彫刻、そして美しいシャンデリアと眩いステンドグラスに飾られている。

 光は高い天井から降り注ぎ、色を持ったまま床や柱に落ちていた。

 白い壁がその光を受け止め、金と赤の装飾がきらめく。


 平屋っぽく見えたけれど、実は二階か三階建てだったらしく、全ての階をぶちぬいた八角形の吹き抜けは驚くほどに高い天井で圧倒されそうだ。

 空間が上へ上へと抜けていて、呼吸さえ吸い込まれそうになる。

 けれど、その中央に部下を従えて立つ王様は、全く見劣りしない。


 涼やかで装飾の少ない貫頭衣を身に纏う王子や随員達と違って、王様は格調高い民族衣装。多分国王の正装なのだろう。

 アルケディウスの晩餐会の時とよく似た刺繍を施され、たっぷりと布を使った服は、けれども風を纏うような涼やかな作りで長身の王様に夢見るように似合っている。

 布は重そうに見えるのに、動きは軽い。熱の国の正装として完成されているのが解った。


 茶色の髪、褐色の肌。

 ともすれば地味な色合いに見えるけれども、地味だなんてとても思えない。

 極彩色の空間に負ける事なく、むしろ、この空間そのものが彼と言う存在を引き立て輝かせているように感じた。


 圧倒的な存在感に息を呑む。

 まるでこの城そのものが、彼とその一族を輝かせるために作られた、なんて思うのは穿ちすぎだとは思うけれど。


「お久しぶりございます。

 ベフェルティルング国王陛下。この度はお招き下さいましてありがとうございます」


 配下の随員はリオンを含め、全員膝を付いているけれど私は跪く事はせず、軽く腰を曲げて国王陛下に挨拶をした。

 プラーミァの随員も全員膝を付いている。

 私をエスコートして来てくれた、第一王子も例外じゃない。

 この空間で立っているのは私と、王様、そして王様の横に立つ王妃様だけだ。

 床に落ちる光が、二人の足元だけを際立たせているように見えた。


「うむ、待ちかねたぞ。リュゼ・フィーヤ。

 我が国に幸運を運ぶ精霊よ。

 其方の祖母と、母の故郷。プラーミァはどうだ?」


「華やかで、鮮やかで、美しい。

 アルケディウスとはまったく違う強き国だと感じております」


 顔を上げて、ニッコリと。

 礼は守りつつ、真っ直ぐに答える。

 王様ご自身が私を玄関まで出迎えてくれるとは思わなかったけれど、ここでへりくだり過ぎてはいけない。

 膝を付いてはいけない。

 私はアルケディウスの代表で、王様に呼ばれた対等以上の存在なのだ。

 最初が肝心、ここで仕事をすることを考えても侮られるわけにはいかない。


「ふむ、そうであろう。

 私が守り、育てた自慢の国。

 やはりお前は良い目をしている。

 その眼で、カカオの様にまだこの国に眠る宝を見つけ出してくれることを期待しているぞ」


「ありがとうございます。

 精一杯努めますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 ルビーのような瞳を楽し気に輝かせて王様は微笑む。

 とりあえずファーストコンタクトは不合格では無かったようだ。


 ホッと息を吐き出した私は、だから一瞬反応が遅れた。


「えっ? ってわああっ!」


 私はツカツカと歩み寄ってきた王様にわきの下に手を入れられ、ひょい、と持ち上げられてしまう。

 視界が一気に高くなる。

 足元の床が遠のいて、身体がふわりと浮いた。


 随員達が皆、ぎょっとした顔をしているのが見える。

 私の方も、プラーミァの方も。


 いわゆる抱っこだ。


 私はなんだかんだで十一歳、そんな簡単に抱っこできる歳じゃないんだけど、まるで四~五歳の子どものように軽々と抱き上げられてしまう。

 なんせ身長190cmと130cm。

 抵抗なんてしようがない。高い抱っこ、マジ怖い。

 腕の中は安定しているのに、視界の高さだけが心臓を落ち着かなくさせる。


「めんどくさい挨拶はもういい。

 お前の部屋まで私が案内してやろう」


「ベフェルティルング国王陛下……」


「? お前も変に取り繕う必要は無い。

 ここは私の城で、お前の家のようなものだ。気楽に過ごせ。肩を張る必要はないぞ。

 私の事も国王会議で呼んでいたように兄王だったか? 気軽に呼びかけるがいい。

 アルケディウスのような身分差による呼びかけ禁止などこの国にはないからな」


 そうはいっても国王陛下に、だっこされる他国の皇女はないだろう。

 でも下手に拒否はできない。

 固まる私に助け舟を出して下さったのは


「陛下、会議でも申し上げましたけれど、他国の姫君をそんなに粗雑に扱うべきではありませんわ。

 愛妹と敬愛する叔母上の分け身、リュゼ・フィーヤの帰還が嬉しいのは解りますけれど、過剰な愛情表現は逆に引かれますわよ」


「オルファリア」


 国王会議と同じように、優しく理知的な声。

 国王陛下に並び立てる唯一の方。

 ローズブラウンの髪を揺らして微笑む、この国のファーストレディ。

 オルファリア様だ。


「別に過剰と言う程の事はしておらぬだろう?」

「プラーミァのような、もっと言えば陛下のような愛情表現に普通、他国の姫君は慣れておりません。

 婚約者を無視して抱き上げている時点で過剰ですわ。

 生まれて始めて来た別の国の王宮に、緊張しているであろう子どもの気持ちを察してあげて下さいませ」


 立場上泣きつくこともできなかったけれど、ティラトリーツェ様のいない、自分のテリトリーで暴走する王様を本当に冷静に、理知的に諌めてくれる賢婦人が頼もしすぎる。


 ちっ、と小さく舌を打つと王様は渋々と言った風で私を下ろしてくれた。

 足が床に着くと少しホッとする。


「まあいい。

 ついてこい。マリカ」


「えっと、陛下自ら……ご案内して下さる、と?

「お前に用意した部屋は二階の奥だ。普通の者は入れない。お前の身の回りの世話をする側近だけ連れて来い。荷物は後で運ばせる」

「え?」


 城の内部構造が解らないので二階の奥、という意味がよく解らない。

 ミーティラ様が目を見開いている様子からして、特別な場所なのだろうとは思うけれど。


「他の皆様はそれぞれ指示に従って滞在の準備を進めて頂けますか?

 大丈夫です。危険はありませんので。むしろ姫君は最高の賓客として遇せられる事をお約束します。

 皆様との面会に差しさわりも出しません」

「みんな、オルファリア様のご指示に従って動いて。私は大丈夫だから。

 ミュールズ、ミリアソリス、カマラ、セリーナ、着いてきて。

 ミーティラ様、お願いします」


 私自身、どんな待遇になるのか解らないけれど、トップが狼狽えていたら他の皆も動けなくなる。

 騒めく随員達に声をかけて、私は王様の後ろに着いて歩き出す。

 王様以外の人は……側近のカーンさんさえ、着いてこない。


 心配げだったリオンもグランダルフィ王子が動かないのを見て、私に小さな合図を送った後は随員の指示に動き出した。

 私がいない時にはリオンの指示に従う事になっているから、大丈夫だろう。


 かなり広い王宮を明らかに奥に向かって進んでいく。


「この城は四角い形をしているのです。

 大まかに言うなら前の部分が公式な場所。横の部分が城の作業場や倉庫や、働き手の居住区。

 そして奥の部分が国王一族の私的なエリアになります」


 歩きながら私の横に付くミーティラ様が説明してくれる。

 本来だったら来客用の客間などは表側の三階にあるのだけれど、私に今回割り当てられる部屋は、完全な王族のプライベートエリアなのだそうだ。


 長い回廊は壁が殆ど無く、風が良く通る。

 外と内の境界が曖昧で、風が自然に流れ込んでくる作りだ。

 空気そのものが暖かいので、暑いという感覚は消えないけれど。


 中庭には途中であった宿をパワーアップさせたような大きな池と見事な装飾の施された噴水があって、涼を運んでくれる。

 水音が一定のリズムで響き、熱気の中にわずかな落ち着きを作っていた。


 天井を見上げれば赤と黄色を基調にした精緻な文様がみっちり施されていた。

 アラベスク文様、だっけ、それともダマスク、だったかな?

 植物を基調にしているのは解るけれども、細かい名前まではよく解らない。


 ただ、もう、本当に語彙がなくなる程に凄い。

 私なんかこの回廊の隅に施されている彫刻をほんの一部彫るだけで日が暮れそうだ。


 青を基調にしたアーチ状の柱。

 外気に当たるだろうに艶やかな輝きを失わない床。


 国王の力と、王族への敬愛がこれを見ただけでも解る。

 維持しようという努力が無いと、この美しさは保てないものね。


 やがて大きな扉が見えて来る。

 正門にも似た黒塗りの扉は、間違いなく王族のプライベートエリアへの入り口だろう。


 門を見張っていた騎士が、王様の来訪に扉を開ける。

 くい、と無言の促しで中に入ると、より一層豪華になった彫刻と装飾の廊下を歩き奥へと進んだ。


 やがて眼に入る大きな階段が並んで二つ。


「この階段から上は王族のプライベートエリアになる。二階は王子、王女の部屋。

 三階は俺と母上、オルファリアが使っている。

 お前に用意したのはこの区画の二階、王女の部屋だ。同じ二階にグランダルフィの部屋がある」


「え?」


「心配するな。区画は左右に分かれて別の専用階段を使う。

 大雑把に言えば向かって右側が男王族の部屋。

 向かって左側が女王族の部屋になる。この階段以外に右左の区画は基本行き来できない。

 女王族の部屋は基本的に男子禁制。俺達でもよほどの時以外は入らない。

 男王族の部屋も同様で、妻以外は王族が招き入れた時以外は入らないし入れない」


 そう説明すると王様はついてこい、と言う様にスタスタと左階段を上がっていく。

 王様だし、今日は『よほどの時』ということなのだろう。


 私がその後を付いて登っていくと王様は廊下の端まで歩き、最奥の部屋の扉を開けた。


「滞在中はここを使え

「ここは……」


 王城の華やかさ、派手さとは裏腹に、中の部屋は豪華ではあってもワインレッドを基調とした趣味の良いアンティーク家具の並ぶ過ごしやすそうな部屋だった。

 壁も飾り気のないクリーム色。

 暑い気候のせいか、絨毯は少ないけれど、温かみのある色合いだ。


 皮張りのソファーも、勉強机も、サイドテーブルも大切に使われ、大事にされ、磨き上げられた美しさがある。


 呆然とする私に、ミーティラ様が、そっと囁く。


「王女の部屋……。かつてティラトリーツェ様がお嫁に行かれるまで使っておられた部屋ですわ」

「お母様の……」


 横を見る。

 腕組しながら、どこか懐かしそうに部屋を見る兄王様の眼差しの先。

 私は幼いお母様の姿が見えるような気がした。

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