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魔王城 魔王城の訪問者 中編 命を賭けたロールプレイ

 私は城に入り、後ろ手に扉を閉める。


 ガタン。


 大きな音を立てて扉が閉まったのが分かった直後、足から力が抜けるのを感じた。


「良かったあ。なんとか無事終わった~~」


 身体が重い。

 心臓がバクバク音を立てる。

 全ては終わったのに――いや、終わったからこそ、腰が抜けたのだ。


 多分。


「おい、大丈夫か?」

「マリカ様?」

「大丈夫。少し気が抜けただけ……」


 床に座り込んだ私を、みんなが取り囲む。


 演技は終わりだ。


 私はようやく、いつもの『マリカ』に戻ることができたのだった。


「マリカ様。今日も森にお出かけになりますか?」


 エルフィリーネがそう質問してきたのは、朝の食事を終え、みんなと今日の予定を話し合っていた時だった。


「そうしようかな? っては思っている。

 本格的に寒くなって来たし、外で過ごせるのもあと少しでしょ?

 採集がてら、みんなを遊ばせて来ようかな……って」


 珍しいな、と少し思う。

 エルフィリーネが私たちの予定に干渉してくることは、ほぼ無い。

 基本、私たちの自由に任せて、陰からサポートしてくれるだけなのだが。


「でしたら今日は、どうか外出はお控え下さい。

 特に子ども達を外にお連れになるのは、お止めになった方が良いと存じます」

「え? なんで? どうして??」


 本当に珍しい。

 エルフィリーネが私たちの行動を制限するのは――今日が、これが初めてだ。


 リオンの顔がサッと青ざめる。

 フェイに視線を向けると同時に、彼は杖を取り出し目を閉じた。


「……ああ、来ましたね。外の人です」

「外の……人?」


 冷たい水を浴びせられたような気分になった。

 この島で私が目覚めてから初めての『来訪者』。

 外の世界から来た『大人』だ。


「武装……なし。単独……。

 襲撃者ではなさそうです。おそらく……死にに来た人間でしょう。

 どうします? そのまま放置しますか?」

「ダ、ダメ!」


 私はとっさに声を上げていた。

 声が上ずっているのも、足が震えているのも自分で解る。


 ずっと前に見た、あの虚ろな目が蘇る。

 あんなものを見るのは、作るのは、もう嫌だ!!


「この島で、もう人を死なせたくない!

 なんとかして……止めなきゃ!!」


「ですが、生かしたとて、その後どうするんです? この城に入れると? 子ども達が集う場所に??」

「それは、絶対に許しません。

 この城に神の呪いを受けた者を入れる事は、お止め頂きたく」


 フェイの言葉に同意するように、エルフィリーネが告げた。

 その声音には、固い意志があった。


 エルフィリーネに譲ってもらうのは不可能だろう。


 もとより、この城に不審者は入れられない。

 小さなジャックやリュウもいるのだ。

 まだ自分の身を護ることもできない子ども達を、危険にさらすわけにはいかない。


「……残酷な事を言うと思うかもしれないが、城の安全を守ることを最優先するなら、俺もこのまま放置した方がいいと思う。

 それでも、助けたいのか? マリカ?」


 静かなリオンの目が、少しだけ私を冷静にしてくれる。


「うん。できれば外の情報も欲しいし、死を選んでわざわざこの島に来るほどだもの。

 世界に絶望しているんでしょ?

 だったら……お願いしたら、私たちの味方になってくれるかもしれない……」


 考えろ。私。


 これは、千載一遇のチャンスでもある。

 外の世界とのパイプを作り、まだ向こうで苦しむ子ども達を救い、世界の環境整備という私の目標を叶えるきっかけになるかもしれない。


 


「エルフィリーネ。この島と外の行き来はどうなってるの?」


 今まで気にしてはいたけれど、確かめたことはなかったことを、私は改めて口にする。


「ここは孤島です。周囲はかつての主のお力と精霊たちの守りによって、普通の船で辿り着く事は難しいと思います。

 ただ、外とこの島を繋ぐ唯一の境界門が島の外れにございます。

 今は使う者もほとんどなく、稀に外から死を求めて彷徨う者が片道に使うのみ……」

「えっ? こっちから外には出られない?」

「精霊の許しを得た者以外は。

 今は魔術師がおりますので、彼が許しを与えれば、その者の行き来は可能となりますが……」

「じゃあ、『おじい』って人は? 私たちをここに連れて来た……」


 エルフィリーネは沈黙する。

 彼女は――精霊は、多分嘘はつかない。

 言えない事は、沈黙するのみ。


「その辺のことは後にしよう。

 来訪者を死なせたくないのなら、あまり時間は無い。何か、考えはあるのか?」

「……うん。でも、その為にはみんなの協力が必要だと思う」


 必死で考える。


 そうだ、時間は無い。

 私の判断に、決断に、この城の子ども達の安全。未来。


 そして、一人の人間の命がかかっているのだ。


「お願い、リオン、フェイ……。エリセも力を貸して」

「え? 私?」


 目を瞬かせるエリセを、私はぎゅっと抱きしめた。


「エリセにしか頼めない事。

 お願い。怖いかもしれないけれど、助けて……」


 彼女がいなければ、この作戦の重要部分が成立しない。


「わかった! 私、何でもするよ?」


 エリセが頷いたのを見て、リオンとフェイも覚悟を決めてくれたのだろう。


「僕は、あまり賛成ではありませんが……まあ、危なくなったら消せばいいことです」

「何をすればいい? お前の思う通りに動いてやる」


 そう言ってくれた。


「ありがとう。

 まずは、一番良い服に着替えて。

 エルフィリーネ。私の着替えを手伝って。


 そして、エリセは、パンケーキを焼いて!」


「へ?」


 皆の顔に、はっきりと『?』が浮かぶのが見えた。

 でも、詳しい考えまで説明する時間が惜しい。


 本当に時間は無いのだ。

 来訪者が、今こうしている間にも刃物で身体を突いたりして死んでしまったら、それで終わり。

 時間との競争だ。


「行くよ! みんな、名付けて――『ベーコンパンケーキ大作戦』開始!!」


 我ながらふざけた名前だと思う。

 でも、少しでも気持ちを明るくしないとやっていられない。


 失敗の絶対許されない、最重要ミッションが今、始まろうとしていた。


 


 私の作戦はこうだ。


 まず、来訪者を見守り、死のうとしたらそのギリギリで止める。

 可能なら、少し死ぬ直前の苦しみを味わった方がいい、とは思うが、それは状況を見て。

 とにかく止めるのが第一。


 そして、私がその人物に声をかける。

 リオンとフェイには、私を守る騎士風に振る舞って欲しいと頼んだ。

 私を守るのが最優先。

 『お前の命なんか気にも留めない』と、彼に冷たく接してもらうようにお願いする。


「解った」

「その通りですから、演技の必要も無いですしね」


 気恥ずかしいけれど、これは『私』の価値を高く見せるために必要な事だ。

 そして、私は可能な限り貴婦人として振舞う。

 子どもの身体だから『貴婦人』は難しいけれど、せめて『お姫様』。

 少しでも高貴な人物に見えるように、全力を尽くす。


 一番良いドレスも着て、少し装飾も付けた。

 第一印象は重要だ。

 貧民のような格好では、助けても、下に見られてしまう可能性がある。


 そして、彼の話を聞く。

 聞く姿勢を見せる。

 『自分は貴方の味方だ』と思わせなくてはならない。


 死にたいと思っている人間は、大抵何かに絶望している。

 特に人間関係に苦しんでいることが多い。

 たった一人でも自分を理解してくれる人がいると思えば、人は最後の一線を越える事はあまりない。

 『自分は孤独だ』『誰にも解って貰えない』――そう思うから、死を選ぶのだ。


 ……私にも、経験があるからよく解る。


 多分、意志は固く、すぐに心を開いてはくれないだろう。

 そのための秘密兵器が、パンケーキだ。


 みんなに大人気のベーコンパンケーキと、ピアンのジュースを振る舞う。


 アホらしいと思われるかもしれないけれど、勝算はある。


 誰もが食べなくても生きられる世界。

 食事をしない人間が多いというのならば、食文化――『食べ物を味わい楽しむ』という概念そのものが死滅している可能性がある。


 そこに、強烈な味覚で衝撃を与えられたら。

 味わう喜び。

 食事を取ることの、栄養補給だけではない意味を思い出してくれたら、きっとその人の何かが変わると思う。


 それ以前に、空腹になると人は気持ちが荒くなる。

 お腹がいっぱいになれば、ケンカの大半は収まるものだし。


 そして、少しでも話を聞いてくれる姿勢になったら――話を聞く。

 口を挟まずに聞く。とにかく聞く。

 彼の思いを、とことんまで吐き出してもらう。

 そして、その思いを全て受け止めた上で、理解を示すのだ。


『傾聴』『受容と共感』。

 保育だけじゃなく、看護現場とかでも取り入れられているカウンセリング手法だ。


 自分の話を聞いてもらい、苦労を、思いを理解してもらえていると思うと、その人物は心を開いてくれやすくなる。

 来訪者の苦悩に、少しでも寄り添いたいと思う。


 そして最後に、『助けを求める』。

 来訪者の存在を認め、尊重し、『力を借りたい』と乞い願うのだ。


 『貴方は死ぬべき人物ではない。素晴らしい人間だ』と励まし、勇気づけ、認め――その上で、力を貸してほしいと真摯に願う。


 子どもも大人も同じこと。

 自分を認められ、必要とされていると思えば頑張れるし、実力以上の力を発揮してくれる。

 これは、相手が私の価値を高く見てくれているほど、効果を発揮する。


『こんな凄い相手が、自分を必要としてくれている』――それが自信に繋がるのだ。


 全て計算づくか?

 心理学のテクニックなのか?


 と言われれば、返す言葉はない。

 その通りです。ごめんなさい。


 でも――


 来訪者の力と助けが必要なのは本当だし、命を救いたいのも本当。

 死を選ぶほどに世界に倦んだ人に、希望を与えたいという思いは、嘘じゃない。


 テクニックでもない。


 だから――

 私は全身全霊で、向き合い、役割演技ロールプレイする。


 私は魔王城と島を統べる者、『マリカ』。


「お止めなさい!!」


 貴方を、救う者だ――と。


 結果としては、『大成功』の部類に入ると思う。

 死を選ぼうとしていた商人ガルフは、私たちへの協力を約束してくれた。


 いきなり


「この命の全てを捧げましょう」


 なんて言ってくれたのにはビックリしたけれど、その茶色い眼には生きる気力と意志が蘇っていた。


 よかった。

 とりあえず、死ぬのは思いとどまってくれたようだ。


 ガルフは外見年齢3〜40代前後。

 茶色の髪と瞳を持つ、逞しい男性だった。

 子どもから大人になったわけではなく、『勇者』が『魔王』を倒した時から不老不死なので、実質年齢は500歳を超えているという。


 私が、『私』になって見る、本当の大人。


 ……そうか。この世界に不老不死の呪いが発生して、もう500年なのか。


 そして、私たちは契約を交わした。


 ガルフは外の世界の情報――主に本などを集めて、私に届ける。

 私たちはそれに対して、対価を払う。


 おおざっぱに言ってしまえば、そういう契約だ。


 あと、虐げられている子どもを見つけたら救い出して欲しいとも頼んだ。

 必要とあらば買い取って、この島に連れてきてほしい、と。


 人身売買は気が進まないけれど、子どもの安全がお金で買えるなら安いもの。

 何せ、お金は腐るほどあるのだから。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 あんた達、この価値を解ってるのか?」


 私がガルフに契約金だと、城で見つけた金貨を渡した時、青ざめた顔で彼はそう言った。


 大きくて、小さな宝石のついた金貨。

 表面には紋章のようなもの。

 裏面には、綺麗な女性の絵が描かれていた。


 サイズが段違いだけれど、向こうの世界のソベリン金貨のようだ。


 彼曰く、これは『精霊金貨』。

 今の時代より遥か前のお金で、今は流通していないけれど、古銭的価値だけじゃなく、魔力の媒体としても優秀なので高い値段で取引されているという。


「この金貨1枚で、王都で豪邸が1軒、使用人付きで買えるぞ!」

「そうなのですか? 正直な方ですね。

 でも構いません。貴方という方の価値は、そんなものとは代えられませんから。

 どうかお役立て下さいませ」


 私は思いっきり優雅な笑顔を作って微笑んで見せた。

 ああ、頬が引きつる。

 だって、とりあえずいらないもん。

 ……そんなの、袋にいくつもあるし。


 


 契約金として精霊金貨1枚と、銀貨を10枚。

 そしていくつかの宝飾品をガルフに渡す。

 話を聞くかぎり、芸術品レベルの金貨よりも多分、銀貨や宝石の方が換金しやすいだろうから。


「貴方が本や情報、子どもをこの城にもたらしてくれれば、それにふさわしい対価をお支払いします。

 必要経費は惜しみませんよ」

「俺が……持ち逃げすると思わないのか?」


 不安そうに彼は問うが、正直言って――あまりそうは思わなかった。


「だって、貴方は私に命を捧げて下さったのでしょう?

 その対価として当然です。些少に過ぎるかもしれませんが。

 それに、持ち逃げすればそこまでですが、続ければ貴方は魔王城の財を手に入れられる唯一の商人として、継続的な利益を得られますのよ」


 来訪者がガルフで、商人であったことは幸いだった。

 商いを生業とする者なら、力と富を手にできる機会を、そう易々とは逃さないはずだ。


「勿論、私たちについては守秘義務を守って下さいませね」

「島の事、マリカの事。島の入り口についても含めてしゃべったら殺す」

「リオン!」


 リオンが凄んで見せた後、フェイが一つの腕輪を持ってきた。


「これは、契約の腕輪です。

 持つ限り、魔王城の転移門を使ってこの島に入り、なおかつ出る事ができます。

 ただし、監視の術も込められています。

 貴方がもしマリカの信頼を裏切り、島の秘密を洩らしたり、少しでも不利益な事をしようとしたら、その瞬間、貴方の命は無くなるでしょう」


 構いませんか?――と目で問うフェイに、躊躇わずガルフは腕を差し出す。


「やってくれ!」


 ガルフの腕に腕輪が取り付けられると、まるで身体の中に吸い込まれるように消えていった。


 おー、凄い。魔法……じゃなかった。魔術だ。


 手首の付け根に小さな紋章が一つ。

 フェイが契約した時のものと、よく似ている。


「せいぜい、心しなさい。

 我々の目の届かぬ外であろうと、契約ある限り、貴方の動向は全てお見通しなのだ、と」


 明らかに見下す目線でフェイは告げたのだが、ガルフはむしろ嬉しそうだ。


「……ああ、解ってる。

 むしろそれでいい。俺の命は、もうあんたに――いや、マリカ様に捧げたんだからな」


 そっと手首の紋章を撫でている。

 なんだか、少し首のあたりがくすぐったくなった。


「頼りにしています、ガルフ。

 もし貴方が私たちの信頼に応えてくれるなら、私たちも貴方の労に必ずや報いましょう」


 島の境界門まで、私は彼を見送る。


 城の近辺までしか出た事の無い私は知らなかったのだけれど、森の奥の奥に石造りの祠があって、扉を開けると不思議な虹色の光が渦を巻いていた。


 ちなみに、相当な距離がある城下町と祠を繋いだのは、フェイとリオンの魔術だ。

 リオンが紡いだ飛翔の『ギフト』を、フェイが精霊の力で安定させたのだという。


 少し車酔いのような酩酊があったのだけれど直ぐに治った、二人の合わせワザと違い、リオンが単独で『ジャンプ』に自分以外の人間を巻き込むと、相当な衝撃を受けることになるという。

 フェイが魔術師になったからできることだと、後でリオンは笑っていた。


「お前達……すげえな、本物の魔術か?」


 ガルフは転移後、目を見開いて二人を見る。

 そして、


「これからは、同じマリカ様の配下だ。よろしく頼むわ!!」


 バン! と肩を叩いたのだ。

 成長期とはいえ体格が違い過ぎる。

 二人の身体がぐらりと崩れた。


「まったく……無礼な。命がいらないのですか?」


 触れられた肩の埃をわざとらしく払い、見下すような眼差しでフェイは平静を取り繕うが――なんとなく解る。

 あれは、そんなに嫌がってない。


「同じになりたいというのなら、せいぜい役に立ってみせろ」


 あ、リオンも同じだ。

 なんだかちょっと楽しそう?


「解った。見てろよ。あんたらの役に立ってみせる。

 こんなに楽しい気分になったのは500年ぶりだ」


 ニカッと歯を見せて笑ったガルフは、門に向かおうとして――何かを思い出したように振り返った。


「マリカ様」

「何でしょう?」


 膝をつき、胸に手を当てて忠誠の姿勢で、彼は私を見る。


「このガルフ。貴方様の為に必ずやお役に立ちましょう。

 それで、その……もし、次にこの島に訪れた時、我が働きに価値ありと思って頂けたなら、一つ、褒美を頂けませんか?」


「何でしょう?

 私にできること、許される事なら与えましょう。

 金貨ですか? 宝石ですか? ……それとも」


「いえ、振舞って頂いた食事を……どうか、今一度……」

「!!!」


 リオンとフェイが目を剥いたのが解った。

 私だって驚く。


 館一軒買えるという金貨よりも何よりも、彼が望んだのがベーコンパンケーキとは。


 大の大人が、恥ずかしそうに顔を赤らめながらそう言うのを見て、私は思わず吹き出してしまった。

 なんだか、とても可愛い。


 そんな私の思いが伝わったのだろうか?

 ガルフの顔がさらにカーッと赤みを強めるが、私は頷き、微笑んで見せる。


「ええ、伝えておきましょう。

 料理人も喜びます。

 あの味も、新しき味も、貴方の望むままに……」

「ありがてえ! やる気が出て来たぜ。では、マリカ様。

 失礼いたします」


 立ち上がり、彼は扉に飛び込んだ。

 虹色の渦は彼を包み、その姿をあっという間に飲み込んでしまう。


 これで、取りあえず一件落着……。


 身体から力が抜けるのを感じながら、私はなんとか城まで辿り着き――そして、へたり込んだのだった。


「お疲れさまでございました」


 手を差し伸べてくれたエルフィリーネの肩を借りて、私はよろよろと立ち上がる。


「ごめんね、エルフィリーネ。

 来訪者、外に帰しちゃった。……心配だったりしない?」

「いえ、完璧な対応であったと思います。

 感服いたしました」

「ありがとう……」


「マリカ姉! 大丈夫?」

「しっかりしろよ!」

「ごくろうさま。エリセ、あの人パンケーキ凄く喜んでたよ……」


 まだ力が入らない私を、心配してくれたのだろう。

 エリセとアル、それにみんなが集まってきた。


「ねえね。だいじょぶ?」「だいじょぶ?」


 子どもたちも、心配してくれる。


 あ、お化粧落として着替えなきゃ――

 でも、でも……。


「ありがとう。大丈夫……。ただ……少しだけ……疲れたから、休ませて……もらっても……いい?」


 安心したら、どっと疲れが押し寄せてきた。

 本当に、疲れた。


 眠気が急に襲ってくる。

 身体も頭も、まるで働かない。


 だから――


「おっと、マリカは俺が寝かせてくるから、お前らは安心してろ。

 エルフィリーネ。寝室の準備頼む」

「解りました」

「本当に、頑張ったな……」


 そんな会話も、抱き上げてくれたリオンのぬくもりも。


 全部、夢の彼方へ溶けて消えていった。

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