表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/518

王都 王家での報告会とその後で

 話は少し遡る。

 ゲシュマック商会との打ちあわせの前日。


 皇王陛下と皇王妃様が国王会議から戻られた次の日。

 報告会を兼ね、祝いの晩餐会が行われることになった。


 で、そのメニュー作成と調理の為に、私は朝から王宮に出向き、調理場に立っている。


 皇王陛下から、


『今日の晩餐会は新しい調味料を使ったものにせよ』


 とのご命令を賜ったからだ。


 会議の報告に合わせて、今回の大きな成果の一つとなった調味料をプレゼンするつもりなのだろう。

 私に勿論、異はない。


 今回のメニューは――


 キャロとパータトのきんぴら風サラダに、ハマグリのすまし汁。

 メインは手羽元と蕪の煮物に、鯛の塩焼き、和風ソースハンバーグ、茶碗蒸し。

 デザートは南国フルーツを使った甘味。


 和食もどき異世界風、と言ったところだろうか。


 デザート以外のほぼ全てに、醤油やお酒が使われている。

 鯛の塩焼きだって、臭み取りにお酒を使った。


 この万能調味料のおかげで、レパートリーがぐっと広がっていく。


 なんてったって私は元日本人。

 記憶に在る料理のほとんどに醤油を使うのだ。


 本当にエルディランドには足を向けて眠れない。

 ありがたやありがたや。


「このショーユとサケってのは凄いね。少し使うだけで料理の味わいがグッと上がる」

「海産物に僅かにある臭みが取れるのが良いな」

「はい。ずっと欲しかったので手に入れられて嬉しいです。魚介類との相性がとにかく良くて。煮物系も最高ですよ」

「姫の秘蔵品、我らも大事に使わないとならぬな……と、いい加減に慣れよ。

 マルコ、ペルウェス。皇女の御前だぞ」


 新しい調味料の味見をするのは、今日の宴席を仕切る皇族家の料理人方々。


 皇王の料理人にして皇国の料理管財人、ザーフトラク様。

 第一皇子家のペルウェスさんに、第二皇子家のマルコさん。

 そして第三皇子家のカルネさん。


 ザーフトラク様は大神殿でも一緒に料理をしてきたし、カルネさんは私が最初に貴族区画に来た時からの付き合いだったからか、割とすぐに、


「せめて厨房では敬語や遠慮は止めて頂けませんか?」


 という願いに頷いてくれた。


 けれどペルウェスさんとマルコさんは、まだ腰が引けている。

 仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。


 今の私は第三皇子の娘にして、皇王陛下の養女身分の皇族、なのだから。


「いえ、皇女の御前であるからこそ、困っておるのですが」

「姫がいいとおっしゃってるんだから、開き直った方がいいと思うよ」


 うん。

 でも本当に遠慮は止めて欲しい。


 実際、妙な緊張は手を切るし。


「段々に慣れてくれると嬉しいです。で、仕上げはこうして……」


 そう言って私は、実際にやって見せながら料理を作ってみせる。

 今日の晩餐会は、私は客として座らなければならない。


 なるべく美味しい状態で出せるように、仕上げは皆さんにお任せしないといけないからだ。


「姫君、そろそろご用意を……」

「解りました。後はお任せします」

「ああ、任されよ」

「いってらっしゃい」


 皇王妃様の侍女にして王宮の女官頭、ミュールズさんに招かれた私はコックコートを脱ぎ、着替えた。


「本当は晩餐会の前ですから湯あみされた方がよろしいのですけれど……」

「今からお風呂に入っちゃうと髪が乾きませんから。お祖父様達や、お父様お母様は解っていらっしゃいますから大丈夫」

「はあ。姫様にはもう少しお仕えさせて頂き、立ち居振る舞いなどをお教えしたかったですね。

 素質も憶えも悪くないのに、どうしてこうも破天荒でいらっしゃるのやら」


 それは、まあ私が異世界から来たから、とはとても言えないけれど。


 私付きの侍女セリーナと一緒に着替えれば、準備などは直ぐに終わる。


 控えの間には、既にお父様とお母様、護衛騎士のヴィクス様とミーティラ様も待っていて下さった。


「準備は終わったようですね」

「料理の差配、ご苦労。新しい手法の料理だと聞いている。

 この一年、お前のおかげで晩餐会が楽しみになったぞ」

「では行きましょうか」


 そうしてあっという間に私は料理人から、第三皇子ライオットの娘たる皇女へと戻り、皇家の晩餐会の場に座ることになったのだ。


 思い返せばやっぱり、皇家の晩餐会が皇王陛下との最初の出会いだったなと思い出す。


 あの時は緊張しながらビールを注ぐ給仕として、ゲシュマック商会の料理人としてお目見えした。

 まさかこうして今度は給仕される側に座るとは思いもしなかったけれど。


 私達が宴席の最下座に座ると、順番に第二皇子トレランス様とその皇子妃メリーディエーラ様。

 第一皇子ケントニス様と皇子妃アドラクィーレ様が席に付かれる。


 そして最後に、全員が立って皇王陛下シュヴェールヴァッフェ様と皇王妃様リディアトォーラ様をお迎えするのだ。


 優雅にゆっくりとした振る舞いで席につかれた皇王陛下は、私達を見回し、用意された麦酒を手に取り高く掲げた。


「長らくの不在、心配をかけた。

 だが今回はそれだけの価値のある、大きな成果を上げた会議となった。アルケディウスの新年は今年も輝かしきものになるだろう。

 皆の今後の働きに期待する。

 新しい年に祝福を。

 エル・トゥルヴィゼクス」

「エル・トゥルヴィゼクス」


 皆様はクピクピと幸せそうに黄金色のビールを喉へと通していく。

 私は勿論飲めないので、サフィーレの果汁である。


「さて、いよいよ料理だ。

 皆も良く味わうと良い。エルディランドから輸入された調味料を使った、おそらくこの世界で誰も食べた事の無い味だぞ」


 ワクワクが顔に書いてある。

 まるで子どものような笑顔で息子達に自慢する皇王陛下に、皇子達も興味津々の様子だ。


 今回の料理は和食風なので、ビールとの相性を考えるなら少し大人しめだけれど、味はきっと満足して貰えると思っている。

 何せ、醤油と酒があるのだから。


 で、思った通り、最初のきんぴら風野菜の時点で――


「なんだ? この味は?」

「深みのある風味、どこか甘ささえも感じるようで……なんです? これは」


 皇子様達は目を丸くして下さった。


「そうであろう? これを手に入れられたのはマリカの手柄だ。説明してやるがいい」


 皇王陛下のドヤ顔が凄い。

 私のことを我が事のように喜んで下さるのもありがたい。


 私は怖れながら、と兄皇子様達に説明する。


 お父様とお母様は昨日、簡単に説明し振舞ったので笑顔だけれど、今日は普通に食べてくれている。

 ――その分、私は「今、ここで言うべきこと」を選ばないといけない。


「ソーハ、という豆から作られた醤油という調味料を使いました。

 素材の味を引き立てる、他に代わりの無い調味料です」

「この調味料はエルディランド特産、と?」

「はい。調理実習生の派遣とレシピの提供を割引く代わりに、定期的に納品して貰う話はついています。

 長期的には麦などとの交換輸入になるでしょうか?」


 第一皇子ケントニス様は、この国の新事業『食』を率いる立場にある。

 無能、という程ではない。


 けれど自分に甘く、部下、配下に対しては厳しく当たることが多い人なので。

 直接動く人達の防波堤として風当たりを弱めつつ、上手く事業展開させていくのは補佐役である私の仕事だろう。


「調理実習生は今年何人来るのだ?」

「六国+大聖都からも希望がありましたので、春の内に各国二名で十四人。

 プラーミァはさらに増員をとの要望がありました」

「留学生は一人受け入れに付き四カ月で金貨五十枚という規定だったな。

 十四人で金貨七百枚か……悪くない」


 ケントニス皇子は、にやりと嬉しそうに笑う。


 ――けれど、ダメだ。

 ここは最初にきっちりとさせとかないと。


「その金額の七割は、実習生の受け入れ対応の全てを引き受けるゲシュマック商会に行く事はご了承下さいませ。

 彼らはレシピの管理、実習生の指導、生活の準備、試験、実習まで全てを委託されているのですから」

「一つの店を贔屓にし過ぎではないか? レシピの権利は王宮で管理するべきであろうし?」

「今後、王都の商業ギルド長の店ガルナシア商会などを育てるとしても、先駆者として道なき道を作ってきたゲシュマック商会の権利は保障されるべきです。

 あと、レシピの権利はゲシュマック商会だから委託しておりますが、ゲシュマック商会から引き上げるつもりでしたら私……第三皇子家で管理致しますので」

「何故だ! 其方は皇家の一員だぞ。国と皇家の利益をなんと心得る!」


 ケントニス皇子の蒼い瞳が、ぎらりと濃さを増す。


 けれど、ここを引くつもりはない。

 こっちも受けて立つ。


「私の『能力(ギフト)』『精霊の書物』の知識です。権利者として尊重して下さるとお祖父様もお約束して下さいました」


 異世界転生者だと知らせることはできない。

 けれど私が『能力(ギフト)』と呼ばれる異能をもつ能力者であることは、もう知れている。

 子どもには『能力(ギフト)』が発現しやすいことも。


能力(ギフト)』は一人一人が有する唯一無二の力。

 他の誰にも真似することはできない。


『食』は世界の人々の生命線だ。

 下手な相手に握らせるわけにはいかない。


 食が貴族の娯楽で終わらず、世界の人々を元気づけるものにするためにも。

 ここは断固として死守する。


「諦めろ。ケントニス」


 今まで黙って私とケントニス皇子の会話を聞いていた皇王陛下は、ハンバーグの最後の一切れを飲み込むと、きっぱり言い放った。


「其方がいなくても食の事業は進むが、マリカがいなくては食の事業は滞る。

 全体のかじ取りは其方が行うにしても、方向性を決めるのはマリカに任せるべきだ。

 不満があるなら、事業に対しての知識を深め、せめてマリカ以上の知恵と発想で、事業に影響を与えられるようにしてからにせよ」

「お祖父様……」

「……父上は、まったくライオットと孫にお甘い!!」


 ふん、と吐き捨てるように言って。

 でもとりあえずケントニス皇子は、矛を下げて下さった。


 息を吐き出した私の横で、お父様(ライオット皇子)はくくと笑っている。

 けれど私を見つめるお母様(ティラトリーツェ様)の視線は痛い。


 また怒られるんだろうなあ。

 仕方ないけれど。


「そう言えば、姉上に会ったのですって? マリカ?」

「あ、はい。アドラクィーレ様。アンヌティーレ様がアドラクィーレ様によろしくと……」


 嘘だ。言ってない。


 緊迫した空気を変える為に会話を変えて下さったアドラクィーレ様に、私はそう取り繕う。

 けど思い出してみれば、アンヌティーレ様がアドラクィーレ様を気遣う言葉を発することはほとんど無かった。


 でも、それを言う必要はないと思う。


「あら、珍しい。

 でも、今までお忙しかった姉上も今後は新しい『乙女』が現れた事で少しお暇になるでしょうね。喜ばしい事だわ。

 マリカ。

 今後、其方は『真実』の『聖なる乙女』として国の祭事などを担う事になるのです。

 しっかり働いて、せいぜい姉上の代わりを務めて楽をさせて差し上げなさい」

「努力いたします」


『聖なる乙女』というのはこの世界の所謂『聖女』ポジ。

 未婚の王家の姫君が国の祭事を行う事で、星に力が捧げられ恵みが深まるのだという。


 王家の血は流れてない私がやっていいのかと思うけれど、今までアドラクィーレ様はともかく、王家の血が多分入ってないメリーディーラ様がやっても大丈夫だったのだ。

 なんとかなるだろう。


 でも姉上の失脚?を喜ぶアドラクィーレ様。

 うーん、やっぱりお二人の仲は良くないようだ。


 複雑な王家の関係?


「そうだ。ライオット。

 斯様な事情もあり、マリカは今年、大聖都を含む七国を回る事になる。

 大至急、マリカ専属となる護衛騎士や、警備体制の構築を頼む。

 万が一にも我が国の宝たるマリカが奪われ、傷つけられる事の無いように精鋭をな」

「承知しております。現在部隊再編の詰めに入っているところです」


 皇王陛下とライオット皇子の相談に、皇王妃様が割って入る。


「今まで通りリオンを付けるのは構いませんが、女性騎士も探しなさい。

 年の半分国を開けるような状況では、いつまでもティラトリーツェがミーティラを貸し出すわけにはいかないでしょう?

 マリカには常に側に着き、男性が入れない状況下でも護衛する者が必要です」


 言われてみればそうだ。


 舞踏会の時のような女性中心のお茶の場や、外国でのお風呂や就寝などのプライベートの場で、リオンには着いて貰えない時も今後出て来る。


 リオンを遠ざけろ、と言われなかったのは心底嬉しいけど。


「解りました。ただ、王都の騎士団には手の空いている『女性騎士』が殆どいないのが現状であるので。

 既に皇家、大貴族の女性の護衛についている。信用と実力の兼ね合いもあるので難しいですが、なんとか探してみます」

「なるべく早くにだ。第一回目の遠征は水の月、プラーミァになる。

 夏の戦と大祭の後、アーヴェントルク、フリュッスカイトと今年は冬も含め、年の半分はマリカは外に出る事になるだろうからな」

「かしこまりました」


 言われてみれば大変なことになりそうだ。


 フェイとリオンは同行してくれるだろうけれど、セリーナにも負担をかけることになるし、魔王城にも戻れない日が増える。

 孤児院も含め、色々な所へのフォローも考えないといけないなあ、と私は考えていた。


 とりあえず国王会議の報告会兼夕食会は無事終了。

 食事も大好評で、醤油と酒のプレゼンテーションも上々だったことに私は満足している。


 お酒好きのトレランス様は酒精(アルコール)としての酒にも興味を持っていたようだし。


「今日はリオンは第三皇子家(うち)に泊まれ。色々と話がある」


 夕食会が終わったその日、私とリオンは一緒に第三皇子の家に泊まることになった。


 フェイも同行するつもりだったらしいけれど、皇王陛下のお呼び出しで今日は城泊まりだ。

 宮仕えは辛い。


 いや、もう私は神殿に登録され、正式に皇族の一員になって第三皇子夫婦の娘になっているのだから、家に帰ったが正しいのかもしれない。


「お帰りなさいませ。お嬢様」

「……ただいま戻りました。クヴェルタさん」


 お父様とお母様に手を引かれ、館の中に入った私を、第三皇子家の家令クヴェルタさんが出迎えてくれた。


 お父様とお母様、護衛騎士のお二人。

 私、リオン、そして侍女のセリーナ。


 皆で二階のお父様の部屋に入り、鍵をかけた。

 外でヴィクスさんが見張ってくれている。


 食事外出中、双子ちゃんを見ていてくれた乳母のコリーヌさんから、お母様が二人を受け取り、コリーヌさんが退席すると――


「さて、話せ。大聖都での事、どんな事情も包み隠さずだ」


 お説教タイムである。


「基本的な事はいいわ。

 各国が食に興味を示した事、貿易や留学生の派遣を望んでいる事は承知しています。

 それ以外の事。特にどうして一週間も帰国が遅れたのかを話しなさい」

「大聖都の一角が魔王の襲撃を受けて炎上した、という噂は届いているぞ。

 とんでもない数の魔性の襲撃があったという話も聞いている。そこで『真実の聖なる乙女』が力を現したという事もな。

 どういうことだ?

 何がどうして、どうなった? 全て言え。嘘、隠し事は許さん」


 昨日は疲れているだろうから、とあえて大聖都での話を聞かないで、晩餐会でもニコニコ話を合わせて下さったお父様とお母様。


 けれど独自に情報収集はしていたらしい。

 隠しようも無い。


 全部話す。


 初日のエリクスとの出会い、舞踏会でのこと。

 エリクスとの決闘、その後の魔性の大襲撃と、エリクスの救出までは――私が包み隠さず。


「やっぱり向こうでも騒動を引き起こしてましたか……」

「失礼な。私は、何も悪い事はしてません。

 今回はちゃんと皇王陛下の指示を仰いで、慎重に行動しました?」

「偽勇者と踊ったのは? 偽勇者に決闘を申し込んだのは? 大神殿の誘いに乗って料理を作ったり、『聖なる乙女』として戦場に立ったのは?」

「えーっと、それは……。皇王陛下のご許可があったものもありますし……」

「無かった事もある。独断で動いた事も多い、ということでしょう?」

偽勇者(エリクス)の事が頭になくて、お前達に注意し忘れたのは俺が悪いが、それを抜いてもやりすぎだったな」

「でも他のはともかく、私が戦場に行かなかったらエリクスは助からなかったかもです。

 私、後悔はしていませんよ」

「まあ、そこは仕方ない。エリクスを助けてくれたことは感謝している。マリカ」

「お父様……」


 そこまでは眉を顰めつつの『お説教』で済んだけれど――


 その後の事も、リオンはライオット皇子に隠さなかった。


 つまり、神殿への『魔王の襲撃』、大神官の殺害の真相だ。


「ライオ。お前は気付いてなかったのか?

 ミオルの弟が神官長になっていた事?」

「? 大神官はお前達の死と同時期に姿を消した。

 大神官不在の大神殿は神官長が取り仕切るようになり、先代の神官長の引退後、エレシウスが後を継いだだろう?

 大神官の名を継いで」


 なるほど。そういう設定になってたのか。


「じゃあ、大神官が小姓として大神殿にいたことにも気付いてなかったんだな?」

「なっ! どういうことだ?」


 明らかに顔色が変わった皇子に、リオンは静かに話をした。


「大神殿……いや、大神官フェデリクス・アルディクスは、俺達の存在に最初から気付いていた。

 そうして、俺達の首に縄を付け、逃がさず大神殿に取り込む手筈だったんだ」


 偽勇者を利用し、各国の注目を私達に集めた。

 そして勇者を上回る勇士としてリオンを、そして勇者を救う『聖なる乙女』として私達を取り込み、五百年前のように捕えて何かに利用しようとしたのだと。


「奴らの……『神』の目的は解らない。

 不老不死世界の維持ですら無さそうだった。

 放置しておけば、俺とマリカはまた利用され『星』が汚される。

 そう思った俺は、神殿の中枢、神に通じるあの隠し部屋を破壊し、……大神官を殺した。

 相打ちを覚悟していたが、マリカやフェイ、アルに助けられてなんとか戻って来る事ができた」

「成程……だからか。お前が『戻っていた』のは……。

 お前は……本当に昔から……」


 何かを言おうとして、でも諦めた様に息を吐くライオット皇子に、リオンは静かな眼で笑う。


 リオンの黒い瞳が、何かを浮かべていたけれど――私にはその意味は理解できなかった。


「でも、大神官という長を失いながら、よく大神殿が貴方達を返しましたね。

 しかもさっきの話を聞くに、協力体制を申し出て来たのでしょう?」

「『俺達』にとって『死』は一時の退場に過ぎないからな。

 死と転生の度に『星』に力を供給していた俺と違い、奴は、多分戻ろうと思えば直ぐに戻って来る。

 赤子になって0からのやり直しにはなるけれど、多分最短三年、遅くとも五年である程度の力を取り戻し、帰って来るだろう」


 神官長は大神官が戻るまで、私達に手を出さないと制約した。

 つまり最短三年、最大五年の間に、神に届く力を身に付けないといけないという事だ。


「幸いにも、私は今年各国を巡ることを許されました。

 各国の様子を知り、世界の人々に食と力を取り戻させ、神の動向について探っていきたいと思います。

 あと、可能なら各国の祖と言われる『七精霊の子(アルプリエール)』についても調べてみようかと」

「『七精霊の子(アルプリエール)』について? 何故?」

「今まで『星』と『神』についてしか考えて来ませんでしたが、『聖典』にもあった『七精霊』従属神も多分この世には存在します。

 今の所『神』の積極的な配下ではないようなので、実在するなら探して力を借りられたらなあ、と」


 そんな事を考えたきっかけは、新年の儀式でアルケディウスの神殿に行った時、隠し部屋で精霊石を見つけた事だ。


 あの精霊は私に助けを求めていた。

 触れたら蘇ったように小さな輝きを宿した。


 アルケディウスの精霊石に今後力を注いだら、何か解るかもしれない。

 同じように各国の精霊石も蘇るかもしれない。


 各王家の人間でないとダメ、ということもあるかもしれないけれど――そもそも私はアルケディウス王家の血を引いていないのだ。


 ということは必要なのは星の精霊『精霊の貴人(エルトリンデ)』の力。

 精霊の力を封じていたお正月の参賀の時と、封印が壊れた今では、違う何かが起きそうな予感もある。


「リオンが命がけで作ってくれた時間を無駄にはしたくありません。

 この三年間でなんとかして神への道筋を作っていくつもりです。ですから、どうかご協力をお願いいたします」

「ご協力を、などと口調はしおらしいが、もう我々に他の選択肢は無いと解ってるのだろう?」


 呆れたように息を吐き出すライオット皇子に、はい、と私は頷き返す。


「よかろう。もうそこまで事が進んでいるのなら、確かに後戻りはできん。

 残り三年、食の充実と『神』の目的の調査に全力を尽くそう」

「子ども達の保護も、お願いいたします。

 大神殿には子どものまま不老不死にされている子ども達がいました。

 あの子達は自分達はまだマシだと言っていましたが、彼らの用途を考えると、いつまでもあのままにしておきたくありません」


 アルケディウスには孤児院ができた。

 かつて貴族の奴隷だった子ども達が、今では安心して暮らせるようになってきている。

 加えて保育園機能も得た。


 働き手としての子ども達により良い仕事に着くために、と教育を与える体制を作っていくことは、不可能では無いはずだ。


「カリテさんやリタさんのように、子どもを育てる専門家を増やし、子どもに知識と未来への選択肢を増やす。

 『能力(ギフト)』を発現させる子もいるかもしれませんから、保護と教育は必須です。

 食の事業と同じ、もしくはそれ以上にお願いいたします」

「そちらは、私が担当する事になりました。安心なさい」

「お母様?」


 力説する私に頷いて下さったのはティラトリーツェ様だ。


 聞けば既に何度か孤児院に足を運び、従業員や保育士達、あと孤児院と保育園の子ども達とも顔を合わせてくれているのだそうだ。


「子どもを出産したことで、色々と解る事も多くなりました。多分、其方の理想をそう違えない形で進めていけるでしょう」

「ありがとうございます」


 ティラトリーツェ様が保育事業を率いて下さるのなら、安心できる。


「お前達の背中は俺達が守ってやる。迷わず進め」

「ライオ……」

「ただし、迷わず進むことと無謀は違いますからね。そこははき違え無いように。

 報告と連絡、相談は必須です」

「お母様……」


 ゲシュマック商会だけでは無い。

 私達には、ここにも力強い仲間がいる。


 それを与えてくれた運命、『星』の導きに感謝しながら――


「はい、宜しくお願いします……」


 私は深く深く頭を下げたのだった。


「リオン、お前は春の編成でマリカ付きの護衛騎士になる。

 主に国外や対外用、だがな。当面は王国守備隊の遊撃部隊として動き、マリカが公務の時に同行する形だ。

 ヴァルやウルクス、ゼファードとピオ、士官連中はお前と行動を共にする」

「じゃあ、通常の護衛は?」

「それが頭の痛い所なのです。皇王妃様が言った通り女性騎士が必要ですが、今、手の空いている有能かつ信用のおける騎士は殆どいません。

 当面はミーティラを貸し出し、全力で女性騎士を探しましょう。

 今後の育成も視野に入れます」

「お願いいたします」


 色々話し合って、夜になって。

 私は用意して頂いた自室で床に就いた。


 だから、これは知らない親友同士の会話。


「アルフィリーガ……。お前、本当に大丈夫なのか?」

「何がだ。ライオ」

「他の連中は誤魔化せても、昔からお前を知ってる俺の目を騙せると思うな?

 お前……あの時、『勇者』だった時よりも力が強くなっているだろう?

 切り離して封じ、閉じ込めていた分が、再解放されたことでよりデカくなっている。

 しかも、よく解らない何かが足されて……子どもの身体では支えきれない。

 そのままだと潰されるぞ……」


「解ってる。……でも、どうしようもないんだ。力の封印、分割はもうできない。

 なんとか方法は無いか、探してみるつもりだが……。

 俺の身体が成長するのが先か、力に飲み込まれるのが先か……」


「お前はいつもそうだ。

 一人で悩んで、抱え込んで、そして一人で跳んでいってしまう。

 残される方の身にもなれっていうんだ」

「そっちも解ってる。大聖都でマリカ達に死ぬほど怒られたからな」

「本当に。

 マリカ達がお前をひっぱり戻してくれなかったら、俺はまた置いて行かれたんだぞ。

 あんな思いを二度も味わうのは御免だ」

「……あ……すまない」

「まあ、今、お前を心配し、説教するのは俺の役目じゃないんだろうがな……」

「ライオ……」


「いいか? 一つだけ約束しろ。

 死にに行くつもりなら、必ず俺に言え。

 最後まで付き合ってやるし、何なら一緒に死んでやる」


「バカを言うな!

 お前には妻がいて、子どもがいて、守らなければならない国があるだろう?」

「だからだ。お前が死ぬときは俺も死ぬ。

 お前が死んだら、お前はマリカ達だけじゃなく、俺の家族も泣かせるんだと肝に命じろ」

「……解った。本当にすまなかった、ライオ……」

「暫くは国の仕事からは緩めてやる。

 その間に力を何とかする方法を探して、今後について考えろ。

 マリカ達には言わないでおいてやるから」


「ありがとう。ライオ」

「いいってことさ。アルフィリーガ」


 月明かりだけが聞いた、二人だけの秘密。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ