表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
325/515

王都 孤独な皇王妃

 館に戻り、事情…………皇王妃様と女官長様が、旅の間、私と侍女(セリーナ)の行動を確認し矯正するという話…………を説明すると、


「そうですか……。

 貴女は本当に強運と悪運の両方を持ち合わせているのですね」


 大きくため息をつきながらもティラトリーツェ様は……驚く事に……怒らないで下さった。


「あれ? 怒らないのですか?

 余計な事を言った、って」

「怒って欲しいの?」

「いいえ」

「まあ、貴女が皇王陛下に皇子と同格の皇族と遇される程に見込まれている以上、遠かれ近かれ起きると予想できたことです。

 私が足りない、教えられない所を教えて頂ける最高の教師に恵まれたと思って諦めなさい」

「ティラトリーツェ様、冷たい……」


 私に授乳を終えたばかりのレヴィ―ナちゃんを抱っこさせてくれながら、ティラトリーツェ様は薄く微笑む。

 部屋の中には私と、今はティラトリーツェ様と双子ちゃんだけ。


 ミーティラ様はセリーナを呼びに行き、コリーヌさんは調理実習と今後の打ち合わせでまだ戻ってこない。


 だからこそ、今なら聞ける。

 ずっと、喉の奥に引っかかっていたことを。


「皇王妃様とティラトリーツェ様、仲がお悪くはないですよね?」


 なので聞いてみたかった事を、聞いてみた。


「ええ、少し厳しい所はありますが、可愛がって頂いていると思いますよ。

 二人の孫も可愛がって何度か顔を見にきて下さいますし」


 うん、やっぱりそうだよね。


 私がお二人の関係を見ているのは秋口からの半年くらいでしかないけれど、仲は良さそうに見える。

 ティラトリーツェ様の有能さを褒めていたし。

 特に、妊娠が知れてからはなお、色々庇って下さっていた。


「勘違いしてはなりませんよ。

 貴女にとっては死活問題の迷惑かもしれませんが、皇王妃様に悪意はないのです。私にも貴女にも愛を下さっている。

 ある意味我が子以上に。

 私達に向けられているのは、敢えて言うなら……孤独からくる過剰愛、でしょうか?」

「孤独……ですか?」


 私の言葉に、ええ、とティラトリーツェ様は頷く。


 この国のトップたる皇王陛下の奥方が孤独?

 皇王陛下と長く連れ添い、睦まじく見えるけれども、そうではないのだろうか…………。


 言葉には出さなかったけれど、多分、私の思いが顔に出たのだろう。


「少し、話をしましょうか?

 昔話、という程の事ではありませんが、皇王妃様について。

 私も少し知っている事があります」


 ティラトリーツェ様は、静かに話をして下さった。


 


「皇王妃様は、人格や統治能力、実務にも優れた才女です。

 三人の皇子をわけ隔てなく育て、特にライオット皇子は第二妃であるフィエラロート様の子で、自分の血を引いていないにも関わらず、特に大事に育てて下っていました」

「前から時々伺っていますが、フィエラロート様って凄い方だったんですね?」

「前プラーミァ国王の妹姫で、騎士資格も持つ文武両道の美女でした。

 今は廃れてもう無いですが、かつては成人前の王族、貴族が集う学び舎のようなものが大聖都に在ったのです。

 そこでお三方は出会ったとか」


 フィエラロート様はティラトリーツェ様の叔母様だから、直接知っているらしい。文武両道のティラトリーツェ様が褒めるくらいだもん。相当だ。


「生まれながらの婚約者を持つ皇王陛下――当時は皇子であらせられましたが――に、フィエラロート様は恋に落ちた。

 恋敵、ライバルとも言える状況。

 けれど不思議と大きな争いは起きなかったそうです」


 学び舎で恋を育んだお二人だけれど、王族同士の結婚があまり推奨されていないこの世界で結婚には実は反対もあったらしい。でも


「フィエラロート様は、自分は側室でいいと下がりプラーミァからアルケディウスに嫁いだ。

 徹底して皇王妃様を立てていたこともあり、お二人は親友と言える存在であったそうですよ」


 この世界において王妃、皇王妃、皇子妃というのは一つの称号だ。

 多く夫人がいても『妃』でなければ皇族と認められない。フィエラロート様には第二妃という正妃に次ぐ称号が与えられたけれど、正式な場で皇王陛下の隣に立つ資格は第一妃のものだ。


 プラーミァの王族でありながら護衛騎士兼愛人のような立場を受け入れたフィエラロート様に、皇王妃様は引け目と感謝のようなものを感じていたのかもしれない――と、ティラトリーツェ様は言う。


 その後、産後の肥立ちが悪く、フィエラロート様はライオット皇子を産んで間もなく命を落とされることになる。

 皇王妃様は、親友から託されたライオット皇子を、忘れ形見として我が子同様に大事に育てた。


 それが…………既に成長し親の手から離れていた兄二人には、癪に障った。


「正直に言えば、兄皇子二人よりもライオット皇子の才が優れていたことも原因でしょう。

 最初から第二妃の子として臣下に降ろされる筈がそうされず、皇位継承権を持つ皇族として育てられた弟が文武両道の才を示した。

 しかも母を独り占めしている。

 そう思った兄皇子達は弟に対してかなり辛く当たるようになったと聞いています」


 勿論二人も皇王妃様の深い愛を受けて育った。

 でも、その愛は幼さゆえに記憶に残らず、目の前で繰り広げられる愛を見せつけられて、丁度思春期。


 皇族としての厳しい教育を受ける彼らは『愛される弟』に嫉妬した。


 父が注意し、母が庇っても、いや両親が弟を守れば守るほど二人の兄は頑なになった。


 そうしてついに毒まで盛るようになった時、王はライオット皇子を守るために腹心を付けて、魔王討伐という名目で城から出したのだという。


「皇子達にも思いや主張はあったのでしょうが、腹を痛めて産んだ我が子の悪行に、皇王妃様は心を痛められ距離を置かれるようになりました。

 その後、皇子は『魔王』を倒し世界に光と、不老不死を齎した英雄となった。

 けれども英雄を称える世界の反応とは裏腹に『真実』を知る皇子は孤立を深め、それを庇い守ろうとする皇王妃様と兄皇子達との間はさらに断絶。

 皇王妃様の愛は、第三皇子家に注がれるようになったのです」


 ちなみに皇王妃様と第一皇子妃アドラクィーレ様の仲は、めっちゃ悪いのだという。

 こちらは正しく『嫁姑関係』


 他国から嫁いできた高慢な嫁と、自分を認めてくれない姑。


 私はティラトリーツェ様の出産前、皇王妃様を味方に付ける為に動いたけれど、元からバチバチの対立関係。

 加えて第三皇子家に甘い皇王妃様は、何もしなくてもこちらの為に動いてくれていた可能性は高かったろう――とのこと。


 


 そして訪れた不老不死世界。


 兄皇子達は永遠の『皇位継承者』としての立場に倦み、遊興に明け暮れる。

 それは皇子達に表向きの政務を譲り、皇王陛下が奥に下がっても長く、長く、本当につい最近まで変わらなかった。


「皇王陛下と皇王妃様の仲は不仲、という訳ではありません。

 ですがお二方も既にご老境。

 下世話な話ですが日々身体を交されるという事もないでしょう。

 長く変わらぬ不老不死の日々、対立を避け、奥の院に籠っていた皇王妃様が『食』によって良くも悪くも元気を取り戻されて、私達に愛を注いで下さるのは悪い事ではないと思っています」


 話を聞き、『孤独』という言葉に素直に納得した。

 本当にお寂しかったんだろうな。皇王妃様。


 皇王陛下とほぼ二人の奥の院での暮らし。

 新しい事や趣味も特になく、気力もない繰り返しの日々。


 我が子達には疎まれ、愛する子は愛しているが故に距離を取らなくてはいけないなんて、本当に気が狂いそうだ。


 ティラトリーツェ様にレヴィ―ナちゃんを返しつつ、私はため息をつく。


 加えて、皇王妃様には新しい孫と直接自分は血が繋がっていないという引け目もきっとある。

 だから、できることをしてあげたいと思うのだ。

 …………ちょっと、というか凄く迷惑ではあるけれど。


「まあ、色々と余計な事を言いましたが、結論は一つです。

 さっきも言いましたが、諦めなさい。

 そして無二の機会を得たと思って、三人でしっかりとこの国最高位の女性の立ち居振る舞いを学んでくるのです」

「他人事だと思って~~~」

「今回は、他人事ですから。

 まあ、いつまでも他人事にはならないと覚悟はしておきますけれどね」


 ティラトリーツェ様には完全に投げられてしまったけれど、でも逆に覚悟は決まる。


 寂しい日々を送っていた皇王妃様が『食』によって元気を取り戻したのなら、そしてその元気を私達への愛という形で表してくれているのなら、それを受け止めるのも孫の務めだろう。


 うん、諦めよう。

 そしてティラトリーツェ様のおっしゃる通り、教えて頂けることを学ぶのだ。

 セリーナと一緒に。


「お呼びでございますか? ティラトリーツェ様、マリカ様」

「あ、セリーナ! 大変な事になっちゃったの。

 お願い。セリーナは私を見捨てないで!」

「え? は、はい。何のお話でございましょうか? 私がマリカ様を見捨てる等は決して在りませんが」

「あのね……」


 ひしっ、とセリーナに抱き付き甘える私を、ティラトリーツェ様とミーティラ様は、どこか優しくも生暖かい目で見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ