表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
317/515

王都 能力者の告白(偽)後編

「精霊の…書物? なんだそれは?」


「単に、便宜上、俺がそう名付けてやっただけだ。

 マリカ以外にそんなものが見える奴はいないからな」


 あからさまに胡散臭そうな目で私を見るケントニス皇子。

 疑念を隠す気すらない。


 その視線を真正面から受け止めながら、私は内心で小さく息を吐いた。

 疑われること自体は想定内。

 怖いのは、納得されないこと。


 他に説明のしようがない、と言わんばかりにライオット皇子は肩をわざとらしくすくめて見せる。


「こいつは夢の中で、不思議な知識を見るそうです。

 それは料理で在ったり、化粧品で在ったり選べないようですが。

 マリカや子どもを救い出し、信頼するガルフ達に山奥で育てさせていた時に、ガルフが知らせて来たのです。

 マリカが不思議な知識を持っている、と」


 ……皇子は小説家の才能がお有りなんじゃないかと思う。


 真実と虚構を織り交ぜながら、矛盾なく一つの筋を作る。

 辻褄を合わせる、その滑らかさが前から思うけれど本当に匠なのだ。


 でも、これは遊びではない。

 国の未来と、子ども達の未来が懸かっている。


 子ども達が『能力(ギフト)』を持っていることは、いずれ知らせねばならない。

 子ども保護法が本格的に動けば、人目に触れる機会も増える。

 子ども上がりが実際にいる以上、隠し通すことは難しい。


 そして、私の本当の『能力(ギフト)』――

 『物の形を変える』こと。


 それは絶対に知らせられない。


 国の為とはいえ、悪用を命じられれば取り返しがつかない。

 私は道具にはならない。


「ならば、お前の知識は『能力(ギフト)』によるものだとしてしまえばいい。

 なに、『能力(ギフト)』の異能は千差万別。しかもどういう仕組みなのか誰も知らない。

 そういうものだと言ってしまえば、否定できる奴はいないだろう」


 目から、ぽろりとうろこが落ちた。


 ……なるほど。


 曖昧さを、盾にする。


 だから、皇子の提案を基盤にする。

 私の知識の公開(偽)。

 子ども達の『能力(ギフト)』の周知。

 そして保護の必要性の強調。


 難しい任務。


 だが、皇王陛下を味方につけられれば――勝ち目はある。


 多分。


「意味が解らず、頭に浮かんでくるそれを、字を学んだあと書き留め、夢に見た通りやってみたら、それが育ての親とガルフの目に留まり、役に立つのではないかと言われました」


 声が震えないように気を付ける。


 嘘ではない。

 だが、真実でもない。


「つまり、この娘が調理技術を誰かから習い覚えたのではなく、むしろこの娘が教えて、ガルフに店を出させた?」


「まあ、そうだ。ガルフは、闇に沈んでいたが元、食料品扱いの頭のいい男でな。

 見込んで子ども達を預けていた。

 そいつがマリカが夢から書きだし、実践して見せたものが、今は失われた料理のレシピである、今の世であるなら逆に食べ物は売れるかもしれない。と言い出したので俺が支援して店を出させた。

 主な目的は、成長してきた子ども達を外に出す為だったがな。

 後の結果は皆も知っての通りだ」


 ガルフの支援者がライオット皇子であるという噂は、以前からあった。

 それを正面から肯定することで、物語は完成する。


 娘が異能により知識を得る。

 それを活かし、店を出す。

 子ども達を世に出す。


 筋は、通る。


「子どもは誰でもマリカのような異能を持っているのか?」


「ソレルティアのように異能と気付いていない者、意識していない者もいるだろうし、気付く前に死ぬものもいるだろう。

 だが、可能性は全員にあると思う。

 現に俺が救い出した子どもは十人を超えるが年少の者を除き、ほぼ全員が異能に目覚めている。

 騎士試験に合格したリオン、父上の魔術師となったフェイも、ドルガスタ伯爵が使っていた子どもも『能力者』だ」


 ケントニス皇子の喉が、ごくりと鳴った。


 その目に浮かぶ計算を、私は見逃さない。


 ――もし子どもを集めれば。


 ――リオンやフェイのような者を、手にできるのではないか。


 だからこそ、危険。


 『能力(ギフト)』が餌になってはいけない。


「打ち捨てられ、言葉も解らないような状態では『能力(ギフト)』に目覚める事はないと思いますし、『能力(ギフト)』だと解らないでしょう。

 使えるようになったとしても有効的に利用できることは無いと思います。

 私も救い出されるまでは、ただの夢だと思っていましたし意味も解りませんでした」


 私は一歩前へ出た。


「だから、子ども達を集め、適切な教育を与える事が必要だと、俺は思ったのだ」


「ですから、どうか、打ち捨てられている子ども達に居場所を。

 知識を。加護を。

 子どもは私や、リオン、フェイなどに限らず、皆、大きな可能性を内に持っているのです」


 祈るように手を組み、膝をつく。


 ここは、絶対に強調する。


 『能力(ギフト)』が魅力に映るなら、

 それは守るための理由に変えなければならない。


 利用の口実に、させない。


「子ども=能力者説に関しては、子ども上がりに聞き取りなどをしてみればかなり裏付けは取れるのではないか?

 言われてみれば、今思えば不思議な力があったかもしれない。

 成人したら消えてしまった、と。騎士団にも子ども上がりが何人かいるが皆、そういう証言だった」


 理を積み上げる声。

 疑念は、少しずつ理屈へと変わっていく。


「子どもの異能は成人したら消えるものなのか?」


「もし残っていたら、もっと多くの人間が異能に気付いている。

 さっきのソレルティアの証言からしても不老不死を受ければ消えるのは確定だろう」


「なるほど…な」


 そう頷いたのは皇王陛下だった。


 たった一言。

 だが、その一言で場の空気が沈む。


 まるで真冬の森の奥へ踏み込んだような、深く静かな思索。


「であるが故の法案。であるが故の出資。であるが故の事業提案か。

 公私混同だな。ライオット」


 言葉だけ聞けば叱責。


 けれど、声音は柔らかい。

 慈しみを含み、どこか楽しげでさえある。


「ご判断は、まあいかようにも。

 ですが、全てアルケディウス、ひいては世界の未来を考えてのこと。

 そこに、嘘偽りはございません。

 実際、俺の可愛い娘は国の為に役立っているでしょう?」


 軽く肩を上げる皇子。


 悪びれない。

 堂々と、私を立たせ、横に膝をつき、頬に口づける。


 成果を出している以上、公私混同で何が悪い。


 そう言っているのだ。


 胸の奥が熱くなる。

 守られているのに、同時に前へ押し出されてもいる。


 沈黙が広がる。


 その静寂を裂くように、皇王陛下の後ろで影が動いた。


「おそれながら、皇王陛下。

 この国の政務、財務を預かる文官の長として一言、発言をお許し頂けますでしょうか?」


「許す。申してみるがいい。タートザッヘ」


 静かに書類入れを広げ、幾枚かの書類を差し出すタートザッヘ様。


「昨年の夏から、今年の秋の大祭までの間、ゲシュマック商会がこの国に与えた経済効果は、商会が現れる前と比較して三倍以上の上昇となっております。

 昨年夏から今年の春までの時点で約五割の税収増加でしたが、今年に入ってからのそれはさらにすさまじく、カエラ糖の件を抜きとしても既に三倍なのです。

 カエラ糖の収入を加えれば四倍に迫る事でしょう。

 これが全てマリカ様とゲシュマック商会。

 加えてリオンやフェイ、皇子の見出した子ども達の功績であるというのなら皇子の『公私混同』は、十分な利益をこの国に齎していると言えると思います」


「確かに、な」


「皇女を国に迎え、子ども達を保護し、教育する。

 その過程で国に損になることは何一つございません。

 総合的に見て『子ども上がり』は低く見られがちですが過酷な環境下で生き残ってきたこともあり優秀な人材が多い。

 特殊な異能を持つ者が育つ可能性があるのならなおの事、育ててみるのが良いのではないでしょうか?」


「…お前にしては随分積極的な意見だな」


「タートザッヘ様は、フェイの事がお気に入りでいらっしゃるのです。

 自分と対等の会話ができる者は久しぶりである、と」


 失礼ながら、と口を挟むソレルティア様。


「ちなみに私も同意見にて。

 子ども上がりでございますれば。子どもの過酷、そこで生き延びる苦難は良く存じておりますれば助けられるものなら、助けたいと存じます」


 軽い片目のウインク。


 援護射撃。


 胸の奥がじんわりと温かくなる。

 これは、フェイの努力の積み重ね。

 築いてきた信頼。


「まあ、子どもの救出『能力(ギフト)』については本当は言わなくてもいいと思っていた。

 マリカから生み出される物の価値が予想以上に大きくなって、納得して貰う為には話さなくてはならなくなったから告げたに過ぎん。

 法案も成立したし、孤児院の運用も開始された。

 後は父上が、兄上達が信じるか信じないか。どう判断するかは俺の知ったことではないからな」


「貴様…子どもの『能力(ギフト)』を利用して何かやらかす気なのか?」


「何をやらかすというのだ? 誰も死なぬこの世界で」


 鼻で笑う。


「俺は前にも言ったが、マリカが、助けた子らが、そして生まれた我が子が、自由に羽ばたける世界を作りたい。

 それだけが望み」


 噛みしめるような、静かな声。


 胸が締めつけられる。


「相分かった」


 皇王陛下が立ち上がる。


「…ケントニス、トレランス、ライオット」


「…はっ!」


 空気が変わる。


「食事の場ではあるが、私の意志と決定を伝える。

 文官長の立ち会う、これはアルケディウス皇王の正式な『命令』である」


 冷気が走る。


「マリカを、新年をもってアルケディウスの第一皇女として登録する。

 ライオットの娘ではあるが、同時に儂が直々に加護を与える其方達と同格の皇族として」


「そ、それは…」


「異議は、認めぬ。ケントニス。

 マリカ登録の後は、予定通り其方の元で、食の指揮に当たらせるが知識の全てを保有する者として現場決定権はマリカに与える者とする。

 その知識は貴重かつ、替えの効かぬモノ。

 下に見て侮るは許さぬと知れ」


「…はい」


 私は、第一皇女になる。


 状況が、急変する。


「続いて児童保護についてはライオットの指揮のもと、国策としてこれを行う。

能力(ギフト)』については当面一般に告知する事はしない。其方達にも基本的に口外を禁止する。

能力(ギフト)』の利用を目的とする子どもの囲い込みを防止する為である。

 家庭で責任をもって育てる事ができない子は、国で保護する旨を周知、徹底させよ」

「承知いたしました」


 思った以上の勝利。

 良かった、と少し肩の力が落ちる。


 だが。まだ安堵するのは早かった。


「そして…マリカ」

「はい、皇王陛下」


「新年に各国王が大聖都に向かう参拝の儀がある。それに皇女として同行を命じる。

 準備を整えておくように」

「え?」


 思考が止まる。


「皇族として大聖都にて正式に登録し、神と各王族に其方と新しい食、そして今後のアルケディウスの方針を披露する。

 会議にて菓子や料理の差配を行え」


 大聖都。


 神のお膝元。


 (精霊の貴人)が?


「其方の知識と子ども達は、今後、世界を動かす。

 世界はこれから動き始める。

 ライオットを真似て、最初に世界に告知しておこう。

 マリカとその知識はアルケディウスのものだとな」


 悪戯めいた笑みが私の上に落ちる。


「其方はアルケディウスの宝だ。

 子どもと食の重要性を世界と神に知らしめる為に。

 胸を張ってついて参れ」


 一難去って、また一難。


 いきなり、神との直接対決が降って湧いたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ