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魔王城 フェイ視点 追い求めたもの

 精霊が、呼びかける。問いかける。


 力が欲しいか?

 覚悟はあるか?

 人の身を捨てても、守りたいモノはあるか?


 と。


 迷わなかった。

 躊躇わなかった。


 最初から、答えは決まっていたから。




 死さえも意識した一日を超えた朝。

 思った以上にすっきりとした目覚めに、自分でも驚いた。


 ――まあ、そんな驚きは大したことではない。


「フェイ……気が付いたのか? フェイ!?」


 不安と心配を顔いっぱいに浮かべて、自分を覗き込むリオンと――


「あ……おはようございます。リオン」

「こ、このバカ野郎!!!」


 その怒鳴り声に比べれば、の話だ。


 どうやら『変生』には丸一昼夜を費やしたらしい。

 朝だと思って目覚めたのは夜。

 それも、深夜を随分と過ぎていたようだ。


 なるほど。

『おはよう』は、あまりにも間の抜けた挨拶だっただろう。


「ったく。『おはよう』よりも先に言うことがあるだろうが……」


 ぐしゃぐしゃと髪の毛をかきながら、リオンは――


「フェイ」


 僕を見た。


 初めて出会った日から十年近く一緒にいるというのに、それは、初めて見る彼の表情だった。


「変生は終わった。

 お前は、精霊と人の狭間の者になった。

 もう、普通の人間には戻れない。それを理解しているか?」


 冷たく、厳しい――上位者の眼。

 それに、僕は正面から答える。


「ええ。しっかりと理解しています。

 僕は、やっと……貴方と同じ者になった。なれたんだと……」

「そこは喜ぶところじゃない。

 お前は……俺が『何か』、もう解っているんだな?」


「ええ。精霊が……教えてくれましたから」


 魔術師の杖とは、高位の精霊が術者の力となるために化身したものだというのは、触れてみて初めて解ったことだ。

 地下宝物蔵で触れた時、その記憶の全てが脳に流れ込んできた。


「ちっ! 精霊達は、いつの時代もおしゃべりが過ぎる」


 悔しげに舌を打ったリオンは、


「……俺は……」


 続く言葉を、探しているようだった。


「俺は……お前を、巻き込むつもりは無かったんだ。

 ただ……あんまり長くお前と一緒にいすぎて。

 誰かと一緒にいるのが嬉しすぎて、つい、弱音を吐いた……。

 ……その結果がこれだ」


 一言、一言を噛みしめるように告げる彼。

 その先に来る言葉は、もう解っていた。


「……すまない、フェイ……。

 俺は、どこまでいっても我が儘な、愚か者だ」


 だから、僕はその言葉を――


「違います。何度も、何度も言ったはずです。

 これは僕の意思。僕が、自分で選んだことです」


 即座に否定する。

 否定しなくてはいけない。


 彼と共に歩き続けるためにも。

 彼の隣で、同じものを見続けるためにも……。


「お前が苦しむ必要なんか、無いんだ!

 最初から最後まで、すべて俺のせいだ。

 俺の愚かさが、招いたことなんだから……」


 手を固く握りしめる彼は、心も弱音も、すべて己の内に押し込めようとしている。

 でも――逃がすわけにはいかない。


 やっと届いたのだ。

 追い求めていたものに。

 孤独の中で戦い続ける彼の背に。


「だから……そうやって一人で背負うつもりなんですか?

 いつまでも、いつまでも」


「ああ。もう誰も巻き込めない。巻き込まない。

 せめて世界を取り戻すまでは。

 そう決めていたのに……いつも俺は失敗する。

 今度こそは、失敗できないのに。絶対に、守らなくてはならないのに」


 だから、譲らない。

 彼の隣に立ち続けるためにも。


「失敗するのは貴方が、一人で戦おうとするからです。

 背を預ける誰かがいれば、貴方が負けるはずなどないのに……。

 本当は、解っているのではないのですか?

 だから、僕を選んでくれたのではないのですか?

 だから、魔王城に来たのではないですか?」


 俯く彼の抱えてきた孤独が、苦悩が、目に見えるようだ。


 彼が、自分と共にいてくれたのは。

 自分に夢を語ってくれたのは。

 きっと彼が、助けを求めていたからだと解っている。


 だから、自惚れよう。

 自分は彼を助けるために選ばれたのだ、と。

 彼に、そして彼を今も案じる精霊達に。


 追い求めたのは、ただ一つ。

 彼の孤独を癒し、共にあり続けること。


「いい加減、諦めて下さい。アルフィリーガ!!

 いいえ、リオン!

 僕は、貴方の隣に立つんです。

 貴方を守る者として、共に歩む者として」


「この先に待つのが、永劫の地獄だとしてもか?」

「どうせ、最初からこの世は地獄です。

 貴方がいなければ僕はとうに死んでいた。

 地獄となった世界を壊して元に戻す――それが貴方の願いでしょう?

 なら、最後まで、最期まで一緒に行きますよ」


 長い、長い睨み合い。


「本当に……魔術師って奴は……誰も彼も……」


 先に音を上げたのは、彼の方だった。


「……今回は、本当に失敗する訳にはいかないんだ。

 彼女がいる。

 俺は、彼女を今度こそ、守らなければならないんだからな」


 大きく息を吐き出した彼は、僕の方を見つめる。


「……こき使うぞ。

 もう、どうせお前は戻れない。

 今さら、人間に戻してやることはできないからな。

 遠慮はしない。ついて来い。最期まで」

「勿論。とっくに覚悟はできています。

 この命尽きるまで、使い潰して貰って結構」

「誰が潰すか。勿体ない」


 自嘲するように笑うと、彼は「話は終わりだ」とでも言うように、顎をしゃくった。


「もう朝だ。

 マリカが心配している。行ってやれ」

「解りました」


 軽くお辞儀をして、僕は部屋を出た。


「ありがとうございます、アルフィリーガ。

 隣に立つことを許してくれて……」


 最後に一言だけ、彼に感謝の言葉を残して。



「凄い……本当の魔法だ」

「魔法、じゃなくって魔術、ですけどね。

 初めての割には、上手くいったでしょうか?」


 風圧で乱れた髪を戻しながら、僕は大きく息をついた。


 魔術師として初めての魔術は、なかなかに上手くいった。

 シュルーストラム――僕の杖。

 魔王城最強の精霊も、素直に力を託してくれた。


 こうなってみて、気付けたこともたくさんある。


 風に、草木に、万物に宿る精霊たちの息吹。

 命の歌声。

 星の力。


 そして何より――


「すごーい、すごーい。まほーだ、まほーだ」

「フェイ兄、すごいね、すごいね」

「ああ、凄いな。うん、フェイは凄いんだぞ」

「……リオン」


 彼の強さと、優しさを。


「解ってたさ。お前はあいつより絶対凄い魔術師になれるって」


「リオン……」


 僕を見つめるリオンの瞳には、色々なものが混じっている。


 安堵、信頼、友愛、そして……微かな罪悪感。

 きっと喉元まで出かけていた謝罪の言葉。


 それらすべてを呑み込むと、リオンは僕の背を叩く。


 いつもの笑顔で、いつものように。


「信じてるぜ、相棒。俺達の『魔術師』。

 これからもよろしくな」

「ええ、任せて下さい。リオン」


 だから、笑う。

 いつもと同じように。


 ――彼の隣に立つ者として。


 

「ねえ、フェイ兄? アルフィリーガ、って言葉、知ってる?」


 中庭からの帰り道、マリカはふと、思い出したように僕に囁いてきた。

 マリカは、どこまで気付いているのか。

 何を、知っているのか。


 僕は眼差しを、暫し空に躍らせる。


「アルフィリーガ……ですか」


 なんと答えるべきなのか。

 少し考えた後、僕は答える。


「それは、リオンの名前ですよ」


 と。


「う~~、確かにそうなんだけど~~~」


 明らかに納得していない彼女も、いつか知る日が来るだろう。

 今はまだ、彼が伝える気が無いのなら、僕が言うつもりはない。


『アルフィリーガ』は精霊の愛し子。

 星と人と、精霊を導き守る者の称号。


 そしてもう一つ。

 人界においては唯一無二の意味で、今も語られる。


 ――もっと早く気付くべきだった。

 気付けていたら、もっと寄り添う事ができたのだろうか。

 彼の孤独に。


 ……あの時。


『マリカっていうのはどうだ?

 この世界を救った、勇者の仲間の一人だったって聞いたことがあるぜ』


 彼は、今は失われ、どこにも――

 伝説にも聖典にも伝わっていない存在の名を、彼女に与えた。


『アルフィリーガ』


 それは、この世界を救い、不老不死を世にもたらした者。

『勇者』を指し示す言葉である。

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