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王都 王国の大祭 一日目 『勇者伝説』を見つめる瞳

 大祭、一日目はいよいよ、クライマックスを迎える。

 私達は一日目の夜しか見たことがないけれど、大祭の一日目は招待された旅芸人のお芝居がメイン。

 二日目からは特設ステージが解放されるので、この日を狙ってきた旅の芸人や踊り子、吟遊詩人などが飛び入り参加ありで唄や踊りなどを披露するステージがあって、どの日も一日、賑やかになるそうだ。

 今日は初日。

 メインの劇団の前座のような形で、舞台上では吟遊詩人が歌を披露していた。


 舞台の最前列近辺に、私達は席を取った。

 後ろの人が見えやすいように、前の人達は地べたに敷かれた薄い絨毯の上に座っている。

 既に広場の舞台前は、ゲシュマック商会の屋台に集まった人よりも凄い人だかりだ。

 肩と肩が触れ合い、息と熱が立ち上って、夜の冷えさえ押し返している。


「うわあっ! 凄いね。凄いね!!」


 アレクが目を輝かせている。自分以外の演奏家を見たのが初めてだからかな?

 腕としてはアレクとどっこい、アレクの方が上手じゃないかな、くらいなのだけれど。弾き語りという方向性の違う演奏は、同じ楽師として興味があるようだ。

 鮮やかで、甘やかな騎士と姫君のラブストーリーが、流麗な演奏に乗って紡がれていく様子に、すっかり夢中になっている様子。

 それは他の子ども達も同じで、アレク以外の演奏家の奏でる音楽を、心から楽しんでいた。


 前座の後半になって、舞台を一際大きな歓声が包み込む。

 南国の踊り子なのかもしれない、しなやかな美しさを持つ女性が前に進み出て行った。


 アルケディウスは所謂白人が多いけれど、プラーミァの国王様にも似た褐色の肌をした踊り子さん。

 かなりきわどい舞台衣装を身に纏い、腕や足には沢山のアクセサリーがシャラシャラと煌めく音を立てている。

 そして、広場中の目を集めて、彼女はしなやかに身をくねらせて踊り始めるのだ。


 実物を見るのは初めてだけれど、向こうの世界でゲームとかに良く出て来るベリーダンスの踊り子のイメージそのまま。

 薄絹のヴェールや、手足に付けた布が動きに合わせてひらひらと踊る様は、夢を見ているようでさえある。

 技術で言ったら、向こうの世界の本格的な劇団で、もっと凄いのを見たことが無いとは言わない。バレエ団のグランフェッテとか、本格的ミュージカルはもっと凄い動きをしていた。

 けれど、それとはまったく違う方向性。

 差し伸べた指のくねり。くるくると回る度に絡みつかず、美しく靡く布と腕。

 ぺったりと地面に、一八〇度開脚で接した足が、ゆっくりと、両手のしなやかな動きに見惚れている間に起き上がっていく――その一連の流れが、驚くほど音楽に合っていて、胸がどきどきする。

 人々の心を魅了せずにはいられない。

 それは濃密で、胸の奥に触れていくような、不思議な表現だった。


「わああっ!」


 踊り子と詩人の演技が終わると、万雷の拍手と歓声が彼らを包んだ。

 優雅にお辞儀をすると、彼らは退場していき、舞台は暗転する。


 メインイベント。

 アルフィリーガの劇が始まるのだろう。

 闇の中で舞台の準備をする音が、かさかさ、カタカタ。聞こえている。


「すごかったね」

「きれいだった」

「うん、ステキだったね。でも、みんな。ちょっと聞いて」


 初めて見る本物の舞台に興奮している子ども達に、舞台が始まる前、もう一度声を潜めて注意する。


「これから舞台が始まるの。勇者アルフィリーガの舞台劇ね。

 これは、絶対に何も言っちゃダメ。大きな声出したりしないで、静かに見て。

 色々、言いたい気持ちは出てくるかもしれないけど、後で帰ってから。

 でないと、リオン兄が本当に困るの。約束できる?」

「うん」

「約束する」

「解った」

「はい」


 ここに来る前にも話をした事、だ。

 魔王城の子ども達は本当の勇者から、勇者伝説はそのままの美しい話ではないと聞いている。

 だから、それを変にこの場でツッコミ入れられるだけは困る。本当に。


「さて、ではいよいよ、祭りの最大のメインイベント!

 新進気鋭、インノバドール一座の舞台劇をどうぞ。演目は勇者アルフィリーガと魔王の決戦!」


 夏の舞台の時とは違う一座のようだ。

 合図に合わせて周囲の灯りが落とされ、スポットライトを向けたように闇に包まれた空間にステージが浮かび上がる。


 舞台上には黒い大きな冠とローブ。

 装飾の多い衣装を身に付けた男が杖を持って立っている。漆黒の大きな椅子は多分、玉座を表しているのだろう。

 相対するのは金髪、碧の瞳の青年と、三人の仲間。

 黒い布やかきわりの階段。夏の時よりはかなり凝っているけれど、やはり舞台は魔王の城だと解る。


 今年も勇者討伐のシーンの再現なのかな?

 多分、これが一番受けるんだろう。


 楽師が奏でるリュートの調べ。

 重なり迫力を添える笛や、竪琴のような楽器を背景に、主人公『アルフィリーガ』が高く剣を掲げた。


「これが~、最後の決戦だ~♪

 いよいよ辿り着いたのだ。我らはここに~~♪」


 今回はちょっとミュージカルっぽい。

 四人の勇者たちのパーティが、それぞれに長旅の苦難を語り、踊り、魔王を倒す決意を謳っている。

 新進気鋭、というだけあって、人々は集中している。魅入っている。

 世界に平和をもたらした『勇者』の物語に。


 振りかざされる、鋼の剣。

 魔王と勇者が刃を交わす。計算された見事な殺陣だ。

 縦横無尽、右に放たれた剣を、魔王の杖が受ける。

 魔王の杖の攻撃を、勇者の剣が迎え撃つ。

 激しい攻防の果て、魔王が勇者の剣を弾き飛ばした!


『神の傀儡。弱き者達よ。この世界は私のものだ。誰にも渡しはしない。

 人も、精霊も、私の意向に跪き、こうべを垂れて従えばよい!』

『いいや、違う! この世界は、生きる全ての人々のもの。

 大地と神と精霊の名において……貴様を倒して、世界に光を取り戻して見せよう!』


 私は周囲を見回した。

 舞台に夢中になっている子ども達から少し離れた、舞台エリアの端。

 腕組みしたまま舞台を見つめているリオンが見えた。寄り添うフェイも。

 顔色はやはり良くない。けれど、夏と違う、射るように真剣な眼差しは――やはり覚悟と想いを決めたから、なのかもしれない。


 そうして舞台はクライマックス。

 圧倒的な力を持つ魔王を、力を合わせて勇者たちは追い詰め、死闘の果て……やっと魔王の胸にその刃を突き立てる。


『これで、終わりだ! 消えろ、魔王! 闇の彼方に!!』

『ぐ、わあああああっ!』


 一歩一歩、かきわりの階段を昇っていく魔王は、勇者たちを睨み付ける。


『よくぞ、私を倒したものだ。

 だが、私はいずれ、また蘇り世界を……我がもの……と……』


 かきわりの階段から飛び降り、魔王は退場。

 暗転の後に場面転換。

 勇者達だけが残され、そこに白い光が差し込んだ。

 神を表す光、なんだろう。


『勇者アルフィリーガよ。よくぞ魔王を倒した。

 そなたに褒美を与えよう。何を望む?』


『~~星の愛と、光満ちる、希望の地~』


 一歩を進み出た勇者は、観客席に向かって朗々と歌う。


『優しき夜と空と風。

 燃える炎は、星を温め~

 大地は広がる、子らの為に。

 流れる水、萌ゆる木々の緑、美しき我が故郷。

 愛する我が星よ……』


 この地上の美しさと、人々への愛を。そして――


『私が望む者は何もありません。

 ただ、一つ、願いを叶えて貰えるのなら、どうか世界の人々に不滅の命を。

 永遠に皆が、幸せに生きられますように……』


 愛そのままに願いを口にした。


『それは、大きすぎる願いだ。

 お前と友が命と力を捧げるならば、それを叶えることもできようが……』


 冷酷な神の光に向けてアルフィリーガは進み、躊躇わず、微笑んだ。

 手に持った剣を胸へと構えて。


『この世界は、神と、精霊と、この地に生きる人々のもの。

 魔王が消えたこの世界に、勇者はもう不用だろう』

『待て! アルフィリーガ』

『ライオット。お前は残れ。皇子として、人々を導け。

 ……そして俺達が作った平和を、見届けてくれ』

『アルフィリーガ!!!』


 勇者は剣を自らの胸に埋め、そのままライオット役の腕へと倒れ込んだ。


『この世界をお願い』

『人々に永久の平和を、そして幸福を』


 互いの心臓をナイフで貫いた仕草で、残りの二人も地面に崩れ落ちる。


『何故、俺一人を残していくのか!

 お前達のいない世界で、俺は一人、永遠に生きて行かねばならないのか!!』


 明かりが消え、闇の中、泣き崩れるライオット皇子の周囲が光に包まれる。

 黒の装飾は全て取り払われ、周囲は純白に。

 そして、さっき魔王が消えたかきわりの上に白い――向こうの世界でいうなら天使のような装束に身を包んだ三人が立っている。


『世界は神の力によって、生まれ変わった。

 誰も死に怯える事の無い、平和がやってきたのだ』

『しかし、魔王の力は、強く、濃い。

 人々の心に闇となって残り、いつしか蘇るだろう。

 世界に危機が及ぶ時、俺は必ずや戻って来る。

 その時まで、この世界を頼むぞ、ライオット!』


「わああっ!」


 三人が空に浮かび上がり、消えて行った。

 白く塗られたロープを腰につけ、引き上げられたのだ、と向こうで芝居慣れしている私は解るけれども、初めて見た人たちには、多分、神の意向で空に本当に上ったように見えたのだろう。

 驚きに震える歓声が客席のあちこちから聞こえて来た。


 消えた三人を見送ったライオット役の男は、客席に向かって剣を高く掲げて宣言する。


『偉大なる神と、勇者アルフィリーガの名に懸けて、俺は誓う。

 この世界をこれからも、守って見せる、と。

 そして、いつか世に魔王が蘇ったら、勇者と共に戦う、と!』


 人々が夏にも増した熱狂と喝采の声を上げる。

 スタンディングオベーション。割れるように溢れる万雷の拍手。

 カーテンコールが続く中、私は四人の子ども達の顔を覗き込んだ。

 彼等も周囲に合わせ、拍手を送っている。けれどその眼には、周囲の人々とは違う、不思議な光が宿っていた。


「そろそろ遅いし、リオン兄の所に行こうか?」


 私の言葉に嫌がらず、子ども達は頷いて広場から離れた。


「夏の時より、舞台演出が凝ってたな」

「……リオン兄」


 人目のつかない路地の入口で、リオンが待っていてくれた。

 顔に浮かべた笑みは張り付けたようで、彼の思いを完璧に隠している。

 去年のような慟哭を、リオンはきっと子ども達には見せないだろう。


「リオン兄!!」

「アーサー」


 けれど、そんなリオンの思いを正確に感じ取ったように、アーサーがその腰にしがみ付く。まだ傍にヴァルさんがいる。

 アーサーは約束を守って、吐き出したい思いを、ぶつけたい言葉を、そっと飲み込んでくれているのだろう。

 そしてきっと、リオンの代わりに泣いてくれているのだ。

 女の子達も同じ。


『自分達の為に、命を投げ出して平和な世界を作った勇者』


 の物語から、人々と同じ感謝と熱狂ではない何かを感じ取ってくれているようだ。

 それなら、舞台を見せたかいもある、というもの。


「そろそろ空の刻も過ぎる。帰りましょうか?」

「うん」


 広場では賑やかなフォークダンスが始まっているけれど、もう少し遊んでいたい、とは誰も言わなかった。


 帰り道。


「~~星の愛と、光満ちる、希望の地~」


「アレク?」


 ミュージカルの一節を、アレクが口ずさんでいた。

 音は正確。発音も綺麗。

 一度見ただけなのにもう覚えたのかと、目をぱちくりしてしまう。


「この歌の所は、すごくキレイだったから。

 星と自然とみんなが大好きだったって、勇者の気持ちでしょ」


 そう言って謳うアレクの歌声は、正直な所、役者よりも上手いと思う。


「燃える炎は、星を温め~

 大地は広がる、子らの為に。

 流れる水、萌ゆる木々の緑、美しき我が故郷。

 愛する我が星よ……」


 そして即興でアレクは続きを謳う。


「願わくば、人々に笑顔を、そして幸せを……

 皆と共に歩く、未来を夢見て……」

「アレク……」


 星と人々を愛する勇者の言葉を、代わりに歌ってくれているようだ。

 自らの命によって断ち切られた、続き。

 勇者や友を犠牲にしての平和ではなく、皆と共に歩く未来を願う希望の唄。


 先頭を歩くリオンの表情を、歌うアレクは見ていなかっただろう。

 リオンの眼には、さっきまでの固いものとは違う、確かな感謝と優しい微笑が宿っていた。


 そうして、私達の大祭観光は終わりを迎える。

 大祭と、それにまつわる騒動は、まだ全然終わってはいない。

 ――というか、これから、なのだけれども。

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