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王都 大祭一日目 閑話 ドライジーネと兄と姉

Special thanks カオス饅頭さま

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六〇〇話達成おめでとうございます!



 アルケディウスの大祭を、皆で楽しんでいる私達。

 駆け足で祭りの屋台を見て回り、今は風の刻から始まる中央広場でのステージイベントを待っているところだ。


 まあ、出し物は毎年恒例の勇者伝説『アルフィリーガ物語』の劇で、リオンが好んでいないことは解っているのだけれど――


「もう、そういうものだと諦めたから、気を遣わなくていい。

 あいつらは、きっと違う目で見てくれるだろうし」


 と言ってくれたので、一度は見せてみる事にしたのだ。

 その前と後の吟遊詩人の演奏や、街の人達のダンスとかは純粋に楽しいし。


 で、あんまり後ろだと小さい子達は見えないから、少し早めに舞台の前に席を取ろうと前に行ったら――


「おっと! 悪いな」

「わあっ!」


 ドン!


 私は勢いよく近付いてきた人物にぶつかって、転んでしまった。


「大丈夫かい?」


 倒れた私を、若い男性が支え、助け起こそうとしてくれたけれど……。


「待て! その手に持っているものを返せ!」

「ヴァルさん!」


 次の瞬間、私の背後に回り込んでいたヴァルさんが、私を起こそうとしていた男性の左手を後ろに捩じり捻る。


「痛い! 痛い! 止めろ!!!!

 返す、返すから!!!!!」


 右懐から、ぽとりと落ちたのは――私のお財布!


「あ! この男、スリ!?」

「男達、だ。大丈夫か? マリカ」

「リオン?」


 思わず上ずった声を上げてしまった私の横に、リオンが転がしたのは……、


「さっき、私にぶつかって突き飛ばした人!」


 もう後ろ手に、きつく、固く縛られている。

 そうか。向こうの世界でもスリのよくある手口。

 一人が相手の意識を反らし、もう一人が助けるふりをして懐奥に手を入るっていうの。


「じゃあ、この二人がグルで、私の財布、狙ったの?

 あ、他の子達は大丈夫?」

「大丈夫だ。大した額は持ってないと見られたんだろ。

 狙われたのはお前だけだ。今、フェイに周回している兵士を呼びに行って貰った」


 子ども達が無事でよかった。

 いや、良くないけど。


「マリカさん。財布の中身を確認してください。

 開けている余裕は無かったと思いますが、お金は減っていませんか?」


 ヴァルさんに言われて、慌てて財布の中身を確認する。

 ひふみ……。うん、大丈夫。無くなってない。


「大丈夫です。ちゃんとあります」

「でも、ほら。こっちはやられてたぞ!」


 リオンが私の手の中に、ぽとりと落としたのは――


「私の髪飾り!」


 私のポニテは髪ゴムが無い世界なので、普通のひもで結んだ後、魔王城の島で見つけたダイヤモンドを組み込んだ飾り紐で結んである。

 その飾り紐が、するっと抜かれていたのだ。


「リオン、これに気付いて捕まえてくれたの?」

「まあな。お前のこれは夜目に目立つから」

「ありがとう」


 作りとしてはシンプルだけど、ラウンドブリリアンカットに研磨したダイヤモンドは、確かに貴重で目立つのかもしれない。以前、ザックさんも興味を持ってたっけ。

 私は紐を髪に結び直した。


「夜色の髪に、星が瞬いているようですね。

 なかなか見ない石ですが、なんという石なんでしょう?」

「アダマンディア、だったか?

 精霊の古語で、侵されざる者みたいな意味があった筈だ」


 ……やっぱり、この世界の言葉って、向こうの世界と音が近いものが多いのかもしれないと素直に思った。

 向こうの世界でもダイヤモンドの語源は似た言葉で、征服されざる者――とても強い者、という意味があった筈。


 と、ふと思い出す。

 異世界にいる、もう一人の『お兄さん』の事。


「そういえば、フェイ。ドライジーネ。どうしたの?

 確か、皇子が興味を持っていたって言ってたでしょ?」


 ドライジーネ。

 木製のキックバイクのようなもの。

 私達の世界の自転車の原型のようなものだったのだけれど、けっこうスピードが出て丈夫なのだ。

 魔王城では子ども達の遊びに使っていた。


 こっちでは今までは、ゲシュマック商会が急ぎの配達や用事に使っていただけ。

 だけれどライオット皇子が見初め、気に入ったので使いたいと言い出した。

 初めて外で使ったのは、ライオット皇子が大聖都に行った時の配達だったから。

 皇子には無料でお渡ししたけれど、皇子からさらに広める時には正当な金額を取ることをお約束している。


『これは、凄い発想と技術だからな。正当な価格支払いは当然のことだ』


 皇子用に用意したドライジーネを乗り回しながら、目を輝かせていたっけ。

 あの方は時々、子どもみたいな顔を見せる。


「皇子が木工工房で改良型を研究して、生産するように命令したそうですよ。

 伝令に早馬と併用するのが良さそうだ、ということになったとか?」

「今まで無かった技術だから、まあそうなるかな?」


 正確には、この世界には無い、オーパーツ。

 ある意味、私の知識で作るものは全部そうだけれど、ドライジーネは更に特別で。

 本当に異世界産の品物なのだ。


 私達が魔王城に来て間もなくの頃、迷子になったことがあった。

 魔王城の中を歩いていた筈なのに、気が付けば外。しかも見た事の無い街並み。

 私、今度は異世界に迷い込んだと思った。


 だって、国営鉄道があって、車や自転車に似たものがあって、その上、食べ物屋台があるんだもの。

 間違いなく記憶に薄いアルケディウスや魔王城じゃないと思った。

 異世界転生の次は異世界転移か! ってね。


 で、右往左往していた私を、助け、拾ってくれた女の子がいた。


 金髪、ツインテール、ブルーアイが可愛い美少女。

 どこからどう見ても、良い所のステキなお嬢様。その子が、


「行くところが無いのなら、妾の所に来るのじゃ!

 お姉さま、と呼ぶのじゃぞ」


 と、とあるお店に連れて行ってくれて――


「妹分ができたのじゃ!」


 私を保護し、リオンとフェイが迎えに来るまで相手をしてくれたのだ。


 そのお店は本当に、外見から中身まで面白いお店で。

 逸れた私を探す二人と合流するまでの間、私はお店の子ども達や、お姉さまや、お姉さまのお兄さん――だからお兄さま? と少し話をして、店に置いて貰うお礼にパンケーキを焼き、少し中を、色々と見せて貰った。

 その時に見た道具のアイデアを、シュウに作って貰ったのだ。


 向こうの世界の自転車に近いけれど、こちらの方が、ファンタジー世界でも使える。


 あちらの世界は、正直言えば、こっちよりも生活はしやすかったと思う。

 キッチンも使いやすかったし、チョコレートもある。

 作ったのはチョコレート入りパンケーキで、面白がって貰えたのがうれしかった。


 向こうの世界に近いというのが、正しいかもしれない。

 そのチョコレートが羨ましくって、怪しまれても南国の王様に『カカオ探して下さい』って頼んだのは自爆の思い出だけど。


「ドライジーネも、貴方達が仕掛けたものだったのですか?」


 ヴァルさんが目を丸くする。


「今度の会議で、皇子は新しい技術として公開する予定のようですよ。

 騎士団でも注目と話題の的です」

「そうですか」


 馬の疲労を気にしなくて良い分、早馬より長距離を早く走るのに向いている。

 魔術師がいれば必須の技術ではないけれど、逆に魔術師がいない時には必須の技術だ。


 どうして、魔王城からあの世界に繋がったのか、解らない。

 迎えに来てくれたリオンとフェイも、知らないうちに繋がり、三人揃ったら戻った――以上の事は解らない、というし。

 他ならぬ魔王城から繋がったのだから、多分『星』の意思ではあったのだと思う。


 私も逆に、あの世界、妙に懐かしくて好きだったんだよね。

 メカメカしいのに、この世界と空気の色が近いというか……。

 真逆のようで本質は同じというか……。


『星』が何かの意図があって、私達をあの世界に運んだのだ。きっと……。


 そっと、アダマンディアの髪飾りに手を触れる。

 硬くて美しい、宝石の名を持つ少年――お兄様の顔を思い出した。

 それから、私にとっての唯一の『お姉さん』。


 柔らかくて、甘くて優しいけれど、強さと歯ごたえとフレッシュさを併せ持つ。

 お菓子の名を持つ少女を。


 もう少しいないか、と誘って貰ったけれども。

 あちらの世界には子どもを保護してくれている人もいるのなら、私がやるべき事はこちらにあると思った。

 でも、いつか、また会いに行けたらと思う。


「ゼラチンも出来たから、今度、作ってみようかな。シャルロット」


 スリを見回りの護衛兵に突き出したフェイが、私の顔を覗き込む。


「何の話です?」

「ううん、何でもない。今度のお祭りには新しいお菓子を作ってみたいな、と思っただけ」


 あの世界はお料理とか充実していたから、私が作るまでも無いと思うけれど。

 その時にはまた、お礼に美味しいものでも作れたらいいな。


 そう思いながら、私は皆の所に戻って行った。


 因みにドライジーネがこの後のアルケディウスに、この世界に、一種の交通革命を巻き起こすのは――もう少し後の話になる。

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