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王都 大祭一日目 楽しい宵祭り

 この世界の星の運行、太陽と月の関係がどんな感じなのかは解らない。

 けれど、春夏秋冬があり、夏から秋にかけてどんどん日が短くなる。

 秋も深まった空の二月。

 向こうの世界で言うなら十月後半から十一月、くらいだろうか?


 火の刻頃からはもう日がすっかり落ち、暗くなっている。

 けれど、今日の街はまったく暗さを感じない。


「いらっしゃい、いらっしゃい!」

「やすいよ、やすいよ!」

「遠い、シュトルムスルフトから運んできた織物はどうだい? 冬の準備は大事だよ!」


 中央広場のみならず、大通り、城壁周辺に隙間なく並んだ店々が、灯りを掲げているからだろう。

 揺れるカンテラの光が、暖かいオレンジ色に街を染めていた。

 行き交う人々の顔が、火の揺らぎに照らされて明るく浮かび、笑い声がそのまま空気の温度になっているみたいだ。

 煙と匂いと声が混ざって、祭りの夜は呼吸するだけで胸が弾む。


「うわー、凄いね。お店がいっぱい。大人もいっぱい」

「ホントにすげえ。しかも全部、売ってるものが違うぜ」


 夏に私達が感動したのとはまた違う質で、子ども達は目を輝かせている。

 そもそもお店で買い物する機会もあんまりなかったし、いきなりのお祭りはやっぱりびっくりするよね。


「あんまりお店のものに勝手にベタベタ触らないようにね。

 欲しいものがあったらお願いして見せて貰って」

「はーい」


 エリセとミルカはまだ、ちょっとは買い物をしたことがある。

 けれどアーサーとアレクは、考えてみれば買い物そのものが初めてだ。注意してあげないと。


 私の忠告を聞いてくれて、子ども達は少し背筋を伸ばして、注意深く品物を見てくれている。

 布製品はともかく、ガラス製品なんて落としたら大事だ。

 アルケディウスの大祭では、中央広場に王都やアルケディウス各地の屋台が並び、城壁沿いの外周に各国からの特産品の屋台が並ぶ。


「うわー、これキレイ」


 女の子達の目は、やはり色とりどりの織物や布へ行く。

 綺麗なリボン。ハンカチ。

 靴下、手袋。色鮮やかで、本当に眩しいくらいだ。


「ここの品物はアーヴェントルクのものですか?」

「ああ、そうだ。山地で飼っている羊から採っているから、暖かさが違う。これから冬の季節に必需品だぜ」

「おいくらです?」

「一つ、中額銅貨二枚だ」


 ふむ。千円くらいならあり。

 暖かそうなミトンの手袋が並べられた店があった。柔らかで、触っただけで指先が幸せになりそうだ。

 民芸風の編み込みも赤、青、緑、紫、色とりどりで、城の子ども達のお土産にも丁度良さそう。

 雪やお花などの模様の編み込みはとても精緻で、見惚れてしまう。

 今使ってる手袋は、私の手作りだから模様も本当に簡単で、不格好なんだよね。

 冬のカエラ糖採取とかで外に出るときもあるし――買ってあげよう。


「みんな、好きなの選んでいいよ。ここのは、みんなのお土産に私が出すから」

「ホント!」

「やった!」

「アーサー、アレク。お……向こうの男の子達の分、エリセとミルカはファミーちゃん達やティーナの分も選んであげて」

「ハーイ!」

「りょーかい!」


「ここにいる他にも、まだ子どもがいるのですか?」

「ああ、俺達が育てられた山の中の施設には後十人位いるかな?」

「そんなに! その子達が隊長や彼女のような教育を受けて育てば凄い事になりそうですね」


 私達の大量購入に目を瞬かせていたヴァルさんを、リオンがさらりと誤魔化してくれていた。

 確かに、魔王城の子ども達が全員出てきて、その才能を生かして活躍したら――世界を引っ掻き回せる自信はある。

 今以上に子ども達に危険が及ぶから慎重に行くつもりではあるけれど。


「ファミーちゃんにはこのピンクのお花付きがいいんじゃないかな?」

「アレク、見ろよこれ。葉っぱの手袋に毛虫模様だぜ」

「うわ、面白いけど、ちょっと気持ち悪い。これどうするの?」

「クリスへの土産。こっちのテントウムシはシュウにしようぜ」


 わいわい、がやがや、大騒ぎ。

 でもお店の人も大量購入だからか、笑いながら大目に見てくれた。


「け、けっこう重い」

「ほら、貸せ」

「ありがとう」


 十人分以上の手袋は、けっこう重い。

 私の手提げバッグに詰めたそれを、リオンが持ってくれる。

 子ども達は自分のものを、自分で大事そうに自分のバッグに入れていた。

 この世界は紙袋なんてないからね。エコバッグ持参は基本。


 フェイやアルも自分の好みのものを選んでいたけれど。


「リオンはいい?」

「ミトンじゃ戦えないからな。後で指付きの奴を選んでくれ」

「わかった」


 リオンには後で、表面が滑らかで物が持ちやすい薄手の皮の手袋を別の店で買った。

 裏起毛で中がもふもふで暖かいのだ。我ながらいいものを見つけたと思う。


「ありがとな」

 リオンはさっそく身に付けてくれた。

 こういうのって、ちょっと嬉しい。


 順当に女の子達はリボンのお店やハンカチの店に目を止める。

 ミルカとエリセ、二人で色合いを合わせながら選びっこしているようだ。

 男の子達は――


「あ、これマリカ姉が買って来てくれたお土産!」


 エルディランドの水牛の牙細工や、アルケディウスの鋼の置物とかに瞳が輝く。

 これから冬の季節、家の中に閉じ込められるからだろうか。

 室内飾り、花や動物、家、お城などの色鮮やかなオーナメントもたくさんあった。

 男の子が模型とか好きなのは万国共通かな?


 アーサーは騎士の置物をよく吟味して買っていたけど、アレクが選んだのは――


「あれ? マフラー?」

「うん。最近、寒いから喉が痛くなることがあるんだ」


 喉を守る為かあ。楽師の鏡だね。


「お嬢さん、ステキな美容クリームはいかが?

 王侯貴族の御用達。塗ると肌がすべすべになるよ」


 ふと、そんな女性の呼び声に足が止まる。

 美容品? この世界にもあったのかな?

 と見てみると、石鹸や小さな瓶に入った液体、櫛など美容品関係が並ぶ店の奥に、手の込んだ細工の陶器やガラスの小瓶が並んでいた。

 その中に、正しく黄味がかったクリーム色の物体がある。


「これは? 何で出来てるんですか?」

「フリュッスカイト特産、オリーヴァの実から採れる油ね。

 それに秘伝の素材を加えているの」

「オリーヴァ……って、オリーブ? フリュッスカイトってオリーブが採れるんですか?」

「オリーブ、じゃなくってオリーヴァの実ね。基本は緑だけど赤や黄色っぽくなる実もあるわ。

 とってもいい油が採れてね……石鹸や、クリームとかに使っているの。貴族の貴婦人とかにも人気よ」


 詰め寄る私に、お店の人が丁寧に教えてくれた。

 そうか。アルケディウスでは採れなくてもフリュッスカイトでは採れるんだ。

 瓶を開けると柔らかい匂いがする。

 うん、間違いない。オリーブオイル。


「これ、おいくらですか?」

「一つ、少額銀貨二枚よ」


 二万円ってところか。ちょっと高いけど……うん、買おう。


「一つ、じゃなくって三つ下さい。それから、オリーブオイルって絞ったままのものとか売ったりしてません?」

「三つ? 凄いわね、貴女。

 ……まいどありがとうございます。割れないように包んでおくわ。

 あと、原液の油? ……うちの店では扱ってないけど、作ってるところは知っているわよ」

「紹介して頂けませんか? 私達ゲシュマック商会なんですけど、オリーブオイルを良ければ売って下さいって……」

「……マリカ。商売人の目になってますよ」


 注意されて、はっと気が付いた。

 マズい、マズい。つい本気になっちゃった。

 子ども達が引いてる。


 でも、オリーブオイルは本気で欲しいから、原液オイルの業者さん、来て欲しい。

 オリーブオイルが手に入ると、食のレパートリーがまた広がるし。

 良い話題を聞いた。


 クリームは、ティーナとティラトリーツェ様とミーティラ様にお土産にしようと思う。

 割れないように、手袋の中にそっと包みを入れる。

 喜んでくれるといいな。


 城壁沿いの屋台を駆け足でぐるーっと回ってから、私達は中央広場に戻ってきた。

 広場には、小さなゲーム屋台も出ている。

 先を潰した矢での的当てとか、輪投げとか、ボウリングに似た感じに並べられた瓶を木のボールで倒すものとか。

 こういう遊びは万国共通、なのかもしれない。


 ただ、大人が相手なので景品を狙うのではなく、高額銅貨一枚支払ってゲームをして、的に当たったら銅貨が戻って来る、という感じ。

 なんだかギャンブルっぽい。


「……これは……」


 実際の所、なかなか難しいようだ。

 的当ては一本さえも当たらないで退却する人がかなり多い。

 フェイが弓を見て何か気付いたらしい。顔を顰めている。


「どうだい? やっていくかい?」

「……ええ、やります」

「あ、おれもやりたい!」

「アーサーには無理です。黙って見てなさい」


 銅貨を支払って、弓と矢を借りる。

 矢は三本だ。

 フェイが弓矢、得意なのは知ってるけど、果たして……。


 みんなが見守る中、フェイが深呼吸をして弓を構えた。

 真っ直ぐ両手を上げ、目の前で弓弦を強く引いて、呼吸と共に放つ。


 ダン!


 勢いの良い音がして、的に矢が吸い込まれた。

 的中!

 流石はフェイ。


 ふう、と満足そうに息を吐き出して笑うと、フェイは二本目を弓に番えて放った。

 二本目も見事に的中。

 三本目を当てる頃には周囲から感嘆の声が、店主からは悲痛な声が零れる。

 賭け金は連続で当てるごとに倍になり、最後には四倍+αで少額銀貨一枚が返ってくるルール。

 苦い顔をする店主から少額銀貨を、フェイは笑顔で受け取った。


「……店主。

 あくどい商売はほどほどにな」

「あ、あんた達は……は、はい。申し訳ありませんでした」

「??」


 店主はリオンの耳打ちに、正真正銘、顔を歪めて肩を落とし項垂れる。


 後で聞けば、あの店は弓矢に細工がしてあって、照準も最初から狂っていて、普通に射る限りは決して当たらないようになっていたのだとか。

 狂いを計算し、わざと外して射て、やっと当たるらしい。


 まあ、お祭りだし多少は仕方ないと思うけれど、世知辛いなあ。

 子ども達に安心して楽しませてもあげられないのは、どうかと思う。

 そういえば向こうの世界でもくじ引きやカタヌキがあったけど、あれも当たらない、失敗前提なんだよね。

 お祭りの空気の中だとそれも楽しいから、とやかく言う事ではないけれど。


 まあ、皇王の魔術師と、警備隊長に〆られたから、いい見せしめになって少しは健全化されるだろう。

 されるといいな、と私はボウリングなど、別の遊びを楽しむ子ども達を見ながら、そう思った。

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