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王都 杖と精霊と願いと思い

「要するに、『精霊石と術者』。

 僕達の思うそれと、不老不死世界の現実のそれが違っているのだと推察します」


 土の曜日、王宮魔術師ソレルティア様との会談を終えて戻ってきた私の報告を聞き、フェイはそう結論付けた。

 迷いが残るはずの情報を、迷いのない言葉に変換してしまう――そういうところが、フェイらしい。


「どういうこと?」


 意味がよく解っていない私達に、フェイは少し顎に手を当てた。

 いつもの癖だ。考えを整理する時、彼は必ずそうする。


「術者が力の限界を迎える、という話を聞いて思ったのですよ」


 考えるような表情を見せた後、フェイは説明を始める。


「僕達、魔王城の者にとって、精霊石に意思、人格があるのは当然の知識です。

 だから術者と精霊石は名前を呼び、契約することで一心同体となり、互いに力を与え合う協力関係になる。

 僕とシュルーストラム。エリセとエルストラーシェ。

 どちらも精霊の契約で結ばれた、横入りのできないものです」


 うん、それは解る。

 互いの石を使う事もできないし、しない。

 自分の精霊が絶対だ。


「でも、外の世界での考え方は、多分違うんですよ。

 僕もそうでしたが、よっぽど……例えばオルジュとアーグストラムのような例外を除き、術者は精霊石に人格があると思っていないんです。

 もしかしたら、精霊が宿っているとも思っていないかもしれない。

 精霊石のついた杖や装身具は、術を使う為の媒体、道具にすぎない。

 だから術者の力が衰えて使えなくなる、という表現になる」

「え?

 じゃあ、魔術師は石の名前を呼んだりしないし、もしかしたら人格があるって知りもしない? 話もしない?」

「ええ、おそらく」


 フェイは頷いて、自分の手のひらを見た。

 彼の手には契約の紋章がある。

 そう言えば――ソレルティア様には、あっただろうか。

 無かった、気がする。


「精霊石は気に入った子どもと出会う事で目覚め、その子が術を使おうとすれば助ける。

 不老不死を得るまでは互いに力を供給し合い、大きな術を使う事もできる。

 ただ、不老不死になって神の欠片を身体に入れられてしまうと、その交感は妨害され、子どもの側から精霊石に供給がなされなくなる。

 精霊石は自らの力だけで子どもの術の行使を助けるが、やがて力を失い沈黙する。

 それが術者の能力の限界、とされるのだと思います」


 そもそも精霊術士は、自らの何かを消費して術を使う訳ではない。

 精霊に力を貸して貰えるか否かが術を左右するのだから、限界など基本無い。

 そういうフェイの言葉に、シュルーストラムは低く頷いた。


「なるほど、な。

 私は主を失って以降、貴様が城に来るまで城から出たことが無かったから知らなかったが。

 外世の精霊石たちは、術者の為に随分と苦労してきたとみえる」


 術者の力の限界は、精霊石の限界。

 あれ? ということは――。


「じゃあ、もしかしたら精霊石が力を取り戻せば、力の限界って言われて引退した術者も、もう一度術を使えるようになる?」

「おそらくは。眠りにつくなどして力を取り戻せば、術者に力を貸せるようになると思います。

 ただ、神の欠片による交感妨害はあるので、術者がもう一度術を使えると気付くよりも、新しい子どもが杖を手に入れて使う様になることの方が多いと思いますが」


 それは、力を失ったとされて引退していく子ども上がりにとって。

 この世界の術者にとっては――とんでもない福音となるのではないだろうか。


「この王宮魔術師からの召喚状。

 それがマリカが推察した通り、僕の杖を狙ってのことなのであれば。

『自分の今までの杖よりも高位の杖なら、衰えた自分の力に応えてくれるかも』ということかもしれません。

 道具なので譲渡可能、と簡単に思っている可能性も高いですね」


 自分の力が衰えたから杖が使えなくなった。

 より高位の杖なら、自分の力でもまだ使えるかも。

 それが最後の希望――か。


「ねえ、シュルーストラム。

 ソレルティア様の杖に力を分けてあげる事ってできない?」

「できなくもないが、何故そのようなことをしてやらねばならぬ?」

「ソレルティア様の杖、彼女を心配してたみたいなの。

 姿を見た訳や声を聞いた訳じゃないから、まあ勘みたいなものなんだけど」


 あの杖は、多分ソレルティア様のことを気に入っている。

 だから三十年という長い歳月、できる限りの支えを続けてきたのだと思う。

 力を殆ど失っているはずなのに、去り際に私に見えるほど光ったのは――きっと、石なりのSOSだ。


 話を聞く限り、ソレルティア様そのものも悪い方ではない。

 精霊を信じて愛している。

 有能で、努力家で、そして周囲にも慕われていた。

 プライドは高そうだけれど。


「それに、王宮魔術師って相当忙しいよ。

 ソレルティア様見てたけど、文官の仕事もしてたし、凄く大変。

 フェイが後釜になったら、きっとそれこそ何もできなくなるくらいに仕事に追われることになっちゃう」


「僕は王宮魔術師になるつもりは無いと言いましたが?」

「試験を受けて合格しちゃったら、多分そんな我が儘通らないって。

 皇王様からの直々の呼び出しってことは、フェイの試験、ソレルティア様の言い分からしても、実際かなりの好成績だった可能性高いもの」


 私は二枚の召喚状のうち、もう一枚を見やる。


 本来の試験結果の発表は明後日。

 それに先立って皇王様直々に保護者同伴で呼び出し、ということは、ただの合格では終わらない何かがある。


「それに、試験の時も落ち込んでたでしょ?

 人間関係や、一般常識、範例とかが解らないって。

 ソレルティア様に恩を売って、防波堤になって貰って、ある程度の自由を確保しながら、そういう事を学んだ方がいいんじゃないかって思う」


 フェイはほぼ自学独習で知識を学び、術者としての基本や思想や常識を全部ふっ飛ばして、最高位の『魔術師』になった。

 教える存在ならシュルーストラムがいる。けれど彼は『師』ではない。

 先達に基本を学ぶという事は、機会があるなら、やったほうがいい。

 できれば失敗してもフォローが効く、子どもの内に。


「……それは、そうですが……。

 僕はその王宮魔術師の為人を知りません。

 何より、自分より知識も技術も無い相手を師として仰ぎたいとも思わないのですが」

「……それは違うと思う」

「リオン?」


 今まで黙って私達の会話を聞いていたリオンが、口を挟んで来た。

 随分と真剣な眼をしている。


「師っていうのは、そういうものじゃないんだ。

 知識とか技術も大事だけど、それだけじゃない。

 そういうのとは別の何かを教えてくれる存在――それが師匠ってものだ」


 言い聞かせるように。噛み含めるように。

 リオンが紡ぐ言葉は、とても優しい。


「リオンに、師匠っていましたか?」

「俺がまだ王子と呼ばれていた頃、魔術と剣の師がいた。フェイアルとクラージュ。

 あいつらは俺を徹底的にしごいた。俺は最後の最後まで、あいつらに一度も叶わなかった」


 そういえば、教育係みたいな存在がいた、と以前言っていた気がする。


「潜在的な能力でいうなら、多分俺はあいつらより上だったと思う。

 俺はそういう風に作られた存在で、あいつらは普通の……フェイアルは変生を受けてたけど……普通の人間だったからな。

 でも、技の使い方や組み合わせ方。周囲への配慮や、相手への対応。

 俺は彼等の『力』に長い事届かなかったし、城の中では理解できなかった。

 少しでもそれが解ったと思えたのは、外で連中と旅して経験を重ねてからだ。

 転生を繰り返す中でも、時々、助けてくれたり知識を教えてくれた大人と出会った事もある。

 先達の持つ経験に基づく知識って奴は、バカにならないんだ。本当に」


 リオンはこう見ても、何回も転生を繰り返して生きている。

 人生経験というものは、ある意味、私達の中で誰よりも豊富だ。

 フェイもリオンの言う事なら、耳を傾ける。

 いつもながら、ちょっとジェラシー。

 二人の間にはいつも割り込めない何かがある感じ。


 まあ、その辺はいいのだけれど。

 リオンの言うことには、私も全く、全て同意だし。


「とりあえず、会って話をしてみない?

 ソレルティア様に」

「マリカ」


 いつまでも話し合っていても事態は進まない。

 だから私はそう提案してみる事にした。


「せっかくの『お呼び出し』だから。

 フェイ、ソレルティア様に一度会ったんでしょ? 印象は? 悪い人?」

「悪いも何も、試験の内容と術の使い方程度にしか話をしていませんから。

 でも、まあ、市井の魔術師もどきに比べれば雲泥の差はある。

 呪文の発音も姿勢もしっかりしているなとは思いましたよ。

 杖がほとんど機能していないのに、精霊が動くくらいですから」


 ふむ。気難しいフェイがそう言うのなら、やっぱり実力は確かなのだと思う。


「会ってみて用件を聞いて、杖を権力に任せて奪おうっていうような人なら、無理だって思い知らせればいいし。

 真摯に頼んでくるようなら、条件を持ちかけて助けてあげることも考えてみればいいと思う」


 私の言葉に、暫く考え悩んでいたであろうフェイは――


「………そうですね」


 やがてそう言って頷いた。


「試験結果はどちらにしても聞かなければならないし、皇王陛下や王宮魔術師の呼び出しを、子どもが無視して良い筈もありません。

 何を言われるにしても、一度行きます。

 王宮へ」


 もう一度召喚状を確かめる。

 子どもだから、付き添いは二名まで。

 明日の朝、貴族区画の門に迎えの馬車が来るとのこと。


「ガルフと、本当ならリードさんがいいんだろうけれど。私、行っていいかな?」

「ええ、お願いします」


 かくしてフェイは二度目の、王宮の門を潜る。

 彼の運命と、私達のこれからを変える門を。


 まさか、そこで――あんなバトルと結末が待っているとは、この時は思いもしなかったけれど。

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