表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
239/539

王都 家族面接

 私から話を聞く代償として、か。

 王宮の魔術師――ソレルティア様は豆知識を披露するような調子で、魔術師と精霊石、そして杖の関係について教えてくださった。


 曰く。

 この世界に魔術師と呼ばれる存在は、そもそも数が多くない。

 そして術を行使する際の媒介は、主として装身具に加工した精霊石なのだという。


 理由は単純だ。

 杖に仕立てられるほど大きな精霊石が、ほとんど存在しないから。


 装身具の方が持ち運びもしやすく、目立ちにくい。

 杖に出来る石を、あえて装身具にする者も少なくないらしい。


 ――エリセのペンダントのような感じかな?


 一方で、術の使い勝手という点では、杖は圧倒的に装身具に勝る。

 力の集注、精霊への呼びかけの通りやすさ。

 借り受けた精霊の力を適切に配分し、狙い通りに使うという点において、杖は比類なき力を発揮する。


 だから――杖を持つ、というだけで相当の術者だとわかるのだという。


「今、アルケディウスに登録の魔術師は十二人。全員が王宮、もしくは貴族抱えの貴族、あるいは準貴族です。

 その中で杖を持って術を行使する者は五名。

 うち二人は第一皇子と第二皇子の魔術師ですから、其方の兄が試験に合格すれば、おそらく第三皇子の魔術師として取り立てられるか、私のサポートとして王宮所属――魔術師の束ねとなるか、どちらかになるでしょう。

 皇王様に抱えられる可能性も……ない、とは言い切らない程度にはありますが」


 思った以上に、力のある魔術師って少ないんだな――と改めて思う。

 杖を持つ魔術師のうち、残りの一人はエクトール荘領のオルジュさんだろう。

 となると、国全体でもそんなものなのだ。


 ソレルティア様は文官から筆記用具を受け取り、机に自分の杖を立てかけた。

 その所作は美しく、迷いがない。長年繰り返した動きなのだろう。

 そして私に向き直る。


「では、改めて確認です。其方の名はマリカ。ゲシュマック商会の料理人。

 其方の兄、名はフェイ――間違いありませんね」

「はい」

「年齢は?」

「今年で十二になったと言っていました。私も、兄も孤児でございますれば、正確なところはわかりませんが……」

「まだ不老不死を得ていない子ども、ですね」

「はい」

「現在の所属はゲシュマック商会、と?」

「はい。あと、時々皇国騎士団の手伝いをしているようです」

「魔術は誰に習いましたか? 杖はどこで?」

「ええと、私達は拾われた後、山奥の隠者の元で育てられ、教育を受けました。

 兄はそこで見込まれ、隠者がかつて使っていた杖を譲られたようです。詳しい事情は知りません」

「得意な術は?」

「風の術のようです。店では商品の輸送や温度管理を担当しています」

「どんな術が使えます?」

「詳しくはよくわかりません。ただ、物を凍らせたり、冷やしたり、水汲みを手伝ったりしてくれました」

「読み書きはできますか? 計算は?」

「どちらもとても得意です。頭はかなりいいと、育て親も、店の主も褒めています」

「身体が弱いとか、体調に不安がある、などはありませんか?」

「ありません。とても健康だと思います。

 もう一人の兄が今度騎士試験を受ける実力者なので、一緒に戦いの訓練などをしているようです」

「他にも兄弟が?」

「はい。ゲシュマック商会に勤めるため家を出て、同居している兄弟は私を含めて三人。

 あと、故郷にも同じように引き取られて育った兄弟がたくさんいまして、みんな兄を慕っています」

「仲が良いのですね?」

「はい。そう思っております」


 本当に、家族面談のように彼女は質問を重ねていく。

 私は万が一にも変なことを口走らないよう注意しながら、外の世界で説明するために用意した『設定』を告げた。

 当たり障りのない確認がいくつか続いた後――ソレルティア様はふいに筆を止め、私をじっと見つめた。


 その視線が、絡みつくようで息苦しい。

 まるで、こちらの言葉ではなく『隙』を探しているみたいだ。


「変なことを問う、と思いますが……お前達は精霊を信じていますか」

「え? はい。それは勿論」


 ――半分、精霊みたいなものですから、とはとても言えない。

 けれど、もしかしたら。

 この人も高位の術者なら、精霊の気配を感知できるかもしれない。


 私は膝の上に置いていた鞄を、そっと足元へ移動させた。

 鞄の中――肌身離さず持ち歩いているバングルに、触れないように。


「神よりも?」

「不老不死を賜った訳でもないので、はい。今のところは」

「それは兄も同じですか?」

「はい。多分」

「なるほど。わかりました……。

 話はこれで終わりです。手間をかけました」


 ペンを置き、彼女は私を促す。

 退室せよ――という意味だと受け取り、私は立ち上がった。


「ああ、それから最後に一つ」

「はい、なんでしょうか?」


 私を呼び止める目は、射抜くような真剣さを帯びていた。

 さっきまでの当たり障りのない質問とは、明らかに色が違う。

 これが一番聞きたかったのだ――と直感する。


「貴方の兄が、杖を手放すことはあり得ると思いますか?

 より優れた魔術師に、と頭を垂れて」

「ありえません。絶対に」


 即答。

 一秒たりとも考える必要のない、決まりきった答えだ。


「フェイ……兄と杖は一心同体だと、いつも言っています。

 杖が兄を見限らない限り、兄から杖を手放すことはないと断言いたします」


 そもそも杖――シュルーストラムがフェイを手放す可能性はない。

 変生までかけて作り上げた真正の魔術師を、あっさり見限るなんてありえない。

 だから、絶対にないと断言できる。


「そう、ですか?」


 だが、この人の目はそれを納得していない。

 底の見えない水面を覗き込むように――静かに、ひやりと冷たかった。


「えっ?」


 ふと、杖と『目が合った』。

 もちろん比喩だ。けれど精霊石に一瞬、人影が映った気がしたのだ。


 青銀の髪。水色の瞳。

 シュルーストラムにどこか似た、男性の姿。


 何かを訴えようとするように――こちらを見た気がして、私は目を凝らす。

 だが。


「……わかりました。

 貴方の兄に、試験を終え会える日を楽しみにしていると伝えて下さい」


 微かに微笑んだ後、彼女は視線と杖を扉の方へ向けた。

 もう一度よく見ても、今度は石に何の影も見えない。


 今度こそ退去の促しと理解し、私は部屋を出た。

 足早に裏門へ。


「お待たせして申し訳ありませんが、急いでください」


 馬車に急かされ、私は店へ戻る。

 早く――フェイに報告しないと。


◇◇◇


「ソレルティア様……本当にあの者の兄から?」

「あの娘も申したでしょう? 杖が見限らぬ限り、と。

 おそらく彼の杖は、滅多に存在しない――意思を持つ杖」


 ソレルティア様の指先が、無意識に己の杖を撫でる。

 愛撫にも似たその仕草に、焦りの影が滲んだ。


「ならば杖が子どもを見限り、私を選べば良いのです。

 私が新しい杖を手に入れた後、何でしたら私の杖を譲っても構いません。

 高位の杖に選ばれる子どもなら、あの杖も使えるようになるでしょう。

 そうすれば新しく二人の魔術師が生まれる。最善、最良の結果です」

「私共は、ソレルティア様の有能も、努力も存じております。

 魔術が使えなくなっても、皇王陛下も文官長としての地位をお約束されておいでですのに……」

「そんなことはできません」


 切り捨てるような声。

 それなのに瞳だけが、ひどく揺れている。


「王宮魔術師が、魔術を使えなくなって何故のうのうと王宮にいられるでしょう?

 最後の希望が叶わぬのなら、私は……私はお暇を戴き、死を探すと決めているのです」

「麗しき王宮の花、ソレルティア様。

 どうか、その望み……願いが叶いますことを」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ