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王都 皇国の少女達 救出要請

 全力で、ぶっ潰す。

 最初から私は、そう決めていた。


 腹の奥に据えた決意は、もう揺らがない。

 怒りでも衝動でもない。冷え切った覚悟だ。


「君が囮になって、わざと捕まる?」


 ラールさんが、思わずといった調子で声を裏返した。

 普段は落ち着いた彼が、ここまで露骨に動揺するのは珍しい。


「反対よ。危険すぎるわ」


 計画を説明し終えた直後、ティラ様は眉間に深いしわを刻み、即座に首を横に振った。

 感情を抑えきれない様子は、私を本気で案じてくださっている証でもある。


 ありがたい。

 けれど——。


「ですが、それが一番確実で、手っ取り早い方法だと思います」


 私は一歩も引かず、静かに言葉を重ねた。


「今回の一番の目的は、セリーナさんの妹さんの救出です。

 生存と居場所を確認する前に下手に手を出せば、相手は必ず隠すでしょう。

 そうなれば、こちらからは手出しができません」


 視線を落とし、言葉を選ぶ。


「だから、相手に『上手くいった』と思わせる必要があります。

 油断させないと、救えません」


 沈黙。

 その重さを破ったのは、ラールさんだった。


「理屈は解るよ。だが……危険すぎる。

 君は子どもだ。僕達のように不老不死を持つ訳でもない。

 損なわれたら、元には戻らないんだぞ」


 正論だ。

 けれど、それでも。


「同じことは、セリーナさんにも妹さんにも言えます」


 私は顔を上げ、はっきりと告げた。


「一刻も早く助け出さないといけないんです。

 ……多分、もう既に、たくさん傷を負っている。

 これ以上、傷つけさせるわけにはいきません」


 胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

 妹さんは、きっとまだ幼い。

 心と身体に刻まれる傷は、少ない方が絶対にいい。


「それに……この国の法律では、子どもを『所持』することや、

 その子どもを迫害し、傷つけることが罪にならないと聞きました」


 一瞬、空気が冷えた。


「ですから、セリーナさんや妹さんの所持や怪我は、罪に問えない可能性があります。

 ……セリーナさんは今、ガルフの店の店員ですから問えるかもしれませんが」


 視線を巡らせる。


「だからこそ、私の誘拐という、はっきりとした罪を犯させる必要がある。

 そうでなければ、彼らに思い知らせることはできません」


「……勝算はあるのか?」


 低く、重い声。


「捕まっても、なんとかできる自信は?」


「ガルフ様!」


 止めるのではなく、策を問うガルフの態度に、ラールさんが目を見開いた。

 『なぜ止めない』と、全身で訴えている。


 でも、ガルフは知っている。

 私の正体も、止めても無駄な性格も。


 だから、もっとよく知っているアルは、最初から無言だった。


「あります」


 私は、迷いなく頷く。


「私、精霊術が少し使えます。

 合図を送ることも、身を護ることもできますし……

 相手が欲しいのは私の知識です。

 簡単に身体を傷つけることはできないはずです」


 下手に傷つければ、料理は作れない。

 パウンドケーキだけでなく、他のレシピも欲しいなら、手荒な真似はできない。


「……他の手段を使ってくる可能性もあるわ」


 ティラ様の声は低い。


「貴女も、あの男の話を聞いて怒っていたでしょう?」


「理解しています」


 だからこそ。


「私の心に傷をつけた時点で、正しいレシピの入手は困難だと交渉します。

 大祭までに手に入れられれば大金を得られる。

 でも、拷問や別の手段を使えば、時間が足りなくなると」


 時間を稼ぐ。

 その間に——。


「皆さまが突入して、助けてくださればいいんです」


 セリーナさんと妹さんの安全を確保して、できれば先に逃がす。

 無理なら、私が護る。


「私が捕まってから一刻、もしくは合図を送ったら、すぐ突入してください。

 それまで、自分の身は自分で守ります」


 その瞬間だった。


 スッ、と音もなくティラ様が剣を抜き、私の首元へと向けた。


「ティラ様!」

「どうやって身を守るつもり?

 こうして剣を向けられたら、何もできないでしょう?」


 殺意は見えない。

 単なる脅しだとは解っている。


 剣に乗せられたのは私を心配し、戒める思い。

 本心の優しさ。

 だから、私も覚悟を決める。



 私の我がままに付き合わせるのだから、


「もし、セリーナさんや妹さんを人質に取られて、こうされたらレシピを教えて時間を稼ぎます。

 でも、私にやるんであれば無意味ですね」

「えっ?」


 …全てを晒す。


 怯まず刀身に手を触れさせた。

 驚きにティラ様の目が見開いた。顔面も蒼白。

 無理もない。自分の剣の刀身が目の前で、銀砂になって散り落ちれば…。


「皆さまは、ギフト、というのをご存知ですか? 子ども、不老不死を得ていない者には特殊な能力が授けられているのだそうです」


 私が説明するがラールさんもティラ様も知らなかったようだ。

 呆然としている。


「子どもと触れたことの無い方には知られていない知識なのかもしれません。

 私達は、教育を受けた場所であるという事を最初から知らされて知識、技術と共に育てられましたが、この店で見る限りセリーナさんも男の子達も自分にそういう能力があるとは気付いていない様子でしたから」


 多分、知っていて隠している者はいる。

 ギフトの存在を知って、それを道具として使っている者も。


 リオンとフェイは自分達をギフト目当てに育てていた『子ども上がり』から教えられた、と言っていたし、アルを買い取って使っていた貴族もいた。


「精霊の術士とは別の、特異な能力を持つ者がいる、という噂は聞いたことがあったけれども見たのは始めて…よ」

「私の能力は、物の形を変える事です。

 危険なので、軽々には使うなとガルフ様から言われています。隠していたことをお許し下さい」


 私は砕けた銀砂をティラ様の剣に戻す。

 映像の巻き戻しを見るように砂はティラ様の剣に戻った。

 さらに、二人の目が驚愕に丸くなるのは仕方ない。


「…いや、それは当然だ。

 こんな力があることを知れたら、とんでもないことになるだろう。

 誰にも言わない方がいい。僕は、誰にも言わないと誓う」

「ありがとうございます」

 

 ラールさんが私を見る目は、いろいろなモノが混じりあっている。

 恐怖、戸惑い、驚き…、でもその奥に、確かな優しさはまだ残っていて、少しホッとした。


「縄や、枷も、鍵も私には無意味です。

 室内なら飛び道具を使われることは無いでしょう。

 長時間になれば、色々と難しいことになるとは思いますが、ティラ様が迎えに来て下さると信じて、その間、身を護る事くらいはやってみせます」


 と、同時にセリーナさんのギフトについても推測だが話す。


「多分、セリーナさんは人に気付かれないように自分の気配、存在を消すことができるのだと思います。

 姿が消える、わけではないのでしょうが、いても気付かれなく、意識できなくなる。そんな感じだと思います」



 ラールさんが気付いて意識すればその動きを把握できたということから多分、間違いないと思う。

 ギフトは本人を生かす為に、必要な能力になることが多い。

 …多分、怒られないように気付かれないように、そういう風にセリーナさんは身を潜めて生きてきたのだ。

 


「ですから、セリーナさんと妹さんが見つかったら二人には先に逃げて貰います。

 私が注意を惹きつけて外に出しますので、救出要員が外にいるといいのですが。

 できるなら騎士団。無理ならアルに頼みたい」


「止めても一人でやる気なの?」

「はい。でもその場合はこっそり逃げ出すくらいしかできません。

 奴らを罪に問えないので、また同じことが繰り返される可能性があります。

 だからティラ様のお力を借りて、一網打尽にしたいのです」


 嘘だ。ハッタリだ。


 ティラ様の協力が得られないと、リオンもフェイもいない今回に関しては実行に移せない。

 ギフトで敵をけん制したりできても、制圧するには私にはまだ技術も知識も足りないし、時間がかかればかかるほど危険度は増す。

 …実際、知識などどうでもいと、私より大きな男複数に力任せに押し倒されたら、多分、私はなす術がない。

 ギフトを人間の身体を、破壊目的でかけたらどうなるか、試したことも、試すつもりもないのだから。


 助けに来てくれる人がいると信じられて、初めて可能になる作戦。

 だから、私はティラ様を見つめる。目を離さない。

深く、深く頭を下げて、願う。


「お願いします。協力して下さい」


 

 部屋にしん、とした沈黙が広がる。

 とてつもなく、長いようで短い時間が過ぎたのち


「条件が、あるわ」

 高ぶりも、荒ぶりもしない、静かで優しい声が私に語り掛けた。


「なんでしょうか?」

「この件が終わったら、貴方達の秘密を教えなさい。

 ギフトのこと、教育を施された場所、この店の目的、そして貴方達の秘密を全て」

「それを聞いてどうなさるおつもりですか?」

「どうもしません。ただ知りたいだけです」


 それは裏返しての協力の約束。

 私はガルフとアルを見た。

 どっちも諦めた視線で肩を竦めているが、止めろとは言わないでくれている。

 ここにリオンやフェイがいたら、また違った反応になっただろうけど。


「………皇子と店の者以外に語らないと誓って頂けるなら…お話します」

「やっぱり。あの人はもう共犯者なのね。

 いいわ、星と精霊にかけて誓いましょう。誰にも語りません」


 明るく笑うティラ様の言葉は口約束。

 魔術師が介したわけでもない契約に拘束力はない。翻そうと思えば簡単に翻せる類。

 けれど、それを信じられない位なら、私は最初からティラ様に頼ったりしない。


「ラール、お前は聞くか聞かないかを選んでいい。

 ただ、聞いたら本当に最期まで付き合って貰う事になるが」

「聞かせて頂けるなら、聞きます。

元より、この店から、料理から、世界を変えていく快感から、手を引くつもりはありませんから」

「解った。ならばマリカ様、リードにもこの機に告げる事をお許し頂けますか?」

「かまいません。味方は多い方が心強いですから」


 跪き指示を仰ぐガルフに、応える私。

 主従逆転にティラ様とラールさんが瞬きしたのが解った。

 今まで無意識に出ていたことはあったかもしれないけれど、ガルフも覚悟決めてくれたのだと思う。


「マリカ。リオン兄達が戻ってきたら怒られるの覚悟しろよ」

「うん、覚悟しとく」

 呆れたようなアルの言葉は彼なりのGOサインだと勝手に解釈する。


 暴走するなとはもう、何度も何度も口が酸っぱくなって、お酢になるくらい聞かされているけれど、でも、諦めて貰おう。


 これが私だ。異世界保育士マリカ


 子どもの命を救うより、守るより他に大切な事は無い。

 躊躇う理由は何もないのだから。


 私は皆にはっきりと宣言する。


「決行は明日。

 皆さん、どうかよろしくお願いします」

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