??? 逆襲の始まり 3
それは、遠い約束。
「いよいよだな アルフィリーガ」
「ああ、マリカ様も了承して下さった。
明日、神々と会って、誤解を解く」
「そしたら、俺は……また本当の魔王を探す旅に出る。新しい冒険の始まりだな」
「なあ、ライオ。……俺も、一緒に行ってもいいか?」
「? 来ないつもりだったのか? アルフィリーガ?」
「いや、行きたい。行きたいけど……あの森での約束は、俺が故郷に帰るまで……だったから」
「バカな奴だな……。だが、そうだな。だったら俺は、一つ報酬が欲しい。
それが貰えたら、俺は何時だってお前を絶対に助ける。
マリカ様だって一緒に説得してやるさ」
「報酬って、なんだ? 俺が払えるものなのか?」
「お前しか、払えないモノさ。明日の会見が終わったら、俺と一度本気で戦ってくれ」
「そんな事で、いいのか?」
「一度、本気のお前と戦ってみたかったんだ。それが、俺にとって、最高の報酬だ」
「解った。約束する。……だからお前も本当に力を貸してくれよ。
マリカ様と皆の説得は、大変なんだ」
「ああ、そしてまた、一緒に皆を幸せにする為に冒険しよう!」
遠い、遠い。
今は二人だけしか覚えていない約束の話。
◇◇◇
「みんな! フェイ兄、戻って来たぜ」
外で作業していたアルが城に戻って来たのは、魔王城の魔術師フェイがガルフと共に外に出て、三日後のことだった。
「おかえり! フェイ兄!」
「無事でよかった。心配してたんだよ」
「すみません。予定より少し遅くなってしまいましたね」
兄弟たちの出迎えを受け、嬉しそうに笑うフェイは、それでも真面目な目を崩さず、私達を見渡した。
「転移門の設置は上手く行きました。
ただ、予想外の事もあって……どうやら予定を前倒しにした方が良さそうです」
「前倒し? どういうことだ?」
半身の帰還に一番安堵していたであろうリオンは、だがそれを表に出すことなく、射るような眼差しでフェイを見ている。
子ども達の視線を少し外した部屋の隅で、私達は打ち合わせを始めた。
「大聖都のライオット皇子から、ガルフの店に菓子の注文があったとか。
それを届けるのに店主、ガルフを指名しています」
「ライオット皇子……から?」
「ええ。ガルフはライオット皇子の真意を知る唯一の人間。
これを僕は、彼の救援要請とみます。
何かを伝えたいのではないでしょうか? 多分、魔王城の住人に……」
「ライオ……」
リオンの拳に、強い意志と覚悟が握りしめられているのが、はっきりと解った。
「行けるか? マリカ?」
問いかけに、私は迷いなく頷いた。
「大丈夫。後は、私達の準備と、覚悟だけ。
フェイ、ドライジーネ持っていって大聖都に向かって貰える?」
私達は馬が使えない。
けれど、ドライジーネがある。
冬の間に改良も重ねたし、フェイが精霊術と併用して乗れば、かなり時間を短縮できる筈だった。
「解っています。ガルフにも名代を頼まれていますし、僕が適任でしょう。
最長で二週間、最短で十日。
その間に……こちらの準備をお願いします」
「うん。でも問題は、ライオット皇子が、ガルフはともかく、見も知らないフェイや私達の言う事を信じて、計画に乗ってくれるか、ってことなんだよね」
今回の計画の主眼は、魔王城へ通じる旧転移門の破壊。
それも、ただ壊すだけでは意味がない。
神の配下の前で、魔王として――
『この門は、もう用無しだ』と宣言し、破壊しなければならない。
万が一にも、修復などされないように。
そうすれば、ライオット皇子への警戒も解ける。
秘密を一人で抱えているからこそ、彼は狙われているのだから。
「理想は、ライオット皇子が私達と戦ってくれること、かな。
そうすれば『魔王と戦う戦士』っていう印象を、周囲に刻めると思うんだけど」
「ガルフの店と違い、大聖都は敵の本拠地です。
聞き耳を立てられていない、という保証はありません。
込み入った話はできないでしょうね」
第一目標は、旧転移門の破壊。
第二目標は、皇子ライオットの立場を守り、連絡を取り、協力を仰ぐこと。
この二つが達成されなければ、外に出て世界の環境整備を行う――
私達の大目標は、致命的に危うくなる。
「……多分、なんとかなる。と思う」
「「えっ?」」
「俺が手紙を書く。それを見れば、奴は多分解って、乗ってくれる……」
考え込む私とフェイを前に、リオンは一度だけ目を閉じ、そう言った。
「ただ、その為にはやっぱり俺も『変化』が必要だ。
お前が嫌がるのは承知だが、マリカが『精霊の貴人』になっても、ライオの本気のバトルは受けられないだろう?」
「……うっ。確かに、そうなんだけど。
リオンのあれは、私以上に負担がかかるでしょう?」
神の手先を門に呼び寄せ、魔王として宣言し、破壊する。
その為に私は最低でも『精霊の貴人』にならなければならない。
最初は、リオンが魔王役をやると言い張って、かなり揉めた。
――今思い返しても、無茶苦茶だったと思う。
「この身体を奴らの前に晒すわけにはいかない。
それに護衛がいなければ、神の手先だってフェイ一人じゃ捌ききれない可能性もある。
負担をどうこう言っていられる時じゃない」
「……そう、ですね。
僕も賛成ではありませんが、魔王の戦力を示す説得力を考えても、『精霊の獣』は必須でしょう」
「二人並べば、迫力満点。泣く子も黙るぜ、きっと」
はあ、と息を吐く。
三人がかりでは、もう多数決。私に勝ち目はない。
本当は、私はともかく、リオンに『精霊の獣』を多用させたくない。
負担が大きすぎるから。
けれど現実として、私一人では神の手先や兵士に囲まれたら、対処しきれない。
「解った。でも、無茶はしないで。
万が一、神の手先の前で正体がバレたら、それこそ最後だよ」
「大丈夫だ。引き際は見極める。
二度目は、多分、一度目よりは身体を維持できる自信もある」
こうして私達は、細心の打ち合わせを何度も重ね、計画を実行に移す。
――世界を騙す、大芝居の始まりだ。
「多分、上手く行ったと思います。
僕を見て、気づいて下さったようですし、羊皮紙を見て、ライオット皇子の顔色が変わりましたから。
『解った』とのことです」
フェイはその後、大聖都の調査部隊が出発したのを確かめて、戻って来てくれた。
人員は偽勇者を含む、20名。
もう、門のすぐ側まで来ている。
ライオット皇子は、含まれていないけれど……ここはもう、実行を躊躇えないところ。
「リオン、皇子は来てくれるかな?」
「来るさ。あいつが変わっていなければ」
もう後戻りはできない。
自信に満ちたリオンを、リオンが信じるライオット皇子を、私は信じる事にしたのだから。
恐怖に身体が震える。
ここで失敗したら、消えるのは私達の命だけじゃない。
魔王城の子ども達、みんなの命が、未来がかかっている。
そんな震えに気付いたのだろう。
リオンは、私の肩を抱きしめてくれた。
『精霊の獣』の手は強くて大きくて、骨の芯まで支えられるようで、少し、ホッとする。
「大丈夫だ。俺達は絶対に負けない」
リオンの言葉が、胸の中に熱を持って広がっていく。
根拠はない。
子どもの言い分だ、と頭の中の私、が言っているけれど。
でも、今は子どもでいい。と思えた。
失敗は考えない。
ただ前だけをむいて。
「うん、行くよ」
大きく深呼吸。
自己暗示。気持ちを切り替える。
私は『精霊の貴人』
新しい魔王なのだから。
アルが見計らってくれたタイミングに合わせて、私達は転移門を潜り、滝裏の空間に出た。
滝の裏に洞窟、なんて本当にファンタジーゲームのようだ。
なんて、どうでもいいことを思う。――それくらい、頭が現実逃避をしている。
そしてほぼ同時、彼らがやってきた。
敵は二十人前後、騎士が一人と、少年が一人。
後は歩兵と工兵。
これだけまとまった人数の大人を、この世界で初めて見た気がする。
多分、あの少年が偽勇者だろう。
金髪、碧の瞳。なかなかの美少年だ。
リオンには負けるけど。
小さく深呼吸。
声を震わせない。目を逸らさない。
私が折れたら、ここで全部終わる。
「随分遅い、ご到着ですこと。神の手先の皆様方」
私は、精一杯の笑顔で笑って見せた。
気分は悪役令嬢。それくらいでいい。私は魔王なのだから。
「用意はいい?」
私はリオンの耳に囁く。
微かな頷きに、私は妖艶を目指した笑みを浮かべながら手を伸ばす。
「勇者が復活したと聞き、いつ来るかと待ちかねておりましたのに。
私も、私の獣も、待ちくたびれて退屈しておりましたの。少し、遊んでくださいませね」
そこから先は、正しく黒い『精霊の獣』
リオンの独壇場だった。
空気が、裂ける。
足音が、消える。
次の瞬間には、兵士の視界の外から拳が、蹴りが、短剣の柄が飛んでくる。
「ぐあっ!」
「なにっ!」
「ぐっ!」
「どうし…うわあっ!」
風のようにリオンが駈ける。
瞬く間に、敵がどんどん減っていくのだ。
切りつけても、怪我はしないから、短剣はほぼ鈍器。
首や頭を正確に狙って、意識を刈り取っていく。
倒れる音が遅れて響くのが、余計に怖い。――怖いのに、目が逸らせない。
凄いなあ。リオン。
私一人じゃ、やっぱり、これはできなかった。
「私の獣。食い散らかすのはほどほどにしておきなさい」
余裕綽々に見えただろうけれど、実は一番感動してたのは私だ。
この圧倒的な差。
“魔王の獣”を名乗るに足る、説得力。
「こ、この!!」
一歩、騎士が前に出た。
多分、この一団のリーダーだろう。
鎧を纏い、白銀の剣を掲げている。
他の兵士たちとは一段違う、実力者に見えた。
でも、心配はしない。
「なに?」
間違いなくリオンの方が上だから。
数合の攻防。
剣と短剣、鎧と黒い影。
火花が散り、呼吸がぶつかり合い――
騎士はリオンの回し蹴りを脳天に喰らって気絶した。
「ぐはっ!」
痛そうだけど、不老不死だし、いいよね。
あっという間。
10人以上はいた『勇者』を守る兵士達は、もう誰一人として残ってはいない。
「あら。他愛もありませんのね。神の兵士も質が下がったものですこと」
戻って来たリオンに私は囁く。
息が微かに荒くなっている。
黒い獣の身体が、熱を帯び、震えを孕んでいるのが解る。――限界が、近い。
「……少し、休んで。勇者は、私が何とかするから」
心配そうな視線が目に浮かんだのが見えるけれど、この後もう一戦あるかもしれない。
そうでなくても、いつリオンの限界が来て変化が解けるかもしれない。
今は体力を温存して置いて欲しかった。
「お前は…誰だ?」
剣を構える少年。
でも、最高峰の戦士を見続けて来た私には、なんとなく解る。
実力は、まあそこそこ。
でも、覚悟は全然ない。震える手からしても、実戦経験もない感じかな。
同年代の子どもとの接触経験も多分ない。
元は素直そうだけれど。大人に『勇者』としてちやほやされて歪んでしまった。
人間観察はこれでも得意なのだ。
保育士だし。
「貴方は、勇者、なのでしょう? 見て、解りませんか?
それとも忘れているのですか? 私の顔を」
私は剣に触れる。振り回される前に壊してしまおう。
「なっ!!」
剣は特に魔法の品物というわけでもなかったようだ。
さらさらと素直に粉になってくれた。
金属が崩れる音は、思った以上にあっけない。
「そう、自分が倒した魔王の顔など、500年の時の果てにはどうでもいいことなのですね?」
「ま…おう?」
偽勇者。リオンを騙る者。
……なら、遠慮はしない方がいい。
伸びた鼻っ柱は一回叩き折っておくのが、きっとこの子の為でもある。
私が手を伸ばしたその時――
「下がれ! エリクス!!」
声が聞こえた。
と同時、大きな腕が、私を横抱きにして跳び退る。
空気が一瞬遅れて、足元の水気が飛び散った。
「ライオット…皇子」
「リオン?」
私を地面に降ろすと、リオンは何も言わずに前に出る。
「やっと…会えたな…」
携えた大剣を楽しげに構え、笑う戦士の前で、彼の背中も、また楽しそうに揺れていた。
(うわっ、すご)
それは、正しく、『本物』の戦いだった。
何の合図も無く、同時に地面を蹴る二人。
大剣を持った戦士は、一瞬で間合いを詰めてリオンに迫る。
使い込まれた白銀の鎧、子どもの身長よりも大きそうな剣。
赤毛、黒い瞳。
アルが言ったように蓄えられたあごひげ、逞しい体躯。
この人が戦士、ライオットか。
こうして見ると、おじい、って呼ばれる程歳を取っては見えないけれど、それは大人の私の印象で、子ども目線から言えば十分なおじさん。もしくはおじいちゃんかも。
髭が無ければもっと若々しく見えそうなのに。
惜しい……。
じゃなくって。
リオンは、今、『精霊の獣』モード。
時間制限はあるけれど、星に作られた最高のポテンシャルを持つ戦士だと思う。
でも、そのリオンとこの人は対等以上に戦っているのだ。
さっき、騎士の意識を一瞬で刈り取った回し蹴りとほぼ同じ攻撃を、リオンは全力で皇子の頭目がけて打ち込む。
けれど彼は腕一本と鋼の籠手で止めてしまったのだ。
足腰も、まったく揺れてない。
防いだ瞬間に、地面の砂利が少し弾けただけ。――体重移動すら、最小。
化け物だ。この人。
「!」
一方で、攻撃を止められたのに、リオンの眼が驚きと喜びを宿したのが解った。
足を奪われる前にスッと自分に引き戻し飛び退さり、その懐を狙って飛び込んでいく。
死角をついたかと思ったのに、一瞬の躊躇もなく、ライオットは身を躱す。
しかも牽制の膝蹴りまで入れて。
正反対のようで同じ獣だな、と私は二人の戦いを見ながら思った。
リオンと、ライオット。
こっちの世界ではどうか解らないけれど、どちらも同じ獣を連想させる。
獅子。
強く気高い百獣の王。
手加減の気配など微塵もなく、一撃一撃が正に必殺。
ぶつかり合う鋼と刃。
暗やみに火花が煌めき、剣撃の激しさを知らせている。
耳の奥が、鋭い金属音で痺れる。
(でも、楽しそう)
私には、二人が本当に楽しそうに思えた。
長い、長い間、離れていた親友同士が、戦いという名の言葉を交わしている。
それはきっと、誰にも割り込めない会話。
長くて、短い剣戟の後。
着地したリオンの身体が微かに揺れた。
まずい。限界来てるかも。
兵士たちを倒すのに数分。
皇子との戦いでも結構時間を使っている。
これ以上は危険だ。
「戻りなさい! もう十分です!」
私はリオンに『命令』する。
リオンもきっと限界を感じていたのだろう。
即座に退いて、私の側に戻って来てくれた。
「おい!」
突然終わった戦いに、不満げなライオット皇子の前に、私は進み出る。
「お久しぶりですね。戦士ライオット。貴方まで私を忘れたとは、言わないでしょう?」
思いっきりの笑顔を作って話しかけるけれど、緊張で胸バクバク。
さて、ライオット皇子は話に乗ってくれるだろうか?
もっと戦いたいと、リオンを追って来られても困るのだ。
ライオット皇子は私と視線を合わせると、一度だけリオンに目線をやり……
「勿論。麗しの魔王陛下。あんたも、お戻りか……」
笑って、話を合わせてくれた。
私は心の中で皇子に手を合わせる。
ありがとう。皇子!
これで、話が進められる!!
「ええ、戻りました。勇者も戻って来たと聞きましたが、期待外れでしたね。
貴方が元気そうで良かったですわ」
ここは印象付けが大事。
悪いけれど、リオンが本物だと気付かれるわけにはいかない。
多分、皇子にもそう言う意図があって、彼を勇者と呼んだのだと思うから。
偽勇者君には、リオンから視線を逸らす為にも、もう少し勇者しておいて貰いたい。
彼は勇者。偽物じゃない。
弱いけど。
「それは光栄。で、今回は何用で?
情報を奪われた俺を殺しに?」
「いいえ。貴方を、呪いから解放して差し上げようと思いまして」
皇子の眼が驚きに丸くなったのが解った。
ドウン!!
鈍い爆発音が空間に響いたのは、正にその時。
よし、タイミングバッチリ。
流石アル。流石フェイ。
祠からフェイが出てくる。
全身をローブで隠して、姿を見せないようにし、できるだけ厚底のブーツを履いてくれるように頼んであるので、そんなに身長が低い印象は無い。
子どもには見えないだろう。
控えていた二人には、いいタイミングで転移陣を壊してくれるように頼んだ。
なるべく派手に、と言ってあるから炎を使ってくれたのだろう。
演出効果も十分だ。
リオンの息も荒い。
一刻も早くこの場を去りたい。
けれど――ここからが一番大事な所だ。
しっかりと神様と世界に、伝えて貰わないと困る。
大きく深呼吸。
役割演技。
私は魔王だ。
「私達は、こうして蘇りました。もう古い魔王城は必要ありません。世界を闇に染める必要もないのです。
新たなる拠点で、私達は神々への逆襲を始めます。今日は、その宣戦布告に参りましたの」
――蘇る。
閉じていた扉が開くように。
古い鎖が外れるように新しい時代が。
でも世界は闇に染めないよ。
もしこれから闇に染まったら、それは魔王のせいじゃないからね。
そう、はっきり言っておく。
……状況からして、昔、世界を闇に染めていたのは神の方だと思う。
何かの理由があったのかもしれないけれど、人を苦しめる良くないモノであるのは確か。
だから、魔王にまた罪をなすりつけて、世界を闇に染めさせるわけにはいかない。
「ライオット。もう口を閉ざさずとも結構。
この先に魔王城は無く、また入り口も閉じましたから。
かの地は、我が民達の墓場。その眠りを妨げる事は許しません」
ここも大事。
この転移門はもう使えないよ。使っても魔王城には辿り着けないよ。
はっきり言っておかないと、万が一にも修復なんてされたら困るからね。
「かつてのように、私を探して御覧なさい。見つけ出して、倒して御覧なさい。
国同士で遊んでいる暇もありませんよ。
さもなくば、私達はいつか神を倒し人々から不老不死を奪い取って見せましょう」
挑発に見せかけた警告。
詩みたいに、刃みたいに。
言葉の端に、火を乗せる。
『魔王』はこういう時、恐れられてこそ意味があるのだ。
「待て!!」
私の口上が終わるタイミングを見計らって、発動。
完成した転移呪文で私達は、その場を後にする。
私達の芝居はここまで。
後は、神の手先と、偽勇者と、皇子ライオットがどこまで読み取ってくれるか、にかかっている。
◇◇◇
「つ、つかれた…」
城になんとか辿り着いたと同時、私は意識を失った。
「マリカ! リオン!! しっかりして下さい」
「マリカ様! ティーナ。マリカ様をお部屋に」
「アーサー、手を貸して下さい」
そんな皆に心配と手間をかけたドタバタが聞こえたけれど、もうホント、指一本動かせない位に、私は疲れて動けなくなってしまったのだ。
身体が鉛みたいに重い。息をするだけで、胸の奥が軋む。
私が目覚めたのは、まる一日過ぎた後。
リオンはさらに後三日、寝込んだ。
意識そのものは早めに戻ってくれたので、安心できたけど。
「か、身体全体が、軋んで重くて痛い…」
我慢強いリオンがそう言うのだから、相当なのだろう。
あの超絶バトルをやらかしたのだ。無理もない。
獣の身体が消えたあとに残るのは、強さではなく反動。
“払う代償”だけが、誤魔化しようもなくそこにある。
「随分無茶したな。リオン兄」
王都の様子を見に行ったフェイの代わりにアルがリオンの看病をしてくれたのだけれど……。
「あいつとの約束…。支払いだから仕方ない」
「支払い?」
そう言って苦痛に顔を歪めながら目を閉じたリオンは、幸せそうだったという。
男同士の友情かあ。
ちょっとうらやましいなあ、と思ったのは内緒の話。
◇◇◇
それから、数日後。
リオンの回復を待ったかのように、王都に戻って来たライオット皇子から予約が入った、とフェイが連絡をくれる。
ガルフにも頼み、四人全員で向かう事にした。
ガルフの店の貴賓室。
完璧防音の整った部屋で――
「元気そうで何よりだ。ライオ」
「お前もな。アルフィリーガ」
五百年ぶりに再会を果たした親友は、特別な言葉を交わした訳では無い。
昔と同じような軽口で、気心の知れた冗談を言い合い。
そして、満たされた心のまま、……きっと五百年前と同じように……笑い合っていた。




