表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/32

幕間 彼は今――――――


何も見えなかった。


揺れる麻袋は明確に何かを示すのに。


「……どこだろーな。ここ」


袋の中で一人俺様は呟く。


麻袋の荒い網目からは、光が見えない。


ドサッ


不意に体に痛みが走る。


どうやら石畳の上に下ろされたらしい。


「いっつー…」


もぞもぞと体をよじって袋の口に行く。


それからナイフを取り出し麻袋を…。


ジュワァ


縄に触れた瞬間、痛みが走った。


反射で手を離し、傷跡を軽くなぞってみる。


やっぱり痛かった。


「…出ろ」


そんな俺様の苦労とは裏腹に冷たい声が頭上から降ってくる。


神官だった。


「何様のつもりだよお前」


少しだけ愚痴をたたく。


久しぶりの本心からの言葉だ。


――その瞬間鼻先にナイフが突きつけられる。


切れ味のよさそうな小型ナイフだ。


「神官様だ」


その言葉を聞いた途端、背筋を冷たいものが走った。


ほぼ倒れるようにして後退すると、


さっきまで俺様のいたところに鋭いナイフが振り下ろされる。


背中に冷や汗が伝っていくのを感じた。


「…そうかよ!」


俺様は、立ち上がると全力でダッシュする。


こういう相手からは距離をとるのが鉄則だ。


石の通路に俺様の足音だけが響く。


「――神々の賛美よ」


そんな矢先だった。


厳かでゆったりとした声が響く。


「――闇が払われるとき、すべては浄化に帰す」


それだけで分かった。


それは聖魔法だということが。


「――聖なる地にて神の慈愛を受けよ」


俺様の目はほんのわずかな時だけ光を見た。


広がっていく魔法陣は綺麗でそれでいて悍ましかった。


「あっつ⁉」


光に触れた瞬間、肌が悲鳴をあげた。


体はもはやいうことを聞かなかった。


「…異端者か。聖域の存在も知らぬとは愚かだ」


こちらを見下すように神官が言ってくる。


「うっせぇ、俺様が何時を生きたと思ってるんだよ」


そう反論してみるものの額には脂汗が光る。


すると神官は笑って、


「0321、0336。この珍妙なイキモノを隔離場に」


そう、言った。


後ろに控えていた神官二人がキフェルを手際よく縄で縛っていく。


暴れたいところだがもはやしゃべる気力もない。


「…ではいつか生きていたら君ともまた会えるだろう」


それを最後にキフェルの意識はブラックアウトした。




「…きて…お…て……おきて!」


少しだけ幼い声だった。


気の強そうで、それでいて不安そうな。


「――――ここは、どこだ?」


目を開けば、そこは知らない場所だった。


真っ暗闇で先は見えない。


かなり広い空洞の様で声は反響していた。


「やっと起きた。君、上から落ちてきたんだよ」


それは、俺様より二回りほど年上の少女だった。


ため息をつきつつも優しげだった。


「…!お前は誰だ?」


反射的に俺様は問う。


こんな場所にいる奴はきっとまともじゃない。


「私?どうだっていいでしょ。そんなこと」


諦めたように少女はいう。


理解しようともされようともしていない声だった。


「…ここはどこなんだ?」


少しだけくらくらする頭で俺様は聞いた。


少女は、唇をかみしめほろりとこぼす。


「地獄の一歩だけ手前。魔法使いか異端者が落とされる監獄」


そして息を少し吐くと俺様を見据え、


「で?君はどうしてここに来たの。


 魔法使い?それとも聖騎士に因縁でもつけられた?」


とても楽しそうに言った。


背丈的に俺様が見上げる形になるというのが解せない。


「…どっちでもねぇよ」


俺様はそうぶっきらぼうに言うとそっぽを向く。


「お前はどうなんだよ。どうしてここに来たんだよ」


正直、ここがどこかもわからない中でそんなことは聞きたくなかった。


しかし、その少女には俺様と通ずるものを感じた。


「…私、はね。エルフの末裔なんだって」


遠くをぼんやり見つめながら。


でも確かにそう吐き捨てた。


「エルフってのはさ。ずっと生きられるんだって」


まるで自分に言い聞かせてるようにうつろだった。


「だから私の血液には血筋には何か特別な力があるんだって」


さしずめ、不老不死の妙薬でも作ろうとしたのか。


「…エルフなんて名前聞いたのは久しぶりだな」


「――前にも聞いたことがあるの?」


少女は俺様ににじり寄る。


俺様は後ずさろうとした。


…後ろは壁だった。


「ねぇ、教えて?エルフのお友達とかいないの?」


俺様の両手を握りしめ、


濁った眼で問いただす。


「…もう、いねえよ」


かすれた声でつぶやく。


――俺様は、誰のことをいっているんだ?


「ねぇ、それって…だれ?」


何でこいつ握力だけは強いんだよ。


「名前なんて覚えてねーよ」


なんで…俺様は覚えていないんだ?


「…ねぇ、この名前に聞き覚えない?」


そっと、少女は俺様の耳に口を寄せ、


「トロイ・ライン」


聞き覚えのない名前だった。


ただ、その名を聞いた瞬間、


鳥肌が立った。


まるでそれが――禁忌であるかのように。


「…それを見つけてどうするんだよ」


出てきたのは…そんな平凡な問い。


でも、少女はふっと笑って。


「復讐するの。私はウルティオー・ライン。

 エルフの末裔であの耳長の命脈を断つの!」


ギラギラと輝く瞳は俺様の顔を写していなかった。


もっと、別の誰かを写しているようだった。


「――やめとけ」


もっとかける言葉があったはずなのに、


俺様にはそんな軽い言葉しか紡げない。


「エルフにはかかわるな。呪われるぞ」


「…アナタも呪われてるの?」


間髪を入れないその質問に詰まる。


「どうだかな。もう覚えてもいない」


そう言って濁す。


俺様は…答えなんて持ち合わせていない。


「フフフ、変なの。忘れちゃうことが呪いだったりしてね」


少女はクスクス笑う。


ただ、それが妙に腑に落ちた。


「…で?どうするの?」


要領のえない問いに首をかしげる。


「あなたはここから出るの?それともここに居続けるの?」


少女の瞳は濁っていた。


「当たり前だ。俺様はこんなところにいるわけにはいかないんだ」


軽く反動をつけて立ち上がる。


空気がやけに埃っぽく感じた。


「退屈な囚人であるわけにはいかないんだよ」


これはかつて、落下中に気絶した相棒が言っていた言葉だ。


「…なら」


少女は立ち上がると、俺様の服の裾をつかむ。


「なら、私もつれて行って」


狂気じみた叫びだった。


裏返った声と歪んだ笑顔だけが象徴的だった。


「邪魔にはならない。私は…復讐する者!」


…もしも、こいつが俺様の予想通りの物であるならば。


「…そーだな。一人では出られるとは思えないし」


遥か遠く俺様が落ちてきた穴を見上げる。


「じゃ、一緒にでよ…えーと」


「…キフェル。俺様はキフェルだ」


正直、呼び名など何でもいい。


だが、変な名前で呼ばれるよりはましだ。


「じゃ、キフェル。一緒にここからでよ」


機械のような笑顔。


安心感のある声。


それに俺様はうなずく。


このおかしな場所から早急に脱出しなければいけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ