表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

第三十話 ネズミは神すら食い荒らす


「それで?そのスパイが僕に何の用」


ヴェーゼンは呆れたように足を組む。


ここは小さなカフェ。


遅い時間だからか誰もいない。


「いえ、ねぇ」


メランコリアはチラリとルシの方を見るとすぐにヴェーゼンの方を向き。


「知りたくありませんか?」


そう、ニコリとほほ笑んだ。


「…何を?」


「お仲間の居場所ですよ」


その瞬間ヴェーゼンの呼吸が止まった。


まるでこちらのことを全て知り尽くしているような。


そんな気分になった。


「嘘じゃないの?胡散臭いのは信じてはダメだってさ」


ルシは警戒するようにヴェーゼンの袖を引く。


その眉間にはしわが刻まれメランコリアをにらみつけていた。


「ハハ、胡散臭いのはよく言われます。私はそういう職業でね」


乾いた笑い声とは裏腹に彼の目は全く笑っていなかった。


「…まるで詐欺師だな」


ヴェーゼンは呟く。


誰にも聞こえないほどの小さな声で。


「それで?そのキフェルってやつの居場所。教えてよ」


ルシはヴェーゼンの心情を知る由もなく続ける。


今だけは聖女よりも錬金術師に見える。


「…交渉慣れしていないのはこれだから」


ぼそっとメランコリアは呟く。


どこか諦めているようだった。


「それで?教えることで私に何か利益があるのですか?」


それにルシは押し黙る。


やはり、”聖女”だな。


「僕はいつだってお前をやれるんだけどな」


ヴェーゼンは呟いてみる。


こんな浅い脅しで揺れるような相手ではないとは知っている。


「ふ、フフフ。ここにいるスパイが弱いと?」


その声は自信に満ち足りているようであった。


それでいて、殺気も脅威も感じない。


だからこそ不気味だとヴェーゼンは思う。


「んー?俺は弱いと思うけど」


何も反射しない不気味なその瞳をルシは覗き込む。


そして、投げやりにそういう。


まるで、キフェルのことなどどうでもよいというように。


「…本当に、貴方というのは」


困り果てたようにメランコリアはいう。


「ですが、もし貴方様を教会に引き渡すと言ったら?」


その瞬間ルシの動きが止まる。


そして、ブリキの人形のようにヴェーゼンの方を見る。


その目は怯えたような色をしていた。


「そうかよ。じゃあな。僕はお前には頼らないよ」


冷めた声だった。


白の世界に影を落とすほどの暗い声。


「――お待ちください」


ヴェーゼンが椅子から立ち上がると同時にメランコリアは声をあげる。


その声には焦燥がにじんでいた。


「キフェルは…キフェル・アンソロジアは大聖堂にはいません」


その瞬間ヴェーゼンが顔をあげる。


メランコリアの方を凝視する。


それから、ふっと息を一つはき、


「嘘はついてないな」


「な、なんでわかるの?」


戸惑うルシに座るようにヴェーゼンは促す。


ヴェーゼンにはただ少しばかり詐欺師と話をする機会があっただけのことだ。


「落ち着いていただけたようで何よりです」


メランコリアは再びにこりと笑う。


やはり、そこからは感情が読み取れない。


「…一つ聞いていいか?」


ヴェーゼンは疑問を口にする。


「何なりと」


メランコリアはうなずきつつ言った。


それに安堵したようにヴェーゼンは尋ねる。


「お前は、僕たちの味方か?それとも敵なのか?」


「そうだ。お前は教会の下っ端か?それとも魔族か?」


ルシはヴェーゼンの疑問にかぶせるように言う。


”魔族”という耳慣れない単語に首を傾げつつヴェーゼンはにらむ。


対するメランコリアは、


「さぁ?私は所詮上層部の操り人形。敵も味方もおりません」


すがすがしく、されど狂気的な答えだった。


ルシは一歩下がる。


彼自身も自分が操り人形であることは知っている。


でも、認めてなんかいない。


それを受け入れ平然と流すなんて。


並の精神じゃない。


「君はそれでいいの?」


ルシは独り言のようにつぶやく。


ヴェーゼンは目の前の籠のクッキーを一枚食べる。


メランコリアに目を向けることもなく。


「別に。逆に自由に生きる方が大変ではないですか?」


諦めたように、それでいて楽しそうに。


その言葉にルシは息をのむ。


自分とは別の世界を生きている他人。


「さ、聖女様。協力者キフェルのところへ案内いたします」


かしこまって恭しくいうのが不気味だった。


ちぐはぐな印象でまるであっていなかった。


「…俺、まだ何もしてないけどいいの?」


ルシは疑うように言う。


ヴェーゼンも少し戸惑っているように目を泳がせた。


「ま、君たちの話を聞けただけで私的にはいいので」


乾いた笑い声が室内に響き渡る。



「…さて」


それから少したった頃メランコリアは不意に笑うのをやめた。


そして、椅子から立ち上がる。


「案内しましょう。地下の牢獄――通称「聖域」へ」


メランコリアは大仰に言う。


まるで、何かをめでるように愛し気に。


「…聖域?」


ルシはいぶかしむようにつぶやく。


「何で牢獄が聖域なんだ?」


ヴェーゼンはまるで意味が分からないとでもいうように首をかしげる。


「聖女様。聞いたことはありませんかな?」


楽しそうに彼は話し出す。


まるで道化のように。


「再教育施設の噂話を」


その瞬間ルシがピクッと反応する。


その顔は見る見るうちに青ざめ、


服の裾をぎゅっと握りしめる。


「サイキョウイク?」


ヴェーゼンはメランコリアとルシを困ったように交互に見つめる。


それを見かねたようにルシは説明しだす。


「…聖教都市のどこかに神に背く背信者を閉じ込め更生する牢獄があるって噂」


そう言ったきり、ルシは黙りこくる。


「あぁ、やはり知っていましたか。なるほどなるほど」


メランコリアは大仰にメモ帳を取り出すと何かを書き出した。


ヴェーゼンが覗き込もうとするがそこには何も書かれていなかった。


インクも付いていないペンを、


ひたすらメモ帳に走らせる。


「何やってるんだ?お前」


おかしなものを見るような目をヴェーゼンが向けると、


「失礼。手荷物検査はメモ帳の方が早いのでね」


メランコリアはメモ帳をしまいつつそう言った。


「…暗号ってことかよ」


ルシがぽつりとつぶやく。


メランコリアはうなずいた。


「この国は厳しいですからね」


「お前みたいなのがいるからじゃない?」


呆れたようにルシが返す。


「…そういえばルシはどうやって逃げようとしてたんだ?」


ふと、ヴェーゼンは問いかける。


流石にあの錬金術師ギルドに逃げ込み続けるわけにはいかないだろう。


「いや、だから爆破しようかと」


「…僕は君の思考回路についていけない」


呆れたようにヴェーゼン嘆く。


「とりあえずついてきていただけないでしょうか」


メランコリアは二人に向かって言う。


その声は少しだけ作り物がかっていた。


「あ、ごめん」


ルシはそういうとメランコリアについていく。


「…もうちょっと警戒とかできないのか?」


「ヴェーゼンには言われたくないよ」


間髪入れぬその答えにヴェーゼンは首をかしげる。


自分はかなり警戒心があるはずだ。と。


「さて、行きますよ」


その時だった、ドアのガラス戸に人影が映りこんだのは。


カララ…ン


とぎれとぎれの金属音がなった。


「…司教様より通達です。《聖女ルシェロ様が”誘拐”されたので捜索をお願いする》と」


教会幹部だった。


まるで幽霊のように白く取り留めのない姿かたちの。


「へ?俺誘拐なんてされたないよ」


誰もが固唾をのむ中不意にルシが、素っ頓狂な声をあげる。


「確かにそうだな」


無表情でヴェーゼンが同意する。


「…」


メランコリアは困惑したように視線を彷徨わせ、


そして何も言わずに黙った。


「聖女ルシを捕まえろー!」


教会幹部はそう叫んだ。


ヴェーゼン達の平穏が崩れた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ