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第二十八話  祈りは悪役へ向けて


「…何度も言うけどさ。俺はいかない。どーせ、期待ばっかりされて」


ルシは哀しそうに言った。


「俺はつかまれないから。逃げるのを手伝えとは言わないけど勘弁してよ」


貼り付けたような笑顔を浮かべて。


ヴェーゼンが机に置いた仮面を手の中で転がし、


「そろそろ逃げないと本気で生贄にされちゃいそーだしさ」


そう楽しそうに笑った。


「君にはわからないよね。周りみんな嘘つきで俺のことなんか見ていない」


ヴェーゼンは何も言わない。


ただ、じっとルシを見つめる。


「ただ、聖女ルシっていう人物しか知らないし知ろうともしない」


しかし、そのヴェーゼンの拳はきつく握りしめられていた。


「閉じ込めてるくせにさ。どーせ。俺のこともモルモット程度にしか思ってないんだよ」


「…そこまでわかってるなら何で逃げないんだよ。なんで面白そうに笑うんだよ」


ヴェーゼンが怒ったように言う。


しかし、その瞳は意味ありげに揺れていた。


「逃げられないだけだよ。それに俺は…いやいい」


ルシは悲しげに笑った。


本当は怖いはずなのにまるで恐怖を塗りつぶしているようだった。


「――っ……僕はお前に期待もしない。正直別にお前が生贄にされようがどーでもいい」


ヴェーゼンは何かを言いかけた後冷たくそう言う。


ルシは当然だとでもいうようにうなだれる。


やっぱり嘘ばっかりついている。


「けどな。逃げられないってあきらめて終わりにして逃げる奴が嫌いなんだよ」


「…俺はあきらめてなんかいないよ。別に生き続けたいとも思わないけどね」


ヴェーゼンの故郷では人の死なんて日常だった。


別に何とも思っていなかった。


どこの誰がどんな風にいなくなろうとも。


「…そーだな。なぁ、ルシ。試してみたくないのか?」


「…何を?」


ルシはいぶかし気に聞く。


何も知らない聖女と世界の広さを知っている少年だった。


「この街のずっと先。英雄の真実を知りたくはないか?」


「シン…ジツ…?」


ルシは首をかしげる。


「神話は真実だよ。嘘であるわけがない」


「もしも――もしも嘘だとしたら?」


ヴェーゼンは少しだけ楽しげに言う。


嘘を知らない聖女の少年に。


「そしたら、俺も一緒にその真実を確かめに旅に出ないとだな」


そう大真面目に返される。


けれど、ルシは楽しそうだった。


今まで見てきた仮面のような笑顔よりはるかに。


「だったらまずはこの街からでないとな。キフェルを探して教会を爆破して」


「何でそこで教会を爆破しちゃうんだよ」


やっぱりこいつズレてる…。


「ま、とりあえず行くかぁ」


そうして、気の抜けたキフェル捜索大作戦は始まった。



「それで?どうすんの」


ルシはテーブルの上に新たに置かれたクッキーをつまみながらヴェーゼンを見る。


「…とりあえず中の様子が必要だよなぁ。キフェルがいたら早かったんだが」


キフェルだったら自分は盗賊だとか言っていろんなとこに潜入していたのだろう。


「とりあえず、ルシは偵察に行ってこい」


ヴェーゼンは長考の末にルシにビシッと指をさしてそう言った。


「ヴェーゼンはどうすんの?」


「僕はここでクッキーを食べている」


さも当然のようにヴェーゼンはいった。


もちろんクッキーのかごから目は離さず。


「それは許されないよ」


ルシは不服そうだった(快諾してくれた)



「…しょうがない二人で行くか」


そもそもの話。キフェルがどこに囚われているか。


そもそも大聖堂にいるのかわからなければ作戦の立てようもない。


「っていうか、僕の借りてる宿屋に行けばいいな」


あそこなら盗み聞きもされないだろうし大聖堂がよく見えたはずだ。


「宿屋なんて借りてたのか?俺は基本外に出た時は野宿なのに」


確かにそうじゃなきゃこんな場所知る機会ないだろうな。


ヴェーゼンは呆れる。


わざわざ逃げるなら神官の財布でも掏ってくればいいものを。


「…俺はお前みたいに手癖は悪くないんだ」


キフェルといい、なぜみんなヴェーゼンを警戒するのだろうか。


ヴェーゼンは首をかしげる。


「というわけで爺さん。クッキー御馳走さん」


「おう。二級錬金術師」


どうやらルシはほんものみたいだ。


聖女がこんな怪しげな資格取っていいのだろうか。



「ふぅ。とりあえず早く地上に出ないと困るな」


「困るって何が困るんだよ」


ルシは爺さんに渡されたと思しきランタンを片手に持っていた。


だからうっすらとお互いの姿が見えるが何分くらい。


確かに早く出たいところではあるが、


「巡回が来るだろ。ここはネズミ(スパイ)が多いんだ」


そういうとルシは法衣のフードをかぶった。


後姿は小柄だが教会の神官の様だった。


「なぁ――」


ヴェーゼンが何かを呟きかけた時だった。


コツ…コツコツ


木製の靴の音だった。


恐らくこの曲がり角の先、鎧の擦れる音がかすかに聞こえる。


「…静かに」


ルシは曲がり角から軽く向こう側を覗くと、


「不意打ちならいける…二対一!」


ルシはこぶしを握り締めた。


まさか肉弾戦じゃぁ!とか言わないだろうか。


ヴェーゼンは不安げにルシを見る。


まぁ、とにもかくにもこのまま和解はできないだろう。


ヴェーゼンはため息をつくと腰から剣を抜く。


「…さすがにこれで負けるのはないと思う」


ヴェーゼンはあふれ出る魔力を抑える。


相手が逃走した場合顔が割れる。


ならば神官殺しの方がずっと罪が軽い。


「(なんで騎士が単独行動しているのかは知らないが…面倒ごとの気配がする)」


教会というのはその体質上よっぽどじゃない限り更生の機会が与えられる。


そう魔力持ちとかでもじゃない限り。


「っ、何だお前――!」


ドッ


ルシが走り出して殴り掛かる。


「せ、聖女様⁈」


騎士は明らかに動揺していた。


そこをヴェーゼンは見逃さない。


キンッ


鎧と双剣の擦れる金属音が響く。


暗い水路に火花が散る。


「わ!服に火…も、燃えてるっ!」


ルシが焦ったように水路を駆け回る。


「…まさか、こんなところまで探しに来るとは。教会ってのは暇なのか?」


「かのお方は聡明で思慮深い。それを失うのは痛手なのですよ」


ソウメイ?シリョブカイ?


キィンキィン


手数で着実に押すヴェーゼンと大剣で重い一撃を放つ騎士。


このままいけばヴェーゼンの勝利は自明の理のように思えた。


しかし――


「(そろそろやばいな)」


ヴェーゼンは剣の達人ではない。


ただ、ほんの少し魔力のつかえるだけの件にほぼ触ったことのない少年だ。


フワッ


それは一瞬だった。


剣に集中していた魔力がわずかに外にこぼれただけ。


でも騎士は勘づいた。


「――魔力持ちか」


スッと剣筋が鋭くなる。


制圧から殺害へとシフトチェンジしたみたいだ。


「わ?え。あっつあつい!ヘルプミー」


「(まだやってるのかよ)」


ヴェーゼンはため息をつく。


そしてすぐに騎士に啖呵を切る。


「教会のイヌっていうのはとても鼻が効くみたいだ。そのまま香水でも嗅いでろ」


ヴェーゼンは壁を蹴り騎士の背後から立体戦闘を仕掛ける。


ドッ


ヴェーゼンは首の後ろを武器の柄で叩く。


「…卑怯…モノ」


ガシャーン


そのまま派手な音を立てて騎士は倒れる。


「うわぁ」


ヴェーゼンは嫌そうにそれを眺める。


なぜならばこの水路にはネズミがたくさんいるから。


「この人、目が覚めた後無事でいられるかな」


横で恐ろしいことをルシが言っていた。

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