第二十六話 怪しい仲間の袋詰め
「いや知らないが」
白い法衣、金の十字架。
キフェルからしたらあまり関わり合いになりたくない人々。
「教会関係者なら帰れ。俺様はここの教徒じゃねーよ」
しっしっと、キフェルは少年を追い払う。
「お前の十字架は教徒の証だ。なぜ自称旅人が十字架を持っているんだ?」
少年はため息とともにそうこぼす。
「気が済んだならランチでもおごれ。俺が一緒に食事をとってやる」
「ふつう逆だよ。俺様がそういうことはいうんだよ」
キフェルは肩をすくめ、レストランの場所を思い出す。
ダダダダ ダダダダ
「聖女様ー!お待ちください聖女様ー!」
キフェルの前方、少年の後ろから法衣を着た集団が走ってくる。
正直、関わりたくないが露骨に避ける方が怪しい。
「聖女が脱走とは珍しいこともあるんだな」
懸賞金はいくらになるだろう。
「……」
気のせいだろうか。
隣からダラダラと汗が。
「逃げるぞ」
少年はキフェルの十字架をグイッとつかむとそのまま走り出す。
「ちょ、首締まる。誰か助け――」
白い波をかき分けながらのためそこまで速度はない。
しかし、身長差があるためその分締まる。
ガシッ
「不届きなる教徒よ」
「いくら聖女様がシャイだからといって」
「その聖女様を誘拐する出ない」
後ろを走っていたキフェルの方が先につかまるのは自明の理だろう。
「再教育が必要です。あなたを清めなければいけません」
「我らが主に祈りを」
白い法衣の教会関係者はキフェルの手首をがっちり捕獲した。
そしてそのまま空を見上げ、てをあわせていた。
「だー!一人ずつしゃべれよ。てか、誘拐されてるのは俺様だぞ。」
キフェルは、教会関係者を振りほどく。
無駄に力が強い。
「さよなら、旅人。俺はこの狂った教会から逃げ出して世界を征服する使命があるんだ」
――口調が…違う?
何だよその天使みたいな笑顔は。
キフェルは顔をしかめる。
裏がありそうで本当に怖い。
「……いや、世界征服を笑顔で宣言してるやつにろくなのはいないか」
キフェルは少年をガッツリ見ながらそういう。
キフェルにとってルシはろくでもない奴になるらしい。
「祝福番号00988。再教育のためご同行を」
絶対人体実験とか人体実験させられるな。
「いやだ!」
キフェルは拒否を表明する。
「なぜですか?」
「幸せになれますよ。特別になれます」
「二人はここに残ってこの不届きものを捕獲しろ。残りは聖女様を追え!」
タタタタ
軽やかな足音がキフェルの横をかけていく。
手にはどこから取り出したのか人一人が余裕で入るような麻袋が握られていた。
「おい、それをどうするつもりだ?や、ヤメロ―!」
キフェルはその言葉を最後に袋に放り込まれた。
この街に人権の概念はないようだ。
「……完全に迷った」
おかしい。
まっすぐ歩いてきたはずなのに。
「あいつがちょこまか走るからだ」
厳密には真っすぐではない。
ここは、画一化されたチェスの盤のような街並みだった。
だからこそ、現在位置は大まかにわかる。
宿屋にも戻ろうと思えば戻れる…気がする。
しかし、立体的に動き続ける対象に関してはまるで意味をなさない。
「……キフェルはそろそろ帰ってきたんだろうな」
きっと、買い出しにでも行ってるのだろう。
誘拐なんて本当はされていないのだろう。
まぁ、もし誘拐されていたとしたら…。
誘拐犯をボコボコにして帰ってくるだろう。
「わ、ちょ。どけ!俺を誰だと思ってやがる」
ドテッ
ヴェーゼンがちょうど踵を返した途端後ろから声が聞こえた。
「っつー…誰だよ。って、早くしないと教会の世話係が」
「あ、いた」
ヴェーゼンは無遠慮に少年の首根っこをつかむ。
低い身長のせいで運ぶというより引きずるといった方が適当だ。
「は?ちょ。はぁ?」
少年は困ったように暴れる。
法衣はもはや擦り切れている。
「とりあえず僕は君をかくまう」
ヴェーゼンは戸惑うルシを気にするそぶりもない。
「だから、僕の怪しい仲間を探してくれない」
「怪しい仲間って何?お前騙されてるんじゃないの?」
素朴な疑問だった。
今ここにキフェルがいたらきっと突っ込んでくれたのだろう。
「追われている聖女の方が怪しいと僕は思う」
ヴェーゼンが皮肉をこぼす。
「…俺には、そうするしかない――ごめん。俺の名はルシ。怪しくない聖女だ」
少年改めルシはそう言って屈託なく笑った。
しかし、その目は少しだけうつろだった。
「僕の名はヴェーゼン。それで、探してるのはキフェルっていう盗賊」
「賞金首の間違いじゃないの?」
ルシは肩をすくめながらそう否定する。
「キフェル。ふーんキフェルっていうのか」
ルシはポロリと少しだけ嬉しそうにそうこぼす。
しかし、それを遮るかのように、
「とりあえず酒場にでも行くかぁ」
と、ヴェーゼンは背伸びをしてルシを見つめる。
「酒場って何?この国では幹部未満の教徒たちは飲酒が禁止されてる」
ルシは首をかしげる。
存在そのものをの御伽噺でしか知らないとでもいうかのように。
「そう…か。僕の知っている常識とはだいぶ違うね」
ヴェーゼンの常識もたいがいではある。
「でも…行きつけのギルドならあるよ」
「ギルド?」
いったい何のギルドだ?




