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第二十四話 遥か彼方の大聖堂


「ふぅ。はぁ」


キフェルは息を切らしながらその場に座り込む。


街道とはいえただの土の道なのだから汚い。


「キフェル。大丈夫か?もうすぐなんか街だぞ」


「どこかわかってないのかよ」


あれから数十分。


あの草原から街道に出て遠くに見える白い街――いや、壁に向かっていた。


「白い街――地理的に見ればありえなくはないが…ないな」


キフェルは一瞬だけ思案した後、


「悪い。すぐ行く」


そう言って立ち上がる。



「あー。こんにちは」


ヴェーゼンは歯切れ悪くそう目の前の人に言う。


ガタイがよく、腰に剣を差したいかにもな騎士様だった。


「…通行料はいらないよ」


カバンを置いてきたことを思い出し途方に暮れるヴェーゼンに騎士はいう。


「名前とどこから来たのかだけ書いてけ」


そう言って紙とペンを渡された。


「キフェル。僕文字書けないんだが」


羽ペンを片手に振り替えるヴェーゼン。


「お前なぁ。さすがに育ちがあれだとは言え読み書きはできたほうがいいぞ」


呆れたようにキフェルがペンを持ちヴェーゼンの分の名前をサラサラと書く。


「それで?なんで天下の聖教都市様が俺様達みたいな身元不明のやつを受け入れるんだ?」


キフェルは書き終わった紙を騎士に突きつけるとそう聞く。


「はぁ。直近の魔物災害でこの付近まで難民が流れてくる可能性が高いので」


身元確認なんていちいちされてたら教会のメンツに触ると。


「あ、ヴェーゼン…ですか。モシア・クフェレ―という人からお届け物が届いております」


そう言って、カバンを取り出した。


それは、ヴェーゼンが邪教団に奪われたものだった。


「それとお手紙を――」


そう言って紙きれを渡してくる。


「では、素晴らしき神の楽園をお楽しみください」


そう、棒読みで死んだ魚のような目で言った。


「キフェル。いくぞ」


ヴェーゼンは振り返ることもせずその監獄のような世界に踏み出す。


「あ、は?」


キフェルは目を白黒させながらもヴェーゼンについていく。


こういう所が彼をお人よし(?)とされる所以だろう。


白い歩道。白い街灯に画一化された二階建ての建物。


道を歩く人々は同じ服で、同じ歩き方をしていた。


「おい、ヴェーゼン。どうすんだよ」


キフェルが前を歩くヴェーゼンに問いかける。


怒りよりも困惑の方が勝っているようだった。


「……宿屋に行く」


「いやだから」


キフェルが呆れたように何かを言いかける。


それを遮るかのように、


「僕は寝る」


そう、断言した。


「…は?」


しばらくの沈黙ののちこぼれるようにキフェルが呟く。


「僕はお金を得た。だからねる。なんか文句はあるか?」


「いや、文句はねぇけどよ」


歯切れ悪そうにキフェルが言う。


その目線はヴェーゼンよりも周りの人々に注がれているようだった。


「……ま、宿屋にでも行くか」


キフェルはそうぼやいた。



カツン カツン


神の理想郷とやらだからか、宿屋の中までも白い石材でシンと静まり帰っていた。


「ったく。割り勘で勘弁してやった俺様に感謝しろよ?」


「本来なら僕がおごる必要なんてないからな」


そんな中でも二人は楽しげに会話をしていた。


石材の床は無駄に音がたちどこか疎外感がある。


「金貨一枚…聖教都市、思いのほか物価高いな」


はぁ、とヴェーゼンがため息をつく。


ギィ


突き当りの右…そこがヴェーゼンとキフェルの部屋だった。


流石に扉は石製ではなく木材を白く塗ったようであった。


「白いベッドに白い床…はぁ、気が狂いそうになるぜ」


そう言いつつキフェルはベッドに寝転ぶ。


今回はちゃんと二台ある。


「そうだな。僕もこの黒外套が目立って動きにくい」


そう言って外套を部屋の白いハンガーにかける。


「でだ。ヴェーゼン。ここは聖教都市――シャスールたちの温床…」


「あぁ、今そういうのいいから。僕もう寝る」


まるで年相応の少年のようにヴェーゼンは寝転ぶ。


「チッ。こんな時だけガキ面しやがって」


「なんか言ったか?」


こういうときだけ耳が異常に良い。



「寝たな」


キフェルは少したってからヴェーゼンの顔をのぞき込む。


欠片ほども警戒していないようですやすやと寝ている。


「……よし。大聖堂に行ってくるか」


キフェルは小さく古びたカバンから白い外套を取り出す。


こういう場への潜入はキフェルの十八番だ。


「ヴェーゼンなんか連れて行ったら…処刑真っ逆さまだな」


この白い国も管理と罰によってなり立っている。


ここはそういう場所なのだ。


「地理的にはあり得ないんだがな。クソっあの骸骨野郎のせいだ。こんなところに来ちまったのは」


キフェルはため息をつく。


キィ


白い木の扉が悲鳴をあげる。



カツカツカツ


規則的な足音がなる。


みんな真っ白。生気がなくただまるでゾンビであるかのように歩いていた。


「……」


キフェルは息を一瞬はくとその白い集団に同化する形で歩き出す。


カツカツカツカツカツカツ


その人の流れは徐々に規則性を帯びどこかに向かっているようだった。


「――大聖堂か」


キフェルは少し歩いた後顔をあげる。


この宗教都市の構造は昔と何ら変わっていない。


昔より幾分か白いが、中心に神様のいるという教会がある。


不思議なのは、白いだけでまるで普通の街であるかのように宿屋やカフェがあったことだ。


はじめは完全な白に見えていたが中には旅人のような茶色のコートの集団が点在していた。


「…十字架でもつけるか」


白い服を着るだけでもはた目には溶け込めていたが彼らにとって重要なのはそれではないのだろう。


金字の十字架を首から下げているか否かで彼らにとっては決まるらしい。


キフェルは手近にあったアクセサリーショップと思しき店に入った。

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