第二十二話 呪いと悲劇と
「呪いの森?確かにこいつらは呪われてそうだが…」
目の前でじたばたと暴れるリビングロストたちを見やりながらキフェルが言う。
「あ~。それもそっち関係だね。僕が対応しとくよ」
オルデンはリビングロストの大群に向かって言う。
心なしかその表情はうんざりしているようだった。
「それで?ぼくらはどうやって逃げればいいんだ?その呪いの小箱ってのを使えばいいのか?」
ヴェーゼンは地面に座ってオルデンに向かって言う。
どこか投げやりでどうでもよさそうではあったが。
「そうだな。てか、このリビングロスト?は何なんだ?呪い関係ってまさか――死んでる?」
キフェルは懐疑的なまなざしでオルデンを見る。
アンデット――上位のリッチィともなれば人をも凌駕する頭脳を持つと恐れられている。
嘘をつくことも、キフェル達を陥れることすらも容易なはずだ。
「うーん。僕もまだ千年ぐらいしかここにいないから詳しくはわからないけど…。
集団憑依の可能性が高いね。除霊は流石にできないけど」
オルデンは分かるようなわからないような。
要するに意味不明な説明をつらつら羅列した。
「あー。千年ここにいることは置いておいて…集団憑依ってなんだ?」
キフェルはオルデンにそう聞いてみる。
「えーと…ここみたいな地理的な関係なこともあるけど大体は降霊術による副産物だね」
「だから、要するにどういうことなんだよ」
腹が立ったのかキフェルはイラついたようにオルデンに向かって言う。
「んー。今回は心身喪失で心に隙間ができていたところ、ここに来たから集団憑依が成立したってことだね」
ガリガリ バンバン――ピシッ
キフェルとオルデンが話し込む。
その傍らでヴェーゼンはリビングロストを観察していた。
無意味に壁をたたく奴ら。
しかし、ふとひび割れるような音が聞こえた気がする。
ビシッビシッ――
そこからは止まらない。
見えもしなかったヒビが少しずつ広がってゆく。
虚空にクモの巣のように広がるそれは、ヴェーゼンでさえも腰を抜かした。
「……キフェル」
「あ?なんだ。こっちは重要な話し合いを」
キフェルは煩わしそうにヴェーゼンの方を向き――フリーズする。
「これ…割れそうなんだが」
ヴェーゼンはそう少しだけ上ずった声で言う。
オルデンもキフェルもフリーズした。
まるで、時間が止まったかのように。
「……馬鹿な」
オルデンは長い沈黙の後そう呟いた。
そしてがっくりと崩れると、
「舐めてた。二人ともあとはどうにかして生きてくれ」
「⁉」
キフェルが困ったように、そして驚いたように息をのむ。
ゴクリ
ヴェーゼンの飲んだ一滴のつばの音がやけに響いた。
「は?どういうことだよ」
キフェルはひり付いた口を必死に動かし怒りをあらわにする。
「僕は一端のリッチィ。数十人規模を操る術師とは戦えないよぉ」
泣きそうなこえで情けなくオルデンは叫ぶ。
パリーン
ついに、その結界のようなものを割れる。
生者と死者。
それを取り仕切る壁はなくなる。
「は?え、ちょ、逃げるぞ!」
問い詰めたいという気分ではあったがそんなことより身の安全だ。
キフェルは戸惑いつつもオルデンに手を差し伸べる。
「え?ボクアンデッドだから死なないよ?」
オルデンが不思議そうに言うと、キフェルはバツが悪そうに、
「ま、お前には問い詰めなきゃいけないことがたくさんあるからな」
と、呟いた。
「というわけで逃げるぞヴェーゼ…っていねぇし」
そういう逃げ足だけは速いヴェーゼンであった。
ザッザッザッザッザ
背後から音が聞こえる。
決して早くはない。
ただやはり規則的な足音は不安を駆り立てる。
タッタッタ
それとは対照的に軽く不規則な足音だった。
「……さすがにそう簡単には振り切れねえよな」
幾分か走ったところでキフェルが息を絶え絶えにして言う。
「最初から分かり切ってたことだろ?」
いつの間にかいたヴェーゼンがキフェルに話しかける。
息一つ乱れていない。
「うわ、いつからいたんだよ」
キフェルは少し引き気味にヴェーゼンに問う。
「そんなことより、ちょっと森が広すぎないか?街道もあったのに何でまだ森の中なんだよ」
「……え?」
キフェルは素っ頓狂な声をあげる。
そういえばさっきまで街道のところにいたはずなのに何で…。
「幻影魔法じゃない?君たちを操ることはできなくても錯覚ぐらいは起こせるんじゃない?」
オルデンはため息をついて言った。
リビングロストたちはもう、松明すらも手放して本物の死体であるかのように動く。
「……チッ。ヴェーゼン。オルデン。先いけ。俺様は罠を貼る。こういうのは向いてねぇが、そうも言えねぇ。」
キフェルは切羽詰まったように言った。
そういった後、カバンから何かを取り出すと地面に設置した。
――だれも止められる雰囲気じゃなかった。
呆れたようにため息をつき、
「はぁ、キフェル君。僕も手伝う。死ぬこともない。このまま森を彷徨ったところで…ね」
「野垂れ死ぬってことか」
ヴェーゼンはせっかくオルデンが濁したところを言い切る。




